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297.緊急事態(マジでヤバいやつ)

『いい? ガマくん。この金色のボタンを押して、この受話器をとるの。そうしたら、わたしの頭に直接繋がって会話出来るようになるからね』

『いったい何回同じ事を言うんだい? 雷の妖精・・・じゃなくてソニア』

『だって、いざって時の・・・そう! 緊急事態! そういう時に覚えて無かったら大変でしょ?』

『緊急事態って・・・ここはソニア達・・・大妖精達の住処でしょう? そうそう緊急事態になんてならないと思うんだけどね』

『2000年前にはなったの! だから覚えてね! この金色のボタンを――――――』


・・・。


 なんて会話が、旅に出る前にあったんだけど・・・。


(ソニア! 聞こえるかい!? 僕だよ! 莢蒾(ガマズミ)の妖精だよ! 緊急事態だ!) 


ディル達とバッタリ会っちゃったと思ったら、今度はガマくんからの緊急連絡だ。正直色々あって頭の処理が追い付かないけど、妖精達のお姉さん・・・いや、お母さんとして冷静に対処しなくちゃならない。


(さっき、南の果てに人間達が現れたんだけど・・・)

 現れた?

(そう!突然出現したんだよ!やたらと黒いローブを着た人間達が!)


 ・・・黒いローブねぇ。少し前にわたしの雷を黒いローブで防がれたのを思い出すよ。


 それはビックリだね。でも、大丈夫。落ち着いて喋ってね。

(落ち着いて喋ってる場合じゃないって! その人間は今この家の中に入って来てて・・・)

 うぇ!? 入って来てんの!? ちょっ・・・まずいじゃん! そんな順を追って説明してる場合じゃないよ!!

(あ、まずい。地下室に気が付いたみたいだ)

 大声で話すからだよ! と、とにかくガマくんは隠れてて! 急いで帰るから! いい!? 物音を立てずに静かに隠れて待ってるんだよ!?

(いや、ソニアは来ない方がいいと思う)

いや! 行くから! ガマくんだって家族みたいなもん何だから! わたしが絶対に守るからね!

(ありがとう。でも、だからこそ来ない方が――――プツン)

 ガマくん!? ちょっとガマくん! 返事して!?


ガマくんとの通信が突然切れちゃった。


「ど、どうしよう・・・マジでヤバいやつだ」

「何がだ?」


突然目の前から聞こえてきた声に、意識を外に向ける。目の前に心配そうな表情でわたしの顔を覗き込んでくるディルがいた。見渡すとマリちゃんやヨームも同じような顔でわたしを見てた。


「突然ソニアの雰囲気が変わって深刻な表情で考え込み始めたと思ったら・・・何か緊急事態か? 力になるぞ?」

「いい。大妖精のわたしが何とかする」


 わたしが助ける。人間なんかの手を借りたりしない。だって・・・ううん。余計なこと考えてる場合じゃない! 早く行かなきゃ!!


「ソニア。俺は大妖精でも妖精でもない人間だけど・・・」

「だったら黙っててよ! もうさんざ人間のせいで迷惑被ってるんだから! わたし達の作った星に勝手に生まれたあげく! 勝手に増えて! 調整しようとしたら反抗してきて! 今度は何!? わたし達をどうするつもりなの!! これ以上わたし達の邪魔しないでって!! ただ皆で仲良く楽しく過ごしたいだけなの!!」


 もう! 焦ってんのに余計な時間使わせないでよ!!


自分でも何を言ったか覚えてないほど本能的に喋っちゃったけど、そんなことはどうでもいい。何故か悔しそうな顔をしてるディルから目を逸らして、わたしは光になってガマくんから通信がきた、南の果てにあるわたし達の家に飛んで行く。


 ディルが何で悔しそうにしてるかなんて・・・どうでもいいもん。


・・・。


1秒も経たないうちに家の前に着いた。


「・・・」


わたしは玄関の前に立ち、後ろを振り向く。雪原には複数の人間の足跡がある。それも、家に向かっているものだけが。


 ・・・まだ家の中にいるってことだよね?


