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310.【ディル】可愛いソニア誘拐?事件

「なぁ、ローラ。それ何なんだ?」

「何って・・・見て分かんないの?」


無惨に切り刻まれた血だらけの魚を前に、ローラが身の丈以上の包丁を抱えながら「何言ってんのコイツ」みたいなバカにする顔で見てくる。


「魚の死体・・・か?」

「は? 違うから。いや、死体ではあるけど、もっと別の言い方あるでしょ」


 魚の死体の違う言い方?


首を傾げる俺に、ローラが目を吊り上げて言う。


「お刺身でしょ!? 何で分かんないの? 深海魚よりも目悪いんじゃないの?」


 深海魚の視力なんて知らないけど・・・相変わらず男には当たりがキツイよなぁ。


「お刺身はこんな血だらけじゃないだろ」

「新鮮な証でしょ」

「ああ言えばこう言う・・・とにかく俺はそんなもん食わないぞ」

「誰がアンタに食わしてやるなんて言ったのさ。自意識過剰じゃない?これはお姉ちゃんのものなんだから、他の誰にもあげないよ」


 それをソニアに食わすのか・・・頑張れ、ソニア。


「クゥン!クゥン!」

「うおっ・・・」


背後からスノウドラゴンのシロちゃんに服を引っ張られる。


「それ、ずっとアンタについて来てるみたいだけど、何なの?」

「分かんないけど、何かをずっと俺に訴えてくるんだよな・・・ソニアならこいつの言ってることが分かるハズなんだけど・・・お前は分かんないのか? ソニアの妹なんだろ?」

「さぁ~・・・でも、何かを訴えてきてるのは分かる」


 それは俺がさっき言っただろ・・・。


「じゃあ、ソニアが目を覚ますのを待つしかないな」

「どうでもいいけど、それがこのお刺身を食べないように見張っててよね」

「はいはい・・・」


 ソニアは料理が得意なのに、妹のこいつはド下手くそなんだな。・・・いや、ソニアが料理が上手いからこそこいつは料理をしてこなかったのかもな。


「てか、何でアンタはここにいんのよ。・・・お姉ちゃんの所に居られるよりはマシだけど」

「お母さんに追い出されたんだよ。いつまでも女の子の寝顔を見てるんじゃないって・・・それで特にやる事ないしブラブラしてたら、お前がふわふわと厨房に入ってったから・・・」


 こいつがソニアの近くを離れるなんて珍しいなって思ってついて来たんだよな。


「そういえばアンタ。あれはどうしたのさ?」


ローラが血だらけの刺身の上に血だらけの目玉を乗せながら聞いてくる。


「あれって?」

「ほら、マリちゃんに渡されてた・・・」

「あ~・・・指輪か」


俺がソニアに贈ろうと思って発注していたちっちゃな指輪。コルトが作ってくれてたみたいで、マリ経由で俺のもとに届けられた。


「まだソニアに渡すつもりはないな。こんな状況だし」

「そう」

「なんだ? 応援してくれるのか?」

「そんなわけないでしょ。ただ気になっただけ」


 これがソニアなら「ただ気になっただけなんだからねっ!」みたいな感じで微笑ましかったけど、こいつの場合はそのまま本心なんだろうな。


「よしっ。完成!!」

「おっ、できたのか? ・・・どれどれ・・・うわっ」


「クゥン!」と俺の服を引っ張ってくるシロちゃんを宥めながらローラ曰くお刺身を覗いて見ると・・・そこには切り刻まれた血だらけの魚の死体の上に、血だらけの目玉がゴロゴロとたくさん転がっていた。


「ローラ・・・お刺身に鱗は付いてないし、目玉も普通は無いし、まず血をどうにかすれよ・・・」

「うるさいなー。知らないの? 魚の目玉は健康にいいんだよ?」


 妖精に健康も何もないだろ・・・っていうか、例え本当に健康に良くてもこんなもん食いたくはないわ。・・・いや、もしかしたら妖精からすれば別に普通なのか? まぁ、俺が食うわけじゃないし、ソニアも嫌だったら嫌って言うだろ。


「じゃあ、これお姉ちゃんのとこまで運びたいんだけど」


そう言いながら、料理らしいものが乗ったお皿と俺とを交互にチラチラと見てくる。


 ハイハイ・・・運べってことだな。ソニアと比べて可愛くないやつだ。


俺がお皿に手を伸ばして、その隣でローラが満足そうに頷こうとした時、厨房にお母さんが勢いよく入ってきた。


「ね、ねぇ! ソニアちゃんを見なかったかしら!? 洗濯物を取りに外に行ってる間に居なくなっちゃったみたいで・・・」


 ソニアが居なくなった!?


