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312.【スズメ】友人として出来ること

泡沫島にある数ある研究所。その中でも1級研究者しか立ち入れない地下深くにある研究室の、その更に奥にある断熱遮光は勿論あらゆるダメージに耐性のある特殊な素材で作られた壁に囲まれた狭い部屋の中。


そして、部屋の中心に設置してある強固な台座。その台座に嵌められている特殊な液体に満たされた瓶の中。そこに閉じ込められているのは・・・この世で最も可愛く尊いお方。その名も光の大妖精のソニア様。


「さて、どうするか・・・」


わたくし達1級研究者はそのソニア様を囲んで話し合いをしているのですが・・・。


 物凄く見られていますわ・・・。


瓶のガラスにペタッと美しく可愛らしい両手を付けて、小さな愛らしい口をぽけーっと開けながら、わたくしを見上げてきます。


 何ですかその仕草は! 悶絶したいくらい可愛らしいですが、本当に悶絶してしまってはこれまでの苦労が水の泡ですわ。


一応フードを被ってますけど、そんなにマジマジと見られてしまっては正体がバレてしまいますもの。


 何故、わたくしは悶々とした気持ちで研究者としてここに立っているのか・・・。


・・・。


それは、今から遡ること半年ほど前のこと。


「ここは・・・どこですの?」


 確かわたくしは・・・故郷であるカイス妖精信仰国の近海で光の大妖精のソニア様の記憶を巡って、ディル様のお母様のサディさんと戦っていたハズなのですけれど・・・。


サディさんの強烈な一矢で気絶したところまでは覚えてますけど・・・。


「何故、わたくしは鉄の壁に囲まれた薄暗い狭い部屋で・・・盛大に持て成されているんですの?」


 小さな窓の外に見えるのは・・・海中? 海の中ですの?


目の前にある微妙な魚料理の前に、わたくしは首を傾げます。


「目を覚ましたみたいだな。歓迎する。ヨームの妹君。困惑しているようだが、ここは潜水艦の中だ」


やたらと長い白衣を身にまとった黒髪をオールバックにした男性が少し屈んでわたくしと目線を合わせて胡散臭い笑顔を浮かべる。


「あなたは・・・泡沫島の総帥!」

「そうだ。俺は泡沫島の総帥・・・」

「・・・の息子さんですわよね? ヨームお兄様にご執心だった」

「今は総帥だ。泡沫島研究団の総帥、ロイドだ。親父は少し前に亡くなった」


 総帥の座は世襲制では無かったハズ。ということは、この方は実力で勝ち取ったんですのね。よくも問題だらけな性格で総帥になれましたわね。


「これで晴れてヨーム君と俺の未来を邪魔する者はいなくなった。クックック・・・スズメ君。俺のことはお兄様と呼んでくれて構わない」

「嫌ですわ。貴方とヨームお兄様でどれくらいの歳の差があると思ってるんですの? そもそも貴方には息子さんが居るではないですか。それに・・・」

「政略結婚・・・俺の人生の汚点だ。忘れろ」


周囲にいる他の研究者達がわたくし達の会話を聞いて若干引いています。上手く隠していたんでしょうね。


「それで、今の状況は説明してくれないんですの?」

「そうだな・・・ 順を追って説明しよう」


総帥ロイドはわたくしの正面に腰を掛け、緑色の変な飲み物で喉を潤してからゆっくりと口を開く。


「俺が妖精を研究対象として見るようになったのは、そうだな・・・今からだいたい10年程前、一流冒険者のルイヴとサディに光の大妖精の討伐を手伝って欲しいと依頼された時だ。元から妖精には興味があったのだが、本格的に実現可能だと思ったのはその時だ」


 まさか今の状況を説明するのに10年前まで遡るとは思いませんでしたわ・・・。


「妖精の討伐に興味は無かったが、奴らが持っていた空間を操るという魔石に興味があった。だから、俺は当時総帥だった親父の反対を押し切って、魔石の研究を条件にその依頼を受けたんだ」

「空間を操る魔石・・・ルイヴが持っていた漆黒の魔石のことですの?」

「そうだ。光の大妖精の捜索よりも、俺はそっちを優先していた。あえて捜索を邪魔したこともあったな。依頼が達成されてしまえば研究が打ち切りになる可能性があったからな」


