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306.ツルツル海賊団の変わった船長

「ねぇ、ソニアちゃん。さっきは悪かったから、姿を見せてくれない?」

「い・や・だ!」

「ローラちゃん・・・」

「やだよ」

「お願い! もう無理矢理撫でたりとかしないからぁ~」

「「や・だ!!」」


サディとそんなやり取りをしながら、わたし達はグリューン王国のお城の中を進む。


「でも、確かにせっかく久しぶりにお会いできたのにお姿を拝見出来ないのは寂しいですね」

「ツクシは妖精様を案内してるのを後輩に見せて自慢したいだけでしょ?」

「ヨ、ヨモギちゃん! それもあるけど、ちゃんと本心だよ!?」


ウィックの仲間の海賊達が過ごしてる部屋まで案内してくれるのは、以前グリューン王国で過ごした時にわたしをお風呂に入れてくれたメイドのヨモギちゃんとツクシちゃんだ。最初は2人ともすっかり垢抜けて立派なメイドさんになったなって思ったけど、そんなことはないみたい。


 仕方ない。ツクシちゃん達がそう言うなら姿を出そうかな。


ローラとコクリと頷きあって、光を屈折させて透明になってたわたし達は、それを解除して姿を現す。


「まぁ! フフフッ、そんなところにいたのねぇ~」


サディがぐるぅん!っと勢い良く振り返って、指をワキワキさせてくる。


 こわっ・・・まさかディルのお母さんがこんな人だったなんて思わなかったよ。。。昔ディルが話してくれた思い出話とかではもっとまともっていうか、理想的なイイお母さんだと思ってたんだけどな。


「そういえばお母さん、ちっちゃい人形とか集めてたもんな」

「あら? どうして知ってるの? 確か・・・ディルが玩具にして壊すから、ディルが届かない高い所に飾ってあったハズだけど・・・」

「いつの話してるんだよ・・・俺、今はお母さんよりも背が高いんだぞ」

「そうね・・・もう、そんなに大きくなったのね・・・」


 いい感じの雰囲気のところ悪いけど、ディルの身長はサディと同じくらいに見えるんだけどな・・・うーん、ちょぴっとだけ高いのかな?


「何だよ。ソニア。その疑うような目は」

「いや、別に?」


お城の中の廊下を、ディルとサディの背を見比べながら進んで行くと、あっという間に海賊達が過ごしてる大部屋に着いた。


コンコン。


ヨモギが扉をノックして「すぅ」と大きく息を吸う。


「商人の皆さん! ディルさん達をお連れ致しましたー!」


ヨモギが「商人」と呼びのは理由があって、妖精の愛し子(ディル)の連れとはいえ、さすがに海賊を城に入れるのは問題があるので、そこでコンフィーヤ公爵が海賊ではなく商人だと城の人間達に説明したらしい。


「おう! 開けていいぜ~!!」


 ・・・ん?


知らない人の声だ。口調は男っぽいけど、声は女の人みたいな高さだ。


 ウィックがいる海賊団・・・確かツルツル海賊って名前だったっけ? 姉御と呼ばれるくらいには共に行動して協力してたハズなんだけど、こんな声の人間はいなかったよね? ・・・ってか、ツルツル海賊って変な名前だね。誰が付けたんだろ。センスを疑うよ。


「失礼いたしまーす」


ガチャ・・・。


「おう! ディル! 妖精は見つかったのか!? ・・・って、そこにいんのがそうか!」


見覚えの無い大柄な青髪の女性が、ディルの頭上で浮いてるわたしとローラに顔を近付けて、交互に見比べてくる。 なんだか恐怖を覚える。トラウマを刺激されるような。


「アッハッハッハ! いいぞウィック! 似合ってんぞ!」


 ん? 屋の奥の方が騒がしいぞ? そっちに行こう! ・・・べ、別にこの女性の視線が怖くて逃げるんじゃないよ!?


ぴゅーっと女性の横を飛んで、騒がしい方へと向かう。当然のようにローラもわたしの後ろを飛んできた。


「ギャッハハハ! いいぞウィック! クルッと回ってくれ!」


何を騒いでるんだろうと思ったら、ウィックが記憶喪失なのをいいことに海賊達がウィックにメイド服を着せて遊んでた。


「俺、本当に普段からこんな格好してたんスか?」

「おう! してたぞ! してた!そんで化粧もしてたなぁ!」

「ほ、本当ッスか?」

「あぁ、本当だ、本当だ! ・・・っぷ、だっはっはっは! ダメだ! そんな真面目な顔で見るんじゃねぇ! 堪えられねー!」


船長のマイクを代表に大笑いする一同。


 大切な仲間の記憶を喪失させちゃったから、しっかり謝らないとなって思ってたんだけど・・・気にしてたわたしがバカみたいじゃん!


