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327.【ディル】告白②

「ソニア様。部屋割りはどうしましょう?」


雲の上に浮く鉄の船で、スズメは期待の籠った瞳でふわふわと宙に浮くソニアを見上げる。俺も同じ様な瞳で見上げる。スカートの中が一瞬だけ見えた気がする。たぶん一生忘れない。


 いやいやいや、そうじゃない。今大事なのソニアのパンツじゃない。いや、目には焼き付けたけど、そうじゃない。今大事なのは、ソニアと2人きりになることだ。そこで俺は・・・ソニアに自分の想いを伝える!


その為にも出来ればソニアと同じ部屋がいいんだけど・・・そのソニアは俺達の機体の籠った目に対して「へ?」と首を傾げた。


「部屋割り? ノンノンだよ! だって・・・部屋に移動する前に着いちゃうからね☆」


ここぞとばかりに可愛くウィンクしたソニアは、ふわりと甲板に着地して、床に両手を付ける。


「お姉ちゃん・・・何をしようとしてるの?」

「ん? 飛んでいくんだよ? 皆、落ちないようにちゃんと掴まっててね!あ、ローラはここに入ってて。危ないからね」


ローラはソニアの胸元からとても鼻息を荒くして勇ましくワンピースの中へと入っていった。それを確認したソニアは、ニヤリと笑って前方を見る。


 ちょいちょい・・・まさか・・・。


鉄の船がビリビリと電気を纏い始める。俺は慌てて手すりに掴まり、スズメも同じ様に手すりに掴まろうとした瞬間・・・。


「きゃああ!!」

「うっ・・・おおぉおおおお!!??」


周囲の景色が歪んだ。スズメはその場で嘔吐しながら気を失い、俺は気を失いそうになるのを、ソニアのスカートの中を思い出して必死に意識を繋ぎ止める。


 なんだこれなんだこれなんだこれ!? こんなに気持ちわるくなったのは初めてだ!


「あれ? ディル? そんな端っこでうずくまって何してるの? 具合悪いの?」

「ああ・・・めちゃくちゃ・・・今までで一番具合悪いかも・・・」


俺と違って妖精だからかケロッとしてるソニアと、そのソニアの胸元から満足そうな顔で出てくるローラ。


「はい。手貸したげる」


差し伸べられたソニアの手を掴んで、ほんの少し体重をかけながら、バレないように自力で立ち上がる。


「よいしょっと・・・もうミリド王国着いたのか?」

「うん! もう着い・・・あっ」

「ん?」


ソニアは金色の長い眉毛を下げてキョロキョロと辺りを見回したあと、「てへっ」と何かを誤魔化すようにあざとく笑って口を開く。何だこの可愛い生き物は。


「ね、ねぇ。ディル。相対性理論って知ってる?」

「ソータイ・・・え?」


ソニアが何か難しくて響きがカッコイイことを言ってる。ソニアらしくない。


「あー! ソニアちゃんにディルお兄ちゃん!!」


聞き覚えのある、元気な声がずっと下の方から聞こえてきた。


 ・・・ん?下から?


そこで初めて気が付いた。ソニアが動かしてた鉄の船が、ミリド王国のお城の屋上に突き刺さってることに。下に見える城門の近くでマリがこっちを見上げながら叫んでる。


 なるほど。もしかして、さっきソニアが誤魔化してたのはこれのことか?


「お姉ちゃん! 見てよ! お城が・・・」


 お、妹のローラがちゃんと姉を叱ってくれるのか?


「あ、お城ちゃんと残ってる! よかったぁ、この程度で済んで!」

「ね! お城どころか国ごと吹っ飛ばすかと思ったもん。お姉ちゃんのドジには毎回ヒヤヒヤするよ」


 ・・・・・・俺がおかしいのか? 何だか俺が知ってるソニアと違う気がする。


「・・・もっと知りたいな」

「え? 何か言った?ディル」

「いや、何でもない」


 俺の知らないソニアがまだまだいるかもしれないと思うと、なんか・・・こう・・・胸がウズウズする!


「先輩!」

「うおっ!?」


俺の顔の間隣りから突然ナナが現れた。どうやらマリと一緒に俺達を見つけたナナが1人だけすっ飛んできたみたいだ。


「先輩! 久しぶりですね! 一ヶ月ぶりくらいです!」


ナナはそう言いながらソニアの周りをグルグル回る。


 ・・・一ヶ月? 一ヶ月って確か30日だよな?


