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319.【ローラ】山下ホログラム

コツン・・・とトキ入りの瓶が研究者の後頭部に当たり、カコン・・・と床に落ち、コロコロ・・・と床を転がる。


「な、何が起こったの? 大丈夫なの?」


瓶の中からそんな震えた声が聞こえてくる。ベルトでグルグル巻きにされてるせいで外の様子が分かんないんだろう。


「いって・・・何だ? 頭に何かぶつかったような・・・ってか、お前今何か言ったか?」

「いえ・・・別に何も」


私とシロはもちろん、トキ入りの瓶も周囲から見えないように姿を消してるから、研究者達は困惑してみるみたいだ。


「シロ、やっちゃって」

「クゥン?」


本当に? みたいな感じで首を傾げるシロ。


「大丈夫。お姉ちゃんの敵を排除するだけだから。何も問題ない。だから、殺っちゃって」

「クゥン」


シロは大きく口を開け、そこから研究者達に向けて白くて冷たい雪のブレスを吐く。さすがスノウドラゴン。ブレスの余波は通路一帯にまで及び、研究者諸共氷漬けにしてくれた。


「すごいね。ここら辺だけ氷河期みたい」

「何が起こってるの!? ちょっと!」


瓶も凍ってはいるけど、割れてはいないし中にいるトキも無事みたいだ。思いのほか瓶は丈夫で、もしかしたらただのガラスではないのかもしれない。


「じゃあ、万が一にもお姉ちゃんの視界にこんなゲスは入れたくないから。さよなら」


「えいっ」と氷漬けになった研究者達を一発ずつ殴る。すると、わたしのちっちゃな手で殴ったにも関わらずパリンパリンと割れて粉々に砕け散った。


「わお・・・色々と法則を無視してる気がするけど・・・それを言ったら私の存在そのものがおかしいもんね」

「え、何がどうなってるの?」

「さ、シロ。見つかる前にさっさと瓶を持って行くよ

「クゥン」


 これで私も立派な人殺しだね。向こうの世界なら犯罪者だ。・・・でも、ここは違う世界だし、今の私は人間じゃないから法の適用外だ。人を殺しても何も思わなくなったのも、妖精になったからかもしれないね。・・・いや、お姉ちゃんはそうじゃないっぽいし、もしかして元から・・・ううん、そんなハズないよね。


その後も私達はシロの鼻を頼りに進んで行き、そしてミカモーレが閉じ込められてると思しき扉の前に着いた。


「この先にいるの?」

「クゥン」

「じゃ、この扉壊して」


シロのブレスによって氷漬けになった扉をパリンと割って壊す。鋼鉄だろうとなんのそのだ。ホント、どうなってんだろ。


「あ、あれがミカモーレ?」


真っ白い部屋の一番奥で、眠る様に壁によしかかって座っている青い髪の大柄な男。私がまだナナと同一だった頃に見たハズなんだけど・・・「これは絶対忘れないインパクトのある奴だ」と思ったことしか覚えてない。


「クゥン!!」


シロが勢い良く羽を羽ばたき、ミカモーレが壁と繋がれている手枷の鎖をガブガブと齧り始める。


 おっと、一応ミカモーレには私達の姿を見えるようにしなきゃ。


私達の姿を見えるようにした丁度その時、シロはガチンッといとも簡単に鎖を嚙みちぎった。


「クゥン!」


シロが愛おしそうに鳴きながら、そして泣きながらミカモーレの額をペロペロと舐める。ミカモーレはすと手を挙げて、シロを思いっ切り殴り飛ばした。シロはそのまま壁にダンッとぶつかり、床に落ちる。シロが手放したトキ入りの瓶が床をコロコロと転がる所を見ながら私は思う。


