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292.生きてちゃダメだよね?

綺麗なお月様が浮かぶ静かな夜に、ゴトゴトと音を立てながら全速力で走る馬車の中、わたしはチラチラとわたしの様子を伺ってくるアネモネを前のめりになりながらじーっと見ていた。


「ソニア、その人間がそんなに気になるかしら?」


少し不貞腐れたような顔をしたビオラがツンツンとわたしの頬を突っついてくる。


「気になるってゆーか、逆に気になられてるって感じ?」

「その人間よりも私の方がソニアのことは気になっているし、大好きよ」

「いや、そういうんじゃないよ。でも、わたしもビオラのこと大好きだよ」

「うふふ」

「えへへ」


 いや、本当にそうじゃなくて!


わたしは抱き着こうとしてくるビオラを押しのけて、正面に座ってるアネモネに話しかけることにする。


「ねぇ、アネモネ。ずっとソワソワしてるけど、何か言いたい事でもあるの?」

「あ、あの・・・それは・・・ありますけど・・・」

「じゃあ、言ったら?」


わたしが聞いてるのに、アネモネは何故かエリカの方をチラッと見る。見られたエリカは「内容には気を付けて」とコクリと頷いた。いったい何のことやら。


「えっと・・・じゃあ・・・」


言いたいことがたくさんあるのか、アネモネは暫く視線を彷徨わせてから、御者の方を見ながら言う。


「あの御者をしてる冒険者の方達は何者なんです?」

「何者って・・・ドレッド共和国に来る時に知り合った、ただの二流冒険者だよ。あっ、わたし達が妖精ってことは知らないから、内緒にしてね!」

「それはもちろん・・・」


 危ない危ない・・・うっかりバラされるかもしれないところだったよ!


今は3人の冒険者に守られながらミリド王国に向かっている最中だ。それというのも、ドレッド共和国で皆で普通に馬車を探してたんだけど、夜中に出発する馬車なんて一つもなかったから、馬車はフィーユに用意して貰って、御者兼護衛として最近知り合った冒険者を雇うことになった。


 そのうちの1人のザックには剣を教えてもらってるんだよね。なかなか筋がいいと鼻の下を伸ばしながら褒めてくれる。まぁ、ビオラ達には剣に振り回されてるようにしか見えないって言われちゃったけど。


雇った冒険者は男2人女1人で、男は剣士のザック、弓のザゼル、女は短剣使いのザシルっていうらしい。ややこしい名前だ。たぶん数日後には忘れてると思う。


少し外に耳を傾けると、冒険者達のコソコソ話が聞こえてくる。エリカが気を使って風でその声をわたしの耳まで届けてくれた。


「ねぇ、ザック。本当に良かったの? いくら高額の報酬だからって、あのミリド王国での護衛なんて・・・しかも元王族の企みの片棒を担ぐなんて・・・二流冒険者の私達には荷が重すぎるんじゃない?」

「ザシル。ザックは高額な報酬でこの依頼を受けたんじゃないぜ。確かに1人当たり大金貨3枚の報酬はデカいし、成功報酬にある王族権限で可能な限りの願いを叶えるってのもすげぇ魅力的だ。だが、ザックはそんなんじゃねぇ、惚れた女にカッコつけてぇから受けたんだ。だろ? ザック」

「か、揶揄うんじゃねぇ! 別にいいだろ!?」

「揶揄ってなんてねぇさ。あんな美人滅多に出会えねぇだろうし、惚れるのも当然ってもんさ。ま、釣り合うかは別の問題だけどな!」

「つ、釣り合うさ! 彼女は俺の剣の腕に惚れてんだ!」

「まぁ、ザックの剣の腕は二流冒険者どころか一流冒険者でもトップレベルだものね。小っちゃい人助けばっかりやって昇格出来ないだけで。あ、でも、今回は大きな依頼だから、一流冒険者に昇格できるかもしれないわね」


 どうやら、ザックにはこの中に惚れている女性がいるらしい。そしてその女性はザックの剣の腕に惚れてるらしい。誰のことだろうね?


