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298.【ディル】緊急事態(甘ったるい雰囲気)

「ソニアちゃん。消えちゃった」


マリがさっきまでソニアが居たところを見つめながら、残念そうに呟く。


『大妖精のわたしが何とかする』『もうさんざ人間のせいで迷惑被ってるんだから!』『ただ皆で仲良く楽しく過ごしたいだけなの!!』


ソニアはそう言ってから消えた。消えたというよりは、たぶん光になってどこかへ行ったんだと思う。


 何にせよ。俺の助けは必要無いってことだよな・・・。


「そりゃあそうだよな。今のソニアは何億年も生きた大妖精だ。ただの人間の俺なんかが役に立てないよな・・・」


 もしも俺が大妖精だったら・・・なんて考えたところで虚しいだけだ。


「ハァ・・・」


そう小さく溜息を吐いた俺を、ヨームがおかしな人を見るような目で見てくる。


「ディルさん。何言ってるんです? ただの人間は魔石無しで身体強化をしたり、一流冒険者がパーティを組んで挑むような魔物を単独で、それも一撃で仕留めたりなんてしませんよ」


ヨームの言葉にマリがコクコクと頷いている。


 マリって、たまに分かってないのに、分かった風な態度するよな。ソニアそっくりだ。


「なぁ、お前ら。何だか知らねぇが大妖精ソニアは居なくなったし、用が済んだんならとっとと出て行ってくんねぇか?・・・ったく」


 そうだった。ここはオニダさんの家の中だったな。ソニアのことで頭がいっぱいですっかり忘れてたな。


「用が済んだわけではないですけど、確かにここに留まってる意味も無いですね。ディルさん、これからどうしますか?」


ヨームがそう言うと、マリと、その隣で悔しそうに指を嚙みながら浮いているナナが俺を見る。ウィックは相変わらず記憶喪失みたいでボケーっとしている。


「どうするも何も・・・ソニアを探すに決まってるだろ」

「フッ・・・やっぱり諦めないんですね」


ヨームが「予想通りです」みたいな顔で言ってくる。


 こんなことで諦められるなら、俺はここまで来てないしな。・・・それに、今思えばさっきのソニアは明らかに強がってたし、『大妖精のわたしが何とかする』って言ってた。わたし()じゃなく、わたしがって言ったんだ。何があってソニアが何処に行ったかは知らないけど、今頃1人で頑張って、そして震えてるかもしれない。


「確かに今のソニアは大妖精だ。それはもう、想像できないようなとんでもない力を持ってるんだろうな。・・・でも、ソニアは人間の俺よりも頭が悪くて、だらしなくて、臆病で、怖がりだ」


俺の言葉に、ヨームは「酷い言いようですね。確かにその通りかもしれませんけど」と苦笑し、マリは「そんなこと無いよ!」と憤慨し、ナナは「そこがお姉ちゃんの可愛いところだよね」とにやける。


「そして、悪意なんて欠片も無い誰よりも純粋な心を持ってて、孤独だった子供の俺を救ってくれた、仲間想いで優しくて可愛い女の子。そんなソニアを・・・俺は愛してる」


「私の方がお姉ちゃんを愛してる!」と威張ってくるナナに「フッ」と笑みが零れる。少し心に余裕が出てきたみたいだ。自分の気持ちを言葉にしたお陰かもしれない。


「だから俺は、ソニアに何と言われようと、ソニアが困っているなら助けたい!」

「当たり前でしょ!」

「私も! 私も!」

「それでこそディルさんですね。さすが執念深いです」

「ソニアって誰っスか?」

「いいから、とっとと帰ってくれよ・・・ったく」


皆がそれぞれの反応を見せるなか、突然扉がバタァン!と勢い良く開かれた。


・・・そこで背中から日の光を浴びて立っていたのは、黒髪のメイド・・・ソニアだった。俯いてたソニアはバッと顔を上げて、走り出す。


「ディル~! ディル! 助け・・・ぶべっ!」


扉を開けた時と同じくらいの勢いでずっこけるソニア。一瞬皆がフリーズしてシーンと静まり返ったあと、ナナが「お、お姉ちゃ~ん!!」と転んで突っ伏したままになってるソニアの頭にしがみついて、わしゃわしゃとソニアの髪を撫で始めた。視界の端でオニダが「また来やがったよ・・・ったく」と頭を抱えている。


「えっと・・・ソニア? どうしたんだ?」


屈んで優しくそう問い掛けると、ソニアはゆっくりと顔を上げて、うるうると涙を浮かべた瞳で、俺を上目遣いで見つめる。その瞬間、俺の心臓がドキッと跳ねた。


「うぅ・・・ディル~」


 は、反則だろこれ・・・い、いや落ち着け俺! ソニアが泣いてんだ! 余計なことを考えるな! 俺!


