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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第1章 暇な妖精と忙しい少年

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30.少年についていく、だって暇だったから

「私も行きたいよ!妖精さん達に会いたい!」


森を抜けると、マリちゃんが我儘を言っていた。


「流石に森に入るのは危ないわよ!ここで待ってましょ?」

「えー!ソニアちゃんいつ戻って来るのー」


それをジェシーが宥めている。ディルが少し歩くスピードを上げて、森を抜けてマリちゃん達のもとに向かう。


「おーい!2人ともー!」

「あ!ディル君にソニアちゃん!」

「ソニアちゃん戻って来たー」


こちらに気付いた2人が満面の笑顔で手を振ってくれる。マリちゃんが駆け足でトタトタとわたしのもとに来た。


「マリちゃんもジェシーも、どうしてここまで?」


 ディルの家で待ってるものだと思ってたのに・・・


「ソニアちゃんとお兄ちゃんと一緒だよ」


マリちゃんが説明してくれるけど、いまいちよく分からない。解説を求めてジェシーを見る。


「突然飛び出していったソニアちゃんとディル君を、マリちゃんが走って追いかけて行ってね。そのマリちゃんを私が追いかけて来たってわけよ。・・・子供って凄いわねぇ、明日は確実に筋肉痛よ。いや、明後日かしら?」


 ジェシーって一体いくつなんだろう・・・こわくて聞けないけど。


「ジェシーさんって何歳なんだ?」

「ディ・・・ディル!?」


 わたしが聞けなかったことをディルが簡単に聞いてしまった! これは、素なのか、それともお花のリラックス効果がまだ残ってるのか・・・・でも、わたしもジェシーの年齢は気になる。


「ディル君・・・?」

「え・・・ひっ・・・」


ジェシーが冷ややかな目をディルに向けた。


「ジェシーお姉ちゃん、でしょ?」


 笑ってる! 笑ってるのにこわい! 勘違いかな? 殺気が籠ってるような気がする。気のせいだろう。


「はい・・・ジェシーお姉ちゃん」

「ふふっ、良い子よ」


 ディル・・・可哀想に・・・でも、あれはディルが無神経だったよ。


「そ、それよりも早く村に帰ろうぜ!」

「うん!一緒に帰る!ソニアちゃん!・・・ん!」


マリちゃんがわたしに両手を差し出した。

 

 あー、はいはい。そこに乗れってことね?


わたしはマリちゃんの手に乗って、皆で村まで戻る。道中、ディルが緑の森でのことを話して、マリちゃんがとても羨ましがっていた。

ディルの家に戻ると、扉の前に騎士団長が立っていて、中にはコンフィーヤ公爵と恐縮しきったミーファと端で縮こまっている村長が居た。村長のアバンは、わたしを見て「ひぃぃ!」と怯えた声を出す。


 なにこの空間・・・凄く居心地悪そう。わたし達が居ない間、この3人で何か会話でもしたのだろうか?いや、してないだろうね。


「皆さん戻りましたか」


コンフィーヤ公爵が、この雰囲気を気にも留めてないような涼しい顔で言う。


「戻ったけど・・・これ、どういう状況なの?」


わたしが部屋の中を見渡しながら尋ねると、コンフィーヤ公爵も部屋の中を見渡しながら説明してくれる。


「村長との話が終わったので、今後のことを皆さんにお話しようと思ったのですが、居なかったのでここで待たせて貰っていました。他にいい場所もありませんし、そのままここでお話しましょう」


そう言ってコンフィーヤ公爵は席を立った。椅子が3つしかないので、ディルとミーファとジェシーが椅子に座り、例のごとくジェシーの上にマリちゃん、マリちゃんの上にわたしが座っている。


「では、ソニア様もいることですし、簡単に、簡潔に説明しましょう」


「簡単」と「簡潔」を強調して言う。


「まず、そこに居る村長・・・いえ、元村長のアバンは王都で15年の禁固刑となりました。ソニア様はアバンに酷い目にあわされたと聞いています。この刑で納得していただますか?」


