表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
324/334

323.魂

「俺達が必死に泡沫島に潜入している間に、大妖精達はそんなことしてたのかよ・・・」


研究所を地上に向かって進みながら、隔離されてた間に何をしてたか話すと、前を歩くディルは呆れたように首を振って溜息を吐いた。ちなみに、トキちゃんは村の人達が心配だって言って先に飛び去ってしまった。


「そんなことで済まないよディル!人類が滅亡する寸前だったんだから! ビオラ達のせいで!」


ビオラの肩に乗りながらツンツンと頬を突っつく。変な顔になるくらい深く突っつく。ケイトが「そんなことしても許されるのはソニアだけだな」って言うけど、ビオラは割とこういうスキンシップは好きな方だと思う。今も嬉しそうに鼻の穴を広げてるし。


「でも納得いったよ。だからお父さんは俺のこと人類を救った勇者だとか言ってたのか」


おんぶしている気を失ってるお父さんを見ながらフッと笑うディル。そんなディルの隣りを歩くジニアが肩に乗ってるガマくんを見ながら「ハァ」と溜息を吐いて口を開いた。


「早く本物の太陽を拝みたいわね。日光浴をしたい。ね? 莢蒾(ガマズミ)の妖精」

「本当にその通りだね。僕なんて暫く光合成出来て無かったせいで飛ぶ元気も無いよ」

「え? わたしが光を出してあげてたじゃん。わたしの光じゃ不満?」


ビオラの肩に乗って後ろからそう投げかけると、ジニアの肩に乗ってるガマくんだけが振り返って言い返してくる。


「確かにソニアの光で少しは回復できたけどね。ただ、やっぱり太陽の光をそのまま再現は出来てないみたいだね。甘いよ」


 む・・・なんか煽られた。


「わたしの光の方が凄いよ!」


目一杯明るい光の玉を出す。


「眩しいって!」

「ソニア! 眩しいわ!」

「アタイの目がぁ!!」

「うわぁん! 眩しいよぉ!」

「眩しい・・・」

「眩しいですわ!」

「お姉ちゃん!」


ガマくんと、ビオラ含め後方にいる全員にすごい勢いで一斉に怒られた・・・。しゅんとしてたら、前を歩いてたディルが少し速度を落としてビオラ(わたし)の横に並んでくる。


「何よ。私に何か用? 人間(ディル)

「いや、ビオラさんに用っていうか、ただソニアを見に来ただけだけど・・・」


 わたしを?


コテっと首を傾げるわたしに、ディルは微笑ましいものを見るようにだらしなく頬を緩ませる。何だか恥ずかしくて、わたしはビオラの黒髪で顔を隠す。


「邪な目でソニアを見ないでちょうだい。それと、私のことを名前で呼ばないで。ソニアが付けてくれた大切な名前なんだから、アンタの汚い口で呼ばないで。・・・あ、ちなみに、ソニアの名付け親はこの私よ」

「何言ってだよ。ソニアにソニアって名前を贈ったのは俺だぞ」

「は? 私よ」

「いや俺だ友達になった時に贈ったんだ!」


 何か言い合いが始まっちゃったよ・・・。どっちも正しいんだけどね。


「何でビオラさんはそんなに人間が嫌いなんだよ・・・何か理由があるなら言ってくれ。気を付けるから・・・ソニアの家族とは仲良くしたいんだよ」

「嫌いな理由? そうね・・・色々とあるけれど、汚いのが一番嫌だわ。排泄や放屁とか特によ。それと名前で呼ばないで」

「分かった。じゃあ、我慢する」


 いやいやいや・・・。


「ディル。我慢は良くないし、むしろそっちの方が汚いからね?」

「分かった。じゃあ、我慢しない」

 

 生理現象だからね。我慢は無理だよ。


「それとビオラ? ビオラは嫌だって言うけど、わたしだって人間だった頃はそういう生理現象はあったからね?」

「ソニアは別よ。逆に綺麗よ」


 それはないでしょ・・・。


「とにかく、愛し子だなんだのと呼ばれてるみたいだけれど、私はアンタを認めないわ」


睨み合うディルとビオラ。


「少しは後ろの方で仲良く談笑してるローラとスズメを見習ってよ・・・。同じ妖精と人間なんだから・・・」


ローラとスズメは趣味嗜好? が合うみたいで、すっかり意気投合して2人で仲良く談笑してる。内容までは分かんないけど、たまに幸せそうな笑い声が聞こえてくる。友達が少なかった妹に友達が出来て良かったと思う。


