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320.【ローラ】光

「ほら! 何してるのトキ! 早く行くよ!」

「ちょっと・・・」


いつ泡沫島の研究者が来るかも分からない廊下の隅っこで、私は地にしっかりと足をつけて、腰の重たいトキをグイグイと引っ張る。


 重たっ・・・こいつ、妖精の癖にやけに重たいな。よく見たらお腹の辺りが・・・。


「どこ見てる?」

「もうちょっと瘦せた方がいいよ」

「余計なお世話」


 まぁ、トキがミドリみたいにぽっちゃりしてようがどうでもいいけどね。


「ただ、早くお姉ちゃんを助けたいのに動かないのは何でなのさ! いい加減にしてよ!」

「それはこっちのセリフ。ディルの作戦ではディルの父親も助けることになってる。考え無しに動くところはソニアちゃんそっくり」

「ありがとう。でも、それはそれとして、そのディルのお父さんのルイヴの居場所はどうやって見つければいいの。あいつ、いっちょ前に作戦を考えたとか言って詰めが甘いんだから」


 もういっそのこと作戦なんて無視してお姉ちゃんを助けに行った方がいいんじゃないかな。手遅れになる前に。


「はいはい。じゃあ、ここは年長者のトキに任せて」

「は? 年長者? だからお腹が出てるんだね。分かるよ」

「違う。いちいち喧嘩を売らないで」


 別に売ってないけど・・・よく勘違いされるんだよね。なんでだろ。


トキはじーっと私を見たあと、私の手を引っ張って飛び始める。


「ねぇ、どこに向かってるの?」

「下」

「下・・・」

「そう。下に行けば行くほど等級の高い研究者が居る。等級の高い研究者なら、居場所も知ってるハズ」


 なるほどね・・・。


「その等級の高い研究者を拷問して尋問すればいいってわけだね」

「うん」

「そうと決まればさっさと行くよ!」


私の手を引っ張ってたトキを追い越して、逆に私が手を引っ張って廊下を飛び、更に下の階へと進んで行く。


「トキ、今って何階か分かる?」

「たぶん地下6階」

「あ、あそこに誰かいる。等級の高い研究者かな?」

「たぶん等級の高い研究者」


私達は少し人通りの少ない通路にいる2人組に目を付けた。


「むちゅむちゅむちゅむちゅ・・・」


 めっちゃイチャイチャしてんじゃん・・・。さっき警報音が鳴ってたよね? 自分達の世界に入りすぎでしょ。


「あの人間は何をしてるの?」

「自称年長者が何を言ってるのさ。あれは好き同士でお互いの欲求を満たしてるの。・・・こんな時に腹立つったらありゃしない・・・でも、丁度いいかもね」


2人の男女に近付きながら、私はトキに指示を耳打ちする。


「じゃあ・・・やっちゃって」

「うん」


トキは2人の男女のうち女性の方を一瞬で凍らせた。そのn女性と唇を重ねていた男は「いたっ!?」と唇を押さえて女性から離れる。


「どうも、性欲まみれの研究者さん」

「え・・・は? よ、妖精!?」

「騒いだらその女の目玉をくり抜く」


男は突然目の前に現れた私と、ドライアイスのように白い煙を周囲に発生させている固まった彼女を間抜けな顔で何度か交互に見たあと、コクコクと激しく頷く。


「じゃあ、私の質問に簡潔に素早く答えてね」


コクコク


「ルイヴがどこにいるか知ってる?」


・・・


「大切な彼女が光の無い世界を生きていくことになってもいいの?」


フルフル!


男は慌てた様に激しく頭を振ったあと、「考えてただけだ! だからそれだけは・・・」と大声を出す。


「騒ぐなって言ったよね?」

「す、すみません・・・え、えっと、場所は分からないです」

「チッ」


私はスッと手を上げる。


「で、でもっ、大妖精達と一緒に囚われてるのは知ってます」

「そう・・・それだけで分かれば十分かな。トキ、戻してあげて」


私の横にいる未だ姿を隠したままのトキにお願いすると、固まった彼女は何事もなかったかのように動きだす。そして、それと同時に私の姿も隠す。


「トキ。ルイヴは大妖精達と一緒にいるって。つまり、お姉ちゃんと一緒にいるかもしれない」

「でも、その大妖精達とソニアちゃんが一緒にいるかは分からないけど」

「いなかったらその時に考えればいいでしょ。早く行くよ!!」


何が起こったのか分からないのかポカーンと放心状態の女と、そんな女を抱きしめる男をその場に放置して、私とトキは先へと進む。


「ねぇ、ローラ。アレって本気?」

「アレって?」

「目玉をくり抜くとかって・・・」

「本気だよ。・・・私だって(お姉ちゃん)を失いたくないからね」

「うん・・・私も」


 お姉ちゃんは8階のある部屋にいるってトキを運んだ研究者が言ってたっけ。


8階はあまり部屋の数が多くなかった。そして、そのどの部屋の中にもお姉ちゃんは居なかった。一番怪しい扉の隅に小さな穴が開いていた部屋には、真っ白い部屋に台座が1つと、その上に割れた瓶が1つ。