「あ、あー・・・うん! そうだね・・・それくらい経ってるよね・・・」


バツが悪そうに俺から目を逸らすソニア。俺はそんな可愛いソニアに確認する。


「ソニア。ナナ達と別れてから一ヶ月も経ってないよな?」

「あ、えっと、違うの! わざとじゃなくて・・・えっとえっと・・・」


ソニアの目がグルグルと回ってる。さっきから表情がコロコロと変わって可愛いけど、聞かなくちゃならないことがある。


「なぁ、ソニア。めっちゃ気になるんだけど、もしかして、俺達時間を移動したんじゃ?」

「いや、そうじゃなくて・・・あれぇ? 何でこうなったの? わたし1人の時はこんなことなかったのに・・・人間のディルとスズメがいたから? えぇ・・・? なんでなんで?分かんないよぉ・・・」


プシューっと、ソニアの頭がパンクした。


「あーあ。お姉ちゃんの頭じゃあ処理しきれないことを聞くから~」

「いやだって・・・気になるじゃん。俺が知らないうちに30日も経ってるなんて不思議現象」

「知らないうちに一ヶ月経ってた。それでいいじゃん。その現象のこと考え始めたら夜も眠れなくなるよ」


 まぁ、いいや。今度誰か分かりそうな人・・・いや妖精に聞こう。ここで騒いでたって何も変わらないんだし。


「おーい。ソニアちゃんディルお兄ちゃーん!」


屋上の扉をバァン!と勢いよく開けてマリが走ってきた。城門からここまで走って登ってきたみたいだ。割と激しめに肩を上下させてる。そして、その後ろから更に激しく肩を上下させて「ゼェゼェ」呼吸してるヨームがよろめきながら現れた。


「おーい! 2人とも~! 迎えに来たよ~! くるみ村に帰ろ~!!」


船の上からブンブンと大きく手を振るソニアに、マリは「うん~!」と元気に頷いて、ヨームは「はぁ」と溜息を吐いた。


「ソニアさん。そんな急に言われても・・・色々と引継ぎとかあるんですが・・・」

「引継ぎ? 大丈夫だって! そんなことどうでもいいこと気にしなくても!」

 

 ソニアは気楽に言うけど、国の運営を引継ぎ無しに丸投げするのは素人の俺でも無理だって分かるぞ。


「ヨーム? 私早くお母さんとお父さんに会いたいな」

「マリさん・・・まぁ、僕達の住む国では無いですし。どうにかなるでしょう」


 いいのかよ・・・ヨームにしては適当だなぁ。いや、マリに甘いのか。


ヨームが一応帰ることだけを城の人に伝えに行ったあと、マリとヨームは鉄の船に乗り込んでくる。


「ソニアさん。一度グリューン王国の王都に寄ってくれませんか? 色々と日用品を揃えたいんです」

「あ~、長いことくるみ村の方を空けてたもんね。でも、日用品ならくるみ村でも揃えられるんじゃない?」

「僕は日用品などはまとめて買うので、くるみ村でそれをやるとくるみ村の在庫が心許なくなりかねないんです」

「分かるわ~。何度も買いにいくの面倒だもんね。私も車か筋肉があったらそうしてたよ。・・・あ、マリちゃんは日用品とか・・・大丈夫そう? ずっとヨームと一緒だったし・・・」

「うん? 大丈夫だよ」


 ・・・そうか。ってことは、今からグリューン王国に行くのか・・・。うん、そこだな。


ソニアは頭の上でローラとナナが場所を取り合ってるのをまるで気にした素振りもなく、「あ、そうそう」と端で横たわってるスズメを指差す。


「あ、そうそう。そういえば、スズメがヨームとお話がしたいって言ってたよ。ほら、あそこで嘔吐しながら気を失って倒れてるでしょ?」

「・・・あれはやっぱりスズメでしたか。兄として恥ずかしいです」


ソニアがスズメにパチッと軽く電気を流すと、「うひぃ!?」と吐瀉物で口回りを汚したスズメは起き上がった。


「あれ・・・わたくし何を・・・あ、ヨームお兄様。お久しぶりです」

「久しぶりですね。まずは顔を拭いてください」


スズメを中心に、ソニア達はワイワイと話始める。俺は一歩引いたところで欠伸をしてたマリの肩をチョンチョンと叩いて、少し離れたところまで呼ぶ。


「なぁに? ディルお兄ちゃん」


ソニアの方をチラチラと見ながらそう聞いてくるマリに、俺は屈んで目線を合わせて真面目な顔で話す。


「いいか? マリ。今から俺達はグリューン王国の王都に行くよな?」

「うん」


俺の真面目な顔を見て、真似して真面目な顔をでコクリと頷くマリ。


「そこでちょっと頼みがあるんだけど、いいか?」

「うん」

「まだ内容は言ってないけど・・・いいのか?」

「うん」


 将来が心配だなぁ。


「頼みって言うのは、王都に着いたらナナとローラを連れてお城か・・・まぁ、場所はどこでもいいんだけど、その妖精2人を連れて遊びに行ってくれないか? 多少強引にでも」

「うん」

「・・・俺の言ってること、本当に理解してるか?」

「うん」

「えっと・・・理由とか聞かないのか?」

「聞きたい」


俺は更にソニア達から距離をとって、コソコソと話す。


「あのな。俺は王都でソニアと2人きりになって、そこで告白しようと思ってるんだ」

「告白!!」


急にデッカイ声で叫ぶマリ。気付かれてないかとソニア達の方を見ると、吐瀉物で汚れた床をスズメ自身に掃除させていた。そして、それを囲んで妖精達とヨームで何か話している。


