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314.しょうがないよね

「制限時間は30分ってとこかな?」


コイルのようにグルグルと回る自作電池を眺めながら、わたしはビシッと指差し確認をする。


「あとは・・・あの扉をどうやって突破するかだよね~」


破壊することは簡単なんだよ。ただ、バレずに破壊するにはどうしたらいいんだろう。


 っていうか、この部屋って通気口とか無いの?


「・・・無いし」


 まるで初めから妖精を監禁する為に作られた部屋みたいだね・・・いや、そうなんだろうね。


「ちょっと怖いけど、思い切ってビームでちっちゃい穴開けてみよう」


扉の右端にビーーッと、わたしが這ってギリギリ通れるくらいのちっちゃい穴をあける。あけてから思ったけど、警報とか鳴らなくてよかった。


「まずはメスから先に通してっと・・・」


メスをスーッとスライドさせて通して、わたしは芋虫のように床を這って出る。


 ん・・・きっつい。ちょっと太った? まさかね。妖精は太らないもの。


外に出ると、また白い壁に囲まれた窓1つない廊下だった。


 おっと、一応姿が見えないように消しとかなきゃ。


周囲の光の反射を操って、わたしとメスを人間から見えなくする。


 メス・・・取っ手の部分なら跨っても大丈夫そうだね。


「よいしょっと・・・」


 ・・・それにしても、案外あっさり脱走できたなぁ。そんなに厳重に閉じ込められてたわけじゃないし・・・もしかして、あのロイドって人間は本当にわたしのことを馬鹿だと思ってる? ・・・いやいや、そんなわけないよね。わたしって何百億年も生きた大妖精だもん。それはあの人間も知ってるハズだし。


メスに跨ったら、あとはそのメスを電磁力で浮かせて・・・飛ぶ。


「さてっ。相変わらずディルに通信(テレパシー)は送れないけど・・・まぁ、それはこの際諦めて、右と左・・・どっちが正解かな?」


考えたところで正解なんて分からないし、わたしは適当に右に向か・・・。


 いや、やっぱ左にしよっと。


Uターンして左に向かって飛ぶ。


 おっ!? いきなり階段はっけーん! ラッキー!


下りの階段を見つけたので、わたしは迷わずその階段を下る。


「階段の先は行き止まりかぁ・・・あっ、でも何か重厚な扉がある」


階段を降りた先に鉄で出来た重そうな扉が1つ。とても存在感がある。


 ふふふん。わたしに対して鉄なんて舐めてるよ。


電磁力で開けようとする。


ガタンッ


 鍵がかかってるっぽいけど・・・その鍵も鉄なんだもん。簡単に開けれちゃうよ。


扉を開けた先は書斎になっていた。10畳くらいのそこまで広くない空間だけど、壁全体が本だらけだ。


 ライトノベルとか・・・ではないよね? うわぁ、難しそうな本ばっかり。ここの地図っていうか、マップみたいなのどっかにあったりしないかなぁ。


メスに跨ってふわふわと浮かびながら、部屋を見回してみる。


 よく見たら本だけじゃなくて、ちっちゃい模型なんかもあるんだね・・・あっ、これとか飛行機っぽくない!?


わたしが知ってる飛行機とは微妙に形が違うけど、明らかに空を飛ぶ機械に見える、ちっちゃな模型が机の上に置いてあった。その隣には「エネルギー不足=電気で解決?」というメモが置かれている。


 この飛行機の模型、鉄・・・かは分からないけど、金属で出来てる。メスよりもこっちの方が乗り心地よさそうだね。


メスを乗り捨てて机の上をトテトテと走る途中で、気になる文字列が書かれた本を踏んづけた。


「え・・・不老不死の研究!?」


 なにそれ!? すんごい興味ある!!


