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293.一騎討ち

ミリド王国はとっても活気のある国だ。


(喧嘩で)賑やかな表通りを歩いていると、よく声を掛けられるし(ナンパ)、誰かにぶつかったと思ったらしっかりと謝ってくれるし(スられるけど)、商売上手な人間から色々とアプローチも受ける(人攫い)。

裏通りに入ると、ゴミ(死体)はすぐに親切な(フードを被った怪しい)人間が回収してくれるし、貧しい人もいない(既に死んでる)。


ミリド王国は他の国とは違う、とっても活気があって退屈しない国だ。


「ミリド王国がこんなことになってるなんて・・・元々治安の良い国じゃあなかったけど、流石にここまでではなかったよ・・・」


フードを深く被って顔を隠しているモネさんが、裏通りを歩きながらそうボヤく。


国に入ってから、攫われそうになってはその度に冒険者達が返り討ちにするっていうのを何度も繰り返してるし、その度にザックがわたし達も目立つからフードで顔を隠しべきだって言って、ビオラがそんなことしたら逆に目立つとか言って喧嘩してた。


 退屈はしないけど、居心地の良い国ではないよね。


・・・。


「この先にある小屋にいる人物が、協力してくれそうな、人間」

「ここって・・・」


お城の裏側にある、小さな森の先にある小屋を指差しながら言うエリカ。モネさんは誰がいるのか分かってる風だけど、わたし達にはさっぱり分からない。


「銀髪の傭兵オニダ。聞いたことないかい?」


モネさんはザック達に向かって言う。エリカ以外の妖精達が知ってるとは思ってないんだろうね。まぁ、その通り知らないんだけど。


「聞いたことあるな。ブルーメの武の大会で最多の連覇記録を持つ元一流冒険者で、単独でドラゴンを撃破したこともあるとか・・・」

「私はその腕を買われてミリド王国の騎士団長に就任したって聞いてるわよ」

「んで、今は騎士団長を弟子に任せて引退してんだよな? そのオニダがここにいんのか?」


冒険者達が分かりやすく説明してくれた。そんなに興味ないけど。

モネさんは冒険者達にコクリと頷いてから、小屋の扉をコンコンとノックする。

皆が静かに待つなか、小屋の中からタッタッタと誰かがゆっくりと歩いてくる音が聞こえてきた。


ガチャ・・・


出てきたのは、銀髪のおじさんだった。髪はボサボサ、服も小汚い、ついでにお酒臭い。


「これが・・・あの銀髪の傭兵オニダか?」


ザックが思わずそんな言葉を零す。オニダは一瞬だけザックを睨んだあと、フードを被ったモネさん、冒険者達、それからわたし達を見て、首を傾げる。


「ハァ・・・ったく。冒険者、怪しいフード女、成人もしてなさそうなガキに、容姿が良すぎるメイド達

・・・どういう集まりだよこりゃ・・・」


大きな溜息を吐くオニダに、モネさんはフードを取って見せる。するとオニダは、最初は怪しげに目を細めてたけど、段々と見開いていって、ついには口まで大きく開けて驚いた。


「ア、アネモネ王妃!? い、生きてたのか!? あ、いや、生きておられたんですね・・・てっきり王族は皆殺しにされたんだとばかり・・・」

「私の話を聞いてくれるかい?」

「え、ええ・・・どうぞ中に入ってください・・・」


オニダはわたし達を小屋の中にいれてくれる。相変わらずわたし達のことは不思議なものでも見るような目で見てくるけど、わたし達はお構いなしに椅子に座り、冒険者達はわたし達の後ろに陣取った。


「汚い部屋だね。だらしないよ」


小屋の中を見回しながらそう言ったら、アケビに「あの人間もソニアには言われたくないと思うよ」って小声で言われちゃった。

オニダはそんなわたし達に気が付くことなく、モネさんに腰を低くしながら水を渡す。


「申し訳ございません。水かお酒しかなく・・・」

「構わないよ。それよりも、このようs・・・このメイド達にも水を出してあげてちょうだい」

「は、はぁ・・・」


オニダは不満そうにしながらもわたし達の前に水を出す。


 水かぁ・・・。


わたしは通り過ぎようとするオニダの腰をツンと突いて、顔を見上げながら言う。


「ねぇ! わたしはお酒がいいんだけど!」

「・・・ったく。嬢ちゃん、今いくつだ?」


 明らかに面倒くさそうに言ってくるじゃん。でも、わたしの方が歳上だからねっ!


