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316.制限時間

「ちょ、ちょいちょい! スズメ!? 通れなくなっちゃったよ!?」


ドンドン!と・・・いや、トントン! と、ただの壁を叩くけど、向こう側にいるハズのスズメからは何も反応が無い。


「えーっと~・・・ソニア? 何やってんだ?」


後ろからチョンチョンと肩を叩かれた。振り返ると、目玉を小さく丸くしたケイトがいた。その後ろでは同じような顔のビオラ達がわたしをじーっと見ている。全員が人間サイズだ。


「ま、まさかソニアも捕まっちゃったの!? 大変だよぉ」


「およよ~」と泣きながらわたしに近づいてくるアケビを、ビオラが更に後ろから物凄い勢いでタックルして吹き飛ばす。


「ぐへぇ!」

「それよりもソニア! その羽はどうしてしまったのよ! 誰に千切られたのよ! 言ってごらんなさい! 私がそいつの羽をゆ~っくりといたぶる様に千切って燃やしてやるわ!」


ビオラに物凄い剣幕で肩を掴まれてぐわんぐわん揺すられる。


 千切ったのはウィックだけど・・・そういえば、どうしてウィックはあんなことをしたんだろう。悪い人間では無いハズなんだけどな・・・。


「ソニア! 聞いているの?・・・こんな人間が作った道具に乗らないと飛べないなんて・・・あぁ・・・可哀想なソニア・・・ほら! ソニア、早く羽を千切った犯人を教えてちょうだい! 私がそいつの羽を・・・」

「ストップ!ストップ! 落ち着いて! そいつに羽は無いから!」

「羽は無い・・・やっぱり相手は人間なのね。誰なの!?」


 しまったー!


「誰なの!? 教えてちょうだい!」

「そうだぞ! アタイ達にも教えてくれ! ソニアの仇を皆で討るぜ!」

「そうですよ。妖精にとって羽はとても大事なもの。それを千切るなんて万死に値します!」

「ソニア綺麗な羽、僕好き、千切ったやつ、八つ裂き・・・」

「ソニア、可哀想・・・許せないよ・・・」

「むにゃむにゃ・・・このクルミパン生焼けだよ~」


 皆の圧が凄い・・・。


わたしはそーっと目を逸らす。その先にはぐったりしながらも呆れたような顔でわたしを見るディルのお父さんがいた。


 わたしのだいたい半身を消し飛ばしたことのあるディルのお父さんがこうして無事?なんだから見逃してやってよ。きっとウィックにも事情があったんだよ。じゃないと、記憶喪失なのにあんなことするハズないもん。


