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296.再会、そして告白

ザリースが豚になってから数日が経った。

あれから城の人間達は呆気ないほど簡単にモネさんことアネモネ王妃に城を明け渡して、アネモネは既に新しい王様になった。戴冠式とかはやってないけど、アネモネ王妃は無事にアネモネ王になった。


 ・・・まぁ、だからといって、この国は何も変わってないんだけどね。


アネモネは一生懸命にこの治安の悪い国をどうにかしようと奔走してるみたいだけど、如何せん今の城に真面に国政を担える人物がアネモネを含めて何処にもいなく・・・結果、お城の中の雰囲気が良くなっただけで、他は何も変化は起きてない。


 いや、一つ小さな変化はあったのかな?


「ザック騎士団長! あそこにヒカリちゃんがいますよ! 行かなくていいんすか!?」

「う、うるさいぞ! 揶揄うな! 訓練に集中しろ!」


ザックが騎士団長になって、その仲間の男女の冒険者も副騎士団長っていう地位に就いた。何でも、ザック達の方から志願して、アネモネが是非と就任させたらしい。まぁ、どうでもいいんだけどね。


「あら、おはようソニア。珍しく早起きね。何処に向かっているのかしら?」


騎士団の訓練場の横を歩いていると、メイド服姿のビオラが前から歩いてきた。その横には同じくメイド服のアケビがアホ毛を元気に揺らしながらニコニコしている。


2人はわたしと違ってちゃんとアネモネのメイドっていう設定を守って、アネモネの身の回りの世話をしているらしい。何でも、大妖精のビオラ達に世話をされてやりずらそうにしてるアネモネが面白いんだとか・・・まぁ、アネモネも今の城にメイドがいないから助かってることには変わりないんだと思うけどね。


 え、わたし? わたしは部屋を散らかすからって早々にアケビに追い出されちゃった。


「わたしは今からオニダのところに行って剣を教えて貰うんだー。ビオラ達は今起きたの?」

「私達は寝ていないわよ。だって、本来寝る必要はないじゃない」

「まぁ、そうなんだけどね」


 寝る気持ちよさを知らないんだね。1人で寝るのは何だか寂しいから、本当は一緒に寝たいんだけどな。


一応ビオラ達とは一緒の部屋で過ごしてはいるんだけど、全然帰ってこないんだもん。

けど、起きたら物の配置が変わってることがあるから、というか片付けられてるから、たぶんわたしが寝てる間に戻って来てるんだと思う。


「ビオラ達はどこに行くの?」

「外よ。半年前にソニアがやった穴を埋めに行くのよ」


 あ~、わたしが酔っ払った勢いでやっちゃったやつね。土の大妖精のアケビなら一発で戻せるね!


何となくヨシヨシとアケビの頭を撫でてみる。


「えへへ・・・あの穴が無くなれば、外との行き来が楽になって商人も出入りしやすくなるってアネモネ言ってたよ」

「そうなんだ~。あ、でも、そんな大胆なことして妖精バレしない?」

「大丈夫よ。私は隠密行動が得意だから。それに、人間からしたら突然現れた穴だもの。突然消えてても問題ないわ」


 そういうものなのかな? でもまぁ、ビオラが言うなら大丈夫だよね。わたしと違ってしっかりしてるし。・・・いや、わたしも充分しっかりしてるけど。


「じゃあ、気を付けてね!」

「ソニアも、人間で遊ぶのは程々にしなさいよ。エリカ達が戻って来たらここを出るのよ?」


 「気に入ったからって連れてかないわよ」ってことだよね。


「分かってるよ! もぅ! 別にオニダを気に入ってるわけじゃないから!」

「なら、いいけれど・・・」


尚も心配そうなビオラ達と別れたわたしは、「ふふふーん♪」と鼻歌を歌いながらオニダのいるログハウスに向かった。


・・・。


ダァン!!


いつものように勢い良くログハウスの扉を開け放つ。でも、開けた先の光景はいつものものではなかった。


「あれ? なんか人が増えた? それも見覚えのあるような・・・」


いつもは散らかった部屋にオニダが1人だけなんだけど・・・今は何故か他にも人間がいるし、散らかってもいない。


「ん・・・?」


そのうちの1人、黒髪黒目の青年がわたしを見て首を傾げ・・・。


 ・・・って、あれディルじゃん! え!? どうして!?


