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307.「かんぱ~い!!」

「ほえぇ~・・・あれが泡沫島かぁ~」


ツルツル海賊団のおっきな船の先頭で、遠くに見える島を見ながら、わたしはぼんやりと言う。

そして、そんなわたしにこの船の船長であるダリアが船の後方から大きな声でツッコミを入れてくる。


「あれはただの名も無き小島だ! 泡沫島はまだまだ先だぜー!!」

「なるほど。じゃあ、あれは新泡沫島と名付けよう」


 うん。斬新で奇抜で新鮮ないい名前だね。


「大妖精のソニアが言うと、本当にそんな名前になりそうだな」

「じゃあ、ディルだったらどんな名前を付けるの?」

「え? えーっと・・・ソニア島とか?」

「ないね」

「えぇ~・・・」


 わたしの名前を使うなら、もっと立派な島に使って欲しいよね。


「ところで、泡沫島ってどんな島なの? 研究者がいっぱい居るのは知ってるけど、島自体の特徴とかって何か分かりやすいのあるの?」

「さぁ~? 俺も別に見たことあるわけじゃないからな。ダリア~! そこんとこどうなんだ~!」


ディルが船の後方にいるダリアに向かって叫ぶ。


「そりゃあ、おめぇ! 見てからのお楽しみだろぉー!!」

「それじゃあ、作戦も立てられないだろ・・・」


 わたしは堂々と正面から殴りこむもんだと思ってたけど、ディルは違ったみたい。


「っつーかよぉ! いつまで俺は光の大妖精と距離を置いてねぇといけねぇんだ!! ただ話すだけでも疲れっぞ!!」

「仕方ないだろ! ローラが『お姉ちゃんが怖がるから離れて!』って言ってたんだから!!」

「その妖精はどこ行ったんだよ!! 見当たらねぇけど!!」


ディルは「そういえば見当たんないなぁ」とわたしの方を振り返る。


「ローラなら今、部屋でわたしの服を作ってくれてるよ」

「あ~、そういえば、そんなようなこと言ってたな」


わたしが「メイド服以外の服が着たい」って呟いたら、「私に任せてっ」って言ってわたし達の部屋に飛んでいった。


 どこから布とかを調達してるのか知らないけど、完成が楽しみだね。


「さてとっ。じゃあ、わたしもそろそろ始めよっかなっと!」

「ん? 何を始めるんだ?」

「それはね・・・」


「ふっふっふ・・・」と十分にタメを作ってから、わたしは腰に手を当ててドヤ顔で言う。


「・・・釣りだよ!!」

「釣りぃ? 他にやるべきことがあると思うんだけど・・・」


ディルはそう言いながらウィックの方をチラッと見る。ウィックはアホみたいな顔で海を見てボケーっとしてる。


「いやね? わたしだってウィックの記憶を取り戻させようと色々としたんだよ? 頭を思いっ切り叩いてみたり、雷を落としてみたり、海に突き落としてみたり・・・」

「・・・とんでもないことしてたな。相手がウィックじゃなかったら死んでるぞ」

「でもね。まったく記憶が戻らなかったんだよ。だから諦めた! もう自然に戻るのを待つしかないよ!」

「そうか。・・・まぁ、それだけ手荒なことしても戻らないんじゃあ、しょうがないな」


 そ。なるようになるよね。


「それで? ソニアはどうして急に釣りなんだ? 暇だからか?」

「ん-ん。違うよ? ローラが服を作ってくれるっていうから、お礼にお魚料理を振る舞ってあげようかなって!」

「マジか!!」


 食べ物の話になった途端に目がキラッキラになったよ・・・。そんなにお魚が食べたいか。


「しょうがない。ディルが自分で魚を釣ったら、それで料理してあげるよ。前と違って、今の私は人間サイズになれるからね。ちゃんと人間用の料理を作れるよ」

「よっしゃ! ソニアの手料理だ!」


 お魚じゃなくて、わたしの手料理が食べたかったんだ・・・。ちょっと照れる。


「したっけ、わたし人間サイズになってディルの服に着替えてくるから、ディルは釣竿を準備しておいてね!」

「そっか・・・人間サイズになったら俺の服を貸すって約束してたもんな・・・。わかった。釣り竿は準備しておくけど、服に穴開けるの手伝うか? 羽を通す用の穴を背中に開けるんだろ?」