「トキ。これってどういう事だと思う?」

「・・・ここに妖精が閉じ込められていて、何者かに連れ去られたか、自力で脱走したか・・・」

「そうだよね」


私は台座の上に降り立ち、スンスンと匂いを嗅ぐ。


「ここに閉じ込められた妖精は間違いなくお姉ちゃんだ」

「分かるの?」

「うん。お姉ちゃんの残り香がする」

「え・・・あ、へぇ~・・・す、すごい」


何か普通に引かれたけど私は気にしないし、実は匂いフェチでお姉ちゃんの匂いを普段から嗅いでたなんてわざわざ言ったりもしない。


「そして、お姉ちゃんの残り香は部屋を出て右側に・・・うん? いや、左側に続いてる」

「うわ・・・そんなことまで分かるの」

「うん。私とお姉ちゃんは双子の姉妹だから」


 本気は勘だけど・・・この際そこはどうでもいい。それに、双子だからこそなのか分からないけど、本当にお姉ちゃんの現在地が何となく分かる気がする。


「さぁ、行くよ」


私とトキは部屋を出て左に進んだ先にある。更に地下へと進む階段を飛んで降りていく。


「ここは部屋が1つしか無いんだね。分かりやすくていい」


またもや鉄で出来た重厚な扉。明らかに「大事な物がここにありますよ」と物語っている。


「んで、問題はどうやってこの重そうな扉を開けるかだよね」

「年長者のトキでも、流石に開けられない」

「年長者は関係ない。関係あるのは体の大きさだから」


 ここまで来て人間(ディル)待ちってのはもどかしい。私達で何とかして・・・。


とか扉の前で考えていると、突然トキが「危ない!」と私にタックルしてきた。


「うわ!?」


ズサー!っとトキに床に押し付けられる私。そのすぐ真横でドゴーン!!っと重厚な鉄の扉が吹き飛んだ。


「な、なに!? いいったい何が起こったの!?」


扉と一緒に何かが吹き飛んできたっぽいけど、何故か埃が舞い上がっててよく見えない。


「今、何処からかソニア様に似た可愛いらしい声が聞こえたような・・・まさか、幻聴ですわよね」


 ですわよね?


砂埃が落ち、女性のシルエットが見える。現れたのは、見覚えのある灰色の髪を後ろで軽く結んだ少女だった。お姉ちゃんや私ほどじゃないけど、そこそこ整った容姿だ。その少女は長い杖を持って吹き飛んで来た方向・・・部屋の中を鋭い目付きで睨んでいる。


「トキ・・・とりあえず静かに部屋の中に入るよ」


真剣な表情でコクリと頷くトキ。私達はそーっと飛んで部屋の中へと入っていく。中には黒いローブに身を包んだ青い髪の童顔の少年が小さな杖を構えて、部屋の外を見てニヤリと不敵笑っていた。


 ホント、どういう状況なの? コレ。・・・ううん、今はお姉ちゃんが最優先。お姉ちゃんを探そう。


青髪の少年と灰色の髪の少女が魔法の応酬を始め出すその後ろをコソコソと飛び回る私達。明らかに怪しい階段を発見した。


 更に地下に進む階段があるんだけど・・・いったいどこまで下に行かせるつもりなの?


