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325.なにこの時間! 幸せ!

「おーらい! おーらーい!」


まだお空でお月様が威張ってる時間、空中に浮かぶ鉄の船を「おーらーい」と手招きしながら誘導するわたし。その誘導に沿って、鉄の船を海賊船の隣りへと下ろすわたし。下の海で待ち構えてるサメっぽい魔物を雷で撃退するわたし。そんな忙しいわたしの髪の毛にしがみついて「ちっちゃくなってよ~」と我儘を言ってくる我が妹ローラ。


「どうしておっきくなっちゃったのさ、お姉ちゃん。同じサイズがいいよ」

「はいはい。あとでちっちゃくなってあげるから。今は大人しくしててね」


妹の我儘をスマートにあしらうお姉ちゃんなわたし。


「ねぇ、お姉ちゃーん」

「・・・」

「お姉ちゃーん」

「・・・」

「お姉ちゃん?」

「うるさいっ」


スマートにあしらうわたし。


 よしよし、そーっと、そーっと降ろすよ。


わたしがせっかく揺れが少ないように慎重に船を降ろしてるのに、ディルがそんなことお構いなしに「よっ」とお父さんを横抱きにしながら海賊船へと飛び降りた。


 ディル・・・きっと、せっかく作った手料理に容赦なくマヨネーズとかかけちゃうタイプだ。・・・いや、別にいいんだけどね? わたしも割と調味料かけまくるし。ただ、自分が作った料理にそれをやられると・・・ちょっとね。好きな人だからこそちゃんと自分の料理で満足してもらいたいっていうか・・・なんかわたしって面倒くさい女?


ポチャ・・・と静かに船を着水させた頃には、もう妖精達までもが飛んで海賊船へと移っていた。


「もしかして、船に残ってるのってスズメだけ?」

「え? ソニア様。わたくしを呼びましたか?」


海賊船の傍で杖に跨って浮いているスズメ。わたしは「何でもないよ」と手を振る。


「お姉ちゃん。ウィック以外の皆はもう海賊船に移ってるよ?」

「あ、そっか。ウィックがいたね・・・牢屋に」


「ふぅ」と一息ついたわたしは、ちっちゃくて可愛い妹のローラを肩に乗せて皆が待つ海賊船へと降りた。


「おう! 光の大妖精! まさか船を飛ばして帰ってくるとは思わなかったぜ」


黒いモヤモヤによって手足を縛られて、床に転げられながら元気に言うダリア。この海賊船の船長だとは思えない恰好だ。どうやらビオラが犯人らしい。


「ソニア。この人間は・・・」

「分かってるよ。2000年前の勇者の生まれ変わりでしょ? でも、今は味方だから解放してあげて」

「でもソニア。執拗にこの人間から距離をとっているみたいだけれど・・・」


じりじりとこっそり後ろに下がってたのがバレた。


 だってこわいものはこわいんだもん。味方なのは分かってるけど、昔のトラウマはなかなか消えないよ。


「あ、そうだ。シロちゃん達は来てるかな?」

「スノウドラゴンとガタイのいい男なら寝室で休んでるぞ」


副船長ポジションのマイクがクイッと親指で教えてくれた。


 お休み中かぁ・・・じゃあ後でいいや。その前にウィックの様子を見てこよっかな。記憶喪失になったうえに体を乗っ取られちゃったんだもん。ちょっと心配だ。


「よしっ、じゃあ・・・えっと・・・」


 1人で行くのも寂しいし誰か連れて行こうと思ったけど、誰を連れて行こう? やっぱりダリアかな? ウィックが姉御と慕ってるっぽい人だし。・・・でも、ダリアと2人きりになるのはこわいんだよなぁ。