「大丈夫! 1人で出来るよ!」

「そっか。じゃあ、服の仕舞ってある場所は・・・」

「それも知ってるから大丈夫!!」

「何で知ってるんだよ・・・」

「・・・」


呆れ顔のディルに羽を向けて、わたしは一度サディの部屋に寄ってショーツだけ借りてから、ディルの部屋へと飛んでいく。その後「空飛ぶパンツ」の噂が広まるんだけど、それは知らない話。


・・・。


「えーっと、確かディルの服はここら辺の箱に・・・あった!」


ディルの服の背中部分に羽用の穴を光のレーザーで開けて、わたしは一度裸になってから人間サイズになって、ディルの服を着る。


「うん! 思ったよりも大きいけど、着れなくはないね!」


 あとはブラジャーがあれば良かったんだけど・・・サディのだとサイズが小さいし、無いものはしょうがないよね。適当にタオルでも巻いておこっと。ノーブラよりはマシだもん。


「最後に髪を縛ってっと・・・これでよしっ!」


動きやすいポニーテールに、ディルの黒いVネックのシャツ(大きくて七分袖になってる)と、ディルの黒い半ズボン(大きくて七分丈になってる)。靴は無いけど、まぁ、常に浮いてれば問題ない。


「ディル~。着替えたよ~。服貸してくれてありがとね~!」


船の二階部分から、手をヒラヒラさせながら先頭にいるディルのもとまでふわふわと飛んでいく。すると、ディルが振り返ってわたしを見た瞬間、「ぶぅっ!」と吹き出した。


「え? なに? どこか変だった? もしかしてズボンのチャック開いてる? ・・・って、チャックないや」

「い、いや・・・別に変ってわけじゃないけど・・・お前それ・・・その・・・」


ディルは顔を真っ赤にしながら、わたしの襟元というか、胸元を指差す。


「何で、わざわざVネックなんだよ」

「ん? 何でって・・・」


 丸首のシャツだと胸のせいで服が伸びそうなうえに窮屈だったから、余裕のあるVネックにしたんだけど・・・それを男の子のディルに言うのはちょっと恥ずかしい。


「わたし、Vネック好きなんだよね」


 別に噓言ってるわけじゃないよ。ディルが着れば見事な胸筋がチラッと見えたりするからね!


「そ、そうか・・・俺も・・・Vネックは好きだ。今、好きになった」

「そう? じゃあ今度お揃いで着ようね!」

「あ、ああ。そうだな・・・」


 その時はあんまりディルの胸元をチラチラ見ないようにしないとね。変態だと思われちゃうもん。・・・ところで、ディルがわたしのVネックの部分をチラチラ見てくるけど、襟がよれよれになってたりしないよね?


「それよりも! ほら! 釣り竿だぞ。新しめなのと、古いのの2本ある。どっちがいい?」

「じゃあ、、新しいのを貰おっかな! どっちが多く釣れるか、勝負だよ!」

「おう! 大物をたくさん釣ってやるぞ!」

「「おー!!」」


・・・。


だいたい一時間後。。。


「いや~・・・大物はいなかったけど、たくさん釣れたなー!」

「・・・そうだね。ディルはね」


 わたしは一匹も釣れてないけど。


「これでソニアが何か作ってくれるんだよな!」

「・・・そうだね。ディルの分は」


 わたしは一匹も釣れてないけど!


