表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
322/334

321.【ディル】救出!!!

「動くな。騒ぐな。そして諦めろ」


泡沫島の研究所の地下1階。何者かに後ろから腕を回されて、喉元に短剣を突き付けられる。この短剣には見覚えがあるし、その声も凄く聞き覚えがある。最近聞いた声だ。


「ウィック・・・じゃないよな?いつもの微妙に腹立つ喋り方はどうした?」

「うるさい。騒ぐな」


声はウィックだけど、発音が違うっていうか、いつもの「~ッス」っていう語尾がない。


 ローラ達と別れて、これから隠密行動に移るぞって意気込んで一歩進んだ瞬間にコレだよ・・・。今頃ソニアは怖くて泣いてるかもしれないってのに・・・いや、でも大妖精の記憶が戻ってからは案外図太くなってるっぽいからな・・・いやいや、でも、ソニアはソニアだ。泣き虫で寂しがり屋なのは変わらないからな。泣いてるソニアは可愛いけど、悲しんだり寂しがってるソニアを見るのは辛いし、ソニアは笑顔の方が似合うから―――。


「おい。騒ぐなとは言ったが、こういう場面は何かしら抵抗するものだろう」


 なら、お望み通り抵抗してやろう。


ウィックもどきが短剣をピクリと動かした瞬間、俺は身体強化をして「ふん!」と思いっ切りケツを後ろに突き出す。


「うっ」


丁度みぞおちにヒットしたみたいだ。ウィックもどきは数秒よろめく。俺はその一瞬の隙を逃さずに腕の中から抜け出して、距離を取って身構える。


「見た目は・・・ウィックだな。ハァ、なんだよもう・・・ 記憶喪失になったと思ったら、次は二重人格にでもなったのか?」


 最近ソニアのせいで・・・いや、あれはウィックの自業自得とも言えるけど・・・つまり、ウィックは記憶喪失になってたハズだ。


「記憶喪失でも二重人格でもない。俺は俺だ」

「名前を聞いてるん・・・だよ!」


言いながら全速力で蹴りを入れるけど、サラリとギリギリで躱された。後ろにあった壁が風圧で崩れる。


 嘘だろ!? 今のを躱すのかよ!? 常人なら碌に反応も出来ずに頭が吹っ飛ぶほどのスピードだった。殺すつもりで、最悪ウィックだったとしても身体強化した状態なら気絶程度で耐えられるだろうと思って思いっ切り放った一撃だったし、記憶喪失前のウィックでも躱すのは難しかったと思う。


「何を驚いてる?」


ウィックもどきは身構える俺を見て嘲るようにニヤリと口角を上げる。


 そりゃ驚くだろ。こんなことは二度目だ。


あれはセイピア王国のお城でのことだ。あの国の王様は闇の魔石をいくつも持って身体強化を重ね掛けして、初見では目で追えないくらいのスピードで動いてた。


「いったい何個持ってるんだ?」

「さぁな。持てるだけだ」


ダメもとで聞いてみたら、返事が返ってきた。どこに隠し持ってるのか知らないけど、俺の予想は正しかったみたいだ。


ウィックもどきは二本の短剣を俺に向けながら口を開く。


「質問は以上か?」

「いや、一つ目の質問にぃ!?」


右肩を刺された。見えてはいたけど、急所を外すのが精々で躱すことは出来なかった。


「・・・っ」


 痛い・・・。


痛みで顔が歪むのを必死に我慢しながら、身体強化で傷口を即座に治す。


「この程度で痛がるのか? 若いな」


 若い・・・? やっぱりこいつはウィックじゃない。だって、ウィックは俺よりは歳上だけど、若いなんて言われる程歳は離れてない。問題は、これが本当にウィックの体なのか、そうじゃないかだけど・・・。