「よっこいせっと・・・」


体全体を使ってその本を頑張って開く。


「えっと・・・なになに?」


それは本では無く、ロイドが書いた研究日誌のようなものだった。


ロイドは当時総帥だった父に隠れて、不老不死になる為の研究をしていた。

その内容は、簡単に言うと闇の魔石を利用して自分の息子の体に自らの意識を移すというものだったけど、彼は「意識以外にも何か別の物を移さなければならないが、その別の何かがどうしても分からない」と不老不死の研究は諦めて、途中から息子の意識を乗っ取って自由に操ることへの研究にシフトしている。でも、それも「息子の意思が強すぎて上手くいかない」「空間を飛ばしたりでもしない限り遠距離では不可能」と諦めていた。


 なんだ・・・不老不死は結局無理なんだね。・・・もし可能なら、ディルを不老不死に出来たのに。そしたら・・・ずっと・・・一緒に居られるのに。


「はぁ・・・急がなきゃいけないのに無駄な時間をくっちゃったよ」


わたしは飛行機の模型に乗って、飛んで書斎から出る。鍵を閉め直すことを忘れない。


「結局、ここは行き止まりっぽいし、地図とかも見当たらないし、正解は右だったね」


さっきの分岐点まで戻って、反対の右の方へと進んでいく。すると、今度は上りの階段がすぐに現れた。


 下の階もそうだけど、フロアに一個の部屋しかないんだね。


・・・って、思ったけど、全然そんなことなかった。上の階は部屋だらけ、別れ道だらけで、まるで迷路だ。そしてこの階から研究者とすれ違うことが多くなった。姿を消してるお陰でバレてはいないけど、ヒヤヒヤする。


 まずい・・・あれからやっとの思いで何個か階段を上がってきたけど、全然皆が捕まってそうなところも、地図すらも見つからない。窓がひとっつも無いから、ここが地下なんだろうことは何となく分かるけど、それにしても広すぎるよ! このままじゃあタイムリミットの30分があっという間に過ぎちゃう!


一度元の部屋に戻ろうかと考えながら、人通りの少ない廊下を進んでいると、先の方から男女の話し声が聞こえてきた。


「だ、だめよ・・・こんなところで・・・」

「そんなこと言って・・・君は決して逃げないじゃないか・・・」

「で、でも・・・誰かに見られたりでもしたら・・・私達は兄妹なのよ・・・」

「大丈夫さ。ここには僕達2人しかいないんだから・・・」

「・・・んっ」


 ふぇ!? あわわわわ!?・・・と、 とんでもない場面に遭遇しちゃった!! の、濃厚だよ! 濃厚すぎるよ!! ひゃーーー!!


赤くなっているであろう顔を両手で押さえて、慌ててUターンする。そして猛スピードで角を曲がったところで、コツンと飛行機が何かと事故った。


「いたっ」

「きゃああ!!」


飛行機諸共、わたしは床に墜落する。


「な、なんですの? 何かが頭にぶつかったような・・・」

「いててて・・・・」


お尻を擦りながら上を見上げると、スズメがいた。片手にはお馴染みの長い杖を持っている。


「ス、スズメ!?」

「え!? ソニア様の声!? いったいどこに・・・?」


 しまった!


バッと口を塞ぐけど、もう遅い。


「ここからソニア様の声がしましたわ!」

「ぎゅわぁ!!」


姿を消しているのにも関わらず、しゃがんだスズメにピンポイントで鷲掴みにされた。


「この感触・・・やっぱりソニア様ですわ!」


 こわい! こわいよ! 目がギラギラしてるし鼻息も荒い!!


スズメはわたしを持ったまま、何処かへ向かってダッシュする。


 え、なになに!? わたし何処に連れてかれるの!?


