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303.気を抜いてたわけじゃないんだからねっ!!

「そ、そんなぁ・・・まさかヒカリちゃんが・・・あの光の大妖精様だったなんて・・・」


変な方向に曲がった手首をマリちゃんに治して貰ってる最中のザックが、「俺のこの想いはどうしたら・・・」と、意味の分からないことを呟きながら項垂れてる。

そんなザックをローラと一緒にテーブルの上から見下ろしていると、壁に寄りかかってわたし達の様子を見ていたディルが呆れたように呟いた。


「まったく・・・情けないやつだな。俺はソニアが大妖精だろうが、人間だろうが、例え幼女だろうが気にしないけどな」

「わたしも、ディルが例え幼い男の子でも気にしないよ」


お互いに「何を」とは言わないけど、お互いの気持ちは伝わってる気がする。たぶん。ローラが「お姉ちゃんが幼い男の子とか言うとガチな感じがある」とか言ってるけど、気にしない。気にしないけど、軽く太ももを蹴ってやる。


「それでソニア。俺はもう出発の準備出来てるし、何故か裸だったウィックも服を見つけて着たし・・・いつ出発するんだ?」


 そっか。前は「ディルの両親を探す」っていう、ディルの目的にわたしが同行する形だったけど、今回はわたしの「他の大妖精達を助ける」っていう、わたしの目的にディルが同行してくれるんだ。だから、わたしがリーダーなんだね。


「よしっ、今から出発しよう! ヨーム達とアネモネの顔合わせは済んだし、食糧も少しだけど分けて貰えた! 出来ればわたしの人間サイズの服を一着くらい欲しかったけど、それはまぁ、いいや」


 メイド服ならあるんだけど、ミニスカートなうえに、何故かドロワーズが失くなってるんだよね。まぁ、脱ぎっぱなしにした下着が行方不明になるなんてことは人間の頃によくあったからそこはいいんだけど、問題は替えのドロワーズが無いってことだよね。さすがにノーパンは嫌だ。


「やり残しは無いし、早く皆を助けに行こう!」

「ちょっと待ってお姉ちゃん!」

「うひゃあ!」


ローラに急に羽を掴まれた。思わず飛び跳ねちゃう。


「ローラ! ローラは経験ないかも知れないけど、羽を掴まれたら・・・」

「お姉ちゃん! 私は反対だよ!」

「へ? 何が?」

「こいつを連れていくことだよ!!」


ローラはビシッと、ビシビシッと、間抜けな顔で頭を搔いてるウィックを指差す。わたしが記憶喪失にしちゃってから、何だか大人しくなった。前はちょっとうるさかったから丁度いいかもしれない。


「この男、お姉ちゃんをいやらしい目で見てたし、さっきなんて裸だったじゃん! そんな男をお姉ちゃんの傍にいさせるなんて私は反対だからね!」


 うん。わたし達がアネモネのところから帰ってきたら、何故か裸だったもんね。なかなかいい肉体だった。大事なところはローラとナナちゃんが間一髪でモザイクを付けたお陰で見えなかったけど。


「その内自然と記憶は戻るだろうから連れてこうかなって思ったけど、ローラが嫌っていうなら別にいいや。置いて行こっと」

「いやいやいや。ウィックは連れていくぞ。俺達はウィックが乗ってる海賊船でグリューン王国まで海を渡って来て、今もそこでウィックの仲間達が・・・あ」


ディルが話してる途中で急に固まった。


「え、どしたの?」

「いや・・・何でもない。たぶん大丈夫だろ。・・・とにかく。グリューン王国でウィックの仲間達が待ってるんだ。記憶喪失なら尚更送ってやらないと可哀想だ」

「そうだね。ディルがそう言うならウィックは連れて行こうかな」

「ちょっと! お姉ちゃん! しっかりと自分の意思を持って! こんな奴よりも私を選んでよ!」


ローラがそう言いながらグイグイと腕を引っ張ってくる。


「いやだって、ディルの言う事はもっともだし・・・」

「ソニアは自分の意思で選んだんだ。ローラがこれ以上口出しすことじゃないぞ」

「はぁ!? 男の癖に私とお姉ちゃんの間に割って入らないでくれる!?」

「お、男の癖にってなんだよ!」


睨み合うローラとディル。わたしの視界には、そんな2人の横でザックが仲間の冒険者に慰められていて、その奥ではマリちゃんとナナちゃんとヨームが何やら話し合っている姿がある。