「あ!ディルも一緒なら大丈夫かな。でも、どこに・・・」


物珍しそうに海賊船を探検する妖精達を眺めながらそう呟くと、後ろから「ん? 呼んだか?」とディルの声が聞こえてきた。


「あ、ディル! 見当たらないと思ったらどこに行ってたの?」

「お母さんのところに行ってた」

「そっか・・・ちゃんとただいまって言った?」

「いや、寝てたから、隣りにお父さんを寝かせといた」

「そっか」


 サディ。起きて隣りにルイヴが寝てたらビックリしないかな? わたしだったら隣りにディルが寝てたらビックリするけど・・・2つの意味で。


「で? 俺に何か用か? ソニア」


 相変わらず優しそうな笑顔・・・好きだなぁ。


「ソニア?」

「あっ、えっとね!ウィックの様子を見に行こうかなって思ったんだけど・・・」

「ああ。スズメが目を覚ましてたって言ってたもんな」


 それは知らなかったけど・・・。


「それで、ダリアを連れてこうと思うんだけど・・・」

「あ~・・・こわいから一緒に来て欲しいってことか?」


 バレバレだね。


「ディルはやっぱり両親の傍に居たいかな? だめ?」


そっと近付いて見上げて言うと、ディルは急に顔を赤くして片手で口元を隠しながら目を逸らした。


「べ、 別にいいぞ?」


 やった!


「ありがとう!」

「・・・ッ!」


笑顔でお礼を言ったら、ディルの顔が最高潮に赤くなった。


「じゃあ、さっそく一緒にダリアに声を掛けに・・・っとっと?」


いつの間にかディルに手を握られてたせいで体がつっかえって転びそうになる。


「えっと・・・ディル? 手を離してくれない?」

「え・・・いや。ソニアから握ってきたんだけど・・・」

「え・・・」


 もしかして・・・無意識に!? 恥ずかしぃ!!


わたしがバッと手を離した瞬間、「初々しいなぁ、おい!」という、そんなダリアの声と共に、バァン! とディルの背中が押されて・・・。


「わっ!?」

「きゃあ!」


わたしの顔に、ディルの胸筋が激突する。


 わっ、イイ。・・・じゃなくて! ディルって思ったよりも身長差あったんだね・・・じゃなくて!


思わずギュッと抱き着いちゃったわたしは、慌てて離れようとする。


「や、柔らか・・・じゃなくて! ごめんソニア!」

「う、ううん! 大丈夫!」


お互いが「えへへ」と照れ笑いしながらささっと離れる。


 なにこの時間! 幸せ!


「・・・・・・いやいやいや! 今はそうじゃなくて!」


気恥ずかしさを誤魔化すように大きな声でそう言って、わたしは「だっはっは!」と変な笑い声をあげるダリアに向き合って・・・こわいからちょっと後ずさる。


「あーっと・・・姉御? ソニアが姉御と一緒にウィックの様子を見に行きたいんだってさ」

「ウィックの? そういや見かけねぇなって思ったら・・・あいつやっぱりお前について行ってたのか。 何があった?」


 そっか。泡沫島で何があったかを説明しないとだね。ディルが。


ディルが身振り手振りを使って簡単に説明する。


「そうか・・・あいつの親父は死んだのか」

「姉御はウィックの事情を知ってたのか?」

「詳しくは知らねえよ。ただ、泡沫島の出身なのと親にあまりいい感情を抱いてねぇのだけは長年の付き合いで分かってた」


何でも、ウィックはまだ子供の頃に泡沫島から逃げ出して、海で遭難してたところをダリア達が乗る海賊船に拾われたらしい。


「ねぇ、ウィックは最初から『なんちゃらッス~』みたいな喋り方だったの?」


ディルの後ろに隠れながらそう聞くと、ディルに「今気になるところはソコかよ」って頭をポンと優しく叩かれた。


「いや。あの喋り方は俺が教えた。これが敬語だぞってな!」


 それは敬語じゃないよ?