「というか! どうしてディルのお父さんはこんなぐったりしてるの?」

「人間は何か食べないと死んじゃうらしいからな」

「この人間は数日間、私の出す水しか口にしてませんからね。そろそろ死にそうなんでしょう」

「へぇ~」


ディルのお父さんが「もっと興味持てよ!」と言わんばかりの迫真の顔で見てくるけど、興味無い物にに興味を持つことはわたしには出来ない。


「誰よ! 私のクルミパンを山葵パンにしたのは!!」

「うわっ!?」

「 ・・・ハッ!? ここは・・・?」


 びっくりした~・・・ジニアが飛び起きただけかぁ。


そのジニアに驚いてガマくんも飛び起きた。寝惚けながらガマくんを鷲掴みにしたジニアがわたしを見て目を見開いて表情を明るくする。


「あれぇ? ソニアちゃんが居る・・・ってことは! 私達外に出られたのね!」

「いや、逆逆!わたしが外から来たんだよ」

「え?」


わたしはメスに乗って上から皆を見下ろしながら、わたしがここに居る経緯を説明した。


「・・・えっと、つまり、ソニアちゃんは私達を助けようとここまで来たけど、それどころか逆に出られなくなっちゃったってこと?」

「そういうことだね!」

「何で誇らしげな顔をしてるんだい・・・」


ジニアの頭の上に乗ったガマくんが呆れ顔で見てくる。そんなつもりは無かったけど、わたしは誇らしげな顔をしてたらしい。


「どうもありがとう。ソニア。私の為にそんな危険なことをしてまで助けに来てくれて・・・私はそれだけで嬉しいわよ」


ビオラがギュッとわたしを胸に抱き寄せて頭を撫でてくれる。メスが刺さっちゃうよ。


「そういえば、心なしかジニアとガマくんの顔色が悪い気がするけど・・・どうしたの?」


2人は一見元気そうに見えるけど、いつもよりも感情の起伏が少ないと言うか、何だか違和感がある。


「あー・・・ほら、私達緑の妖精って他の妖精と違って体はしっかりと細胞で出来てるでしょ? だから、そこの人間じゃないけど私達も栄養不足って感じなの? 今は何とかリナムの水で凌いでるけど・・・」


 あ、そっか。緑と言えば植物、植物と言えば水と光合成。


「つまり、日光が足りないんだね?」

「そういうことよ・・・」

「それくらいなら、わたしが出してあげるよ!」

「え、ホント!?」


 放射線を出したりすることに比べたら容易いよ!


わたしが部屋の天井に太陽と同じ光を出す光の玉を出すと、ジニアとガマくんはまるでミーアキャットのように気持ちよさそうに目を細めて立ち上がって日向ぼっこを始めた。


 わぁ・・・なんか可愛い。


「良かったです。私の水だけでは足りなかったみたいなので・・・さすがはソニアですね」

「ふっふー! えっへん!!」

「こんなことでドヤ顔するソニア。可愛いわ。・・・乾ききっていた心がどんどんと潤っていくのが分かるわね」


 何か恥ずかしいんですけど!


「なぁ。それはそうと、アタイ達これからどうすんだ? ソニアの話だとルイヴ(こいつ)の息子と、ソニアの眷属の妖精が助けに来てるらしいけど、アタイ達は待ってるだけか?」

「何かをしたい気持ちはあるけれど・・・この中からは何も出来そうにないのよね」

「つってもよ。それじゃあ、もし助けに来てる奴らがしくじったらアタイ達は永遠にこのまま閉じ込められたままになっちまうんだぜ?」


 永遠にこのまま・・・さすがにそれは嫌だ。暇すぎる。・・・暇すぎる!


「ほら! ソニアもこんな苦い顔してるんだしよ。ここはアタイらが本気を出してちゃちゃっとこんな所から出ちまおうぜ!」


 いちいちわたしの表情を言葉にしないで欲しいんだけど・・・恥ずかしい。


「待って、ケイト。僕達が本気をだせば、惑星ごと消える」


エリカのその言葉に、わたし達は「そうだよね~」と頷くけど、ルイヴだけはギョッと目を見開く。


「でも、このまま閉じ込められたままの方が嫌だろ!? だったらこの惑星ごと破壊してでも出ちまおうぜ!」

「だ、ダメだよ! ここは皆で作った思い出の惑星なんだよ!? それをそんな簡単に壊すなんて・・・私は嫌だよ!」

「アケビの気持ちも分かるさ。でも、思い出はまた作ればいいじゃんかよ! 今度はもっと凄いデッカイ惑星を皆で作ればいい! な! ソニア!」


 な! って言われても・・・。


「ダメだよケイト。惑星はともかく、そんなことしたらディルは勿論、ローラやナナちゃんも無事じゃ済まないよ」

「妖精を巻き込まないくらいの加減は頑張るぞ! それに、人間1人くらいならビオラが上手いこと保護してくれるだろ! な!」

「まぁ、出来なくはないけれど・・・」


 気は進まないって感じだね。わたしとは違う理由で。


「・・・ていうか! ディルとローラはきっと・・・ううん! 絶対に助けに来てくれるもん!!」

「お前さん・・・俺の息子に恋してるんだな」

「うるさい! 黙れ!」


バチン!


ルイヴを黙らせて、わたしは皆を見る。


「基本的にソニアの言うことは信用したいんですけど、今回ばかりは難しいです。彼のことは知っていますが、大妖精(わたし達)を全員閉じ込めるような人間が相手ですよ? たかが人間と妖精一匹がどうにかできるとは思えません」


リナムの言葉に、他の皆が「うんうん」と同意する。


 うむぅ・・・確かにそう言われるとそうかもしれない。でも、ディル達は絶対に来るもん。わたしのい、愛し子と可愛い妹だもん!


