315.隠し部屋?
「うぇ・・・くさい」
ロイドだったものを前に、鼻をつまんでしかめっ面をして見せるけど、反応してくれる人はこの部屋には誰もいない。
今この部屋は放射線が凄いことになってるからね。スズメがこの部屋に入ってこようものならロイドと同じように体がぐしゃぐしゃに破壊されちゃう。・・・とにかく、この放射線をどうにかしないと扉すら開けられないよ。
「うーん・・・消せるかなぁ。自分で出したんだし、消せるよね」
「えいっ、消えろ!」と念じてみる。部屋の中はシーンと静まり返ってるけど、確かに放射線が消えたのが分かった。
よしっ、これで扉を開けれるね。
わたしは鉄の扉を電磁力でギィ~っと開ける。その瞬間・・・
「ソニア様! ご無事ですか!?」
「ぎゅわぁ~~~! 潰れる~~! 無事じゃない! 無事じゃないよ!」
スズメにめっちゃ頬擦りされた。
・・・あれ?
「スズメ・・・何か肌荒れてない?」
「ハッ! 申し訳ありませんわ! わたくし如きのカサカサな肌でソニア様のモチモチスベスベな肌を傷付けてしまいましたわ! わたくし・・・指を切ってお詫びを・・・!!」
「いや! そこまでしなくていいっていうか、別に怒ってるわけじゃないから! ただ、肌が荒れてるなぁって思っただけだよ!」
スズメのせいで落っことしちゃったメスに乗り直して、わたしはスズメの肌を観察する。
「うん、やっぱり乾燥してるね。ちゃんとケアしてた?」
「そういえば・・・泡沫島に来てからはそんな余裕が無くてすっかり忘れていましたわ。ソニア様は何か肌のケアをしているんですの?」
「いや、してないよ」
人間だった頃は人並みには気を使ってたけど、妖精になってからは何もしてないや。・・・でも、そっか。スズメはわたし達大妖精の為に泡沫島の研究者に成りすまして緊張の日々を送ってたんだもんね。
わたしはスズメの頭上まで浮かんで、ちゃっちゃな手でスズメの大きな頭をヨシヨシと撫でてあげる。
「え・・・ソ、ソニア様?」
「よく頑張ったね。ありがとっ」
「ソニア様・・・うっ・・・ぐすっ・・・あ、ありがとうございます・・・」
泣いちゃった・・・それだけ頑張ってたってことだね。
「ソニア様の愛らしいちっちゃな手が・・・わ、わたくしの頭に・・・っ!!」
いや、違ったかも。
わたしはそーっと手を放す。スズメが残念そうな顔でわたしを見てくるけど、知らない。わたしの手はそんなに安くないよ。
「ところで、そちらに落ちてるローブってもしかして・・・」
スズメは、もはや人間が入ってるとは思えない形をしている漆黒のローブを指差す。
「ロイドだね。加減出来なくて殺しちゃった。放射線で」
「ホウシャ・・・なんですの?」
「簡単に言えば、細胞を破壊する人体にめっちゃ有害な電磁波だね。本当はここまでのことにはならないんだけど、今回は加減が出来なくて致死量の即死レベルの放射線を出したから、ロイドは一瞬でこんな姿になっちゃったんだよ」
「しょうがないよね!」とテヘっとウィンクして誤魔化すわたしに、スズメは「ですわよね!」と同意してくれる。何かが不在な気がする。
「大事な妹様を人質に取られそうになったんですものね? 加減出来なくてもしょうがないですわ・・・」
「だよね☆」
「ですが、他の大妖精様を探す手掛かりが無くなってしまいましたわね。わたくしは総帥に警戒されていて、大妖精様方がいらっしゃる亜空間部屋に関してはあまり知らされていませんでしたし・・・中を監視する手段はあったようですが・・・それ以外は何も・・・」
「まぁ、それに関しては天才で知能的で頭脳明晰なわたしに考えがあるんだよ!」
「どや!」と胸を張るわたしに、スズメは「さすがソニア様!」とパチパチと拍手してくれる。
・・・ツッコミが不在だよ。
「えー・・・コホン! えっとね! わたしは疑問に思ってたんだよ!」
「ほほう!」
凄い食いつきだね・・・何だか話してて気持ちいいよ。
「スズメは『ロイドはしばらく前から書斎に籠っていた』って言ってたよね?」
「そうですわね。」
「でも、わたしが書斎に行った時にはロイドの姿は見当たらなかったんだよ!」
「・・・と、言いますと?」
「つ・ま・り!! この書斎にはもう一つ部屋が・・・隠し部屋みたいなのがあって、ロイドはそこのいたんだよ!」
