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304.【ジニア】迫りくるもの

「私は怒ってるわ」


グリューン王国の港町。そこのちょっとした広場で、私はベンチの上に立って腕を組む。


「私は! とても!怒ってるわ!」


ベンチの上で腕を組みながら、隣に座ってるリナムを見下ろしながら言う。


「確かに誰にも何も言わずにフラッと離れちゃったのはいけなかったと思うわ! でも、だからって置いて行くことないじゃない!」


皆と一緒に歩いてる時に、美味しそうな果物がたくさん並べてあるのを見かけたから、少し皆から離れてパクっと一口。そしたら何故か近くに立ってた人間が「カネを渡せ」と怒鳴ってきて、「知らないわよ!」と返したらもっと怒鳴ってきた。意味が分からない。お陰で人間と言い合ってるうちに皆に置いて行かれちゃったし、リナムが迎えに来てくれたと思ったら・・・


「困りましたね・・・道を忘れてしまいました。というか、ソニア達がどこに向かってたかも忘れてしまいました」


このザマよ・・・普段から物忘れが酷いリナムだけど、こういう場面では本当に勘弁して欲しいわよね。


「あー! あの人ベンチに立ってるー! ダメなんだー!」


幼い男の子が私を指差してくる。


「うるさい! 誰に向かって指差してるのよ!」

「ひぃ! ・・・う、うわぁあああん! ママァ!」


男の子は泣きながら何処かに走り去っていった。


「ジニア・・・大人げないですよ。いくら腹が立ってるからって幼い子供に・・・」

「うるさい!うるさい!うるさーい!! リナムは早くソニアちゃん達との合流場所を思い出しなさいよ!」

「ハァ・・・末っ子だからと、皆が何だかんだと甘やかしてたせいでジニアがこんなに我儘な妖精になってしまいました」

「甘やかされてた? 私が? もしそうだったとしたらこんな置いてけぼりになんてされないわよ!」


 せっかく美味しい果物を持ってってソニアちゃんにいっぱい褒めてもらおうと思ってたのに!


「もう・・・こんなことならソニアちゃんにびったりくっついておけばよかったわ・・・っとっと!」


ベンチから降りようとしたところで、足が滑って勢いよくずり落ちてしまった。


「ちょっとリナム~。傍にいるなら支えてくれても・・・あれ? リナム?」


ベンチに手をついて見上げると、そこに座っていたハズのリナムが居なくなっていた。


「リナムー? どこいったのー?」


 こんな悪戯するなんて真面目なリナムにしては珍しいわね・・・。


キョロキョロと見回していたら、背後にゾワッとした恐怖を覚えて、私はすぐに頭を抑えて屈んだ。


 ・・・ん? 何も起こらない?


恐る恐る起き上がると、今度はベンチが消えていた。


「え・・・なにこれ・・・」


 何だか分からないけど、ヤバいわ!


「逃げないと!!」


 何かに狙われてるっぽいのは確かね! リナムのことは心配だけど、まずはこのことをソニアちゃん達に伝えないと!


私は死角を無くすために後頭部にも目を付けて走りだす。


 どこに行けばいいか分かんないけど、とにかく走るわ!


広場から抜けたところで、後頭部に付けている目が凄いものを捉えた。


 うわっ! 何よあれ!


ソニアちゃんがたまに使う光のビーム。あれを黒色にしたみたいなビームが音もなく私に迫ってきていた。


「あっ・・・ぶない!」


地面をゴロゴロと転がって間一髪で躱す。そして、黒いビームは私が躱したことによって近くにあったお店の看板に当たり、看板は消失した。


「ま、マジで・・・?」


 もしかして、リナムもこうやって消えたの?


ゾワゾワっと背筋に悪寒が走る。


「でも、射線は捉えたわよ!」


 誰だか知らないけど、あれを撃ったやつを殺してしまえばそれまでよ!


姿さえ確認出来れば、あとはそいつの細胞をバラバラにしてやれば終わりだ。・・・そう。姿さえ確認出来れば。


「いない・・・」


射線を辿って建物の上まですっ飛んできたけど、誰もいなかった。


「おかしいわね・・・確かにここから撃ってきてたハズなん―――!?」


また背後から黒いビームが襲ってきた。私は体を妖精サイズにして何とか回避する。


 後ろに目を付けておいて本当に正解だったわね・・・。


また射線を辿って追ってみたけど、誰もそこにはいなかった。


「いったいどうなってるのよ・・・」


妖精サイズのままキョロキョロと辺りを見回すけど、それらしい奴は見当たらないし、野次馬ばかり増えていく。


「見ろ・・・妖精様がいるぞ・・・」

「緑色の髪ってことは、雷の妖精のソニア様とは別の妖精様かな?」

「ちっちゃくて可愛いわ~」


 鬱陶しいわね・・・こんな人だかりの中でまた黒いビームが来たらどうすんのよ。


「緑の大妖精・・・」


聞き覚えのある声がしてその声の方を見ると、それらしい奴が人だかりの中で立っていた。


「アンタは!!」


私はそいつの足元から蔦を伸ばして、体を絡めとるようにして拘束する。私が突然人間を襲ったと思ったのか、「きゃー!」「わー!」と人だかりが面白いくらいに霧散していった。