「この髪の長い方のちっこいのが光の大妖精だよな?」

「うひぃ!?」


いつの間にかさっきの大柄な女性が真後ろに立ってた。びっくりしてローラの後ろに隠れちゃう。


「どうしたの? お姉ちゃん。確かにちょっぴりいかつい雰囲気だけど・・・そこまで?」

「い、いや・・・分かんないけど・・・何となく?」


ローラが首を傾げるけど、首を傾げたいのはわたしの方だ。どうしてこんなにこの女性が怖いんだろう・・・別に何かされたわけでもないのに。


「おい姉御。ソニアを怖がらせたら姉御でも怒るぞ」


横からぬっと現れたディルが大柄な女性を一睨みする。


 姉御!? ディルが姉御って呼んだよ!? 何者なの!? この女!?


ローラの後ろからひょっこりと顔を出して「むむむぅ~・・・」っと女性を見つめたら、案の定目が合っちゃった。


「・・・っ!?」


サッと再びローラの後ろに隠れる。


「別に怖がらせるつもりはねぇんだけどなぁ・・・」

「俺はソニアが怖がる理由に心当たりがあるけどな。・・・ってか、それは姉御も分かるだろ?」

「まぁ・・・な」


 なに? わたしには分かんないんだけど・・・。


「とりあえずちょっとソニアから離れろって・・・」

「おいおい、自分で離れるから押すなよ」


わたしと、わたしを庇うように両手を広げて威嚇するローラからバックステップで距離をとる女性。そしてのその間に入ったディルが、「やれやれ」みたいな顔で紹介を始める。


「えーっと、姉御は既に知ってると思うけど、この綺麗な金髪に可愛らしい幼い顔立ちの愛らしい妖精がソニアだ」


 ちょ、ちょっと!ちょっと! 何その紹介! ・・・て、照れるじゃーん///


赤くなってそうな顔を手で押さえる。そんなわたしと、満足そうに頷いてるローラをチラッと見たディルは、今度はローラの紹介をする。


「んで、この青みがかった金髪の妖精が、オーロラの妖精のローラ。ソニアの妹だ」

「よろしくね。でも、お姉ちゃんを怖がらせないでね」


ローラはそっとわたしの頭に手を乗せながら言う。


 ダメだね。妹に守られてちゃ。


怖いのを我慢して、わたしはローラの後ろから姿を出す。


「あと、扉の方でこっちの様子を見てる弓を持ってる緑色の髪のがサディ。・・・俺のお母さんだ」

「ほう。・・・なかなか腕が立ちそうだな」


 見ただけで分かるの? 適当言ってない?


「それでソニア。怖がってるところ悪いけど、ちゃんと紹介はさせてくれ」

「こ、こわがってないけど!?」

「ああ、そうだな。・・・それで・・・」


 流された!?


「この人がこの海賊団の船長だ」

「船長? 船長はマイクじゃ・・・」

「あぁ、まぁ、そうなんだけどさ。前にマイクが言ってなかったか? 本来の船長がいるって」


 あ~、そういえば言ってたね。航海の途中で駆け落ちして居なくなったっていう船長が。この人がそうなんだ・・・やっぱり怖い。


「名前はダリア。女性だけど、中身は男で、でも、男の人と結婚してるんだ」

「え・・・うん・・・え?」

「そして、2000年前の勇者の生まれ変わりらしい」

「え・・・えぇ!?」


 う、生まれ変わり!? そんなことってありえるの!? ・・・いや、ありえるよね。わたしも似たようなものだし、ローラやナナちゃんだってそんな感じだもん。 でも、それはそれとして、この人が勇者の生まれ変わりってことは・・・


「ま、またわたしを殺そうとするの?」


今度はディルの後ろに隠れて、恐る恐る聞いてみる。後ろにいるローラから物凄い不穏な空気を感じるけど、気にしてらんない。


「まさか! 殺さねぇよ! 生まれ変わりっつっても、そん時の記憶はほとんどねぇからな。お前さんのことだって断片的にしか記憶してねぇし、別に興味もねぇ。・・・まぁ、生まれ変わりだのは全く気にしねぇで接してくれ。さすがに初対面でこうも怖がられるのはちょっと傷付くぜ」