2000年前の事件、グリューン王国でのボトルで誘拐された件、カイス妖精信仰国で羽と腕を吹き飛ばされた件、この間の小島での件。以前に人間にされたことの数々が脳裏に浮かぶ。わたしはブンブンと頭を振って、パチンと頬を叩く。


「よしっ。いくよ、わたし。大丈夫。こわくない。こわくない。わたしは光の大妖精。絶対ガマくんを助けるんだ」


自分にそう暗示をかけて、ドアノブを静かに回して浮かびながらそーっと家の中に入る。


シーン・・・


誰もいない。ただ、誰かに家中を荒らされた形跡はある。


 ひどい・・・皆で考えて作った家具とか、アケビに作ってもらったキッチンも・・・全部盗まれてる・・・。


「ううん! 家具はいいの! また皆でもっと凄いのを作ればいいんだから! 大事なのはガマくんだよ!」


急いでガマくんが隠れているであろう地下室に向かう。


 お願いだから間に合って!!


ガタン!!


地下室の扉を開ける。いつもなら、今まで皆で作ってきた失敗作の道具達が真っ先に目に入るけど・・・。


「うそ・・・何もない」


地下室はもぬけの殻になってた。通信する道具も、失敗作も、わたしの日記も・・・。


「ガ、ガマくん! ガマくん!!」


呼んでみるけど、何もない地下室では自分の声が反響するだけで、返事は返ってこない。


 間に合わなかった・・・の?


ガタタンッ


上の階から物音が聞こえてきた。


 ・・・ガマくん? さっきは誰も居なかったハズだけど・・・。


恐怖心を必死に抑えながら、もう一度さっきまでいた一階に向かう。


 話し声?


居間から男の話し声が聞こえてきた。わたしは地下室から続く階段に身をかがめて、そーっと顔を出して様子を見てみる。


 人間の男が2人?


そこでは、黒いローブに身を包んだ2人の男が立って話していた。


「まったく。2度手間もいいとこだよな。目欲しい物はもう残ってないってのに、またここに転移させられるなんて。しかも一枚の置手紙を置くだけのために。あの魔石を発動させんのだって楽じゃないって何度言ったら上は理解してくれんだろうな?」

「仕方ないだろ。予定と違って光の大妖精だけ捕らえられなかったらしいんだから」


 ・・・え?


「ああ。闇の大妖精が例の脅しを聞いてもなお、『ソニアには手を出させない』ってその場にいた研究者のほとんどを惨たらしく殺したんだってな。結局、土の大妖精と仲間割れしている隙をついて何とか捕獲したんだろ? 無事に帰ってこれた研究者があまりにも悲惨な現場で吐きまくってたぞ」


 え・・・嫌だよ? 捕獲? ビオラ達とはついさっき別れたばっかりじゃん・・・そんな・・・。と、とにかくあの人間達に確認しなきゃ!!


バッと立ち上がり、指を差して1人に狙いを定める。


 まずは人数を減らす!


あの黒いローブがわたしの雷を防いだのは知ってる。だから、今回は顔面目掛けてビームを放つ。


ビュン! ・・・ビュン!!


「ひゃあ!! ・・・えっ、わぁあああああ!!」


ローブの中の顔面目掛けて撃ったハズのビームが、何故かわたしの方へ跳ね返ってきた。びっくりしてそのまま階段から転げ落ちちゃう。


「何だ!? 何があった!?」

「恐らく光の大妖精だ! 光線を撃ってきた!地下の方に転がり落ちたぞ!」


 や、やばい!やばい! 何でか分かんないけどビームが跳ね返ってきた!


慌てて立ち上がりながら階段の上を見上げると、黒いローブの男2人がわたしを見下ろしていた。そのローブの下には、鏡みたいなもので出来た仮面を付けていた。


 噓でしょ!? ただの鏡で防げるハズないのに・・・!


「黒髪の・・・可愛いメイド?」

「バカ。光の大妖精だ。・・・盲点だったな。光を操って髪色を誤魔化してたとは。こりゃ、戻ったら上の連中に文句の一つでも言わねぇとな」

「だな。それで、どうする? 今捕獲するか? そうすりゃ下っ端の俺達でも大妖精の研究に参加できるかもせれないぞ?」

「そうだなぁ・・・」


 大妖精の・・・研究?