 こういう激しいスキンシップもあるのか~・・・私は無理だな。


と思ったけど、違った。ミカモーレはのそりと立ち上がり、床に倒れたシロに追撃の蹴りをかまそうと右足を後ろに上げた。


 あ、蹴られる。


予想通りシロは再び蹴り飛ばされる。


「クゥ~ン・・・」


ミカモーレは一言も発さずにシロを蹴り続ける。


 さすがはドラゴン。頑丈だね。私だったら例え人間の頃でも一発で気を失ってたし、アタリどころが悪ければ死んでたかもしれない。


「ちょっと! いい加減に状況を説明して!」


転がる瓶の中から何か聞こえる。


 おっと、こんな考え事してる場合じゃない。お姉ちゃんを早く助ける為にもこの茶番を何とかしないと。


シロは攻撃されてるのに、相手が相棒のミカモーレだからか何もできずに一方的にやられてる。


 まずは状況分析っと。


ミカモーレはずっとシロを殴ったり蹴ったりしてるけど、その動きは格闘なんてまったくかじってない私でも分かるくらいには素人同然だ。そして何より顔が無表情っていうか、白目剥いてる。普通にこわい


 これはアレかな? 洗脳みたいなことされてるのかな? じゃなければ、このミカモーレって人間は白目を剝いて蹴りながら挨拶するヤバい人になっちゃう。


「あとは・・・シロだけ攻撃して私達には見向きもしないってところだよね」


 シロと私達に違いっていったら・・・種族? 妖精には攻撃しないっていう条件が洗脳に組み込まれてる? もしくは、鎖を破壊してミカモーレを逃がそうとした者を攻撃するように設定されてるか・・・うん。後者の方が可能性ありそうだね。


「もしも本当に洗脳の類だとしたら、これはもうお姉ちゃんの管轄だね。お姉ちゃんなら簡単な洗脳くらいなら解けるハズ」


 ウィックの記憶は戻せなかったっぽいけど、洗脳を消すくらいなら出来るでしょ。記憶だって戻すよりは消す方が簡単そうだし。


「まぁ、でも、とにかくミカモーレを無力化したいよね。それから後のことは考えよう。ミカモーレの鎖を千切ったことだって既にバレててもおかしくないし・・・」


 ただ、無力化って言ってもこの中で今戦えるのはシロだけなんだよね。トキは瓶詰めにされてるし、私は元から戦力外だもん。


「クゥン!クゥン!!」


何かを必死に訴えるように悲壮感たっぷりにミカモーレに鳴き続けるシロに、私は声をを掛ける。


「シロ! ミカモーレはたぶん洗脳されてるの! お姉ちゃんなら何とか出来ると思うけど、その為にはまずミカモーレをこの泡沫島から逃がさないといけないの! だから、辛いだろうけど頑張ってミカモーレと戦って無力化して!」

「クゥン!!」


首を振るシロ。・・・腹立つ。


 早くお姉ちゃんを助けに行きたいのに。


「シロ! 何も命を奪えって言ってるわけじゃないの! 行動不能にしてくれればそれでいいから! 四肢を嚙みちぎるとか、死なない程度に氷漬けにするとか・・・大妖精の皆を助ければ命さえあればちゃんと治療出来るから!」


 ・・・たぶん。


シロはそれでも首を横に振る。


「ああ! もういい加減に・・・」


ブーーーーッ! ブーーーーッ!ブーーーッ!!


突然部屋に・・・というか、たぶん泡沫島中に響き渡る警報音。


「ちょっと! 何か警報音が聞こえる!?」


瓶の中からトキの慌てた声が聞こえてくる。


 ちょっとちょっとってうるさいなぁもう。叫びたいのはこっちだよ! シロは全然言うことを聞いてくれないし、挙句の果てには何か警報音が鳴るし! なにこれ私達のことがバレたの!? それともディルの方!? 分かんないけど急がないとヤバそう!


「シロ! そいつは偽物だよ! においまで完全に同じかもしれないけど・・・ほら!!」


私はミカモーレの周囲の光を弄って、姿を別の人間に見えるようにする。幻惑的なホログラムだ。モデルは昔お姉ちゃんにセクハラ発言をした山下記者。あいつは死ぬまで恨むと思ったけど、一度死んだ今でも恨んでる。


「シロ! そのゲス野郎を捕えて! 楽に死なすな!」

「クゥン・・・?」


シロは私が姿を変えさせたミカモーレを見上げ、ギラリと睨みつけながら口を開く。


 よしっ、殺っちゃえ! ・・・間違えた。やっちゃえ!