「それと、まだ聞きたいことがあるんですが・・・」


ふと聞こえてきたアネモネの声に、わたしは意識を馬車の中に戻す。


「どうして皆さんメイド服を着てるんですか?」


アネモネはわたし達を見回しながら不思議そうに言う。今はエリカ以外の大妖精がお揃いのメイド服を着ている状況だ。ちなみに、メイド服はビオラが魔力を使って作った。どうしてわたしだけミニスカメイドなのかは教えてくれなかった。


「あ、これね。えっと・・・何だっけ?」


隣に座ってるビオラを見る。理由を聞いた気がするんだけど、忘れちゃった。


「設定よ。私達は、この人間のメイドということになっているのよ」

「うん! そういうこと!」


説明されたのに未だ疑問が残ってそうな顔のアネモネに、エリカが説明を付け足す。


「他の人間に怪しまれないように、ソニア達はアネモネと一緒に亡命した侍女、僕は騎士見習い、ってことにしてる。安全の為に各地に散らばっていたけど、ミリド王国の現状を聞きつけて、祖国を放って置けないと集まって、国を取り戻す為に、情報ギルドからの紹介で、現地周辺で、最も腕の立ちそうな冒険者の彼らを雇った。ただ、これだけだと無謀な作戦に思えるから、ミリド王国には既に協力者が潜伏している、ってことになってる」

「え、協力者ですか・・・そんな者は・・・」

「大丈夫。協力してくれそうな人間は、いる」

「そうですか・・・」


自信満々に言い切るエリカに、アネモネは「大妖精様がおっしゃるなら」と若干不安げな表情で頷いた。


「ソニアも、今の話ちゃんと聞いてた?」

「え、うん。き、聞いてたよ!」

「聞いてたけど理解はしてないという顔をしているわよ、ソニア。可愛いから全然許すけれど」


 う、バレてる・・・。


「とにかく、僕たちはアネモネの従者の人間、ってこと。・・・だから、アネモネもその畏まった喋り方は止めて、従者に接するみたいに、喋って」

「え、えぇ・・・」


 アネモネの今の喋り方、違和感すごいもんね! 前はまさに食堂のお姉さんって感じで、そっちの方が親しみやすかったのに。


・・・。


それから二日程でミリド王国に無事に着いた。ただ、道中問題だったのは食糧だ。わたし達妖精は食事は好きでするけど、必要ってわけじゃないから、すっかり準備を忘れていた。だから、冒険者達の食料を別けて貰ったり、野生動物を狩ったりしていた。まったく排泄行為をしないことも怪しまれてたっぽいけど、特に何か言われることは無かった。


「うへぇ~・・・噂には聞いてたけど、すっげぇ奈落だなぁ」

「これが光の大妖精様がミリド王国に激怒して作ったと言われてる通称”怒りの奈落”なのね・・・底が見えな過ぎて足がすくんじゃうわ」

「ヒカリちゃん、大丈夫? お、俺の腕貸すぜ?」

「いらないよ」


半年前にわたしが作った、ミリド王国をぐるっと囲う大きな穴の前。何故か肩を落とすザックを尻目に、わたしはミリド王国に掛かった細い橋と大きな馬車を見比べる。


「これ、馬車じゃ通れないよね? どうする? アネモネ・・・じゃなくてモネさん」


馬車から降りてマントについているフードを被ったアネモネことモネさんを見る。アネモネと呼ぶと元王妃とバレかねないから、全世界に名前を知られているわたし同様に偽名を名乗ることになった。


「そりゃあ・・・歩いて通るしかないけど・・・」


恐る恐ると橋の下の奈落を覗き込むモネさん。「ひぃぃ」と小さな悲鳴をあげた。それに釣られてザシルも「ひっ」と怯える。


「皆行くよ~」


そんな人間の女性陣にはお構いなく、わたし達大妖精組はズカズカと橋を渡っていく。


「さ、さすが王妃様のメイド達は肝っ玉が座ってんなぁ・・・」


「怖がって抱き着かれなくて残念だったな!」と揶揄い合う男共。例え怖くてもザックに抱き着いたりなんてしないよ。


 わたし達は落ちても飛べるからね。まぁ、その時は漏れなく妖精だってバレるわけだけど。


結局、怖がる人間の女性陣には男性陣が命綱を握って渡った。


「最悪の治安って聞いてたけど、ちゃんと見張りの兵は立ってるんだな」


先頭を率先して歩いていたザックが門の方を指差しながら言う。確かにそこにはガタイの良い男が1人立っていた。

ガラの悪そうな人間だなぁって思って見てたら、後ろの方を歩いてたモネさんがツンツンと命綱を引っ張りながら小声で言う。


「あの男、昔捕らえられたハズの元一流冒険者の一級犯罪者だよ。終身刑で出て来られるハズがないんだけど・・・」

「なるほど、さすが世界一治安が悪い国と呼ばれるだけはあるってことだな。お嬢さん方は俺の後ろに隠れてくれ」


 カッコつけて言うけど、とても隠れられる人数じゃないよね。


「おいおい。えれぇべっぴんさん連れてるじゃねぇかよぉ。メイド服なんて着せて、ご主人様気取りかぁ?」


 ほぅら、絡まれた。


ザックが少し低い声を出して「お前はこの国の兵士か?」と睨む。ガタイはいいけど目つきは悪い男はその言葉にニヤリと笑う。


「あぁ、兵士だぜ! それもザリース王直属のな! 怪しい入国者が居たら王様に直接報告することになってんだよなぁ」


そう言いながら、嘗め回すようにわたし達を見る男。ハッキリ言ってかなり気持ち悪い。わたしの隣りにいたビオラがピクッと動くよりも早く、ザックが一歩前に詰め寄って口を開いた。


