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305.「これっきり」じゃなくて「これから」

「・・・そうして、ルイヴと緑の大妖精が消えたあと、私はグリューン王国に行って国に事情を説明して、捜索隊を出して貰ったというわけ」


そして情報が届いたらいち早く救出に向かう為にグリューン王国で待機してたところ、宿の近くの門が魔物に襲われてたから助けに入った・・・ってことらしい。


「まぁ、だいたい行方の検討は付いているんだけど・・・そんな不確かな予想で国は動いてくれないし、私一人でどうにか出来るとも思えないから、こうしてもどかしい気持ちで待っていたの」


サディが泊ってるという宿の部屋でお互いの状況を一通り説明し終わったわたし達は、一斉に「はぁ・・・」と溜息を吐く。


ちなみに、ウィックはこの部屋にはいない。「記憶喪失になっちゃいました」って感じのメモを渡して、門番さんの案内のしてもらって城に滞在してるらしい仲間の海賊達と先に合流してもらってる。


 それにしても気まずい・・・かなり気まずい。説明をし合ってる間は良かったけど、終わった途端にシーンだよ。特にディルとサディなんて目も合わせようとしない。


「ねぇ、お姉ちゃん。結局この人ってお姉ちゃんの敵なの? 味方なの?」


ベッドに腰掛けてるサディと向かい合うように浮いていたわたしに、ローラがちょいちょいと突きながら聞いてくる。すると、わたしが何か言う前にサディが口を開いた。


「光の大妖精ソニア・・・いえ、光の大妖精様。あの時は本当にごめんなさい」


そう言って頭を下げるサディを、ディルが無表情で見ている。というか、ローラも無表情で見ている。


 ローラはただ興味が薄いだけだと思うけど、ディルはどんな気持ちで自分のお母さんを見てるんだろう?


「私は・・・私とルイヴは、光の大妖精が完全に記憶を取り戻せば、2000年前の記録のようにまた人類が危機に陥ると思っていたの。ルイヴが2000年前の勇者の子孫で、代々受け継いできた勇者の手記にそう記してあったから・・・」


 2000年前の勇者・・・。


眉間を貫かれた記憶が蘇って、思わずブルルッと身震いする。でも、ローラが「大丈夫?」と身を寄せてくれたおかげで心があったかくなった。


 大丈夫。大妖精達は捕まっちゃったけど、私はまだ一人じゃない。皆で戦えば何も怖くなんかない。


「光の大妖精様が記憶を取り戻したあと、私達は人類の危機に備えて各地を巡ったわ。・・・でも、魔物の数こそ増えてるものの・・・それだけだった。大妖精が人間に何かしたという情報もなく、それどころか、金髪の妖精に助けて貰ったという国がいくつもあったわ。このグリューン王国を含めてね」


ローラが「さすがお姉ちゃん! イケメン!」と褒めてくれる。普段されない褒め方をされるものだから照れちゃう。


「私とルイヴは話し合って、大妖精達のことを誤解していたんじゃないかってなったのよ。実際にさっきは魔物から助けて貰ったし、こうして目の前で会話しても全然危険そうに感じないし・・・」


「酔ったら危険だけどね」とボソッと呟くローラの頭をペシッと叩く。


「許して欲しいとは言わないわ。・・・ただ、もう私達に大妖精をどうにかしようって気持ちは全くないの。これだけは分かって欲しい」

「うん。わかった」


コクリと頷くわたしに、サディは面食らったような顔をする。


「あ、そうなの・・・ありがとう?」


サディは困惑してるみたいだけど、正直わたしは別にサディやルイヴを責めるつもりもないし、記憶を取り戻すのを邪魔してきたことも今はたいして気にしてない。今はそれよりも、ディルのことだ。


「あのさ、サディ。わたしに謝るよりも先に、謝るべき人がいるんじゃないの?」


わたしの言葉に、サディは椅子に座って足を組んでいるディルを見る。


 ディルはカイス妖精信仰国で両親にボコボコにされたって聞いた。・・・やったのはお父さんの方かもしれないけど、それを止めないどころか援護したんだから同罪だ。・・・まぁ、その原因を作ったのはわたしとも言えなくはないんだけど・・・それは言っちゃいけないやつだ。


「ディル・・・」


サディは何か言おうと口を開いては閉じる。そして開いては閉じる。きっと、本当はいの一番にディルに話しかけたかったけど、そんな勇気が出なかったんだろう・・・って思うのは、わたしが人間だった頃にママとパパにたくさん愛されてたからかな?