まぁ、たまたまトイレに行ってたって可能性もあるんだけど・・・。
「本棚だらけの書斎には隠し部屋が付き物だからね!」
「なるほど! ソニア様がおっしゃるならばそうに違いないですわ! では、その隠し部屋を探せばいいんですわね!?」
「そゆこと!」
というわけで、わたしとスズメの2人で協力して、隠し扉とかが無いか隅々まで調べる。わたしが天井付近、スズメが下付近というように、手分けして雑談をしながら。
「そういえば、ソニア様には妹様がいたのですわね。どのような妖精様ですの? よろしければ教えてくださいませ」
「とっても可愛いくてしっかり者な妹妖精だよ~。名前は朱里・・・じゃなくて、オーロラの妖精のローラって言うんだけど、いっつもわたしのことを気に掛けてくれるし、頭もいいし、料理以外の家事は何でも出来るし、わたしなんかよりもよっぽどオシャレだし、褒めてあげるとそれはもう天使かよっってくらいのかっわいい満面の笑顔を見せてくれるし・・・ちょっと性格がキツめなとこがあって、過去に色々とあって男嫌いで、異性にはかなり当たりがきついけど、根は凄く優しくていい子なの!」
隠し部屋そっちのけで、スズメの顔にずずいっと接近して、精一杯に妹のローラの可愛さをアピールする。
あ、ちょっとグイグイ行き過ぎたかな?
「ほほう! ほほう! もっと詳しく聞かせてくださいませ!」
スズメは目をキラキラさせながら、わたしのちっちゃな手を両手の指でギュッと握ってくる。
「もちろん! でも、部屋を調べながらね!」
・・・。
それから、スズメにローラの話をしながら部屋を調べ続けること30分くらい。
「全部が終わったら、ちゃんとスズメに妹を紹介するね! なんとなく2人は気が合いそうな気がするんだよね」
「はい! 楽しみにしてますわ!」
「うん! ・・・・あれ?」
本棚の上の方を調べていたら、変な突起を発見した。
これは! やっと見つけたんじゃない!? 隠し部屋へつながる隠し扉のスイッチってやつを!
「えいっ」
カチッ
メスから飛び降りて、両足でスイッチを押し込む。すると、案の定というか、予想通り本棚がゴゴゴゴ・・・っと横にスライドし始めた。
「な、なんですの?」
スズメが驚いた顔で慌てて駆け寄って、振動で本棚の上から転げ落ちたわたしをキャッチしてくれた。
「こ、これは・・・!!」
「おお! すごい!」
本棚があった場所に現れたのは・・・。
「トイレだ!」
「御手洗ですわ!」
本棚がスライドして現れた部屋は、隠し部屋ではなく、隠しトイレだった。ご丁寧に個室の他に小便器まである。
「ほう! これがあの・・・殿方が立ったまま用を足すという噂の小便器ですの!?」
スズメは小便器に興味深々だ。
「スズメ・・・そんなに顔を近付けたら汚いよ」
「そ、そうですわね。・・・にしても、このような物で・・・横から見えてしまいませんか? 殿方は恥ずかしくないのでしょうか?」
「知らないよ。そもそも、わたしも女だし、それ以前に妖精だから排泄行為とは無縁だし」
お酒を飲んだあととかは妖精なのに何故か尿意を催すのは言わないでおこう。妖精のイメージが崩れちゃう。
「それにしても・・・わざわざトイレを隠す必要ってあるんでしょうか? 普通に作ればいと思いますわよね?」
「そうだね~・・・でも、男の子ってこういうの好きそうじゃん?」
「トイレを隠すことがですの?」
「・・・うん」
・・・いや、男の子って本当に意味の分からないことする時あるからさ。小学生の頃、同じクラスの男の子が突然スーパーの駐輪場にむかってダイブして自転車を薙ぎ倒した時は本当に驚いたし、それを見た別の男の子達が「すげー!」って褒め称えてたも謎だった。それからその男の子は暫く英雄みたいな扱いだったっけ・・・。
「ハァ・・・別の隠し部屋が無いか探してみよっか」
「そうですわね・・・」
返事をしながらモジモジし始めるスズメ。
「どうしたの?」
「その・・・大変言い難いのですが、わたくし朝に一度行ったっきりでして・・・」
ああ、トイレのことね。今が何時かは分からないけど、スズメの様子からしてお昼は過ぎて、下手したら夕方くらいかもしれない。
「わたしのことは気にしないでいいよ。ちゃんと耳も塞いであげるから」