わたしは部屋の隅で怯えているアバンに視線を向ける。


「ひっ・・・」


 今思えば、アバンはこの村を何とか存続させようとしてたんだもんね。息子のアボンは完全に悪い人だったけど、この人は少し可哀想かもしれない。だからって、わたしをボトルの中に閉じ込めて、今回の一連の騒動のきっかけを作ったことに変わりはないけど・・・一歩間違えれば、国が一つ滅びてたかもしれないんだから。


「うん、わたしはそれでいいよ」

「でしたら、新しい村長はミーファとします。と言っても、これからこの村は、国が直接管理する事になると思うので、形だけですが」

「え?ミーファおばさんが村長になるのか?」

「はい、正直誰でも良かったのですが、諸々の事情を知っていて、ディルの保護者であるミーファが一番丁度よかったのです」


ディルが自分の保護者が村長になることに驚いているが、当のミーファは先に話を聞いていたのか、ただ真面目な顔で頷くだけだ。


「それと、私が王都に戻ってからになりますが、当面の食料と建材と労働力を王都から村に送ります。その後、村で受け入れる準備が整い次第、孤児院の子供達と、移住者が居ればその者達を馬車で向かわせます。・・・今後、もし観光客が増えるようであれば定期的に馬車を走らせる予定です」


 わおっ! 最初の状況に比べたら破格の待遇だね!


「おー!なんかよく分からないけど、色々と変わりそうだな!この村!」

「私達も忙しくなりそうね。デンガが早く来れるように頑張らないと」

「私もがんばる!」


ディルとジェシーとマリちゃんが幸せを嚙み締めるように笑った。


「はぁ、急に色んなことが変わって頭が追い付かないわ・・・」


ミーファは頭を抱えて深いため息を吐いた。


 良い方向に変わるんだから、いいじゃんね!


「わたしも時々遊びに来るね!」


ニコッと笑う。


その後、コンフィーヤ公爵が場所を使わせて貰ったお礼と称して、ミーファに銀貨を何枚か渡していた。受け取ったミーファは今日一の笑顔だった。ディルも迷惑料だとかで城で貰っていたらしい。


「ソニア様も、何か欲しい物があればお申し付けください。正直なことを言うと、私達人間には妖精様の欲する物が分からないのです」


 うーん、強いて言うなら楽しい経験が欲しいけど・・・そんなこと言っても困らせるだけだよね。


「そしたら、王都に親子でパン屋さんをやってるルテンっていう娘がいるんだけど、その娘に村に来るときはパンを持って来て欲しいって伝えて欲しい。あと、出来れば頻繫に来て欲しいって!」


 ミドリちゃんにパンを作るって約束しちゃったもん。


「ルテン・・・ですか。分かりました。探して伝えましょう」

「うん、色々とありがとね!」


一通り話し終えたコンフィーヤ公爵は、アバンを連れて騎士団長と共に馬車で王都に帰った。

わたしは、ミーファの家でジェシーとマリちゃんと共に夕飯をご馳走になってから、緑の森に帰るために村の入り口まで来ている。


「ミーファ、ご飯ありがと!美味しかったよ!でも食料は大丈夫なの?」


緑の森に続く道を背に、わたしは見送りに来てくれた皆を見る。


「大丈夫ですよ。あの貴族様が少し食料を分けて下さったからね。それに、ソニアさんが食べた分なんてほんの僅かですもの」


 確かに、ディルの一口分も食べてない。


「ソニアちゃん、マリちゃんが寂しがる前に遊びに来てね」

「あったりまえ!」


ジェシーにピースする・・・けど、ジェシーは首を傾げた。


 あれ? この世界にピースって無いの?