「ソニア・・・別に俺が釣った魚でローラの分も作っていいんじゃないか? あいつならそれでも喜ぶだろ」

「そうかもしれないけど・・・なんか違うじゃん。ちゃんとわたしが釣った魚じゃないと、お礼にならないよ」

「そんなこと言ってたら、泡沫島に着いちゃうぞ?」


 さすがにそれまでには釣れるよ・・・たぶん。


「いいもん!わたしには裏の手があるから!」


海面にビリビリィっと電撃を放つ。ぷかーっと浮いてきたお魚を、わたしは船から飛び出して回収する。


「よしっ! わたしも活きの良いのが釣れたよ!」

「いやいやいや・・・」


無事にお魚を釣ることが出来たし、あとはクッキングタイムだ! ・・・とは言っても、この船には碌に食材を積んでないみたいので、簡単なものしかできないけど。


・・・。


「よしっ、完成!!」


船の厨房の隅っこで、わたしは出来上がった2皿の料理を前に、満足気に頷く。


「おぉ・・・なんか色鮮やかだな! 何て名前の料理なんだ?」

「鯖っぽい魚のカルパッチョだよ!」

「カルパ・・・?・・・変な名前だな」


 耳慣れてないとそう感じるかもね。


「じゃあ、ディル。あーん」


2皿あるうちの大盛りの方から一切れを手で持って、デイルに差し出す。ディルは照れくさそうにしながらも口を開けて、パクっと食べた。


 どうかな? タレは割と適当に作ったんだけど・・・。


「うん! めっちゃうまいぞ! さすがソニアだ」

「そう? えへへ・・・」


 やったね!よかった!


「おーおー! そんな隅っこで何をいちゃついてんだよ! ディルの兄貴!」

「・・・その兄貴呼びはやめてくれって・・・マイク」


マイクはズカズカと大股で近づいてきて、「お、うまそうなもんがあるな」と、ディルのお皿から一切れとって、大きな口の中に放り込んだ。


「何だこれ! めっちゃうめぇ! ・・・酒に合いそうだな!」

「おい! これはソニアが俺の為に作ってくれたもんなんだぞ! 食べるな!」


ディルがマイクの胸ぐらに掴みかかる。わたしはそんな仲良く喧嘩するマイクとディルの間に割って入って、マイクに交渉を持ちかけることにする。


「ねぇ、マイク」

「ん? なんだ・・・って、お前、ソニアの姉御か!? 本当に人間サイズになってんだな・・・えらい美人なうえに・・・なんつー刺激的な服着てんだよ・・・ほえぇ~」

「いやらしい目でジロジロとソニアを見るな!」

「何だよ兄貴、独り占めはよくないぜ~」

「???」


 刺激的? 独り占め? なんのこと?


「そんなことよりもさ、マイク」

「なんだ? 悪いが今は誰とも付き合うつもりはないぜ?」

「は?」

「・・・いや、わりぃ。そんな睨むなって」


 そういう冗談はよくないんだよ? オヤジ臭いし、下手したらセクハラだよ?