「・・・まぁ、よくあることだな」

「お姉ちゃん、まるで猫のようにマイペースだから・・・」


俺とローラが同じタイミングで呆れた溜息を吐く。それを見たお母さんは少し冷静さを取り戻して、乱れていた息と服装を整える。


「じゃあ、そんなに心配しなくてもいいのかしら?」

「いや、心配した方がいいし、俺も心配だ。よくあることだけど、ソニアは目を離すとすぐに誘拐されたり、魔物に襲われたりするからな」

「お姉ちゃん、野生を忘れて人間慣れしまくった警戒心ゼロの飼い猫みたいな性格してるから・・・」


俺はお皿に向かって伸ばしてた手を引っ込めて、ローラに向かってクイッと指で手招きする。


「ローラもソニア探すのに手伝ってくれ」

「言われなくても探そうと思ってたから。まるでアンタに言われたから手伝うみたいにするのやめてくれる?」


 本当、ソニアと違って生意気だなぁ。見た目は瓜二つなのに。


俺とお母さんとローラ、それから後ろを付いてくるシロちゃんで厨房を出て、マイペースなソニアを探すことにする。


「そういば、お姉ちゃん目が覚めたんだね」

「ええ。ローラちゃんが作ってた服を渡したら羽をパタパタさせて喜んでたわよ」

「なにそれ可愛い。私も見たかった」


 俺も。


「あ、あと、ディル。ソニアちゃん昨日のことだいぶ気にしてたみたいよ。ディルに思いっきりぶちまけちゃったって・・・」

「あー・・・別に俺は何も気にしてないんだけどな」


 昨日酔っ払ったソニアが俺目掛けて吐いたんだよな。俺はまったく気にしてないし、むしろ見たことないソニアの姿が見られて嬉しかったっていうか・・・吐いてるソニアもまたギャップが可愛いっていうか・・・なんか、よかった。


「アンタ・・・何でこの話の流れで鼻の下を伸ばすのさ・・・」


ローラがジト目で見てくる。


 客観的に見ると変態っぽいから言葉には出さないでおこう・・・。


「まぁ、私はお姉ちゃんのあんな姿死ぬほど見てきたから慣れてるし、むしろ私にぶちまけてくれても良かったとすら思ってるけどね!」


 ソニアは妹のこんな姿を知ってるんだろうか・・・。


「と、とにかく、ソニアちゃん落ち込んでたから気にしてあげてね」

「「言われなくても」」


俺とローラの声が重なった。


・・・。


「姉御、ソニアのこと見なかったか?」

「見てねぇぞ? つーか、いつまで俺は光の大妖精と距離を置いてなきゃいけないんだよ。昨日酔っ払ったアレを運んでやったんだから、もういいじゃねぇか」

「お姉ちゃんが怖がってる限り永遠にダメだよ」


 姉御は見てないっと・・・。


「マイク! ソニアを見なかったか?」

「ちっちゃい方の姉御か? あ、今はでっかいんだっけか?」

「私が作った服を着てるなら、今はちっちゃいハズ。あと、人間サイズになっても別にでっかいわけじゃないから。お姉ちゃんは小柄でたわわで可愛いんだから、でっかいなんて可愛くない言葉でお姉ちゃんを言い表さないでくんない?」

「すげぇ攻めてくんなぁ・・・とりあえず、その可愛い姉御のことは見てないぞ」


 マイクもソニアを見てないっと・・・。


「皆! 大変ッス!!」


次はウィック辺りに聞いてみようかと思ってたら、丁度ウィックがやって来た。血相を変えて。近くにいたダリアが皆を代表して「どうした!?」と甲板に飛び下て問い掛ける。


「こっちに来て欲しいッス!! 俺、説明下手くそなんで!」


俺達はウィックが指差す船の後方へと走る。


 嫌な予感がする・・・。どうか、「二日酔いのソニアがまた吐いてる」くらいのしょうもない出来事であってくれ・・・。


・・・。


「う、うそ・・・」


お母さんが青ざめた顔でそう言って膝から崩れ落ちる。

ウィックに案内された先。船の一番後ろにある武器庫の中。そこに信じられないものが落ちていた。


「おい! これはいつからあった!? お前が見つけた時に怪しい奴とかいなかったのか!? どうなんだ! おい!!!!」


俺はウィックの胸ぐらを掴んで、そう問い掛ける。


「し、知らないッス。気が付いたらここにこれがあったッス・・・」


ウィックが指差す先には、無惨に無理矢理誰かに捥がれたような、ソニアのちっちゃな羽が落ちていた。


「クソッ!!」


幸せそうに笑うソニアの姿と、羽を何者かに捥がれて苦しそうに泣くソニアの姿が同時に脳内に浮かぶ。


 こんなことならお母さんに何と言われようとソニアの傍から離れるんじゃなかった!!