 ・・・だから、ディルにもお母さんと仲直りして欲しいんだ。


サディは何度か口の開け閉めを繰り返したあと、意を決したように息を吸い込んでまた口を開いた。


「ディ、ディル・・・その・・・ごめんなさい。人類のためだとか言って、実の息子にとんでもないことを・・・」


サディは涙を堪えるような震える声で言う。


「この期に及んでって思うかもしれない・・・だけど・・・私はまたあなたと親子に戻りたいの。昔のように、親子三人で暮らしたいの。・・・本当に、本当にごめんなさい。こんな言葉じゃあ信用できないかもしれないけど・・・今度こそ・・・もう1人にはさせないって約束するから・・・こんな駄目な母親を許してくれないかしら?」


ドキドキ・・・緊張の瞬間だ。わたしまで背筋がピンと伸びちゃうし、羽もパタパタしちゃう。


「嫌だ」


ディルは無表情のまま少し俯いて、一言だけそう言った。


「え・・・」

「お母さんはさ。もし、またソニアが人類にとって危険だって分かったら、どうするんだ?」

「そ、それは・・・」


サディは言葉に詰まったように視線を彷徨わす。そして、わたしを見る。


「わたし人間の味方! そんなことしないよ!」


また敵認定されたら嫌だから、ブンブンと必死に首を振る。ローラに「お姉ちゃん、ちょっと空気読もうね」って口を塞がれた。


「俺がソニアの味方をすれば、またお母さん達は敵になるんだろ? ・・・結果論だ。ソニアが人間の味方だって、そんなことしないって言ってるからこういう状況になってるだけで、結局は俺も、お母さんも何も変わってない。同じことがあれば同じことをする。だからお母さんの『1人にしない』っていう約束も信じられないし、そもそもお父さんからは死んでもおかしくない攻撃を受けてる。今更親子だなんて・・・」


 わ、わたしはもう人間の敵になったりしないからお母さんの約束は信じてもいいと思うんだけど・・・。


モゴモゴと口を動かすけど、ローラに口を塞がれてるせいで喋れない。


「確かに俺もお母さん達を探す為に村を出て、旅をしてた。でも、俺はもうお母さん達よりも大切な存在を見付けたんだ」


そう言いながら、ディルはわたしを見る。


 そう言ってくれるのは嬉しいんだけど・・・。


チラッとサディを見ると、必死に感情を嚙み殺すような苦渋の表情をして、膝の上に置く手を震わせていた。


「モゴモゴ・・・」


「わたしよりも今はお母さんと・・・」って言いたいけど、やっぱりローラに口を塞がれて喋れない。


 普段それほどお喋りじゃないディルが、こんなに1人で喋り続けるなんて・・・きっとお母さんとたくさんお喋りしたいからに違いない!! ・・・いや、そうじゃないよね。


「そういうわけだから・・・ソニアの大切な家族を助けるついでにお父さんも助けるけど、もうお母さん達とはこれっき――――」


 ディル!!!!


「・・・っ!?」


思わずテレパシーを送っちゃった。自分でも咄嗟ののことで、「あっ、そういえば通信(テレパシー)なんてできたっけ」ってなってる。でも、さすがにサディのあんな辛そうな顔を見たらテレパシーでもして止めたくなるよ。いよいよ泣いちゃってるもん・・・。


(ソニア・・・)


ディルは鳩が豆鉄砲を食ったような顔でわたしを見たあと、ハッと自分の左手の薬指に嵌められている指輪を見て、わたしにテレパシーを送ってきた。


(そういえば、この指輪に嵌められてる魔石を使えば、俺からもソニアにテレパシー?ってのを送れるんだったな・・・それで、何だよ? ソニア)


ジトーッとした目でわたしを見てくる。「口を出さないでくれ」とその目が物語っているけど、わたしは口を出す。・・・実際には口じゃなくてテレパシーだけど。


 ディル・・・それで後悔しない? お母さんとの繋がりを絶って、後悔しない?


サディがぐすぐすとすすり泣く音が聞こえる部屋の中、ディルは(後悔しない)とわたしに伝えた。


 そっか・・・。


思った以上に、ディルとサディの間にある溝は深かったのかもしれない。


(本当にそれで後悔しないの? アンタ)


ローラの声が脳内に響いた。ディルも驚いた顔でわたしの口を塞いでる最中のローラを見つめる。


 そっか。オーロラの妖精のローラもわたしの眷属だから、同じように通信できるんだ。


(後悔しないって言ってるだろ・・・)

(数十年後になっても? アンタの知らない所で両親が死んで、その情報を知ったあとでも同じことを言える? )

(・・・)

(アンタがさっき言おうとしてた()()()()()っていうのは、そういうことだよ。もう、どっちかが死ぬまで・・・死んでも会わないってことだよ? それでも、アンタは後悔しないって言い切れるの?)