「わぁ!ソニアちゃんみたいなすっごい可愛いくて美人なお姉さん!」


小麦色の髪の女の子が可愛らしいクリクリの瞳を輝かせながら椅子から立ち上がり、駆け寄ってこようとするのを灰色の髪の青年が止める。


 それに、マリちゃんに・・・あれは・・・前髪が短くなってるけどヨームだよね?


「お姉ちゃ・・・せんぱっ・・・おねっ・・・」


マリちゃんの横で浮いてるナナちゃんが何やらモゴモゴしながら挙動不審な動きをしてる。


 ナナちゃんまで・・・どうして皆がここにいるの? っていうか、わたしがソニアだって知ってる人間がいるのはまずくない!? 特にマリちゃんなんかはうっかり口を滑らせそう!! どうする!? 記憶消しちゃう!? いや、でもでも!!


半ばパニック状態で、拳に電気を集めて記憶を消す準備を進める。すると、わたしの前に頭にバンダナを巻いた男がズサーっと膝をスライドさせて滑り込んで来て、勢い良く言う。


「愛してます!!一目惚れッス! 結婚を前提にお付き合いしてくださいッス!!」

「ふぇぇ!?」


 えぇ!? な、なに急に!! わたしに言ってんの!? ってか、こいつどこかで見たような・・・。


「ウィック・・・?」


ディルがほんの小さな声でそう呟いた。


 ああ! そうだ! ウィックだ! 確か、どっか別のところでも会ってたよね! 何で気が付かなかったんだろ! でも・・・一目惚れ?


「え、えっと・・・一目惚れってことは、わたしに気付いてない?」


恐る恐るそう聞いてみると、ウィックは熱の籠った瞳でわたしを見上げ、こう言う。


「俺は気付いてるッスよ!!」


 え、気付いてるの!?


「 貴女は俺の運命の人ッス!!」


 あ、気付いてないかも。


わたし以上に鈍感なウィックに、ディルが後ろから可哀想な人を見るような目で声を掛ける。


「お、おいウィック。その人たぶん・・・」

「ディル、止めないでくださいッス。俺は心に決めてるんス!!」

「い、いや、そうじゃなくて・・・」


 これはウィックは完全に気付いてないみたいだね。


少し安堵していると、ウィックは怖いくらい熱の籠った瞳でグイグイ近付いてくる。


「それで!! 返事はどうなんスか!! いいんスか!? お付き合いしてくれるんスか!!」

「え、は? 何で・・・」


 何いってんの!? こいつ!


「 迷ってるのなら、その大きな胸に聞いてみてくださいッス!!」

「だから・・・」

「さぁ!! 来てください!!」

「・・・」


 ・・・・・・もうっ!!


「・・・うっっっっっざいわぁ!!」


我慢できなくなったわたしは、そう叫びながらウィックを両手で押し戻そうと勢い良く肘を突っ張っる。


「きゃあ!」


でも、逆にわたしが尻餅をついちゃった。ウィックは体幹がしっかりしてるらしい。

そして、そんな体幹の強いウィックにちっちゃな体で立ち向かう者がいた。


「おい! コノヤロー!! お姉ちゃんに謝れ!! そしてエンコを詰めろや!!」


ナナちゃんだ。ウィックの耳を引っ張って物凄く怒ってる。


 ナナちゃんってこんなキャラだったっけ?・・・ っていうかエンコって何?


ナナちゃんに耳を引っ張られてるウィックは、自分の頭に手を当ててコテリと首を傾げて言う。


「・・・あれ? ここ何処っスか? というか・・・俺って誰ッスか?」


 ん? んん!?


ナナちゃんとディルが「マジか」って言いながらウィックとわたしを交互に見てるけど、わたしも驚いてる。


 え、何で記憶消えちゃってるの!? ・・・って、原因はこれか!!


自分の手を見る。


 記憶を消そうと手に電気を集めてたんだったよ。あー、そっかそっか、納得。でも、さっきのあれはだいぶうざかったし、因果応報だよね!! ざまぁみろ!!