それから道行く研究所達をジニアの蔦で捕縛しながら進むこと暫くして、ディルが立ち止まった。


「いない・・・いなくなってる」


何故かバキバキに凹んでる壁を見つめながら立ち尽くすディル。


「何が居なくなってるの?」

「ウィックだ。ウィックがここに倒れてたハズなんだけど・・・」


そう言ったディルは、背負ってたお父さんを無理矢理ジニアに押しつけて、近くにあったゴミ箱を突然漁り始めた。


「ちょっとちょっと! 私にこいつを押し付けないで・・・って、何してんのよ!?」


ディルのお父さんを蔦で支えながらプリプリと怒るジニアに、ディルはゴミ箱の中身を見せる。


「見ろ・・・ゴミしか入ってない」

「当たり前でしょ! 向日葵が太陽に向くのと同じくらい常識よ!」


ディルの突然の奇行に困惑するわたし達妖精。そんな中、ローラがスズメの肩から発言する。


「ディル。ウィックは船に置いてきたんじゃなかったの?」

「ああ、そのハズなんだけど・・・体を誰かに乗っ取られてるのか、俺を尾行して攻撃してきたんだよ」


 乗っ取られて? ・・・うーん、何か引っかかる。


「それで、俺はウィックをここで気絶させて大量の闇の魔石をこのゴミ箱に隠してたんだけど・・・」

「全部消えてるってことね」


 つまり、どこかに体を乗っ取られた疑惑のウィックが潜んでて、わたし達を狙ってるかもしれないってことだよね?


わたしはくるっと振り返って、後ろで静かに待機していたエリカに声を掛ける。


「エリカ」

「うん、今見つけた」


エリカは静かにそう一言呟いて、コクリと頷く。


「さすがエリカだね。仕事が早い」


ふわりと飛んでエリカの頭をちっちゃな手で撫でてあげると、嬉しそうにはにかんだ。


「え、どういうことだ? ソニア」

「何をしたんですの? ソニア様」


困惑するディルとスズメに、わたしはドヤ顔で説明する。


「エリカが空気を使ってウィックの居場所を突き止めて、風を使って今ここまでウィックを運んでくれてるんだよ・・・あっ、来たみたい」


びゅおーっという突風と共に、黒いローブに身を包んだ男がズサーっとわたし達の前に運ばれてくる。瞬間、ディルが一番にわたしを守るように短剣を構えて、次にビオラが飛んでいたわたしを掴んで自分のもとに引き寄せ、スズメやガマくん、他の大妖精達もわたしを守ろうと取り囲む。


 わたし・・・そんなに頼りないかな? 守られてばかりじゃないんだよ? ちょっと過保護過ぎない?


「空の大妖精の仕業か・・・」


黒いローブに身を包んだ男、ウィックは、わたし達大妖精を見て何もかもを諦めたような顔になって投げやりにフッと笑った。


「あわよくば逃走して再起を図ろうと思ってたが・・・大妖精相手に見積もりが甘かったか。好きにしてくれ。さすがにこの状況で俺がどうこう出来るとは思わない」


ディルがウィックの体を取り押さえ、黒いローブを引き剝がし、更には中に着ている服までもビリビリと引きちぎり始めた。


「ディル!? 何やってんの!? そんな服を引きちぎったら・・・お? おおっ? おおお!? 凄い見事な筋肉だ!!」


ビオラに手で前を塞がれた。


 解せぬ・・・。


「筋肉フェチなのは相変わらずだね」と呆れたようにローラ。


そして視界が解放された頃にはウィックはボロボロになった服を上に羽織らされた状態になっていて、見事な筋肉は見えなくなってた。


「残念・・・じゃなくて、何してたの? 自分の筋肉だけじゃ不満?」

「何言ってんだソニア? 服の下に隠してた魔石を没収してただけだぞ?」

「あ、そうなんだ」


床に転がされた大量の魔石を指差しながら「これは危険だからな」と言うディル。


「とりあえず身動きが取れないように手足を斬っちゃおうよ」


人一倍怯えながらとんでもないことを言うアケビ。


「待って待って! ウィックは仲間だからやめて!」


わたしはアケビのアホ毛をぐいーっと引っ張って、生み出した剣で斬りつけようとするのを必死に止める。


「仲間? でも、明らかに仲間の発言じゃなかったよ?」

「そ、それはその通りだし・・・というか、ウィックの発言でもなかったような・・・?」


 いつもの「・・・~ッス」っていうちょっと腹立つ喋り方じゃないもん。


「やっぱりウィックの体だけど、別人なの?」


アケビの頭の上で首を傾げるわたしに、ビオラがコクリと頷いて肯定する。


「ソニアの言う通り、そのウィックとか言う人間とは違うみたいよ。あの人間の体には魂が2つあるもの」


目を凝らしながら言うビオラ。


 直接手を触れなくても見えるんだね。


「というか、そんなことよりも・・・」


 そんなこと!?