「う、うん。ごめん」


ダリアは出来るだけわたしを怖がらせないように、ぎこちなくニコリと笑った。


 悪い人ではなさそうだけど・・・やっぱり怖いからちょっと距離をとっておこっと。


・・・。


メイドのヨモギちゃんとツクシちゃんが「コンフィーヤ公爵をお呼びしてきます」と言って部屋から出ていったのを見計らって、ダリア達ツルツル海賊団にわたし達の状況を話した。・・・ディルが。


「・・・つまり、泡沫島に捕らえられた妖精達とディルの親父さんを助けに行きてぇんだな」

「そういうことだ・・・船、出してくれるか?」

「それは構わねぇが・・・」


ダリアはそう言いながらメイド服姿で遊ばれてるウィックを見やる。


「ウィックの記憶喪失が心配か?」

「いや、別に心配はしてねぇよ。・・・光の大妖精曰く、そのうち戻るんだろ?」

「う、うん。もどるよ」


ローラと手を繋ぎながらコクリと頷く。


「泡沫島の場所は分かるし、そこまで船で連れてくのも、救出に協力するのも構わねぇよ」

「じゃあ、何でそんな煮え切らない態度なんだよ」

「・・・ウィックの出身が泡沫島なんだよ」

「そうなのか・・・え? ウィックが? マジで?」


 泡沫島って研究者の集まりなんだよね? バカなウィックがそんな泡沫島の出身だなんて思えないんだけど・・・。


「まぁ、こいつも飄々としてるようで訳アリなんだよ。・・・変な心配させて悪かったな。いいぜ! ディルの坊主親子と光の大妖精姉妹、船に乗せてやるよ!」

「そっか! 姉御ならそう言ってくれると思ってたよ!」

「可愛い弟子の頼みだからな」


 で、弟子? さっきから思ってたけど、ディルとダリアはいったいどういう関係なの?


訝しげに見るわたしに、ダリアが「ああ」と含みのある笑みでディルとの関係を教えてくれる。


「坊主には恋愛のあれこれについて色々と教えてやったんだよ」


 れ、恋愛のあれこれ!? あれこれって何!? あんなことや、こんなこと・・・そーんなことまで教えて貰っちゃったの!?


「お姉ちゃん!? 顔が真っ赤だよ!? ・・・ちょっと! お姉ちゃんをイジメないでよ!!」

「おいおい! ポカポカと顔を叩くな! 何だよ? 別にイジメてねぇだろ・・・なぁ、ディル?」

「ハァ、全然話が進まねぇ・・・」


何やら言い合いを始めたダリアとディルとローラは放っておいて、残りの海賊達にローラとディルのお母さんを紹介してたら、メイドのヨモギちゃんとツクシちゃんがコンフィーヤ公爵を連れて来た。


「・・・なるほど、そうですか。では、すぐに泡沫島に向けて出発してしまうのですね」


コンフィーヤ公爵は心なしかしょんぼりしたように言う。わたしは用意された机の上でメイドのヨモギちゃんとツクシちゃんに優しく頭を撫でられながら、コンフィーヤ公爵を見上げて首を傾げる。サディが羨ましそうにヨモギちゃん達を見てるけど気にしない。


「何かあったの?」

「あぁ、いえ、すいません。私の妻のカラスーリと国王陛下がソニア様にお会いしたいと言っていたので・・・」

「そうなんだ! 王様の顔はあんまり覚えてないけど、カラスーリには私も会いたいな! 今来れないの?」

「はい。陛下は元より忙しい身ですし、カラスーリも隣国であるミリド王国の件や、ルイヴさんの捜索の件・・・それから私のダイエットの件などでとても忙しくしていまして」

「そっか~・・・。コンフィーヤ公爵、少し痩せたね?」

「っ! ありがとうございます!!」


 すごい・・・コンフィーヤ公爵のこんな笑顔初めて見たよ。まぁ、瘦せたと言っても、言われなきゃ分かんないレベルだけどね。


「じゃあ、色々と落ち着いたら緑の森に帰るから・・・」


 あれ? わたしの帰る場所って緑の森だっけ? それとも南の果てだっけ?