ぞわわっと背筋に悪寒が走る。


 とにかく、こいつらの言ってることが本当なら、まずは尋問でもしてビオラ達の居場所を吐かせなきゃ・・・。


わたしはじりじりと距離を取りながら、攻撃の手段を考える。


 雷がダメ。ビームもダメ。脳を操ることも出来ない。・・・なら、どうすればいいの?


何をしても、成功する未来が想像出来ない。失敗して囚われて・・・。


 ・・・やだ。こわい。もう、逃げ―――


わたしが必死に涙を堪えて睨んでいたら、考え込んでいた男が急に懐から何かを取り出した。警戒しすぎてたせいか、それとも怯えていたせいか、わたしは驚いて「ひゃん!」と情けない声を出して尻餅を着く。


「勝手なことをして失敗した時のことを考えるとリスクがデカい。なら、俺らは俺らの仕事を済ませて、光の大妖精が髪色を変えてた件だけを報告するぞ。それだけでも少しは上の覚えが良くなるだろう」


男はそう言いながら懐から取り出した一枚の紙をヒラヒラとわたしの前に落とした。その様子を見ていたもう片方の男が不満気な顔で言う。


「光の大妖精のくせに怯えた顔しやがって。泣く寸前だな。まるで俺達が可愛い女の子を苛める悪者みたいじゃねぇかよ」

「見た目に騙されるなよ。相手は何億年も生きてる存在だ。甘く見てると足元をすくわれる。・・・それよりも俺達はさっさと戻るから、あの魔石を発動させろ」

「あいよ」


男は見た覚えのある漆黒の魔石を取り出すと、その場に空間の歪みみたいなものが発生して、一瞬でその中に飲み込まれていった。


そして、ここに残ったのは、情けなく尻餅を着いたままのわたしと、男達が残していった紙切れ一枚だけになった。


 何も・・・何も出来なかったよ。みんなぁ・・・・。


わたし以外の皆が捕まった。残る大妖精はわたしだけになった。


「わたし・・・どうしたらいいの? ビオラ、ジニア、リナム、エリカ、ケイト、アケビ・・・・」


ポツポツと、我慢していた涙が零れていく。


 思えば、わたしって1人じゃ何も出来ないんだなぁ。いつも誰かに助けられてた。皆のお姉ちゃんって言っても、ただ一番先に誕生しただけで、実際は誰よりも頭が悪くて、だらしなくて、臆病で、怖がりで・・・わたしよりも皆の方が全然お姉ちゃんだった。


「もう・・・諦めようかな」


この星ごと破壊しちゃえば、厄介な人間達は皆いなくなってスッキリする。


「皆で一緒に作った星で、50億年以上住み続けてきた凄く愛着のある星だけど・・・皆が捕まってひどい目にあわされるくらいなら・・・壊しちゃっても・・・いいよね?」


クシクシと涙を拭って立ち上がると、肩にかかってたわたしの黒い髪が垂れてくる。


 そういえば、黒髪にしたまんまだった。


ふいに、同じ黒い髪の青年の姿が思い浮かぶ。


「ディル・・・」


 星を壊したら、ディルも死んじゃうよね。・・・それは・・・嫌だ。何でか分からないけど、想像するだけで胸が苦しくなる。


『何か緊急事態か? 力になるぞ?』


今になってディルの優しい声が心に響く。人間にはいっぱい酷いことをされたけど、それ以上に人間(ディル)には助けて貰った。


 ディルには直前に酷いことを言っちゃった気がするし、半年前にも突き放すようなことを言った気がする。もう助けて貰えないかもしれない。でも、それでも精一杯謝って、お願いしてみよう。一緒に皆を助けてって。わたしを助けてって。


「うん。まだ、諦めちゃだめだね」


わたしは1人そう呟き、男が最後に床に落としていった紙切れを拾ってそこに書かれてる文字を見る。


――――――――――――――――――


光の大妖精ソニア。仲間の妖精達は泡沫島にいる。


――――――――――――――――――


「・の・・・ソニア。・・・の・・・は・・・にいる」


 読めない文字ばっかりでよく分かんないよ。


「やっぱり、わたしは1人じゃ何も出来ない・・・」


わたしは紙を握り締め、光の速度でディルの元まで飛んだ。

読んでくださりありがとうございます。次話はディル視点です。

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