「300億歳くらいだよ!」


オニダに一層面倒くさそうな顔で見られた挙句、隣りに座ってたビオラにわき腹を突かれた。


 あ、そうだ! 妖精だってバレたらまずいんだった!


「ハァ・・・ったく。はいはい300億歳な。ほら、酒だ」


そう言って新しく置かれたコップには、ただの水が入ってた。


 ぐぬぬ・・・お酒、飲みたかったけど、これ以上食い下がって妖精バレするわけにもいかないし・・・我慢しよう。


ぷくーっと頬を膨らますわたしに、後ろからザックが小声で話しかけてくる。


「ヒカリちゃん。あとでコッソリ2人でお酒飲もうな」

「こらザック。未成年にお酒飲ませちゃだめでしょ」

「・・・じょ、冗談だっつの。ザシルは真面目だなぁ」


 ビオラが物凄い形相で睨んでるけど、ザックは気付いてないのかな? というか、わたし未成年じゃないよ?


「それじゃあ、まず、オニダ。あなたの話を聞かせてくれるかい?」

「はい」


モネさんの正面に座ったオニダは、ボサボサになった髪を軽く整えてから真面目な顔で口を開いた。


 あ、この雰囲気・・・これ長くなるやつだ!


分かりにくい上に長ったらしいオニダの話を要約すると・・・


・革命が起きた。

・オニダもその弟子の騎士団長も反抗したけど、ザリースが連れていた一流冒険者に敗れた。

・オニダは今後ザリースに干渉しないことを条件に見逃され、騎士団長はその一流冒険者に騎士団長の座を受け渡して、その下につくことになった。

・今はオニダはダラダラと余生を過ごし、元騎士団長は「自分よりも強い者には従う」と言ってザリースの手足となってる。


ちなみに、このことは全部エリカは知ってたらしい。


 じゃあ、何でオニダから聞く必要あったのさっ!


そして、オニダから話を聞いた後はモネさんがこっちのことを話す。国王と侍女たちに復興を託されて逃がされたこと、ミリド王国の現状を聞いて、協力者を連れて戻ってきたことを。


「なるほど、話は分かりました。見覚えの無いメイドを従えてるのは疑問ですが、アネモネ様を信じましょう。ですが、協力は難しいです。諦めてください」

「あ、諦めるって・・・」


モネさんは一度拳を強く握ってから、力強い瞳でオニダを見つめる。


「私も最初は国のことをそんなに真面目に考えてなかったさ。でも、ここに来る途中で色々なものを見たんだよ。堂々と表通りを闊歩する犯罪者達。そんな表通りを怯えるようにコッソリと隠れながら窓の隙間から見ていた善良な国民達・・・きっと革命の時に逃げ遅れたか、何か逃げられない理由がある人達だろうねぇ」


 え、そんな人達いた? そんなとこまで見てなかったや。


「犯罪者が堂々としていて、善良な国民が隠れながら生きていかなきゃいけないなんて・・・おかしいと思わないかい?」

「それは・・・」

「革命が起きる前・・・元々治安は良くない国だったけど、それでも国民達は逞しく堂々と生きていたよ。それに私がお世話になっていたドレッド共和国は、こことは真逆で、子供達が楽しそうに学び、幸せそうに笑っていたんだ。私はこの国をそんなドレッド共和国に少しでも近付けたい」

