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317.【ディル】妖精との上手な接し方

「よしっ。トキは氷を溶かしていいぞ」

「トキ()()()

「トキちゃんは氷を溶かしてもいいぞ」


大きなセンスイカン?っていう船の上で、凍った海を前に俺はトキちゃんにそう指示する。そんな俺に、襟を立てた偉そうな野郎が文句を言ってくる。


「おい。この船のトップは私だ。勝手に命令するな」

「そのトップの命を握ってるのは俺だ」

「何言ってるの。それは私だよ」


偉そうな野郎(船長)の喉元にメスというちっちゃなナイフを抱えて突き付けてるローラがそう言いながら俺を睨んでくる。


「とにかく! トキちゃんは氷を・・・」

「クゥンクゥン!」

「うおっ!? シロ!? 顔を舐めるな!」


ちっちゃいサイズになったスノウドラゴンのシロが顔を舐めまわしてくる。


 何なんだこいつら・・・今の状況分かってるのか? この研究者達に紛れて泡沫島に潜入して、攫われたソニアとミカちゃんを助けに行くんだぞ!? 何でこう・・・ソニア然りミドリさん然り、体のちっちゃいやつはこうもマイペースなんだ。


「トキちゃん! もうこいつら放って・・・って、もう氷無くなってる!」

「トキに命令していいのは大妖精とたった一人のある人間だけ。ディルの命令はきかない」


 面倒くせぇ・・・ソニアが居ないと協調性ゼロだなこいつら。


氷が完全に溶けたところで、船はゆっくりと動き出す。


「万が一にも泡沫島の連中に見られたらマズいからな。俺達は船内に移動するぞ」


俺と妖精に2匹とドラゴン1匹は船長(人質)を連れて船内に引っ込む。どこに連中の目があるか分からない。


 念の為こいつらが持ってる魔石なんかも全部没収しておいた方がいいかもな。


「そういえば、サディは置いて来ちゃったけど連れてこなくて良かったの? あれでも一流冒険者なんでしょ? いくら目立たない方がいいとはいえ、もう少し戦力はあってもよかったんじゃない?」


メスをグルグルと振り回しながら聞いてくるローラに、俺は船長を縄でグルグル巻きにしながら答える。


「確かにお母さんは一流冒険者だけど、あくまで弓でのサポートがメインだからな。建物の中とかだとあまり役に立たないし、隠密行動もそこまで得意じゃないから・・・って本人が言ってたんだよ。それに、泡沫島の連中は呼吸をするように人質をとるような奴ららしいからな。連中の餌になり兼ねない」

「私達もこの偉そうな人間を人質にとってるけどね」

「目には目を歯には歯を・・・って言うだろ?」

「ガキの癖によくそんな言葉を知ってるね」

「ガキじゃないからな」


睨み合う俺達の間に、シロが「クゥンクゥン」と割って入ってくる。


「なに? 喧嘩するなとでも言いたいの?」

「クゥン!」

「うるさい!黙れ!」


ローラはそう言いながらメスの持ち手の方でコツンとシロの頭を叩いた。船長の縄を縛り終えた俺は、椅子の上で寛いでるトキちゃんをテーブルの上に置いて、その椅子の上に座る。