「今度という今度は許さないわよ! リナムをどこにやったのよ! 早く返しなさい!」

「むごー!!」


口まで塞いでしまったせいで、喋れないみたいだ。


「緑の大妖精! 何か誤解してるわ! 私達はあれ以来妖精達に何もしてないわ!」


隣に立ってる茶髪緑目の女性が男を庇うようにして叫ぶ。


「あんたは・・・」

「サディよ」


 ちゃんと覚えてるわ。確か、こいつのパートナーだったわよね。この・・・勇者の子孫でディルの父親の男で、ソニアちゃんの記憶を取り戻すのを邪魔する為に協力していた人間。


「そっちの男は、ルイヴだったわね」


 結局はソニアちゃんを排除しようとしたとんでもない人間。私達の敵。


ルイヴは蔦を振り切ろうと体に力を入れてるみたいだけど、そんな人間の力でどうにかなるようなものではない。身体強化でもすれば分からないけど、こいつの装備に魔石は見当たらない。


「何が誤解よ! 私はさっきから黒いビームに襲われてんにょっ・・・」


 噛んだ・・・。


「私はさっきから黒いビームに・・・」

「危ないわっ!」


サディが後ろを指差して叫ぶ。


 言われなくとも分かってるわよ! 私の後頭部にはまだ目が付いてるんだから!


サッと下に降下して避ける。体が小さいと小回りが利いていい。


黒いビームは私の真上を通り過ぎ、そして・・・


「ルイヴ!!」


サディがそう叫んだ瞬間、黒いビームは私が蔦で拘束していたルイヴに見事的中し、ルイヴはその場から姿を消した。


「ふぅ・・・危なかったわ」

「噓でしょ・・・」


胸を撫でおろして安堵する私と、目を見開いて驚愕するサディ。


「あれ? でも、おかしいわね・・・どうしてルイヴがここにいるのに黒いビームが? 私を襲ってたのはルイヴじゃなかったのかしら?」

「だから誤解だって言ってるじゃない! どういう状況か知らないけど、私達は何もしてないわ!」


驚愕してたかと思えば、今度は憤慨するサディ。


「じゃあ、ここで何してんのよ! 紛らわしいのよ!」

「私達は息子を探して・・・って、うしろ!」


 分かってるって!


私はバッと後ろを振り返る。


「ちょっとやり方を変えてきたわね・・・」


今度は黒いビームではなく、普通に網が飛んできた。


 私を捕獲したいって意思をひしひしと感じるわね・・・。


「馬鹿にしないでよ! こんな網、どうとでもなるわ!」


私は蔦の網を生み出し、網を逆に網で捕獲する。


「妖精を馬鹿にしないでよね!!」


腰に手を当ててそう胸を張った瞬間、私の目の前には黒いビームがあった。


「はぇ?」


視界が暗転・・・そして次に見えた光景は、リナムによって水球に閉じ込められるルイヴだった。


「え・・・どこ、ここ?」

「あ、ジニア。さっきぶりですね」

「がぼぼぼぼ」


冷静にニコリと笑うリナムと、苦しそうに水球の中でもがくルイヴ。


「どういう状況なの? これ・・・」

「さぁ・・・何者かに捕獲されたということ以外は何も・・・」


リナムは私達が閉じ込められてる部屋を見回しながら言う。


黒一色の部屋で、よく見ないと壁がどこかも分からないくらいだ。ただ、明かりはあるようで私達の姿は見えるし、よく見れば黒いビームによって消えたベンチやら看板やらも転がってる。