ウィックもどきは物凄い速さで俺に斬りかかってくる。その動きは今までのウィックとはまるで別人だけど、ウィックよりも洗練されていて、何より早い。俺は短剣が肌を掠りながらもギリギリで何とか避けていく。


 セイピア王国の王様の時は速さだけで動きは単純だったからこっちが圧倒出来たけど・・・速さは同じくらいでも動きが素人じゃないだけでこんなにキツイなんて・・・これはウィックの体だから手加減するなんて器用なこと考えてる場合じゃない。本気でやらないとこっちがマジでやられる。


俺は覚悟を決めて、攻撃に移る。


 殺しちゃったらゴメンなウィック。気絶で済むことを祈っててくれ。・・・これがウィックの体かは知らないけど。


相手の斬撃で壁が真っ二つになる。俺の蹴りで床が崩れる。何度かの攻防で、俺達は周囲をズタズタにしながら何階か地下へと下がっていた。途中で泡沫島の研究者を巻き込んだような気がするけど、この際気にしてられない。


「ハァ・・・ハァ・・・妖精の愛し子だからって、妖精に気に入られ、守られるだけのただの人間ではないみたいだな」

妖精(ソニア)に? 確かにソニアに守られることもあるけど、好きな女の子に守られてばっかりじゃ格好悪いし、俺は妖精の愛し子で終わるつもりは無い!」


言いながら壁や天井を弾かれるようにして跳び回りながらフェイクを入れて、ウィックもどきの後頭部に蹴りを入れる。


「ぐっ・・・!?」


見事に命中して、ウィックもどきはぐらつく。そして、その隙を逃さない。緩んだ手元を蹴って短剣一本を弾き飛ばす。


 これで少しは回避が楽になったらいけど・・・クソッ、こんな所でグダグダしてる場合じゃないのに!


「女の子がどうのって考えは嫌いだが。それはそれとして、妖精の愛し子で終わるつもりはない・・・か。では、何を目指す?」


 そんなの決まってる。妖精の・・・ソニアの、夫だ。けど・・・。


「お前に答える義理はない!」


弾き飛ばした短剣を拾って、ウィックもどきの頭を目掛けて斬りつけるけど、躱される。


闇の適性持ちで身体強化が出来る奴は下手な攻撃をしてもすぐに回復される。だから魔石を狙うか急所を狙うかしか無いんだけど・・・そう簡単に出来ればこんなに戦いが長引いたりはしない。


 お互いが身体強化をしているせいで、どっちも目立った傷は未だない。これじゃあ戦闘が長引くばかりだぞ。


何か手立てを考えないと・・・と思ったその時、ブ―――ッ! ブーーーッ!っと研究所内に警報音が鳴り響いた。ウィックもどきはその警報音に明らかに動揺してギリギリと歯軋りをしだす。


「何だ!? まさか・・・クソが! どうしてこうも想定通りにいかない!」


 今だ!!


卑怯だと言われようが、隙は見逃さない。俺はウィックもどきの後頭部を思いっ切り蹴り飛ばす。ウィックもどきはそのまま頭が壁にめり込み、ぷらーんとぶら下がる。


 辛うじて首は繋がってるけど・・・生きてるか?