わたしとケイトが一歩も引かない姿勢を見せながら睨み合っていると、エリカが「どうどう」と間に割って入ってきた。


「折衷案。制限時間を設けて、その時間内に助けにこなかったら、ケイトの言ったことを実行する。どう?」


わたしとケイトは数秒間見合って、コクリと頷く。


「それを折衷案と言うかは分かんないけど、分かったよ。んで? 制限時間はどうやって?」

「あと10秒だ!」

「短いわー!」


「うりゃーっ」とメスから飛び降りてケイトの顔面にダイブする。「うるせー!」と言いながらも、わたしが落ちないようにしっかりと手で優しくキャッチしてくれる。


「じゃあ、どれくらい待つんだよ!」

「え? えっと・・・5」

「5? 5分くらいか?」

「50年くらい」

「みゅわ~~! ほっぺをむにむにしにゃいへ~!」


ケイトにほっぺを玩具にされる。心なしかケイトの表情が怒りから別のものに変わっている気がする。


「ソニアを独り占めはよくないわ! 私のものよ! 返しなさい!」

「ぎゅわ!?」


今度はビオラに掴まれてほっぺたをむにむにされる。わたしは誰のものでもない。


 早く羽が回復しないかな。


「制限を設けるのなら、そこの人間が餓死するまでっていうのはどうかしら?」


ビオラはわたしを膝の上に置いてから、ぐったりと横たわっているルイヴを指差す。


 あとどれくらい持つのか分かんないけど、ディルのお父さんならそれなりにタフなハズ・・・。


「分かった。じゃあ、それで。いいよね? ケイト」

「ああ、いいぜ」


とりあえず、方針は決まった。ただ、わたし達の会話を聞いてたルイヴがより一層顔色が悪くなったけど。


「マジかよ・・・俺が死ねば、人類が滅ぶのか?」

「そうだよ。だから、頑張って長生きしてね!」

「言われて嬉しいハズの言葉が、全然嬉しくねぇ・・・」


 失礼だね。心から応援してるのに。


「あ、そうだ。ソニアちゃん。こっちにおいで。羽を治してあげる」


ジニアがポンポンと自分の膝を叩きながらわたしを見る。


 それを一番最初にやって欲しかったよ・・・。


わたしはぴょんっとビオラの膝から飛び降りて、ポテポテと床を走って、よじよじとジニアの膝の上によじ登る。


「ほら。ビオラも力を貸してちょうだい」


ビオラとジニアがわたしの背中に指を重ねて・・・。


 おお!? 背中がムズムズしてきたっ!


「わたしの羽。ふっかーつ!! いえぇ~い!」


ジニアとビオラの指とハイタッチをかます。2人ともなんとも和やかな雰囲気だ。閉じ込められてるとは思えない雰囲気だね。


「ソニアが来てから雰囲気が凄く和やかになったよ。さすがソニアだよ」


アケビに「偉い偉い」と頭を撫でられる。


 えへへ~・・・じゃない! わたしのお姉さんとしての威厳が! こうなったらわたしも人間サイズに・・・いや、ダメ。ローラから貰ったオニュ―のワンピースが破けちゃう!


「み、みんな! ちっちゃいサイズになって!」

「もうなってるよ」

「いや、ガマくんはいいんだよ。なんか弟っていうか、孫みたいな存在だし」

「僕は君のこと妹のように思ってるけどね」

「・・・」

「いや、ごめんよ。そんなに睨まないでくれよ」


とにかく、わたしは【必殺!上目遣いでお願いする!】を実行して、皆を同じちっちゃいサイズにした。


「あぁ・・・頼む息子よ。お前に全人類の命が掛かってる」


ルイヴはぐったりしながらも、力強い眼でそう呟いた。

読んでくださりありがとうございます。

ルイヴ「こいつら精神年齢いくつだよ・・・」

ビオラ「ソニア以外実年齢そのままよ」


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