「クァアアア!!」


 なんだその鳴き声!?


・・・って感じの鳴き声を発しながら、シロは山下ミカモーレにブレスを吐いた。それと同時に私はミカモーレの山下ホログラムを解除する。


「クゥン!?」


軽く氷漬けになったミカモーレを見て驚愕の表情を浮かべるシロ。そして私を睨んでくる。


「何? その顔は。シロがうじうじしてるから手助けしてあげたんじゃん。あのままグダグダしてたって何にも解決しないし、お姉ちゃんだって助けられなくなるかもしれなかったんだよ?」

「クゥンクゥン!!」

「いたっ、ちょい! 嘴で突っつかないで! やめてよ!」


しつこく突っついてくるシロを割と思いっ切り叩いて退ける。


「じゃあ、シロ。私とトキはこのままルイヴを救出して直ぐにお姉ちゃんを助けに行くから、シロはその凍った足手まといを連れて先に脱出して海賊船まで行ってて」

「クゥーン?」


未だ床に転がってる瓶を突きながら鳴くシロ。


「ああ、そうだね。先にこの瓶を何とかしないとだね。分かってるよ。それについては考えがあるから」

「クゥン?」

「やっとトキをここから解放してくれる?」

「解放してあげる」


私は瓶を「よっこいせ」と立たせて、シロに声を掛ける。


「いいよ。シロ。思いっ切りやっちゃって」

「クゥン?」


首を傾げるシロ。


「私ね、思ったんだよ。シロは瓶を破壊するにはトキごとやっちゃうって言ってた・・・いや、訴えてきたけど、それでいいんだよ。だってトキは温度を司る妖精なんでしょ? シロの上位互換じゃん」

「正確には運動エネルギーだけど・・・氷雪を操るスノウドラゴンとはちょっと違う」

「細かいことはいいから。とにかく、シロのブレスをいい感じに相殺するくらい出来るでしょ?」

「・・・たぶん。でも、あんまり自信ない」

「よしっ、そういうことだから、思いっ切りやっちゃって! シロ!」

「クゥン!」

「え、ちょっと・・・」


シロは少し後ろに飛んで、大きく口を開けてブレスを吐く。


「トキ、瓶の中から外見えないんだけ―――」


瓶は白いブレスに包まれる。そして次に姿を現した時には、瓶は見事に凍ってた。


「よしっ、割ってみよう」


私の得意の回し蹴りで瓶を割る。


パリン!


と、割れた瓶の中から腕を組んで膨れっ面のトキが出てきた。私をジト目で見てくる。


「ひどい・・・」

「無事だったんだからいいでしょ。さ、早くお姉ちゃんのもとに馳せ参じるよ」

「何とか辛うじて無事だった・・・あと、ソニアちゃんの前に・・・」

「ルイヴでしょ。分かってるって」


トキにほっぺたをむにむにと触られる。


「それにしても、顔はソニアちゃんそっくり」

「はいはい。似たようなセリフはもう百万回は聞いたよ」


トキを引き剝がして、私はふわりと浮かび上がる。


「じゃ、シロ。今度こそ、その足手まといを連れて逃げてね」

「クゥン!クゥン!」


シロは「健闘を祈る」みたいな顔をして私を見たあと、少し体を大きくしてミカモーレを持って飛び去っていく。


 あ、少し離れたら私の作った光学迷彩ホログラムが消えて姿が見えるようになっちゃうんだけど・・・まぁ、何とかなるか。足手まといを連れ回すよりはマシだよね。


「じゃ! トキ! 何だか今の状況に違和感を覚えるし、さっさとお姉ちゃんを助けに行くよ!」

「うん。ソニアちゃん早く助けたい。だから、まずは・・・」

「ルイヴね」


ちっちゃな妖精2匹は、手をつないで更に地下へと向かう。

読んでくださりありがとうございます。

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