 なんて自分勝手な・・・でも、そのおかげでソニア様の発見が遅れたんでしょうね・・・。


「・・・そういえば、ソニア様は!? ソニア様はご無事なんですの!? 記憶はどうなりました!?」

「そう急くな。光の大妖精は無事だし、恐らく記憶も取り戻してると思われる」


 良かった・・・本当に良かったですわ・・・。


「それよりも話の続きだが・・・俺はその空間を操る魔石の研究を10年近く続けて、ようやくその魔石を複製する方法を見つけたのだ」

「・・・は? な、なんですって!? 魔石の複製!?」


 そんなこと出来るハズが・・・魔石とは大妖精様が遥か昔に創造なさって、今では魔物や魔獣からしか手に入れられないものですわ! それを人口的に複製なんて・・・。


「驚くのも無理はない。空間を操る魔石の複製には魔物ではなく魔獣の、それも危険度の高い闇の魔石が必要なのだが・・・いや、今はいい。脱線してしまうな」


 なるほど魔獣・・・それは並みの妖精よりも長く生きていると言われる、国を挙げて討伐するような存在ですわ。


「ともかく、俺達は複製の方法を見つけたのだ。それと同時に光の大妖精の居所が分かった」

「なるほどですわ。そして、先日ルイヴさん達とカイス妖精信仰国に攻め入ってきたのですわね」

「ああ。幸いカイス妖精信仰国はヨーム君を亡命するまでに追い詰めたことで、ヨーム君を慕っていた部下達の士気は高かった。勿論、俺もその1人だがな」


 それに関しては申し訳ありませんとしか言えませんわね・・・。わたくしもお父様を止められませんでしたし。


「それで、そこからどのような事があって、わたくしは今ここにいるんですの?」

「ああ。その事なんだが、スズメ君には魔石の調達を協力して欲しいんだ。さっき少し話したと思うが、空間を操る魔石の複製には闇属性の魔獣の魔石が必要だ。だが、俺達はあくまで研究者だ」

「それなら、貴方達には諜報班という化物集団がいるではありませんか。確か、闇の適正持ちだけを集めた戦闘と隠密のプロで、息子さんもそこに入ったとか・・・」


 その諜報班がいるからこそ、他の国が泡沫島に干渉することが出来なかった訳ですが。


「ああ。そうだ。まぁ、アレは諜報班から逃げ出したのだが・・・今はいい。その諜報班を使って既に一体の魔獣を討伐し、1つだけだが魔石の複製に成功している」

「それは・・・凄いですわね」

「・・・だがな、その一体の魔獣を討伐するのに3割程の人員を失ったのだ。これでは次の討伐すら怪しい。そこで、大妖精の討伐に乗じて、スズメ君の身柄を確保させて貰った。魔法の天才である貴女がいれば犠牲無く魔獣を討伐することも可能かもしれないと・・・」


 確かに、あの諜報班と協力すれば、条件さえ揃えばそれも可能かもしれませんわね。


「1つ確認したいのですが、そこまでして空間を操る魔石の研究をして、何をしたいんですの?」


噓は許さないという思いを込めて、ロイド総帥をじっと見つめる。彼はわたくしから目を逸らさずに答えた。


「妖精の研究への足掛かりにしたい」

「妖精・・・ですの?」

「ああ。最初にも言ったが、俺の目的はそれだ。勿論空間を操る魔石に対しての好奇心もあるがな」


 協力・・・したくないですわね・・・。


「空間を操る魔石があれば、かの大妖精にも対抗できると推測していたが、先の戦いでそれが実証された。あとは魔石を複製、研究し、完璧に使いこなせるように研究員及び諜報班を訓練。そして妖精の捕縛、大妖精の捕縛へと段階を踏んでいく」

「そんなこと・・・本当に出来ると思ってますの?」

「出来るとも。実は既に丁度いい個体を1匹見付けていてね。それに関しては上手くいけば魔石を使わずして捕獲出来そうだ」


 なんてことを・・・尊い存在である妖精様を・・・!!


「なぁ、スズメ君。この世界は不完全だとは思わないか?」

「はい?」


 突然何を・・・。


「魔石という可能性の塊が存在しているのに、文明は一向に進歩しない。それぞれの国は大妖精や魔獣の脅威に怯えて国土を広げようとも、インフラの整備なども考えようともしない。それどころか、大妖精に国を左右される始末だ」

「何が・・・言いたいんですの?」

「分からないか? 大妖精という壁を越えないと・・・いや、利用しないと人間は進歩しない。永遠に頭打ち状態なんだ。故に、人間は自然すらも操れると全人類に証明し、この世界を革命させる。それが俺の最終的な目的だ」


 世界を革命させるですって? そんなこと・・・いいえ、この男は本気ですわね。そして、それをやれるだけの頭脳と実行力、そして人望がある。わたくしも世界を革命させるという目的には興味がありますし、素晴らしいことだと思いますわ。ただ・・・。