「お前・・・よくこんなちっちゃな生き物に手を挙げられるな・・・」

「ちっちゃいって言っても私よりは大きいから」

「いや、まぁ、そうなんだけど・・・ソニアの妹とは思えない。ソニアは絶対にそんなことしないぞ」


俺が若干引き気味にそう言うと、ローラは何故かドヤ顔になった。


「ふっふー! アンタはまだまだお姉ちゃんのことを分かってないみたいだね」


 こんなことでドヤ顔かましやがって・・・腹立つ。


「アンタは妖精になってからのお姉ちゃんしか知らないみたいだけど、学生時代のお姉ちゃんは今とは正反対でクールだったんだから!」


 ソニアがクール? 全然想像できない・・・。


「そこらの男共よりはよっぽどかっこよかったね」

「・・・前にソニアが男装してたことがあったけど、かっこよくはなかったぞ。可愛くはあったけど・・・」

「お姉ちゃんの男装!? は!? なにそれ聞いてないんだけど! 写真とか撮ってないわけ!?」

「シャシン? 何だそれ?」

「ハァ~~~~・・・」


 何か特大の溜息を吐かれた・・・。


「この世界の文明レベル低すぎじゃない?カメラもないなんて。ファンタジー世界なら魔法なり魔石なりで似たような道具くらい作れるでしょ。・・・いや、お姉ちゃんがこっちに来るまでは電気や光って概念が無かったんだし、しょうがないことなのかな?」


 今度は1人でブツブツと喋り始めた。マイペースなところはソニアそっくりだな。


「あ、ちなみに、お姉ちゃんのファーストキスは私だから」

「ぶっ――――!!」


 は!? と、突然なんだよ!!


「残念だったね。そのうちお姉ちゃんの初めては全部私が貰うから」

「な、何が初めてだ! ソニアは300億年くらいは生きてるんだぞ! 今更初めてなんて・・・初めてなんて・・・」

「普通に落ち込んでるじゃん」


 そりゃあ・・・な。


「なぁ。ソニアって過去に付き合ったりしてた男っているのか?」

「・・・」

「おい」

「・・・教えてほしい?」

「・・・いや、いい」


 こういうことはソニア本人に聞くべきだよな。汚いぞ、俺。


「まぁ、どっちにしろ。私が認めないからね。他の男も、アンタも。お姉ちゃんのパートナーに相応しいかどうかは私が見極める」

「いや、そこは本人の意思を尊重しろよ。・・・ちなみに、どうしたら認めてくれるんだよ」

「最低条件は女であることだね」

「・・・」


 どうしろってんだよ・・・。もう、知らん。こいつに認められるとか考えるのが馬鹿らしいわ。


「あ、そろそろ泡沫島が見えてきた」


いつの間にか窓に貼り付いてたトキちゃんが小さくそう呟いた。


「もうか・・・思ったよりも早いな」


トキちゃんの横から俺も窓を覗き込む。そこにはまだ小さいながらも確かに島が見えてた。それもかなりの高さがある防壁に囲まれた島だ。その防壁のせいで島内の様子はまったく分からない。


「なにあの高すぎる防壁・・・あれじゃ日光が遮断されて洗濯物が干せないじゃん」

「そこじゃないだろ。問題はどうやって入るのか・・・いや、どうやって脱出するかだな。特に飛べない俺やお父さん、あとミカちゃん」

「クゥン!」

「あぁ、そっか。シロちゃんに乗せて貰えばいいか」


 まぁ、まずはバレずに潜入することが第一だな。


「それで船長さん。どうやってこの船は泡沫島に入るんだ」

「船で入るんだ」

「船でどうやって入るか聞いてるんだ」

「・・・・・・水中から入るんだ。その為の潜水艦だ」


 ああ、そういえば水中に潜れる船だって言ってたな。


「じゃあ、地下に入口があるんだな」

「ああ。だがそこで検問がある。どう頑張ってもお前らは見つかるぞ」


滅茶苦茶腹立たしい顔で言われた。なので俺も滅茶苦茶腹立たしい顔で返す。


「ふん。そこは問題ないんだよ。ローラ、頼む」

「嫌だよ。命令しないで」

「お願いしてるんだよ」

「お願いしないで」


 ・・・ああ!面倒くせぇ!!