 他の皆みたいに2人も仲良くしてよぉ。


結局、ウィックはディルが責任を持って監視しながら連れて行くことになった。


「それじゃあ、ローラちゃんと先輩のこと、大変だと思いますけどよろしくお願いしますね。ディル君」

「そっちも。大変だと思うけどヨームとマリのこと頼むな」


 まるで保護者達が子供を預けるみたいな会話だけど、この中で一番に年長者なのはわたしで、その次はヨームだよね。


「先輩、ディル君の言うことちゃんと聞くんですよ」

「はーい」

「ローラちゃん。先輩のこと以外にもちゃんと目を向けて、視野を広く持つんですよ」

「はいはい」


 皆の前だと「先輩」呼びのナナちゃんだけど、そう呼ぶのならちゃんと先輩として敬って欲しいよね。


「ソニアちゃん。今度はちゃんと戻って来てね。じゃないと、また探しい行くからね」

「大丈夫だよ。マリちゃん。今度は記憶を失うこともないし、ちゃんと戻ってくるよ」

「ローラちゃん。また遊ばせてね!」

「え・・・」


心配性なナナちゃんとマリちゃんと、既に今後のミリド王国について難しい顔で考え込んでるヨーム達に見送られて、ちっちゃい大妖精のわたしと、ちっちゃい妹妖精のローラと、妖精の愛し子こと青年ディルと、記憶喪失の海賊ウィックは、ひとまずグリューン王国に向けて出発した。


移動手段は、アネモネが馬車をくれるらしいのでそれに乗って、御者はウィックだ。記憶喪失だけど御者は出来るっぽい。「たぶん出来るッス」って言って普通に操縦してる。正直不安だけど、よく知らない人間が御者をするよりはマシかなってことで任せてみることにした。


・・・。


「なぁソニア」

「なぁに? ディル」


グリューン王国に向かう馬車の中、ローラと一緒に椅子の上でキャッチボールを楽しんでたわたしに、ディルが何気なく尋ねる。


「大妖精達が皆捕まっちゃったんだよな?」

「う、うん。そうだね」


 過去の経験から焦ってもうまくいかないことは分かってるから、今はこうして落ち着いて行動してるわけだけど、改めて言葉にして言われるとまた焦燥感が湧き出てくる。ビオラ達がそう簡単に人間にやられるとは思わないし、大妖精は死んでも必ず復活することは分かってるんだけど、それでも家族である皆が辛い思いをしてるかもと思うと、居ても立っても居られなくなる。


「ソニアがこうして俺に助けを求めてくれたのは凄く嬉しいんだけどさ、他の妖精や、そのソニアの昔の知り合いだっていうカミサマ? とかに助けを求めるってのは出来ないのか?」

「うーん・・・他の妖精達はちょっとね。確かに鉄の妖精とか波の妖精が助けてくれたら助かるし、ドラゴン達が協力してくれたらとっても心強いよ? でもね、大妖精のわたし達でもこの有り様なのに、ただの妖精や、妖精でもない魔獣のドラゴン達が無事でいられるかは分かんないからね」


 だって、彼女達は大妖精と違って死んだらそれまでだもん。もし、そんなことになったら・・・考えただけでもこわい。


「じゃあ、カミサマは? ソニアに罰を与えたって聞いたけど、別に敵ってわけでもないんだろ?」

「カミサマねぇ・・・助けて欲しいんだけど、連絡取れないんだよね~。ローラも無理だよね?」


 ローラとナナちゃんはカミサマに転生させられたって言ってたから、もしかして・・・。


「無理だね」


 無理かぁ。


「そもそも、神様は今この世界にいないからね。大妖精達がこんな状況なのも知らないんじゃないかな?」


 確かに。もしもカミサマがこの現状を知ってたら、人間好きのカミサマも流石に人間に怒りそうだもんね。


「私達に次元を渡るような力は無いし、神様が自主的にこっちに来ないと連絡の取りようがないと思う」

「そうだよね。いつ来るんだろ・・・」

「さぁ~。あの神様って、暇そうに見えてなんか色々と忙しそうだったからね。じゃないと、わざわざ私と彩花の魂を一緒にして転生・・・なんて面倒なことせずに、本人が直接来るでしょ」