「えっと・・・とりあえず、また来るからね!その時お話しようねってカラスーリに伝えておいて!」

「はい。必ず。それと国王陛下にも」


 うん。王様の顔はマジで覚えてないけど。


「では、港町に向かう馬車はこちらでご用意しておきますので、他に何か入り用でしたらメイドに申し付けてください」

「あ、じゃあさっ。服ってないかな?」


「はいはい!」と挙手しながら元気に言う。


「服ですか?」

「そう服! わたし、今はちっちゃいけど、本来は人間と同じサイズなんだよね」

「ほう・・・そうだったのですか。それは大変麗しいでしょうな」


 麗しいなんて褒め言葉、初めて言われたよ。なんか大袈裟すぎてピンとこない。


「それで、今このまま大きくなっちゃったらこの服がズタズタに千切れちゃうわけ」

「そのちっちゃなメイド服がですか」

「そう。このメイド服が」


 いや、そこはいいんだよ。渡されたのがコレだったから仕方なく着てるけど、正直もっと普通な服に着替えたい。人間サイズの時に着てたミニスカメイド服よりはマシなんだけどね。今はくるぶしまであるから。


「だから、新しい服が欲しいってわけ!」

「分かりました。では、人間のサイズになった時の身長をお伺いしても?」

「えーと・・・これくらいかな?」


自分が人間サイズになった時の頭くらいの位置に浮いてみせる。


「なるほど。・・・少し大きめの子供サイズ・・・っと」


 ん? 気のせいかな? 子供サイズって聞こえたような・・・。


「では、そのサイズのメイド服を用意させますね」

「え、いやいや、メイド服ちゃうよ。普通の服でいいよ?」


 どうして当然のようにメイド服を着ることになってるのかな?


「メイドでもないわたしがメイド服なんて、正直恥ずかしくて着たくないし、今も出来れば早く着替えたいもん」


メイド服姿のウィックが真顔で「え?」とわたしを見てくるけど、不思議と可哀そうだとは思わない。


「ですが、すぐにご用意出来るのはメイド服くらいしか・・・」

「なんか適当なTシャツとかないの?」

「兵士や騎士が着ているものならございますが・・・」

「それは嫌だ」


 だって汗臭そうだもん。いや、汗臭いのは訓練を頑張ってる証なんだけどね。それはそれだよ。


「じゃあ、もう、服はいいや。最悪、ディルの服を着よっかな。背中に羽を出すようの穴開けて」

「え、俺の服か!?」


ローラ達と言い合ってたディルが、いつの間にかわたしの背後にいた。その横にはローラとサディもいる。ダリアは更に後ろの方でメイド服姿のウィックを見て爆笑してる。


「お姉ちゃんが男の使用済みの服を着るなんて絶対に反対!!」


 使用済みって・・・言い方が何か犯罪っぽいよ。


「ローラの言い分はともかく、俺の服はソニアには大き過ぎるだろ」


わたしはディルの足から頭まで観察する。


「いや、少し大きいかもしれないけど、着れないほどじゃないよ」

「いいや。無理だ。大きい。肩幅とか全然違うだろ」

「それくらい腕をまくったりすれば何とかなるよ」

「ズボンだって裾が・・・」

「それも捲ればいいじゃん」


「いやでも・・・」と何かと理由を付けて断ろうとするディル。自分の服をわたしが着るのがどうしても嫌らしい。


 というか、単に身長が小さいと思われたくないだけだよね・・・。気持ちは分かるけどさ。


「っていうか、ソニアの服ならお母さんが貸せばいいだろ!? 着替えくらい持ってるよな!? 俺の服みたいに()()()やつじゃなくて、ソニアが着れる女の人用の()()()やつ!」


集中線が見えるくらいの勢いでサディに詰め寄るディル。必死か。


「あるけど・・・私のだと逆に小さいかもしれないわ」


サディはそう言いながら、自分の胸とわたしの胸を見比べる。ディルはわたしの胸をチラチラ見ながら、少し頬を染めて恥ずかしそうに「うっ・・・」と言葉を詰まらせた。

 

 そんなにチラチラ見られたら、さすがに恥ずかしいよ。


胸を手で隠すと、ディルはバツが悪そうに視線を逸らす。


「・・・分かったよ。必要な時は俺の服を貸すよ」

「やった! ありがとっ!」


バンザイして喜ぶわたしに、ローラが「もしかしてお姉ちゃん。ただコイツの服を着たかっただけとか・・・?」とジト目で見てくるけど、別にそんなんじゃないよ。・・・そんなんじゃないよ!! 本当だよ!!!!

読んでくださりありがとうございます。

ソニア「メイド服なんて・・・」(*´з`)  (゜-゜) ウィック「え?」

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