 よかった。バレてないみたいだ。王都ではヨームは買い出しに行くみたいだし、スズメは兄のヨームと一緒に同行するだろうし、そうじゃなければ正直に話せば空気を呼んでくれるハズだ。問題は常にソニアにビッタリなナナとローラだけど、マリが上手い事連れ出してくれれば、ソニアと2人きりになれる・・・と思う。


「しーーっ。静かにな。これは俺とマリの秘密だぞ?」

「わかったっ。それで、告白って、好きって言うの?」

「あ、ああ。そうだな。言葉はちょっとまだ考え中だけど、そう言うだろうな」


ソニアのような純粋な瞳をキラキラと輝かせて見つめてくるマリ。


 確かに。告白の言葉は少し考えた方がいいかもな。・・・いや、案外シンプルな方がいいのか?


「な、なぁ。マリ。もしマリだったら、どんな風に告白されたら嬉しい?」

「え? えっと・・・うーんっと・・・」


マリは頬をポッと染めて、何故かヨームの方をチラチラ見ながら口をモゴモゴさせる。


「わ、私はヨ・・・一生懸命に告白してくれたら嬉しい」

「一生懸命か・・・」


 言われてもピンとこないな。出来ればビシッと格好良く、男の余裕を見せながら告白したいと思ってたんだけど、それじゃあダメなのか?


「おーい! ディルにマリちゃん! そろそろ出発するよー!!」


俺が告白の準備を進めてるなんて知らないソニアは、満面の笑みで手を振ってる。

今回は誤って時間を歪めないようにゆっくりと飛んで行くらしい。スズメは「少し休ませてください」と自室に行き、ヨームも「妹と話がしたい」とスズメについて行った。ソニアはローラに「ちょっとお話があります」と耳を引っ張られて部屋に連れていかれてた。


そして俺は告白の言葉を考えようと自分の部屋に戻ったわけだけど・・・。


「聞きましたよ! ディル君! ついに先輩に告白するそうですね!」


ローラと顔はそっくりだけど、中身はまったくそっくりじゃないナナが、マリの頭の上で水を得た魚のように元気にそう言ってる。


「マリ。2人だけの秘密だって言ったよな?」

「うん、そうだね?」


純粋な目で首を傾げるマリ。


「大丈夫ですよ。ディル君。私は誰かに言ったりしませんし、応援してますから!」


 まぁ・・・ナナならローラと違って大丈夫か?


俺は観念して、今悩んでたことを相談する。まだ子供のマリよりはマシな答えが返ってくるだろうと。


「なるほど。告白の言葉ですか」

「うん。ナナは人間時代のソニアのことも知ってるんだろ? 何かソニアの好みとか知らないか?」

「告白の言葉一つで返事が変わるような間柄じゃないと思うんですけど・・・まぁ、でも、告白という人生の一大イベントは格好良く決めたいですし、お互いにとって一生の思い出になりますからね!」


 そういう考え方はしてなかったけど・・・そうか、人生の一大イベントか・・・何か更に緊張してきた。


「いいでしょう! 先輩の一番の後輩であり友人の私がアドバイスをしてあげます!」

「おお!」


ナナは「私自身あんまり恋愛経験は無いんですけどね」とちょっと不安になることを呟いたあと、ソニアよりも少し控えめな胸を張って口を開く。


「先輩は数多くのラノベ・・・物語を読んでます。なので、下手に考えた恰好付けた言葉を言っても、そういったものに肥えた先輩には響きませんし、気を使われるか微妙な空気になるかが関の山でしょう」


 なるほど・・・碌に本を読んでない俺じゃあ、ソニアに響く言葉を考えるのは難しそうだな。


「なので! ディル君はちゃんと自分で考えて、飾らない自分らしい言葉で告白した方がいいと思いますよ!」

「飾らない・・・自分?」


 なんか、余計に分からなくなってきた・・・。


「あ、あと、先輩はあれで意外と乙女なところありますからね。言葉はともかく、場所はしっかりと考えた方がいいですよ」


 場所・・・それも考えないとな。


俺はポケットの中から小さな箱を取り出して、パカッと開ける。そこには、カイス妖精信仰国で頼んで、コルトに作ってもらった極小の妖精サイズの指輪が入ってた。


 ソニアの髪と同じ色にしたいと思って純度100%の金を使った指輪にしたけど、よく考えたら流石にソニアの髪をここまで金ぴかじゃないよな・・・まぁ、それはともかく、これを渡すのに出来ればソニアには妖精サイズになってほしいんだけど・・・その方法も考えないと。


俺は指輪を大事にポケットに仕舞って、早くなる鼓動の音を聞きながら鉄の船がグリューン王国王都に着くのを待つ。告白の作戦を考えながら。

読んでくださりありがとうございます。

ディル「この中で恋愛経験がありそうなのって・・・誰かいるのか?」

ナナ「・・・」(一応先輩はお付き合いの経験はあるみたいですけど・・・黙っておきましょう。妹の邪魔ががあってすぐに別れちゃったみたいですし)

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