「それもそうだね・・・」


 思えば、最初にこっちの次元に来た時も300億年とかいう阿保みたいな年月を温めてから来たからね。


「一応、落ち着いたら自分で様子を見に行くとか言ってた気がするけど、いつになるか・・・」

「そうだね・・・せめて千年以内くらいに来てくれればいいんだけど・・・」

「うん。そうだね・・・え? 千年!? 長くない!?」


目を真ん丸にして驚くローラ。


「長いかな?」

「長いって! 千年も経ったら、苗木が巨大樹になって崇められるレベルの年月だよ! 人間だったら何世代も先になっちゃうから!」

「た、確かに!」


 人間の記憶と、大妖精の記憶が混じって感覚がよく分からなくなってきたよ!!


「まぁ、何にせよ。他の妖精も神様の助けも当てにできないってわけか・・・って、今更だけど、大妖精でも歯が立たなかったのに、ただの人間の俺にどうにかできるのか!?」


ディルが最近にしては珍しく弱気だ。最近って言っても、半年ぶりに会ったばかりだけど。


「目には目を歯には歯を・・・だよ。相手が人間なら、こっちも人間だよ」

「なんだそれ・・・はぁ・・・でも、そうだな。相手が人間なんだって考えたら少し気が楽になった」


 ディルには適当な風に言ったけど、でも実際、相手は完全に「対妖精」って感じだったからね。逆に人間相手の方が相性がいいんじゃないかな? ・・・それに、人間の記憶を取り戻したわたしは、色々と攻撃手段が増えてるからね。ちゃんと高校に行って大学を卒業して良かった。進学を勧めてくれたママに感謝だね。


・・・。


馬車に揺られること3日と少し、たまに襲ってくる魔物にも、記憶喪失のウィックの御者にも、そして野宿にも飽きてきた頃、ようやくグリューン王国の王都が見えてきた。


「やっとグリューン王国が見えてきたー!!」


外に出て馬車と並走して飛びながら大きくバンザイするちっちゃなわたしに、ディルが微笑ましげな表情を浮かべて頷く。


「昨日から退屈だーって言いながら何度も外に出てたもんな」


 だって馬車の中はやる事がないんだもん。たまにディルの魔石を使ってローラとキャッチボールをしてたりしたけどすぐに飽きたし、わたしが窓に張り付いて「見て見て!」ってイイ景色を共有しようとしても、ディルもローラも微笑ましいいものを見るような目で「そうだね(な)」としか言わないし・・・本当に暇だった。


「あれ? 門の前に何かいないッスか?」


御者のウィックが目を凝らしながら門の方を指差す。その言葉にディルが窓から顔を出して、同じように目を凝らす。


「本当だ。何体かの少し大型の魔物に門が襲われてるな・・・門番と・・・冒険者?っぽいのが戦ってる」


わたしも自分の目に光を集めて、望遠鏡のようにいて門の方を見る。ディルの言う通り、何処かで見た覚えがあるよう犬っぽい形の黒くて大きな魔物が数体を相手に、へっぴり腰な門番2人を庇いながら女性の冒険者が弓で必死に応戦してた。


 ・・・しょうがない。助けに行こうかな。なんか女性の冒険者が可哀想だし。


「ウィック!悪いけどもう少し馬車の速度を・・・」

「ディル! わたし先に行ってるね!!」

「は!? またそうやって・・・」

「お姉ちゃん! 私も行く!」


わたしは光の速度・・・とまではいかないけど、馬車の数十倍くらいの速さで飛翔する。光の速度で一瞬で行きたいところだけど、ローラが人様には見せられないような物凄い必死なとんでもない顔でわたしの足にしがみついてついて来てるからね。気を使わないと。


「あなた達! まだ立てないの!? 私はどちらかといえば支援が得意なタイプなのよ!?」

「す、すみません・・・腰が抜けてしまって・・・」

「去年まで見習いだったもので・・・」

「もう! いい加減にしてちょうだい! せめて増援くらい呼びに行きなさいよ!」


近付くと、そんな会話が聞こえてきた。


 なるほどね。何となく状況を察したよ。


わたしはまだ少し離れたところで止まり、様子を見る。そんなわたしに、足にぶら下がってるローラが不思議そうに首を傾げた。


「ん? お姉ちゃん? 助けに行かないの?」

「行くよ。行くけど・・・もう少しいいタイミングで助けに入りたいよね! 具体的にはピンチな時に!」

「確かにそうだね。そっちの方がカッコイイもんね。さすがお姉ちゃん!」


矢を放って必死に牽制しながら距離を取ろうとする女性冒険者。でも、数が多いせいでそう上手くいかず・・・ついに一体の魔物の大きな牙が彼女に迫った!