「アネモネ様・・・」

「だからお願いだよ。協力してくれないかい?」


モネさんは応えを待つようにじっとオニダを見つめる。視界の端でアケビとケイトが暇すぎて手遊びを始めてるけど、誰も気が付いてない。


「アネモネ様。協力したい気落ちはあります。ですが、俺では力不足です。もう、現役だった頃の強さはありません。サークリーにすら勝てないでしょう。ザーリスを討つにしろ、捕まえるにしろ、俺の一番弟子で元騎士団のサークリーと、ザーリスの連れている元一流冒険者の現騎士団長は絶対に避けられない壁です」


 ふむふむ・・・。


「つまり、その2人を倒せばいいってことだね!!」


突然割って入って来たわたしに、目を丸くするモネさんとオニダ。


「大丈夫だよ! そういうことの為にザック達を連れて来たんだから!」

「えぇ!? 俺!?」


自分を指差して驚くザック。


 何を驚いてるの? 剣の腕には自信があるんでしょ?


急に皆に注目されて戸惑うザック。そんなザックを、オニダは興味深そうに見つめる。


「黒髪・・・闇の適正持ちか・・・。アネモネ様、彼の実力は?」

「実力かい? ・・・さぁ、私は戦いのことはよく分からないからねぇ・・・ただ、手練れの盗賊達を相手に余裕に勝てるくらいには強いよ」

「そうか・・・ったく」


オニダはさっきまで重そうだった腰を軽く上げて立ち上がり、部屋の隅に置いてあった木刀を持ってザックに投げた。


「ザックとか言ったな。ちょっと表出ろ。確かめてやる」

「えぇ・・・マジかよぉ」


「失望されなきゃいいけど・・・」と項垂れるザック。この国に来る前の自信はどうしたのやら。

わたしはグッと拳を握ってザックを応援してあげる。


「ザック、頑張って!」

「お、おう!?・・・ へへっ、頑張るぜ!」


「ヒカリちゃんにいいとこ見せるぞ!」と、さっきまでの項垂れようが嘘のように張り切るザック。ザシルが「男って単純よね」と青い髪を耳にかけた。


 私もよく単純って言われるけど・・・ザックとは違うよね?


皆で小屋から出て、ザックとオニダの模擬試合を観戦することにする。

ザックは腰に下げていた刀を地面に置いて渡された木刀を構え、オニダは大きな木剣を構えてわたし達の方をみる。


「誰か合図をしてくれ」

「じゃあ、始めっ!」


わたしが合図を出すと、オニダは大きな木剣を振り下ろしながら勢い良くザックに向かって走り出し、ザックは鋭い目付きで受けの姿勢をとる。

少しワクワクした気持ちで眺めていると、エリカがちょいちょいとわたしのスカートのすそを引っ張ってきた。


「どうしたの? 今ちょっといいところだからあとでね」


・・・。


結果はザックの勝利だった。暫くオニダの猛攻を防いだあと、体力を切らしたオニダの隙をついた感じだ。


「ハァ・・・ハァ・・・ったく。お前、強いなぁ」

「フゥ・・・いや、オニダさんこそ。オニダさんが全盛期だったら負けてたぜ」


横たわるオニダに手を差し伸べるザック。オニダはガシッとザックの手を掴んで立ち上がった。


「謙遜すんな。例え俺が全盛期でも、お前は同じように冷静に攻撃を受け流しながら隙を見つけて、必ず反撃していたさ。魔物ならともかく、対人相手ではお前の方が上手だ。どうなってたかは分かんねぇ」


アケビとケイトが暇そうに土遊びをしているのを視界の端に写しながら、なんだかいい感じの雰囲気を感じていると、こっちに向かって歩いてくる集団が見えた。他の皆も気が付いたようで、モネさんはサッとフードを被り、ザシルとザゼル、オニダとザックは木剣から自分の武器に持ち替えて、わたし達を庇うように前に出た。