恐る恐ると近づいて脈を確認してみると、生きてた。気絶してるだけみたいだ。


 よしよし。最善の結果だな。念のため魔石と短剣は没収しておこう。


ウィックもどきの肌に貼り付けるようにしてくっ付いていた魔石を大量に回収して・・・。


「・・・って、こんなに持ち運べないな。目立たないところ・・・そこら辺のゴミ箱にでも捨てておこう」


2本の短剣だけを持って、俺は更に地下へと走る。


「・・・ああ、もう! まるで迷路だな! 全然下に続く階段が見つからない!」


途中で俺に襲い掛かって来た研究者を1人捕まえて、聞いてみることにする。


「おい、ソニアは一番下に居るんだよな?」

「・・・」

「おいって!」

「ぐふっ!?」


 これ以上時間を無駄にするわけにはいかないからな。多少手荒になるけど許してくれ。


「ひ、光の大妖精は地下8階にいます・・・」

「そっか。じゃあ、その地下8階に続く階段はどこにあるんだ? ていうか、ここは地下何階なんだ?」

「ここは地下4階で、地下5階に続く階段は、そこを真っ直ぐに言って、第13研究室の手前を右に曲がって、少し進んだ先の第16研究室の奥を左に曲がって、第31トイレの手前を更に左に曲がって、第10研究室の手前を右に曲がった先の、第1休憩室の隣りにあります」

「・・・」


 え?


「・・・分かるかよ! っていうかトイレ多すぎだろ!」

「え、分かんないんですか?」


 俺がバカなのか? いや、普通分かんないだろ。・・・ローラ達はちゃんと下に降りられてるんだろうか・・・。


「ハァ・・・もういいよ。最初からこうすれば良かったんだ」


俺は足を上に挙げて、思いっ切り床に下ろす。


ビキビキ・・・。


床に亀裂が入り、あとは軽く短剣で小突いただけで床が抜けた。口を開けてポカーンとする研究者を横目に、俺は地下5階へと降りる。そして、同じようにして6階、7階と降りていき、ついに8階に着いた。