「ソニアちゃん、もう行っちゃうの?」


マリちゃんが今にも泣きそうな顔でわたしを見上げる。


「うん、行くよ。でもまた会いに来るから!それまで大人の言うことを程々に聞いて、良い子で待っててね?」

「うん!まってる!」

「程々なのね・・・」

「それくらいが丁度いいんだよ」


 子供は少し大人を困らせるくらいが見ていて安心するよね。少なくとも大人の言いなりになるよりはいいはずだ。


「なぁ、本当に森まで送ってかなくてもいいのか?」

「ディルに何度も往復させるのも悪いもん、ディルはそのまま皆で帰ってゆっくり休んで?これから忙しくなるんだから!」

「分かったよ。そうさせてもらう」

「それじゃあ。帰るね。ディル、改めて、助けてくれてありがとう!とってもかっこよかったぞ☆」


わたしはディルにパチッとウィンクした。すると、ディルの顔が徐々に真っ赤になった。ジェシーがニヤニヤしながらディルを見ている。マリちゃんが「お兄ちゃんどうしたの?お顔が真っ赤だよ?」と心配そうにディルを見上げる。


 あれ?褒められて照れちゃったのかな?そういうところは子供らしくて可愛いね!


「色々あったけど、久しぶりに楽しかった。本当に。友達になってくれてありがとう! あと、ソニアも・・・その、とっても可愛いと思うぞ!またな!」

「うん!またね!」


ディルが後半を早口で言って、わたしに背を向けて走って行ってしまった。わたしは村に背を向けて緑の森に帰る。


 もうすぐ日が落ちそうだ。急いで帰らないと・・・






・・・そして、3年が経った。



わたしは相も変わらず緑の森で暇な時間を過ごしていた。


たまに村に遊びに行って、忙しそうにしているディルにちょっかいをかけたり、マリちゃんと遊んだりしているけど、それも少しマンネリ化してきたところだ。


 ・・・楽しいんだけどね。やっぱり何か物足りなさを感じる。


「俺、そろそろお父さんとお母さんを探しに行こうと思ってるんだ」


ディルが拳を握って宣言した。


「ディルお兄ちゃん、その為にデンガお父さんに鍛えて貰ってたもんね」


ルテンが作ったパンを緑の森まで持って来たディルとマリちゃんが、わたしの家の前で話している。ディルはもう13歳になり、身長がだいぶ伸びて、毎日デンガに鍛えられているお陰で体付きも男らしくなった。もう男の子とは呼べない見た目になっている。立派な少年だ。


「そうね、いいんじゃない?もうあれから3年くらいは経ってるし、それなりには戦えそうだしね」


ミドリちゃんがクルミパンを食べながら言う。


「それなり、じゃない、もうデンガとだって互角に戦えるくらいにはなってるからな」


ボソッと「勝ったことはないけど」と付け加える。


「それが、それなりなのよ」

「はぁ、相変わらず妖精の感覚は分からないな」


言いながらミドリちゃんとわたしを見る。


 なんでわたしまで・・・?


「それで、ディルはいつ出発するの?」

「今からだ」

「え?今から!?随分と急だね?」

「ああ、もう村の皆には話してある」


 そっか・・・もう、行っちゃうのか。寂しくなるな。


「なんて顔してるんだよ、ソニア」

「だって・・・」

「別に一生のお別れってわけじゃないんだ。また戻って来るよ。お母さん達と一緒にな」


そう言ってディルは寂しそうな顔をした。


 ううん!笑顔で送り出さないと!これからディルは、色んな所に行って、色んなことを経験して、色んな出会いが待ってるんだ。それが寂しい顔でスタートなんて・・・っていうか何それ凄く楽しそうなんだけど!


「わたしもディルについていく!」

「は!?」


腰に手を当てて、わたしはふんぞり返った。


「え?ソニアちゃんも行っちゃうの!?」

「また雷の妖精ちゃんは・・・」


マリちゃんが目を丸くして驚いたような顔をする。そして、ミドリちゃんが「仕方ない子ね」とでも言いたげな顔でわたしを見てくる。


 わたしはついていくんだ! だって、暇だったから!


わたしは暇だったので、近くにいた少年(ディル)についていくことにした。

読んでくださりありがとうございます。第1章(完)です。次の章からやっと冒険が始まります。

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