ソニアの髪にぶら下がってるナナのジト目が痛い。とりあえず俺はソニアに手を貸して立ち上がらせる。


 うおっ・・・ソニアの手、柔らかっ。ちっちゃい妖精だった頃しか知らないから新鮮・・・って、だから余計なことは考えんな!! しっかりしろ! 俺!!


ソニアの髪にぶら下がってナナが疑うような目付きで睨んでくるけど、俺は勤めて冷静を装って、もう一度ソニアに問う。


「それで? 何があったんだよソニア?」

「う、うん。それがね・・・ えっと・・・ガマくんが緊急事態で、それでわたしが行ったら荒らされてて、そしたら人間がきて・・・わたししか残ってなくて、あと、最後に人間が紙切れを・・・あれ? 無い・・・どこいったの?」


 うん。分からないな。ソニアは相変わらずだ。なんか安心した。


何かを探すようにクルクルと回りながら自分のメイド服をポンポンと叩くソニア。俺はソニアの肩に手を乗せて、「とりあえず落ち着け」と近くにあった椅子に座らせる。


「いいか? ソニア。落ち着いて、順を追って丁寧に説明してくれ」

「う、うん。分かった、順を追って説明するって大事だよね」


そしてソニアは一度胸を押さえて目を閉じたあと、涙を拭って説明を始めた。


・・・。


ソニア達大妖精は正体を隠して旅をしていたらしい。でも、厄介な人間達に目をつけられてしまい、はぐれた大妖精や、一緒にここまで来た大妖精が気が付いたら捕獲されて、残る大妖精はソニアだけになってしまった・・・と。


「・・・それで、南の果てにある大妖精の家で、その男が消える前にソニアに渡していった紙切れを、ついさっき失くしちゃったんだな?」

「うん」

「内容は覚えてるか?」

「うん」

「何て書いてあったんだ?」

「わかんない」


皆だけじゃなく、ついつい俺までもジト目でソニアを見ちゃうのは仕方ないと思う。


「だ、だってしょうがないじゃん! わたし漢字読めないんだもん! ひらがなとカタカナだけでいいじゃん! どうして人間って余計なひと手間を加えるかな!!」


 逆切れされたよ・・・。


「そっか・・・先輩は記憶を失ってるから、学校で習ったことも抜け落ちてるんですね。道理で見た目はあの頃と同じなのに、中身が何だか更に天然になってるというか・・・バカっぽいなって思ってたんですよ」


ソニアの髪にぶら下がってるナナがそんなことをポツリと呟く。ナナの口調がさっきと変わってるのは気のせいじゃないと思う。ソニアのことをお姉ちゃんじゃなくて先輩って呼んでるし・・・いや、元々は先輩って呼んでたんだっけか? 確か別の私がどうだこうだって前に言ってたな。


「何言ってるの? ナナちゃん。わたしは記憶を取り戻したんだよ? それに、わたしのどこが天然でバカっぽいって言うのさ?」


ソニアはそう言いながらくるっと後ろを振り返るけど、ナナはソニアの髪にぶら下がってるから、振り返ったところでソニアからナナの姿は見えない。「あれ? ナナちゃん?」と立ち上がってクルクル回るソニア。


 そういうところだよ・・・。


「とりあえず、まずは何から手を付けるか・・・紙切れを探すところか?」


椅子に腰かけて俺がそう呟くと、回っていたソニアがピタリと止まって、目を丸くして俺を見つめる。


「た、助けてくれるの?」

「ん? 何をそんな意外そうな顔してるんだよ。当たり前だろ? 力になるって言ったじゃん」

「確かに言ったけど・・・わたし、ディルに酷いこと言っちゃったし・・・どうして・・・」

「だから・・・言ってるだろ? 俺はソニアのことが・・・好きなんだ。だから・・・その・・・ちょっと八つ当たりされたくらいでその気持ちが変わったりなんかするハズないんだよ!」


 ・・・何だか言っててめちゃくちゃ恥ずかしくなってくるぞ!。


「好きって・・・わたし、大妖精だよ?」


キョトンと首を傾げるソニア。


 またそれか・・・そういえば、いつだったかナナが『意外と押しに弱いんですよ。少し強引に攻めるくらいが丁度いいかもしれません』とか言ってたな。この状況でやるのもアレかもしれないけど、手っ取り早くソニアを納得させるには丁度いいかもしれない。


俺は「すぅ」と息を吸って、覚悟を決める。


 よしっ。言うぞ! 言いたいこと、思ってること全部言うぞ!