「ふん! 殺されなかっただけ有難く思ってよね!」


わたしは何も分かって無さそうなウィックにそう言い放ってから、部屋の隅で存在感を消していたオニダに詰め寄る。


「オニダ! どういうことなの! どうしてディル達がここにいるの!」

「・・・ったく。やっぱり光の大妖精ソニアの知り合いだったんだな。言っとくが、こいつらが勝手に来ただけで俺が呼んだわけじゃねぇからな」

「やっぱりって・・・」

「オニダさん! ソニアのこと知ってたんですか!? さっき知らねぇって言ってたじゃないですか!?」


後ろからディルの驚き声が聞こえてきた。どうやら、オニダはわたし達の正体を内緒にするっていう約束を破ってはいなかったみたいだ。


「仕方ねぇだろ!喋ったら豚にされるかもしれねぇんだ! ザリースみたいに!」

「は? 豚?」


首を傾げるディルは「そういえば、ザリースはソニアに殺されたって言ってたけど・・・」とわたしを見る。


 別に殺したのはわたしじゃないんだけど・・・説明が面倒臭いからいいや。


わたしは敢えてディルの呟きを無視して、逆に質問する。


「それで、ディル達はどうしてここに・・・」

「お姉ちゃん!!」

「ソニアちゃん!!」


ナナちゃんが顔面に、マリちゃんが腰に、勢い良く抱きついてきた。ナナちゃんに至っては口の中に入ってきそうな勢いだ。


「お姉ちゃんずっと会いたかったよぉおおお!!」

「ソニアちゃんだったんだね! おっきくなったね! メイド服可愛いー!」


何故か泣き出すナナちゃんに、満面の笑みのマリちゃん。


「ちょっ、分かったから一回離れ・・・ふがっ、ナナちゃん! 鼻に手を突っ込まないでっ!!」

「お姉ちゃんっつうことは、そこの妖精は光の大妖精ソニアの妹か何かなのか?」

「オニダ? 今それ聞く!? そうだけど! ちょっと黙ってて!」


2人を一回剝がしてから、気を取り直してもう一度ディルを見る。何だか微笑ましそうな顔をしてるのが無性に腹立つというか、もどかしいというか・・・。


「コホン! それでディル。どうしてここにいるの?」

「ああ、俺達はソニアを探して旅をしてたんだ」


ディルの言葉に、マリちゃんとヨームがコクリと頷く。わたしはコテっと首を傾げながらディルを見る。


「わたしを? 何で?」

「何でって・・・そりゃあ・・・」


ディルは照れくさそうに頬を搔きながら口を開く。


「好きだからだよ・・・」


 好き・・・だから?


「えっと・・・何が?」

「ソニアだよ」


 わ、わたしを・・・!?


後ろでオニダが「相手は妖精だぞ、おい」と小さく呟く。


 そうだよ!ディルはウィックと違ってわたしが大妖精だって知った上で言ってるんだよね? おかしいよ! 人間が妖精をなんて! それに、大妖精のわたしが人間なんかを好きになるハズ無いのに! 無いのに・・・無いけど・・・どうして顔がこんなに熱いの!?


「ソニア?」


ディルが俯くわたしの顔を覗き込もうとする。


 と、とにかく否定! 否定しなきゃ!!


わたしはバッと顔を上げて、プイッとそっぽ向きながら口を開く。


「べ、別にわたしはディルことなんて好きじゃないんだからねっ!!」


 よしっ、言ったよ! ちゃんと否定したよ! きっぱり否定してやったよ!


片目でチラッとディルを見ると、呆けた様に口を開けてると思ったら「可愛いすぎ」と小さく呟いた。


 ば、馬鹿にしてるの!? 私は思いっきり否定したんだけど!?


何故か更に熱くなる顔を手で押さえてると、「まさかお姉ちゃんにツンデレ属性があったなんて・・・」と呟いてたナナちゃんがわたしの傍まで飛んできた。


 ツンデレが何か知らないけど、ナナちゃんもきっとわたしを馬鹿にしてるに違いないよ!


「ねぇ、お姉ちゃん。記憶を・・・」


バチン!!


ナナちゃんが何か言いかけた時、わたしの頭に通信が入った。


「ソニア! 聞こえるかい!? 僕だよ!」


南の果ての家で留守番してるガマくんからだ。何かあったら連絡してって言ってあったけど・・・何かあったのかな?

読んでくださりありがとうございます。

ザック「俺、この国の騎士団長になりたいです!」

(そうすればアネモネ王のメイドのヒカリちゃんに近付けるかもしれねぇ!)

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