「やった! 今だ!」


わたしは足にローラをぶら下げて、地面から電磁波で砂鉄を集めて周囲に纏わせながら魔物の方へ飛翔する。


「いけぇ!」


魔物の牙が女性の頭をかみ砕こうとしたその瞬間、わたしは周囲に纏わせた砂鉄を前方に発射する。砂鉄は大きな魔物を丸々吞み込み、一瞬で骨ごと細切れになった。


「え・・・な、なによこれ?」

「サ、サディさん、今何をしたんですか!?」

「わ、私じゃないわよ・・・」


サディと呼ばれた女性が、落ちている砂鉄に恐る恐る触れようとする。


「触っちゃダメだよ!」


わたしはそれを上から目線(物理的に)で注意する。腕を組んで、ここ一番のドヤ顔で。


 うん! まぁまぁ格好良く決まったんじゃない? ローラが未だにわたしの足にぶら下がってるのが少し残念だけど・・・いい加減に自分で飛んでよ。


「か、雷の妖精のソニア様だ・・・凄い、ブラックドッグを一瞬で・・・」

「あ、あの時の妖精様だ・・・」


腰を抜かした若い門番が興奮したように目をキラキラさせながらわたしを見上げる。


「光の大妖精ソニア・・・」


女性冒険者は一瞬だけわたしを見たあと、気まずそうな、申し訳無さそうな顔でそっと目を伏せた。


「あれ? そこの人間、どこかで会ったような・・・」

「お姉ちゃん! 危ない!」


ローラがそう言いながらわたしの足を横に引っ張る。


「わぉ!!」


そして、わたしがさっきまで浮いていた位置には魔物が嚙みついていた。


 あ、危なぁ・・・ローラが足を引っ張ってくれなかったら嚙まれてたよ・・・。いや、足を引っ張ってってそう意味じゃないからね。


「お姉ちゃん! 魔物はまだ残ってるんだから気を付け――――」

「朱里! 危ない!」

「妖精様!!」


今度はローラの方へ魔物が嚙みつこうとした。わたしはローラを抱き寄せてもう一度砂鉄を集めようとして・・・


 あっ、雷を撃った方が早かったかも・・・あ、間に合わな―――


「ソニア!!」


ディルの焦った声が聞こえたと思ったら、わたし達に嚙みつこうとしてた魔物は遥か上空へと吹き飛んでいた。


「ディル!」


魔物がいた場所には、足を蹴り上げた状態のディルが立っていた。その遥か遠方にはわたし達が乗っていた馬車が見える。どうやら、ディルが馬車から降りて走って助けにきてくれたみたいだ。


 馬車よりも早いって・・・これ、馬車を使わないで移動した方が早くグリューン王国に着いたんじゃない? いや、それだと ウィックを置いて行かなきゃダメになるか。


「ハァ・・・ソニア。魔物に囲まれてんのに、どうしてそんな呑気な顔をしてるん・・・だよっ! ・・・っと」


そう言いながらも襲い掛かってくる魔物を蹴り倒すディル。


「べ、別に格好付けようとして気を抜いてたわけじゃないんだからねっ!!」


ドコーーン!!


プイッとそっぽを向きながら、残りの魔物達を雷で一掃する。そんなわたし達を門番と女性冒険者は呆けるように見ていた。


「す、すげぇ・・・グリューン王国を救ってくださった妖精様に、愛し子のディル様だ・・・」

「広場にある銅像なんかよりもずっと可愛らしくて・・・美しい」

「そして、私がそんな可愛いお姉ちゃんの妹のローラだよ!」

「おぉ!! ソニア様の妹様の妖精様!」


わたしよりもドヤ顔で胸を張って自己紹介するローラ。


 様が多いよ・・・。


「あ、そんなことより・・・ディル! 助けてくれてありがとう! ・・・って、ディル?」

「お、お母さん・・・」


ディルは女性冒険者を見つめて、そう呟いた。

読んでくださりありがとうございます。

ヨーム「マリさん・・・そのドロワーズはどうしたんですか?」

マリ「あ、ソニアちゃんに返すの忘れてた・・・」

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