「大妖精だとかそんなこと知らん! 俺は1人の女の子としてソニアが好きなんだ! 子供の頃にソニアに心を救ってもらって大事な友達になって! ブルーメでソニアに恋をしてることに気が付いた! 今だってこんなに近くに顔があってドキドキしてるし! 付き合って恋人になりたいし! ソニアの体に触れたい! 俺だって男だ! エッチなことだってめちゃくちゃ興味があるし! ソニアとそういうこともしたいと思ってる! それに、結婚して、出来るか分かんないけど俺とソニアの子供も見たい! だから・・・とにかく俺はソニアを愛してるんだよ! 分かったか!!?」

「・・・ふぁ、ひゃい」


ボッと顔を赤く染めて、崩れるように椅子に腰を落としながらコクコクと頷くソニア。たぶん俺の顔も同じくらい赤くなってるに違いない。


「これは・・・完全に落ちてますね」


ソニアの髪にぶら下がってたナナが、ソニアの真っ赤な顔を見て、自分の中の何かを必死に押さえつけるような、そんな難しい顔をしながら呟く。


 す、凄いこと言っちゃったぞ・・・俺。でも、この反応は・・・期待していいんだよな? ナナも『落ちてますね』とか言ってるし・・・。


「コホン!!」


赤面してもじもじとするソニアをただ見つめていたら、横から大きな咳払いが聞こえてきた。ビクッと震えてそっちを見ると、ヨームだった。呆れたような顔で俺とソニアを見てる。その後ろではオニダがニマニマと気色悪い笑みを浮かべていて、マリは薄っすらと頬を染めて気まずそうにヨームの横で立っていた。マリもそういうのが分かる年頃なんだろう。


「こんな状況で水を差すのも申し訳ないんですが・・・というか、こんな状況であなた達は何を甘ったるい雰囲気を出してるんですか? 緊急事態なんですよね?ね? ソニアさん?」

「そ、そうだよ! 緊急事態なんだよ!」


ハッとしたように立ち上がるソニア。ソニアも、たぶん俺も顔が赤いのがまだ治まってないけど、緊急事態なのは確かだ。ソニアを納得させることは出来たし、続きは落ち着いてからにして、俺も頭を切り替えよう。


「と、とりあえずソニア。その失くした紙切れに何が書かれてたか、読めなくてもいいからどんな感じの文字が書かれてたか書いてみてくれないか?」

「わかったよ・・・」


俺が「何か書くものを・・・」とキョロキョロしてたら、ソニアは指先に光を出してそのまま空中に光で書き始めた。


「こんな感じだったと思うんだけど・・・」


ソニアが「うむぅ」と唸りながら一生懸命に書いてくれたけど・・・。


「分かる文字は「の」と「ソニア」「は」「にいる」・・・だけですね。肝心なところがぐちゃぐちゃの・・・子供の落書きにしか見えません」


ヨームがソニアが書いた文字を見ながら淡々と言う。その言葉にソニアがしゅんと落ち込んでしまった。マリちゃんが背伸びしてソニアの頭をヨシヨシと撫でて慰めている。


「さて、どうしましょうか。ソニアさんに一から漢字を教えるのは時間が掛かりますし・・・」


ヨームが顎に手を当てて「うーん」と考え始めた。


「ごめんね。わたしがおバカなばっかりに余計な・・・時間・・・を・・・・・・あ、あれ? ・・・何か急に眠く・・・なって・・・」

「ソニア? ・・・え、ちょっ、ソニア!?」

「わっ、ソニアちゃん!?」


急にソニアがコックリコックリしだしたと思ったら、突然体の力が抜け落ちたように椅子から倒れそうになった。マリがビックリしてバッとソニアから離れる。


「あぶないっ」


床に倒れそうになったソニアを慌てて抱えて支える。想像してたよりも遥かに軽いソニアに驚きながら、「どうしたんだ!?」とソニアの顔を覗き込む。


「すぅ・・・すぅ・・・」

「ね、寝てる・・・」


それはもう穏やかな、気持ちよさそうな可愛らしい寝顔だ。


「ふっふっふ・・・これでよしっ!」


ソニアが座っていた椅子の上で、ナナが腰に手を当てて満足そうな顔でそう言った。

読んでくださりありがとうございます。ナナの体の主導権を奪い合う朱里と彩花でした。

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