「妖精を研究するというのは・・・」

「ああ、そうだったな。スズメ君は妖精オタクだったな」


 オタク・・・。


「だが、その大好きな妖精をこの手で弄ってみたいとは思わないか?」

「いえ、そんなことは・・・」

「世界の革命、文明の進歩の為だ。勿論協力してくれるな?」


そのロイド総帥の目には有無を言わせぬ強制力がありました。


 ここは・・・大人しく従った方がよさそうですわね。


「分かりましたわ。協力致します」


 ですが、反抗はさせていただきますわ。


「ですが、魔石の調達だけでは無く。わたくしも研究に参加させてくださいませ。そして貴方と同等・・・とまでは言いませんが、それなりの発言力がある地位に就かせてくださいませ。それが条件ですわ」


 今ここで断ったところで、監禁されるのが関の山ですもの。だったら、内部に入り込み邪魔をしてやります。そして、必ず妖精様の研究を阻止してやりますわ。


「研究に参加することは許そう。だが、地位に関しては無理だ。いくらヨーム君の妹君とはいえ、いきなり1級研究者などにしてしまえば他の研究員に示しがつかん。・・・だから、地位が欲しければ下っ端の研究員から自力で上がって見せろ」


 まぁ、そこが妥協点といったところですわね。


「分かりましたわ」

「では、泡沫島に戻って休息と準備が終わり次第、諜報班と共に緑の森の奥にある山脈に向かえ。あそこは魔獣の巣窟だからな」


・・・。


それから、わたくしは魔石の調達の傍らに泡沫島の研究者として活動をし、1級研究者まで上り詰めました。


 間に合いませんでしたわ・・・。


ただ、わたくしが1級研究者になる頃には既に時の妖精のトキ様が捕獲されていて、更には大妖精様の捕獲計画まで動き出していました。


 今からわたくしが計画を止めるのは不自然ですし、出来るかどうかも分かりませんわね・・・。


些細な抵抗として、わたくしが妖精様の研究の遅延行為を行っている間にどんどんと大妖精様達が捕まってしまいました。


 大妖精様達が捕まっている亜空間部屋の開け方はロイド総帥しか分かりませんし、トキ様は大切な村人達を人質に取られているせいで、助けようにも本人に脱走する気がありません・・・困りましたわね・・・。


そして、ついに・・・。


「な、なんてことに・・・」


わたくしの目の前には、液体の詰まった瓶の中で、羽を捥がれてぐったりと意識を失っているソニア様がいました。


 ソ、ソニア様・・・。わたくしが・・・! わたくしがもっと早くに1級研究者になっていれば! ! 何か別の手段が無いかと手をこまねいている間に・・・ソニア様が!!


「クックック・・・」


わたくしの心境なんて知らずに、ロイド総帥が隣で笑い出します。


「オーロラの妖精を捕らえるハズだったが・・・とんだ大物が捕まったなぁ! アレは役に立たんと思っていたが、物は使い様だな」


わたくしはロイド総帥を思いっ切り切り刻みたい衝動を抑えて、至って冷静を装って尋ねる。


「光の大妖精を・・・どうするつもりですの?」

「あぁ・・・そうだな。本来なら他の大妖精達を監禁している亜空間部屋に入れたいところだが・・・別々にした方がよさそうだな」

「何故ですの?」

「大妖精達は皆、光の大妖精をとても慕っているからな」

 

 まさか・・・。


「言うことを聞かなければ光の大妖精を・・・とでも脅せば他の大妖精達は俺達の言いなりだ。クックック・・・時の妖精が脱走してどうしようかと思ったが、運がいいな」

「・・・光の大妖精はどうするのですか? いくら電磁波を阻害する液体が入っているとはいえ、あの程度の小瓶では・・・」


他の研究員が、わたくしが敢えて言わないようにしていた問題点を言いました。


「その点は問題無いだろう。光の大妖精は他の大妖精に比べて弱みが多い上に、頭が悪く騙されやすいと聞く。捕獲さえしてしまえばどうとでもなるだろう」


 ソニア様は頭が痛いわけではありません。ただ、純粋なだけですわ。それは決して欠点では無く、美点でもの。その綺麗なお心に救われた人はたくさん居るでしょう。・・・と言ったところで、この男には分からないのでしょうね。



「とりあえず、ここには1級研究者を1人置いておく」

「では、わたくしが・・・」

「いや。スズメ君は光の大妖精と共に行動していた過去がある。今更疑ってはいないが、念の為光の大妖精と一対一にはさせない」


 ・・・悔しいですが当然ですわね。


「俺は亜空間部屋の方へ行って来る。ここに残る研究員以外は各自の仕事に戻れ。そして残った研究員は光の大妖精の目が覚め次第各員を集合させろ。いいな?」

「「了解です」」


 ソニア様・・・お可哀想なソニア様・・・どんな手を使ってでも、ソニア様の友人であるわたくしが必ず!!


そして数時間後、ソニア様が目を覚ましました。

読んでくださりありがとうございます。

ヨーム「うぅ・・・何だか悪寒が・・・」

マリ「大丈夫?」

ヨーム「ちょっと昔のことを思い出してました・・・」

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