深夜テンションなのかやたらと元気なダリアと一緒に、わたし達は鉄の船へと飛び移る。ビオラやジニアやらローラやらがついてきたそうにしてたけど、何だか話をややこしくしそうだったから同行を丁重に拒否した。


「あ、大きい姉御にちっちゃい・・・あれ? ちっちゃい姉御が大きくなってるッス!」


鉄の船にある牢屋の中で、ウィックは目を丸くして元気いっぱいにそう言った。


「色々とややこしいけど、とりあえず・・・記憶は戻ったの?」

「記憶? 何の事っスか? ・・・ところで、どうして皆牢屋に閉じ込められてるんスか?」

「閉じ込められてんのはお前だよウィック。つーかお前、ここに閉じ込められる前のことって覚えてっか?」


ダリアが呆れたようにそう聞くと、ウィックは「えーっと」と上を見上げたあと、首を傾げた。


「確かミリド王国のおっさんの小屋に居て・・・すんごい美女が・・・そう、ちょうどソニアの姉御みたいな美女がやって来て・・・あれ? そこから、何で俺は牢屋に入ってるんスか?」


 記憶は戻ったけど、記憶がないみたい。しょうがない。ちょっと揶揄ってやろっと。


「ウィックはその女性にセクハラをして捕まっちゃたんだよ」

「え・・・マジすか?」


ウィックは顔面蒼白といった感じで、ダリアとウィックを見る。2人は深刻そうな顔でさっと目を逸らす。


「そんな・・・俺、確かにいつも美女とイチャイチャしたいと思ってたッスけど・・・まさか・・・」


 フフフッ、青ざめてる! ウィックがその女性(わたし)にセクハラまがいなことをしてきたちょっとした仕返しだよ。


そんな冗談はここまでにして、ウィックにちゃんと本当のことを説明する。


「マジすか・・・」


 本日二回目の「マジすか」だね。


「ウィック。ウィックのお父さんのことだけど・・・」


ウィックのお父さんを殺したのはわたしだ。だからわたしがちゃんと言おうとしたら、ウィックはフルフルと首を振ってわたしの言葉を途中で止める。


「姉御は知ってるかもしれないッスけど、俺は親父が嫌いッス。それに、俺の人生は姉御に拾われたところから始まってるんスよ。それ以前のことはどうでもいいッス」


ニッと笑って何でもないように言うウィック。基本図々しくて鬱陶しい奴だけど、こういうところだよね。


「そんなことよりも・・・俺がソニアの姉御の羽を捥いだなんて・・・本当にすまなかったッス」


ウィックは牢屋の中で頭を地面に付けてわたしに謝る。


「あれはウィックじゃなくて、ウィックの体を乗っ取ってたアイツでしょ? 正直めちゃくちゃ痛かったし辛かったけど、ウィックが謝ることじゃないよ」

「ソニアの姉御・・・」

「ただ、他の大妖精達はそれが原因で皆ウィックのこと嫌ってると思うけど、それは我慢してね!」

「ハハハ・・・大妖精達が皆っスか・・・それはこわいッスね」


 うん。こわいね。わたしだったら泣いちゃうよ。


「それで・・・俺はここから出して貰えるッスか?」

「うん! もちろん!」


・・・って思ったけど、この牢屋の鍵をわたしは持ってない。


「俺が開けるよ」


ディルはそう言ったあと、鉄格子を掴んで、ぐにゃっと曲げて隙間を広げた。


「マジすか」


本日三回目の「マジすか」だ。わたしもびっくり。何がビックリって、ディルは身体強化無しでやってるからだ。


「ディル。力持ちだね」

「鍛えたからな。・・・ソニアを守るために」

「そ、そうなんだ」


 きゅ、急になに!? わたし、どんな顔でいればいいの!? 超恥ずかしいんだけど!!


とりあえず、背伸びしてよしよしと頭を撫でてあげると、ディルは「もうそんな歳じゃないって・・・」と、はにかみながらも嬉しそうに笑った。


「俺は大きくなったソニアの姉御に膝枕をして欲しいッス。なんならその大きな胸に思いっ切り・・・」


何かまたセクハラみたいなことを言ってるウィックを無視して、わたし達は鉄の船から海賊船へと戻る。そろそろ朝日が見えてきた。


「もうそろシロちゃん達も起きたかな?」

読んでくださりありがとうございます。

ディル(や、柔らかかった・・・あの感触ってやっぱり・・・)

ソニア(見事な胸筋だった・・・もうちょっと堪能してたかったな)

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