女子トイレだった。


「ここなら大丈夫ですわ。ソニア様、姿を見せていただけませんか?」

「うん・・・」


スズメに鷲掴みにされたまま、わたしは姿を現す。


「ね、ねぇ・・・スズメ。スズメは味方なんだよね? このままトイレに流したりしないよね?」

「ソニア様・・・そのような怯えた顔で見ないでくださいませ。わたくしがソニア様の敵になるなんてこと、世界がひっくり返ってもあり得ませんわ」


 よかったぁ・・・。そうだよねぇ、スズメがわたしと敵対するなんて想像出来ないもん。


「それで、ソニア様。どのようにしてここまで? あの金属板への電気の供給が途絶えれば警報が鳴るハズなのですが・・・」

「ああ、それはね・・・」


わたし達はトイレの個室の中で、お互いがここにいる事情を説明し合う。


「なるほど、そういうことですのね。・・・って、タイムリミットがあるのならこんな所でゆっくりしてる場合じゃ・・・」

「ハッ! それもそうだ! とりあえず急いで・・・」


ブーーーーッ! ブーーーーッ!ブーーーッ!!


遅かった・・・。


「警報なっちゃったよ!? もう! わたしってば本当に馬鹿なんだからっ!」

「可愛いですわね。フフフッ」

「笑って和んでる場合か!」


 ど、どどどどうしよう!? このままじゃ皆が酷い目に・・・!!


「大丈夫ですわソニア様。幹部の研究者達は未だ大妖精様の研究について会議中ですし、そもそも大妖精様達がいらっしゃる部屋は今は総帥しか開けられません。そして、その総帥は少し前から書斎に籠っていますわ」

「えっと・・・つまり?」

「急いで書斎へ向かいましょう! あそこは鍵が掛かっていますけど、ソニア様が入れば開けれますわ!」

「うん!」


スズメはわたしを白衣のポケットに優しく丁寧に入れてトイレから出たあと、杖に跨って狭い廊下を猛スピードで飛んでいく。


 あれ? そういえば、書斎ってわたしが最初に行った場所じゃないの? それとは別にもう一個あるのかな?


・・・と思ったら、普通にさっきわたしが行った書斎だった。


「あれ? スズメ。わたしさっきここの中に入ったけど、誰もいなかったよ?」

「え・・・そんなハズはありませんけど・・・とりあえず、中に入りましょう。少し時間が掛かってしまいましたし、間に合えばいいのですが・・・」


 確かに。ここまで来るのに何個も階段を降りたからね。杖ですっ飛んで来たとはいえ、それなりの時間が掛かっちゃった。


「いいですかソニア様。総帥ロイドはわたくし1人では勝てないほどには戦闘に長けていますわ。わたくしが隙を作りますので、その間にソニア様が総帥を気絶なりさせて身動きを取れなくしてくださいませ。その後、ゆっくりと尋問しますわ」

「了解!」


スズメはコンコンと扉をノックする。


「スズメですわ」

「・・・スズメ君か。入れ」


ロイドの声が扉の向こう側から聞こえてきた。同時に、ガチャリと鍵が開く音もする。


 居た! さっきまでは居なかったハズなのに・・・。


ガチャ・・・。


スズメは扉を開けて、ゆっくりと書斎の中に入る。わたしは姿を消してスズメのポケットの中から顔を出す。


「警報が鳴ったな。光の大妖精が逃げ出したのか?」


何故かヨロヨロとふらついてるロイドが、頭を抑えながらジロリとスズメを睨む。


「そのようですわね。どうしますの? 仰っていた通り、他の大妖精達に攻撃を開始しますの?」

「いや、光の大妖精の確保が先だ。羽を千切ってあるからそう遠くまではまだ行っていないとは思うが、急げ」

「言われなくても恐らくリュカ達が既に行動を開始していると思いますわ。ところで、体の調子が悪そうですけど・・・」

「気にするな。侵入者の対応に追われていただけだ」


 侵入者・・・? あっ、いや、ゆっくりと話を聞いてる場合じゃない!