「おい! オーロラの妖精! どこにいく!?」


船の外に飛び出そうとしていたローラを、姉御がガシッとキャッチして止める。


「放せ!! お姉ちゃんにこんなことした奴を探し出して殺してやる! いや! 死にたくなるような苦痛を味合わせてやる!!」


今までに見たことないような、俺でも恐怖を覚えるようなもの凄い剣幕で姉御を睨むローラ。


「ディルも妖精も少しは落ち着け! 冷静にならなきゃ救えるもんも救えなくなるぞ!!」


姉御はそう言って、妖精を少しキツめに締め付け、俺の額を指で弾く。


「うっ」

「いてっ」


 ・・・ダリアの言う通りだ。この焦燥感と怒りを抑えることは無理だけど、だからって焦ったってどうにもならないし、逆に悪化しかねない。


「いいか。お前ら。まずは今の状況を正確に把握することだ。とりあえず、そこに落ちてる羽は本当に光の大妖精のもので間違い無いんだな?」

「私が確認するから放して」


ローラは落ちている羽を両手で持って、匂いを嗅ぐ。


「お姉ちゃんの匂い・・・これは間違いなくお姉ちゃんの羽だよ」


ローラは「お姉ちゃん・・・」と泣きそうな顔でその羽を抱きしめる。俺の握る拳に力が入る。


「てめぇら! 今すぐ光の大妖精ソニアを探せ!! 船の端から端まで! マストの上から棚の隙間まで隅々まで探せ!!」



突然ダリアがそう叫ぶと、船内のあちらこちらから「おう!」「了解!!」と声が聞こえてきた。


「船の中にいればいいがな・・・」


姉御はそう言いながらガシガシと頭を掻く。俺は左手の薬指に嵌められている指輪を手で触れながら、ソニアにテレパシーってのを送ってみる。


 ソニア! ソニア! どこにいるんだ!?


何度か呼び掛けてみるけど、返事は返ってこなかった。


「クソッ、いったい誰がこんなこと・・・!」


ドンッと壁を拳で叩く。加減したつもりだが、少し壁に穴が空いてしまった。


「何者かが最初から船内に潜り込んでいた。もしくは俺達が気付かぬ間に侵入されたか・・・」

「やっぱり泡沫島の連中か・・・」


 証拠はないけど、そう考えるのが自然だ。


皆がその方向で考えると思ったけど、1人、違う考えを口にした。


「誰かが裏切った可能性は考えないの?その可能性の方が高いと思うけど」


ローラが鋭い目付きで海賊達と、それからお母さんを見る。まるで自分とソニア以外の全員が敵だと言わんばかりの目をしてる。そんなローラに、姉御が反論する。


「おいおい、オーロラの妖精。それは俺の仲間達を疑ってるってことか?」

「アンタの仲間と、アンタ。それからサディ。私と一緒にいたディル以外の全員を疑ってるんだけど? アンタのことはお姉ちゃんが怖がってたし、サディに関しては前科がある。他の奴らも男なんて獣でそもそも信用ならないし」


 めちゃくちゃな考えだと思うけど、頭から否定することは出来ないな。俺もその可能性がまったくないとは考えてない。


チラッとお母さんを見る。お母さんはソニアの羽を1つ拾って、泣きそうな辛そうな顔で見つめていた。


「よく考えてみろ。記憶喪失のウィックはもちろん、俺達に光の大妖精をどうこうする理由なんてねぇだろ」

「どうだか。お姉ちゃん攫いたくなるほど可愛いから。サディなんてまさにお姉ちゃんにメロメロだったじゃん」


言われたお母さんは、ソニアの羽を持ったまま真っ直ぐにローラを見て口を開く。


「確かに攫いたいくらい可愛いとは思ってたわ」


 おい。


「でも、だからって本当に攫うわけないし、こんな・・・羽を千切るなんてこと・・・グスッ、するわけないじゃない!! ソニアちゃんから妖精にとって羽は大事なものだって・・・聞いたばかりなのに!!」


サディは泣きながらそう叫ぶ。その場の雰囲気が一層重くなった。


「何を言ってるんだか。実の息子に攻撃した人間の言動とは思えないね。私はその場に居なかったからどういう状況だったかは分からないけど、子供に攻撃するなんて非人道的なことありえない」


ローラはそう言ってお母さんを睨むけど、それに関しては俺はもう何も思ってない。俺が攻撃される分には別にいい。


「オーロラの妖精。ちょっと落ち着け。大事な姉ちゃんが居なくなって不安と苛立ちがあるのは分かるが、八つ当たりしたって解決は遠退くだけだぜ」

「クゥン・・・」


シロちゃんまでも「落ち着いて」と言うようにローラの頭を嘴で撫でるけど、ローラはパシっと手で払う。そんな時、船に大きな衝撃が走った。


ガゴゴン!


「な、なんスか!? 船の動きが止まったッス!?」


浮いているローラ以外の全員が不意な衝撃にバランスを崩す中、外でソニアを探していたマイクが駆け込んできた。


「姉御!大変だ!船が氷に囲まれてる!!」

「あんだってぇ!?」


慌てて皆で外に出ると・・・マイクの言う通り、船の周りが氷で囲われていて、身動きが取れない状態になっていた。

読んでくださりありがとうございます。

人間だった頃。

光里「うっ、気持ち悪い・・・おぼぼぼぼ!」

朱里 カシャッ、カシャッ

光里「な、何で写真撮って・・・おぇぇえええ」

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