スズメは駆け足で個室に入っていった。わたしが思ってる以上に限界が近かったらしい。
さてと、わたしはその間に別の所を調べようかな・・・って言っても、あと調べてないところなんてほぼ無いんだけどね。・・・それこそ、さっき現れたトイレの中くらいだけど。
「きゃぁあ!!」
そのトイレの個室の中からスズメの悲鳴が聞こえた。わたしはメスに乗り直して、個室の前まで飛ぶ。
「どうしたの!? スズメ! 漏らしちゃった!?」
「ちょっとだけ・・・い、いえ! そうではなく! 見てくださいソニア様!」
スズメは勢い良く個室の扉を開けて、その個室の中を指差す。
「なになに~? ・・・って、うわぁ!」
個室の中。便器の後ろ側に、更に地下に続く階段が現れていた。
「なにこれ!?」
「それが・・・便座に座る前に綺麗にしておこうと思い、杖で水を出そうと魔気を流したのですけど・・・それがどのように反応したのか突然後ろの壁が開き、このような階段が・・・」
わたしとスズメは無言でコクリと頷き合う。
先に進もう。
わたしが光の玉を出して、スズメが杖で警戒しながら薄暗い階段の下へと降りていく。
「ソニア様。怖くはありませんか? もしよろしければわたしの服の中に入って頂いても構いませんよ?」
そう言いながら、自分の平たい胸の襟元を開けて見せるスズメ。居心地が悪そうだ。
「スズメこそ。トイレはもういいの? そのまま進んで来ちゃったけど・・・」
「・・・」
わたしとスズメは無言で階段を降りていく。
「あれ? ・・・行き止まりだね?」
階段の終着点はただの行き止まりだった。
「いえ、ソニア様。ここを見てくださいませ」
スズメはコツンと杖で壁を叩く。わたしはそこに光の玉を移動させて、よくよく見てみる。
「これは・・・魔石? ディルのお父さんや泡沫島の研究者が持ってた漆黒の魔石だね」
そのスズメの拳大ほどの魔石が壁に埋め込まれていた。
「これは空間を操作する魔石で、使用者の属性は関係無く魔気を流せば誰でも発動させることが出来るのです。恐らくですが、これを発動させれば他の大妖精様方がいらっしゃる亜空間部屋という場所に繋がると思いますわ」
「おお! やっと!!」
スズメは「ではさっそく・・・」と魔石に手を触れ、魔気を流し始める。すると、行き止まりだった壁が徐々に変化していき、白一色の小部屋が現れた。
「・・・み、みんな!!」
そしてそこには、他の大妖精達に加え、ガマくんとディルのお父さんが居た。緑の大妖精とガマ君はスヤスヤと床で寝ていて、ディルのお父さんは寝ているというよりはぐったりとして気を失っている。
そして、火の大妖精と水の大妖精はそんなディルのお父さんの鼻をつまんだりして遊んでいて、空の大妖精と土の大妖精は何やら黒いモヤモヤが出てる闇の大妖精を必死に取り押さえて宥めていた。
なんだ! 皆無事だし、思ったよりも元気そうじゃん!
「おーい! みんな~! わたしが帰っ・・・ぶへっ!?」
メスに乗ったまま部屋の中に入ろうとしたら、透明な壁にぶつかった。何とかメスからは落下せずに済んだけど、危なかった。
「ちょっとスズメ!? 入れないよ!? マジックミラーみたいになってる!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいませ! もう少し魔気を流す量を増やして・・・これでどうでしょう!?」
何が変わったのか分かんないけど、もう一度、今度はそーっと恐る恐ると透明な壁があった所に触れてみる。
「お?」
触れたところから空間が浪打ち、波紋が広がる。
「今度は大丈夫そう!」
「良かったですわ! では、わたくしはここで魔石に魔気を流していますので、ソニア様は大妖精様方をお連れしてくださいませ!」
「そっか、外からしかここを開けられない仕組みだもんね! 了解!」
ビシッと敬礼して、わたしは部屋の中へと突入!
「あ、あなたは!? ちょっ―――」
ん? 何かスズメの慌てたような声が聞こえたような・・・気のせい?
部屋に入ってから振り返って触れてみると、そこはただの壁になっていた。
「え?」
読んでくださりありがとうございます。
男の子「ガシャーン!!」自転車をなぎ倒す。
光里&朱里 Σ(゜Д゜)!? 男の子達 \(◎o◎)/!