 ローラ・・・。


人間だった頃のママとパパの顔を思い出して、目頭が熱くなる。気が付けばローラはわたしの口から手を放して、真剣な眼差しでディルを見つめていた。そんなローラを見ていたら、わたしが涙目になっていることに気が付いて、ギュッと抱きしめてくれた。


 ディル。やっぱり家族は大切にしないと・・・ダメだよ。


抱きしめてくれるローラの手を握りながら、ディルを見つめる。ディルはガシガシとわざとらしく頭を掻きながら「はぁ~~~」と大きな溜息を吐いたあと、サディに視線を向けた。


「お母さん」

「な、なにかしら・・・」


サディはハッとしたように涙を拭って、顔を上げる。


「とりあえず、一緒にお父さんを助けに行こう」

「っ!! ・・・い、いいの?」


サディに懇願するように見つめられたディルは、チラッとわたしを見て言う。


「ソニアが家族は大切にしろって言うからだ! ・・・だから、その・・・とりあえず! ()()()()()じゃなくて、()()()()のことを考えるんだよ!」


ディルは早口で言う。その顔がさっきよりも明るく見えるのは、もしかしたらディル自身、無意識の中でお母さんと仲直りしたかったのかもしれない。


「・・・ディルっ!」


サディが感極まったようにディルに抱き着こうとするけど、ディルは肘をピンと伸ばして突っぱねる。


「さすがにそれは・・・俺、もうそんな子供じゃないし・・・」


恥ずかしそうにわたしのことをチラチラ見ながら言う。


 なんか、中学校の頃、両親と一緒に仲良く買い物に来てたところをわたしに見られた近所の佐藤君を思い出した。・・・そういう年頃なんだね。


「えっと・・・ソニア様。その・・・ありがとう」


ディルに突っぱねられたサディが、姿勢を正してわたしに頭を下げる。わたしはそんなサディの隣りでまだ恥ずかしそうにしてるディルを見たあと、サディの目の前まで移動して、そっと頭に手を置く。


「頭を上げて? 別にわたしはお礼を言われるようなことはしてないよ」

「・・・いいえ。そんなことないわ。私達がいない間、ディルがこんなにも真っ直ぐに育ったのは、きっと貴女のおかげだわ」

「いやいやいや、それは違うよ!わたしがディルと出会った時には既にサディ達が居なくなってから5年が経ってたもん! ディルが真っ直ぐに育ったのは、それまでのお母さん達との思い出が素敵なものだったからだよ!」


わたしが手を振りながらそう言う隣りで、ローラがボソッと「言うほど真っ直ぐに育ってるかね」といらんことを言うので、とりあえず肘鉄を入れておく。


「あ、あと、ソニア様はやめてね。ディルのお母さんにそんな余所余所しい呼ばれかたされたくないから」

「じゃあ・・・なんと呼べばいいかしら?」

「様以外なら好きなように呼んでいいよ!」


サディは難しい顔で「うーん」と考え始める。


 そんな悩むことかね?


「ソニアちゃん・・・だと()()歳上だし失礼よね? でもソニアさんも何か違和感があるし・・・」


 もしかして、わたし今、失礼なこと言われてる?


「やっぱり、ソニアちゃんの方がしっくりくるわね・・・」


何か含みのある言い方だけど、サディはわたしのことを「ちゃん」呼びにしたらしい。


「じゃあ、ソニアちゃん。これからよろしくね」


サディはそう言って、わたしに小指を差し出してきた。わたしはその小指を両手で握ろうとして・・・


「ふぎゅぅ?」


サディに小指で頬を潰された。そしてそのままウリウリと撫でくり回される。わたしの隣りでローラが「お姉ちゃんに何すんの!」と憤慨し、サディの隣りではディルが何か吹っ切れたようなイイ顔で「ソニア、変な顔・・・ぷっ」と笑っていた。


「フフッ、今までは人類の敵だと思ってたらあんまり容姿を見てなかったけど・・・フフフッ、こうして近くで見て触れてみると、とっても愛らしいのね。・・・私、実はちっちゃくて可愛いものが大好きなのよ」


 ひぃ!? 目が何かこわいよ!?ちょっと ディル!? どうして横で「よく分かってるじゃん」みたいな納得顔で頷いてるの!? さっきまでめちゃくちゃ険悪な雰囲気だったよね!?


ディルとお母さんが仲直り?出来て良かったけど、わたしは身の危険を感じて隣りで浮いてるローラの手をギュッと握った。


「ふへへっ」


ローラが気持ち悪い笑い方をして、一瞬だけそんなサディと同じような目をしてたように見えたけど、気のせいに違いない。

読んでくださりありがとうございます。

つД`)「ふぎゅぅ?」

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