薄暗い階段を降りた先は、行き止まりだった。


「おかしい。確かにこの先にお姉ちゃんが居る気がするんだけど・・・」


 何故か確信が持てる。きっと私のお姉ちゃん愛がそうさせてるんだろう。


「ローラ。見て、ここ」

「ん? なに?」


トキが指差す壁には、黒とは違う、まったく光を反射しない漆黒の魔石が埋め込まれていた。


「超絶怪しい・・・」

「うん。チョーゼツ怪しい」


 この魔石が先に進む鍵になってるに違いない。


私は試しにその漆黒の魔石に触れてみる。


「ローラ。何してるの? 魔石は魔気を流さないと発動しない。そして、魔気を流せるのは闇の大妖精と人間、それから魔物と魔獣だけ。私達ただの妖精には無理」

「分かってるよ。一応試しただけだから」


 ハァ・・・。まぁ、予想通り無理だったけど。


「じゃあ、ここは人間が必要ってことだね」

「うん」


今、階段の上には2人の人間がいる。


1人は灰色の髪の少女。杖で水やら火やら風やらを出して多彩な魔法を操って攻撃してる。何故かシンパシーを感じる少女だ。


そしてもう1人は青い髪の黒いローブに身を包んだ少年。灰色の髪の少女の魔法をその黒いローブでことごとくに無効化して、杖からは水を使った魔法を放って攻撃している。


「トキ。どっちの味方をする?」


再び上の階へ戻って戦う2人を眺めながら、トキに問う。


「あっちの女の子。青い髪の少年は嫌い」

「だよね。私も同じ」


そうと決まればやることは1つ。


「トキ。あの青髪の少年を凍らせて」

「・・・無理」

「・・・はい?」


トキはフルフルと首を振る。


「あの黒いローブに無効化される。どういう仕組みか知らないけど、あれには何も効かない」

「確かに魔法を全部弾いてるみたいだけど・・・妖精でもダメなの?」

「うん。泡沫島の人間達はかなり高度な技術を持ってる」


この施設といい、確かに泡沫島の研究者達はすごい。この世界で一番魔石を使いこなしているし、アッチの世界の技術に似た者もチラホラある。だからこそ、この世に欠かせない自然を証明する大妖精達を誘拐なんて真似を出来たんだろう。


「じゃあ、どうすればいいの?」

「うーん・・・」


年長者のトキは腕を組んで考える。もしかしたら凄い秘策が思い浮かぶかもしれない。


「あのローブを脱がそう」


トキはあっさりとそう言った。そりゃそうだ。あのローブが邪魔なら、脱がせばいい。


「2人で協力して、あのローブを下から捲りあげる」

「簡単に言うけど、戦闘中で動きまわってる人間を・・・って、あんまり動いてないね」


灰色の髪の少女は魔法を避ける為に狭い室内で動き回ってるけど、青髪の少年はそもそもローブが魔法を無効化してくれるからか、避けようともしないし、魔法を撃つ時もあまり動かない。


 これならいける!


私とトキは少年の左右に別れて、ローブの端を掴む。


 よし・・・。


トキと目が合う。私がコクリと合図を送った瞬間、2人で同時にローブを捲りあげる。


「は!? ・・・ぐぉ!?」


少年は灰色の髪の少女が放った風の刃を見事に腹に受けて倒れ込む。


 やった!!


「え・・・どうしてローブが?」


自分の杖と倒れた少年を見て首を傾げる少女に、私とトキは姿を現す。


「さぁ! 私の言うことを聞いてさっさとお姉ちゃんを解放するよ!」

「よ、妖精様!? 時の妖精様に・・・まさかソニア様の妹君の・・・いえ、そんなことよりもどうして―――危ない!!」


 なに!?


灰色の髪の少女が私とトキに手を伸ばす。私は思わず警戒して、ふわりと少し後ろへと下がったその瞬間、お腹に水の槍が刺さって、そのまま壁まで飛ばされて釘付け状態になった。


「え?」


隣りを見ると、トキも私同様に壁に釘付けにされている。何とか水の槍を抜こうとするけど、水を掴むなんてこと出来ない。


 なにこれどうなってんの? 刺さってるのに手で持てないんだけど! 妖精の私が言うのもアレだけど、物理法則どうなってんの!?


「取れない」


隣りのトキは水の槍を凍らせてるけど、そもそも力が足りずに抜けそうにない。妖精だから私もトキも痛みは無いけど・・・このままじゃまずい。視界には倒れたハズの少年が動き出すのが写ってる。


「ハァ・・・ハァ・・・まさか妖精が近くに居たなんて気が付かなかったや」


風の刃で腹に傷を負った少年が杖を持ちながらむくりと立ち上がり、捲れたローブを戻す。


「さて、カイス妖精信仰国の王女スズメ。この妖精に危害を加えられたくなかったらさ、大人しく俺に拘束されてよ。抵抗しなければ何も痛いことはしないからさ。・・・あ、この場合の痛いことってのは妖精に対してね」


スズメと呼ばれた少女は、持っていた杖を手放し、床に落とした。

読んでくださりありがとうございます。

【体重順】

ジニア

トキ

エリカ

リナム

ソニア

ローラ

ナナ


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