「それでね? マイク。さっきお酒がどうのこうのって言ってたよね?」

「ああ」

「あるの? お酒。この船に」

「あるぜ。姉御が大量に買い込んでたからな」


 なるほどなるほど・・・いいことを聞いた。


「そのお酒。持ってきてくれない?」

「はぁ? 俺のじゃなくて姉御のだからなぁ・・・」


 むぅ・・・マイクのくせに渋ってやがる。


「持ってきてくれたら、さっきわたしに変なこと言ったのを許してあげる」

「ぐぅ・・・いったい何様だよ・・・」

「大妖精様だよ」

「そうだった・・・ったく。分かったよ。持ってくるよ。でも、バレたら一緒に謝ってくれよ」


マイクが重たい足取りで冷蔵庫っぽい箱の方へ歩いていったあと、わたしはボソリと呟く。


「嫌だね。謝んないもん」

「おい」


ディルに軽くツッコミを入れられた。


「ほらよ。何種類か持ってきたぞ。どれがいい」

「そうだね~。肴がカルパッチョだし白ワインみたいなのが鉄板だと思うけど・・・やっぱり日本酒だよね! 好きなお酒を飲むのが一番だよ!」


マイクが「何言ってんだ?」みたいな顔で見てくるけど、わたしは気にせず日本酒に一番近いお酒を選んで、マイクを追っ払った。


「じゃあ、ローラを呼んでくるね!」

「ソニアは料理を作ってくれたし、俺が呼びに行こうか?」

「んーん! 私が呼びたい! ・・・し、それにローラは男嫌いだからディルが行っても返事しなさそう」


船のマストの一番上に取り付けられた鳥の巣箱みたいなちっちゃな家。そこがこの船でのわたしとローラの部屋だ。ダリアが「怖がらせたお詫びに」って作ってくれた。


コンコン・・・


小さな扉を優しくノックすると、キィーと少しだけ開いてローラが覗いてくる。わたしと目が合った瞬間、ガタンと勢い良く扉を開けて飛びついてきた。


「お姉ちゃん! 何さその服! あいつのやつでしょ! やだ! お姉ちゃんに男のにおいが付いちゃう!!」

「そんなことより、服を作ってくれてるお礼にお酒の肴を作ったんだけど・・・」

「行く!!」


ローラを頭の上に乗せて、ディルが待つ厨房に戻る。


「こいつがいるなんて聞いてないんだけど・・・」


わたしの肩に乗ってあからさまに嫌な顔をする。そんなローラの前にカルパッチョのお皿を持ってくる。


「仲良くしてよ。ほら、わたしが作ったカルパッチョだよ」

「わー! さすがお姉ちゃん! 料理だけは上手いんだから!」

「だけって何さ! 整理整頓とかも得意だもん!」

「「噓つけ!!」」


ローラとディルが同じような呆れ顔で同じことを言ってきた。解せぬ。


 仲良しじゃん。・・・にしても、ローラは人間だった頃におばあちゃんまで生きたとは思えない言動をするよね。落ち着きがないよ。


「じゃあ、2人とも・・・コップは持ったー?」


 聞かなくても見ればわかるんだけど、様式美みたいなものだよね。


「服を作ってくれたローラに感謝を込めて~?」

「「かんぱ~い!!」」


・・・って言っても、ディルはお茶なんだけどね。


・・・。


気が付けば、窓の外に夕日が見える時間になってた。夕飯時なのに厨房に人気(ひとけ)が無いのに、この海賊団の生活力の無さが分かるよね。


「ちょっとお姉ちゃん! それで何杯目? もう瓶の中が空になってるじゃん! そういうとこ、人間の頃から変わんないね~。昔、お姉ちゃんの家に行ったら下着姿で飲みまくって時あったよね」

「ひょっと~・・・ディルの前でほんはほほひわないへよ~・・・へへへ」


 はぁ~・・・この感じ・・・好き。


「ディル。絶対に二人きりの時にお姉ちゃんにお酒飲ませないでよ?」

「の、飲ませねーよ!」

「怪しい・・・」

「飲ませねーけど、ソニアが勝手に飲むことだってあるだろ・・・」

「あるね・・・」


 2人は何の話をしてんだろぉ? ・・・あれ? それよりも、わたしが着てる服からディルの匂いがするよ? なんでだろ?


スンスン・・・


「ちょっ、服のにおいを嗅ぐなって!」


 っていうか、なんか暑いなぁ。


「おいおいおい! 何しようとしてんだソニア!?」

「ちょいちょい! お姉ちゃん! ど、どうしよう!? さすがに体のサイズ差があって介抱できないよ!」


・・・。


「・・・にしても軽いなぁ。ちゃんと飯食ってんのか?」

「妖精だから軽いだけだよ。お姉ちゃんが起きちゃうからあんまり喋んないで」

「へいへい」


ふわふわとした頭に、ローラとダリアの話声が響く。


 あんれー? わたし、ディルとローラと一緒にいたハズなんだけど・・・。


「姉御!! 大変だ!!」

「何だ! 今、光の大妖精が酔っ払って寝てんだ! 静かにしろ!!」

「アンタが静かにしてよ!!」

「うにゅ~・・・みんなうるはいよ~・・・」

「あーあ。お姉ちゃんが起きちゃった・・・可愛い」


ローラがわたしの頬に頬ずりしてくる。


「妖精もお酒に酔うんだな・・・って、今はそれどころじゃなくて! 姉御! 大変なんだ! 上空にドラゴンが!」


 ドラゴン~?


「なんらっへ~~??」

「え!? お姉ちゃんどこ行くの!?」

読んでくださりありがとうございます。

ソニア「無い物はしょうがないよね」

サディ「ナニが無いって? ナニが無いって!?」

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