「それで、どうしてルイヴを水球に閉じ込めてるのよ? 苦しそうよ?」


私も酸素が無いと活動出来ないから、その苦しさも少しは分かる。


「特に意味はないですよ。ただ、知らない人間が急に現れたから、身の安全のために水球に閉じ込めただけです」

「そうなんだ・・・」


 まぁ、私も蔦で拘束してたし、何も言えないわね。


「とりあえず、解放してあげましょ。こいつはたぶん大丈夫よ」


リナムは渋々といった感じでルイヴを解放する。


「ハァ・・・ハァ・・・妖精ってやつは本当に・・・」


肩で息をするルイヴに、私は遠慮なく質問する。


「ここはどこなの?」

「だから俺達は何もしてねぇから知るわけねぇだろ・・・って言いてぇところだけど、心当たりはあんだよなぁ」

「余計なことをごちゃごちゃ言わなくていいから、質問に答えなさいよ」


ルイヴは面白く無さそうな顔で「ハァ」とまたため息を吐いたあと、口を開く。


「たぶん・・・いや、確実にここは泡沫島の中だ」

「うたかたじまぁ? 何よそれ」

「欲深い研究者達が集まる国・・・みたいなもんだ」

「は?」

「恐らく、妖精を研究するためにお前達を捕獲したんだろう」


 私達を研究? ふざけたことを考えるのね。こんな壁、すぐに壊してやるわ!


出来得る限りの手段を用いて壁を破壊しようとしたけど、まったく壊れなかった。


「なによこれ・・・頑丈すぎでしょ・・・ていうかリナムも少しは手伝いなさいよ!」

「既に私も同じことをやったあとです」

「あ、そう・・・」

「あいつらは対妖精用に色んなもんを研究して作ってたからな・・・そう簡単に壊れねぇだろ・・・」


ルイヴがコンコンと壁を叩きながら「変な材質だな」と呟く。


「ところで、アンタは大妖精を排除しようとしてたんじゃないの?」

「あぁ・・・そうだったんだがな。・・・まぁ、なんつうか・・・あのあと色々ともう一度世界を見て回って、考えが変わったっつーか・・・ハァ、こういう説明はサディの方が得意なんだけどな・・・」


ルイヴはガシガシと頭を掻いたあと、「とにかく!」と自分の膝をバンッと叩く。


「今はお前達妖精と敵対する気はねぇ。それは信用してくれ」

「信用はしないけど、今は吞み込んでおくわ」


 ソニアちゃんを排除しようとしたことは忘れないわよ。


そして、それからたぶん数日が経った。太陽が見えないせいで時間が分からないし、光合成が出来ないし、部屋に通気口が無いから余計に体の調子が悪い、っていうか碌に動けない。リナムの出してくれる水で私とルイヴもなんとか意識を保ってるくらいだ。


「もう・・・何なのよ・・・何もしてこないなら解放しなさいよね・・・」

「今は、研究よりも、捕獲に、力を注いでる、っぽい」

「そうなんだ。エリカ。・・・え、エリカ!?」


いつの間にかエリカが部屋の隅に立ってた。ソニアちゃんがいないから無表情だ。


「ジニア達の声が消えたから、ソニア達とは別行動で、ケイトと一緒に探してたら、このザマ」

「エリカも捕まっちゃったんですね」

「うん。吸音性能のあるものや、気体を変換する魔道具とかを使って、完全に僕の対策をしてた」


 気体・・・そう気体!


「え、エリカ! 空気作って! もう限界なのよ!」

「俺からも・・・頼む」


エリカは部屋の隅々まで見回したあと、状況を察したようで、すぐに酸素を作り出してくれた。


「ふぅ・・・これでとりあえず安心ね・・・」

「安心してる場合じゃない。あいつらは、思っている以上に、手強いし、用意周到、たぶん、次はビオラやアケビ、そしてソニアを狙うハズ」

「・・・そんな、ソニアちゃんまで・・・」


 私達はともかく、ソニアちゃんは精神が弱々だもの。ソニアちゃんが綺麗な心に傷を負ってしまったら大変だわ!


「・・・あれ? ケイトの名前が無いようですが」

「すぐに、くると思う」


エリカの言う通り、ケイトもすぐにこっちに来た。


「きぃいいいいい! 悔しい!! 何なんだあいつら! 温度が変化しない変な液体使ってきやがって! 完全にアタイの対策してるじゃねぇかよ!!」

「ちょっ、熱いわよ! ケイト! 悔しいからって炎をまき散らさないで! リナム! 消してよ!」


そして、さらに数日後・・・とうとうビオラとアケビまでもやって来た。


「アケビが躊躇しているせいで、私まで捕まってしまったじゃない」

「だって・・・あいつら、私達が大人しくしないとジニア達をひどい目に合わせるって言うんだよ・・・」

「だから何よ。私達までも捕まったら、ソニアが1人ぼっちになってしまうのよ?」

「そうだけど・・・ジニア達がひどい目に遭うのも嫌だよ・・・」

「これでソニアまでもが捕まってしまったら、漏れなく全員がひどい目に遭うことになってしまうのよ?」

「うぅ・・・」


 アケビがビオラに怒られてる・・・。


それから程なくして、何故か莢蒾(ガマズミ)妖精が捕獲されてきた。

読んでくださりありがとうございます。

ルイヴ(こいつら騒がしいな・・・)

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