ビオラはウィック(?)なんてどうでもいいと言わんばかりに視線をぷいっと外して、ウィックを取り押さえてるディルに近付く。


「え、ビオラ何やってんの? 顔近くない?」


まるで老眼のおばあちゃんみたいにグッと目を凝らしながらディルを凝視するビオラ。吐息が届くくらいの距離だ。・・・妖精は息なんてしないけど。


「な、何だよおい・・・」

「よく見せなさい」


引き気味のディル。グイグイ行くビオラ。


「ビオラ! 離れてよ! いくらビオラでもディルはあげないんだから!」


グイグイ行くビオラの髪をグイグイ引っ張るわたし。ビオラは珍しくわたしを気にも止めずにディルを凝視し続ける。そして、一言呟いた。


「そんな、まさか・・・」


 そんなまさか。これ以上に好奇心がくすぐられる言葉があるだろうか。いや、ないね。たぶん。


「ビオラ!!」


わたしがビオラの前髪にぶら下がって鼻の穴にぐーパンをいれた所で、ようやくビオラは「ふがっ!?」とわたしを見た。


「あ、ああ・・・ソニア。ごめんなさい。ちょっと考え事をしていたわ。えっと・・・この人間の魂が2つあることについてだったわね。この人間は・・・」


何事もなかったかのように話を進めるビオラ。わたしとディルは顔を見合わせて首を傾げる。


 え、あとでちゃんと説明してくれるんだよね? さっきの。


「・・・つまり、誰かが無理矢理この人間の体に憑依したということよ。それで、元の人間の魂とその何者かの魂が2つあるというわけ」

「じゃあ、その余計な魂を追い出せばいいんだね? ビオラ・・・お願いできる?」


何としても断られたくないから、わたしはギュッと胸を寄せながらビオラの鼻に手を置いて、上目遣いであざとくお願いする。正直ディルやローラの前でこんなことするのは恥ずかしいけど、ビオラはこれに弱いのを知ってるから。


「フフフッ、もちろんよソニア。私に任せなさい!」


元気いっぱいに承諾してくれた。


「ちょっと待ってくれよビオラ! ソニアを・・・アタイ達をひどい目にあわせた人間なんだぜ!? 魂を抜いて終わりだなんて生ぬるいぞ!!」


ケイトの発言に妖精達みんなが「うんうん」と頷く。わたしを見るビオラに、わたしはコクリと頷く。


 わたしも皆に酷いことした奴は許せないからね。


「じゃあ、抜いた魂はとりあえず私達で保管しておきましょうか。・・・アケビ、瓶を作ってちょうだい。普通のガラスで出来たものでいいわ」


アケビが言われるまま瓶を作ると、ビオラはそこに塩水を入れるようリナムに頼む。


「ありがとう2人とも。ここに一旦こいつの魂を入れておきましょう」

「あ、ここでその魂に何かするわけじゃないんだね。その魂が何者かとかも気になってたんだけど・・・」

「そうしてもいいのだけれど・・・今は急がないとまずいんでしょう?」


チラリとディルのお父さんを見るビオラ。ディルのお父さんはジニアによって蔦で無理矢理自立させられてるけど、白目を向いていて今にも死にそうだ。


「そうだね。早くディルのお父さんを何とかしなきゃ!」


 ・・・にしても、いつも「人間なんて」って言ってるビオラが人間に気を使うなんて珍しいね。


ビオラは無表情でこっちを睨むウィック(?)の頭に手を置いて、まるで髪の毛を抜くみたいに何かをつまんでプチっと魂を抜いた。わたしには見えないけど、ビオラは摘まんでるであろう魂を塩水入りの瓶の中に入れて、キュッと蓋を閉めた。


「魂って塩水に弱いの?」

「塩水というよりは、塩に弱いのよ」

「へぇ~・・・何か、そのまんまだね」


瓶をスズメに持たせたわたし達は、少し早足で地上へと向かった。

読んでくださりありがとうございます。

ソニア「お願いできる?」

ディル(ここからじゃ見えねえ!! クソ!!)

ローラ(・・・・・・脳内保存っと)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