それからローラと言い合うこと数十分後、俺達が乗る潜水艦は水中へと沈んでいった。小さな窓からは色んな魚が自由に泳いでる姿が見える。


「おぉ・・・すげー! すげー・・・けど、これ本当に大丈夫なのか? 沈没しないか?」

「大丈夫だよ。沈没したら私がちゃんと回収してあげるから。遺体を」

「遺体になる前に回収してくれ。・・・というか、お前のそのちっちゃい体じゃ無理だろ。自力で泳ぐわ」


俺とローラがまだ言い合っていると、窓に貼り付いてたトキちゃんが「クスッ」と笑った。


「あなた達って仲が良いんだね」

「どこが!」

「やめてよ気持ち悪い!」

「だって、さっきからずっと2人で喋ってる。私もノブとはいっぱい喋る」


 楽しく喋ってればそうかもな。・・・いや、でも実際ソニアが攫われた今、こいつが居なきゃ俺はもっと心が荒んでたかもな。


俺は椅子から立ち上がり、部屋の隅にしゃがんでパンパンと手を叩きながら号令をかける。


「チビ達! 集まれ~」


俺の言葉に、シロとトキちゃんが飛んで俺の足元まで集まってくれる。そして予想通りローラはプイッとわざとらしくそっぽを向いてこない。


「ローラ。お前が男嫌いなのは何か理由があるんだと思うけど、本気で姉を救いたいなら我慢してくれないか?」

「・・・うん」


ローラは少しバツが悪そうに目を逸らしながら俺の足元まで飛んでくる。


 物分かりが悪いわけじゃない。姉のソニアと同じでしっかりと言ってやれば理解してくれるんだな。


床にぺちゃんと座る皆に、俺は船長に聞こえないくらいの小声で話始める。


「いいか。作戦会議を始めるぞ」

「うん。作戦名は?」

「作戦名はどうでもいい」


トキちゃんに「話の腰を折らないでね」と優しく注意して、作戦の概要を教える。


「まず、トキちゃんには申し訳ないけどまた瓶の中に捕まってもらう」

「なんで?」

「この船に乗ってる研究者達はトキちゃんを追ってたんだ。だからトキちゃんを捕まえた状態でないとスムーズに泡沫島に入れない」

「うん。でも、また閉じ込められちゃったら意味ない」

「ああ。だから、トキちゃんには姿を消したローラとシロを付ける。姿を消せるローラ、戦闘面で頼りになるドラゴンのシロ、この2人が入れば現在囚われ中のミカさんを連れて脱出することは可能だと思ってる」


トキちゃんは数秒考えたあと「なるほど」と頷く。


「つまり、トキ達はミカモーレ救出班。わざと捕まってミカモーレを助ける」

「そういうことだ。ちゃんと理解できて偉いぞ」


トキちゃんの頭を撫でてあげると、「んふふ」と恥ずかしそうに照れる。


 うんうん。だんだんソニア以外の妖精の扱い方が分かって来たぞ。


「ちょっと! どうして私がそのミカなんちゃらの救出班になってるの! 私は・・・」

「まぁ、待てって。話を最後まで聞けって」


吠えるローラを何とか落ち着かせて、話を再開する。


「ミカさんを救出したあと、お前達にはそのまま俺のお父さんを救出して欲しい」

「ちょっと!!」

「だから、話を最後まで聞けって」


また吠えだしたローラを宥めて、話を再開する。


「そして俺はお前らが囮になってる間に、別行動して単独でソニア達大妖精を救出しに行く。そして、ソニアを救うためにはそれと同時に他の捕まってる人達を救出する必要がある。何故かわかるか? ローラ」

「人質を取られないようにするためでしょ。・・・分かってるよ」


 うん。ローラの扱い方もだいたい分かってきたな。なんだかんだソニアが一番扱い難いかもしれない・・・いや、ソニアは扱うとかそういう関係じゃないもんな。


「それよりも、アンタの方は単独で大丈夫なの?さすがに距離が離れるとアンタの姿は消せないよ。お姉ちゃんなら出来るかもしれないけど・・・」


 もしかしなくても心配してくれてるのか?


「俺なら大丈夫だ。隠密は得意だし、いざという時の為に特訓してる技術があるからな。ただちょっと体の負担が大きいから無暗には使えないけど」


・・・。


そして作戦の詳細を詰め終わった頃、船は泡沫島の直下まで来ていた。

読んでくださりありがとうございます。妖精について学んでいくディルでした。

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