 ここは・・・トイレか? 廊下の下は廊下ってわけではないんだな。便器の中に落ちなくて良かった。


トイレから出ると、どの階でも代わり映えしない真っ白い廊下だ。ただ違うのは、他の階よりも部屋の数が少ないのと、一つだけ扉の端っこに穴が開いてる扉があることだ。


 他と違う扉があるならまずはそこに入ってみたくなるよな。


無防備のにも鍵が掛かってない扉を開けて部屋の中に入ると、そこには小さな台座とその周辺にガラスの破片が散らばっていた。


スンスン・・・。


 ・・・微かにソニアの匂いがする。


嗅覚を全力で強化してようやく分かる程度だけど、この部屋からはソニアの匂いがする。


 ソニアは石鹼で体を洗ってるっぽいからいい香りがするんだよな。微かに海の潮臭さも混じってるような気がするけど。


このソニアの匂いがどこに続いてるのかまでは分からないけど、何となく予想はつく。8階には更に下に続く階段があった。


 たぶん、ここで何かがあって、ソニアは更に地下に移されたんだろう。ふわっとした推理だけど、あながち間違ってはいないと思う。


「待ってろよ! ソニア! 今行くからな!」


俺は今いる部屋の床を踏み抜いて、地下9階へと降りた。


ガラガラと床が崩れ落ちる中、「きゃあ!」と女の人の小さな悲鳴が聞こえてきた。ソニアの声では無いのは分かったけど、どこかで聞き覚えのある声だ。


「ちょっとディル! 遅いんだけど!!」


この生意気な声は確実に知ってる声だ。砂埃が舞う中、俺はその声の方を見て口を開く。


「ローラ。それにトキちゃんも。お父さん達は逃がせたのか・・・って、お腹になんか刺さってるけど大丈夫か?」


ローラとトキはお腹に水と氷の槍がそれぞれに刺さっていて、壁に釘付けにされていた。


「私達は妖精だからとりあえず大丈夫だけど、そこの女は大丈夫じゃ無さそうだよ」

「え?」


ローラが俺の足元を指差す。そこで初めて気が付いたけど、俺は女の人を踏んづけていた。


「わっ、ゴメン! わざとじゃ・・・あれ?」


女の人は「吐きそうですわ・・・」と俺が踏んづけていたお腹を押さえながら、灰色の髪を揺らしてゆっくりと立ち上がる。


「スズメ!?」


カイス妖精信仰国の王女のスズメ。死んだと聞かされていた人物がいた。


「ディル様。お久しぶりですわ」

「様は付けなくていい・・・いや、そうじゃなくて、生きてたんだな」

「ええ。危うく殺されかけましたけれど・・・」

「いや、ほんとゴメンて。わざとじゃないんだよ・・・」

「ディル様・・・ディルではなく、その男にですわ」


スズメは言いながら俺の後ろを指差す。


「何だよこれ・・・危なくぺしゃんこになるとこだったじゃんか!」


俺と同じ歳くらいの、青髪に黒いローブで身を包んだ男がそう言いながら瓦礫の下から出てきた。


「あれは・・・敵か?」


俺の問いに、釘付けにされてるローラが威勢よく答える。


「敵に決まってるでしょ! お姉ちゃんの敵だよ!」

「ソニアの敵か・・・じゃあ、生かしておく必要はないな」


俺の言葉にローラは少し驚いた表情をしたあと、「分かってるじゃん」と満足そうに笑った。


 笑い方はソニアそっくりだな。


「気を付けてくださいませ。あの黒いローブはあらゆる魔法を無効化しますの。わたくしも援護しますわ」

「忠告ありがとう。でも、援護はいらないぞ」


俺はウィックもどきから奪った短剣を両手に構える。


「ははっ、魔石も持たずに何が出来るの? 接近戦が得意みたいだけど、魔石が無くて身体強化も出来ないような子供が―――」


青髪の男はそう挑発しながら杖を構える・・・その前に、おれは動いた。


ブシュッ!


首を刎ねた。ボトリと床に男の頭が落ちる。


 魔法無効化なんて関係ない。そもそも俺は身体強化とソニアへの通信(テレパシー)以外の魔法を使えない。そして、俺は身体強化は魔石無しでも出来る。


「やったー! お姉ちゃんの敵を殺した! さぁ! さっさと私この水の槍をどうにかして、お姉ちゃんを助けるよ!」


槍が刺さったままジタバタと暴れるローラ。そんな水の槍が刺さったローラと、氷の槍が刺さったトキちゃんをひょいっと持ち上げてフルフルと振る。


「わわわわっ、雑! 槍は取れたけど、雑!」

「ありがとう。助かった」


素直に礼を言うトキちゃんと、礼を言わずに文句を言うローラ。


「何でこんなことになってるか気にはなるけど、一先ず最優先は・・・」

「お姉ちゃんの

「ソニア様の    ・・・救出!!」」」

「ソニアちゃんの


3人とも息ピッタリだ。トキちゃんだけは「あ、大妖精様達の!」って言い直したけど。


「それで、ソニアがどこにいるかは分かってるのか?」

「分かってますわ。ついて来てくださいませ」


スズメはそう言いながら、瓦礫を杖から放った風の刃で粉々にしながら部屋の中を進んで行き、何故か転がってる便器を避けて、その先にある階段を下って行く。


「これで地下10階か・・・どんだけ地下が好きなんだよ」

「それな」


階段を降りた先は普通に行き止まりだった。


「ここに嵌められている漆黒の魔石は空間を操る魔石ですの。これを発動させれば、ソニア様達大妖精のいらっしゃる空間への扉が開かれますわ」

「俺、闇と光の魔石の適性しかないけど・・・」

「大丈夫ですわ。漆黒の魔石は誰でも発動できますの」


言われるがまま、俺は壁に嵌められた漆黒の魔石い触れて魔気を流す。


「おぉ・・・」


すると、行き止まりだった壁に波紋が広がり、さっきまでなかった空間が現れた。その中にはぐったりしたお父さんと、色とりどりの髪の妖精達が居た。


「ソニア・・・」


俺は魔石の維持をスズメに託して、その空間へと足を踏み入れた。

読んでくださりありがとうございます。

ソニア「え? この世界ってボディソープ無いの!? 仕方ない。石鹼で洗おっと」

ローラ「え? この世界ってボディソープ無いの!? 仕方ない。今度ミドリか水の妖精にお願いして作って貰おっと」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