手をロイドに向けて電撃を放とうとした瞬間、ロイドはニヤリと口角を上げて、わたしと目が合った。


 え・・・。


「そこにいるな? 光の大妖精」

「な、何で分かったの!?」


わたしはパッと姿を出して、ロイドを睨む。


「ちょ、ソニア様!? だからって自分で答え合わせしなくても!」


スズメに頭を押されてポケットの中に押し込まれそうになるけど、今更隠れたって遅い。


「身体強化だ。見えなくたってそこに居ると判断出来る情報は取得出来る」


 何言ってんのか分かんないけど、バレたものはしょうがない。正面から拘束して皆の居場所を吐かせるしかない!


「スズメ君。残念だよ。君は優秀な助手になってくれると思って・・・」


バチン!!


ロイドに向けて電撃を放つ。不意打ちが卑怯なんて知らない。・・・けど、ロイドはわたしの電撃を完全に防いでしまった。


 またあの漆黒のローブだ! 前のあのローブを着た研究者に手も足も出なかったっけ・・・。


わたしの電撃を無効化するローブに、ビームすら反射する異常な鏡までも仮面に加工して身に着けたロイドは、「クックック」と笑う。


「光の大妖精。お前への対策は万全だ。そしてスズメ君。君では俺には勝てないことは分かっているハズだ。不意打ちが失敗した以上、諦めて光の大妖精を渡せ。俺もこれ以上無駄な疲労を重ねたくない」


ロイドの言葉に、スズメは悔しそうに目を細める。


「時に光の大妖精。さきほどまで俺は侵入者の相手をしていてな。実はそこに光の大妖精の妹を名乗る妖精がいたんだ」


 ローラ!?


「クックック・・・その驚いた顔、やはりあの妖精は妹か」

「・・・だったら何さ」

「いやなに。この場で光の大妖精を捕らえることは簡単だが、またこうして脱走されるのは面倒だからな。他の大妖精達では重りにはなっても鎖にはならないようだしな。だから、こうする。もし、お前がまた脱走しようものなら、妹の妖精を攻撃しよう。・・・ああ、加減を間違って殺さないようにしないとな」


 ・・・ローラを、なんだって?


今まで冷静であろうとしていたけど、プツンとその線が切れた音がした。


「それって、つまり、ローラを拘束して監禁するってこと?」

「ああ、そうだ。そして、お前が脱走すれば・・・」


ビリビリビリビリィ!!


無意識に、そして怒りのままに、わたしの周囲に電気が走る。


「いっ・・・ソニア様! お、落ち着いてくださいませ!」

「何をしようと電撃もビームとやらも効かないぞ! やはり光の大妖精は馬鹿だな」


 ローラは・・・わたしの大事な可愛い妹で、ただの妖精だ。大妖精と違って、殺したら本当に消えて無くなっちゃう。


バチバチバチィ!!!!


「痛っ! ソニア様!?」

「ごめん、スズメ。今すぐわたしを床に降ろして、この部屋から出て扉を真水で密封して」

「え? どうして・・・」

「いいから! 早く! 手加減出来そうにないの!」

「わ、分かりましたわ!」


スズメは何度もチラチラと心配そうにわたしを見ながらも、わたしを床にそっと置いて書斎から出ていった。書斎の中には、わたしとロイドの2人だけになった。


 この人間は殺す。


「ハァ・・・あくまで抵抗するつもりか。しょうがない。もったいないが四肢を切断してでも――――」


ぐちゃ・・・


ロイドはそんな情けない音と共に、床に崩れ落ちた。ローブと仮面で見えないけど、その形はもはや人間の原型を留めていない。


「臭い・・・」


わたしは床一面に広がる赤黒い血を避けながら、机の上置いてるメスを引き寄せて、跨って宙に浮かせる。


「放射線・・・あんまり使いたくはなかったんだけどね。でも、わたしの・・・世界一可愛い妹のピンチだもん。しょうがないよね」


それは、人間だった頃の知識があったからこそ出来たことだった。

読んでくださりありがとうございます。

スズメ「思わずソニア様のあんな所やこんな所に触れてしまいましたが、しょうがないですわよね?」

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