 なるほど、エリカがさっきわたしに何か訴えようとしてたのはこのことだったんだね。


少し不貞腐れたようにぷくっと可愛く頬を膨らませるエリカに「ごめんね」と頭を撫でてあげる。嬉しそうに笑ってくれた。可愛すぎる。


「アネモネ様、危険ですので小屋の中に」

「う、うん。わかったよ」


モネさんはオニダに言われた通り素早く小屋の中に入っていく。


「ヒカリちゃん達も危ないから小屋の中に入っててくれ!」

「やだ!!」

「えぇ!?」


ザックが素っ頓狂な声を出して驚いてるうちに、その集団はやってきた。


「オニダ師匠。お久しぶりです。その方々は?」


重そうな甲冑に、重そうな斧を背負ったガタイのいい男が言う。この人がサークリー元騎士団長だろう。どこかで見た覚えがあるような気がするけど、気のせいかもしれない。


「こいつらは俺の客人だ。それが何か?」

「いえね。ザリース王と騎士団長がそこのメイド服を着た女に会いたいとおっしゃっていてな。悪いが連れていかせてもらう」


サークリーはわたし達を指差しながら言う。オニダはそんなサークリーから目を離さずにボソッと呟く。


「誰かにつけられてたか・・・俺が見張られてたか・・・ったく。どっちにしろ面倒なことになったな。嬢ちゃん達はあいつらについて行く気はあるか?」

「ないよ?」


 ついて行くのは暇だから別にいいんだけど、人間の命令に従うのは何だか癪なんだよね。


「師匠。抵抗はしないでくださいよ? そういう条件でザリース王から見逃されているんですから。・・・さぁ、そこの女共、ついてこい」

「嫌だって」


首を横に振るわたしに、オニダは「しゃあねぇな」と大剣を構えるけど、少しふらついて地面に膝をついた。さっきのザックとの模擬戦が響いてるみたいだ。


「師匠も歳ですね。黙って隠居生活を楽しんでいてください」


サークリーは後ろの騎士団を従えながらゆっくりとわたしに向かって歩いてくる。でも、その前に立ちふさがる人物がいた。


「ちょ、ちょっと待てよ。俺のこと、もしかして見えてねぇのか?」


刀を抜いてサークリーに向けてそう格好付けるザック。ちょっとどもってたのは聞かなかったことにしてあげよう。


「何だお前は? 手が震えてるぞ? 半端な覚悟で国に逆らうな」


手が震えてるのは、ザックもさっきの模擬戦の疲労が抜けてないからで、こわがってるとか、半端な覚悟とかそういうんじゃないと思う。・・・たぶん。


「半端な覚悟じゃ・・・うわっ」


キィン!


サークリーが振り上げた斧によって、ザックの持っていた刀が森の方へ吹き飛んでいく。


「だったらもっとしっかりと武器を持つんだな」


馬鹿にするようにザックをみるサークリー。ザックは悔しそうにしながらも一歩も引く様子はない。

 

 こりゃダメだね。ザックもオニダも勝てそうにないよ。・・・しょうがない。


わたしはザックとサークリーの間に割って入る。


「ヒ、ヒカリちゃん!?」

「おいおい・・・ったく。何してんだあの嬢ちゃんは・・・」


ザックとオニダが何か言ってるし、ビオラ達も呆れたような顔をしてるけど、ここはわたしに任せて欲しい。


 わたしもお姉ちゃんとして格好いいとこを見せないとね!


電磁力を手に纏わせて、森の方に吹き飛ばされたザックの刀を引き寄せて、パシっと少し大袈裟に格好付けてキャッチする。


 うわ、相変わらずおっもいよ、この刀。


刀を電磁力で浮かせながら軽々と持ってる風を装い、目を丸くして興味深そうにわたしを見るサークリーを見上げる。めっちゃ見上げる。


 くっ・・・サークリーの背が大きすぎて格好つかないよ! ・・・けど!


「わたしと一騎討ちだよ!」


精一杯に格好付けて言ったその言葉に、サークリーはニヤリと笑い、背後からは妖精達の盛大な溜息と、ザック達の戸惑いの声が聞こえた。

読んでくださりありがとうございます。

暇そうに遊びだすアケビとケイト。

オニダ(本当に何なんだよこいつら・・・)

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