「なるほどなるほど。そのザリース王が気に入りそうな女がいたら報告して、王族権限で召集、または誘拐って感じか? 最悪だな」

「王の愛人やら側室になれるチャンスだぜぇ? まぁ、その為の手数料は頂くがな! へっへっへ!」


男は気持ち悪い笑みを浮かべながらわたし達の方へ手を伸ばそうとする。


 皆のことはお姉ちゃんのわたしが守るからね!


黒いモヤモヤを出し始めたビオラ、拳に炎を纏わせて今にも殴りかかりそうなケイト、アホ毛をピンと立てて警戒するアケビ、無表情のまま微動だにしないエリカ。わたしは皆を庇うように前に出ようとしたけど、その時にはもう終わっていた。


ドサッ・・・


膝から崩れ落ちる男。鞘に収まったままの刀を持つザック。見えなかったけど、何となく何が起きたかは分かった。


「今のは鞘で顎を叩いて、脳震盪を起こさせたんだぜ! どうだ? ヒカリちゃん!」


 どうだ? わたしにも出来るかって煽ってるのかな?


「うん! わたしもやってみる! ・・・おりゃ!」

「うわっ、急になに!?」


ザックに向かって拳でやってみたけど、軽く避けられちゃった。


「うっ・・・ぐぅ・・・てめぇら、兵士の俺にこんなことしていいと思ってんのかぁ・・・」


地面を這いながらそんなことを言ってザックを睨む男に、ザックは冷たい視線を送る。


「ザゼル。手枷を作る魔石持ってただろ? こいつに嵌めて崖スレスレにでも転がして置いてくれ」

「いいのか? 放置して」

「こいつを抱えながら入国するのは目立ちすぎるだろ? そうですよね? モネさん」

「あ、ああ。そうだねぇ。・・・それにしても、元一流冒険者を瞬殺だなんて、本当に凄いねぇ」


わたしには分からないけど、この兵士の男もそれなりの実力者だったらしい。


「それじゃあ、世界一治安が悪い国に入国といきますか! あ、ちなみにエリカくん? さん? は元騎士見習いって聞いてるけど、当てにしてもいいのか?」


 あぁ、そういえばそういう設定になってたね。


「色々とあって、本気は出せない。当てにはしないで。あと、呼び捨てでいい」

「なるほど、分かるぜ。俺もエリカくらいの歳の頃はそんなんだった。じゃあ、とりあえず殿を頼むぜ」


 ? わたしには分からないけど・・・?


後ろでザゼルが「そういうお年頃ってことか」と納得している。


 まぁ、そんなことよりも・・・。


意気揚々と世界一治安の悪い国へ入っていった冒険者に背を向けて、わたし達妖精組は崖っぷちで手枷を嵌められて転がらされてる兵士の男に近付く。


「な、なんだてめぇら・・・まだ何か用があんのか!? ってか、この枷外してくれや!」

「ソニアは少し下がってくれるかしら? この位置だと男からスカートの中が見えちゃうわ」


わたしは一歩後ろに下がって皆の後ろに移動する。


「あまり時間をかけると怪しまれちゃうからね、手短にね!」

「分かっているわよ」


ビオラ達はそれぞれが威圧感のある雰囲気を出しながら兵士の男に近付いて行く。


「な、なんだよお前ら・・・何か普通とちげぇぞ・・・お、おい、なんだそれ・・・やめろ!!」


あっという間に男の四肢は使い物にならなくなった。右手は灰になり、左手は細切れにされ、右足は何かに押しつぶされたようにぺしゃんこに、左足は骨だけになっちゃった。

わたしはそんな無残な姿になった男に近付く。ビオラが「スカートが・・・」と呟くけど、ドロワーズくらい見られても構わない。


 だって・・・


「ひゅー・・・ひゅー・・・た、助けて・・・」


男は必死に呼吸をしながら、情けなく失禁して、涙と鼻水でぐしょぐしょになった顔でわたしを見上げる。


「助ける? 何言ってるの? わたしの大切な弟妹達に手を出そうとしたんだもん。生きてちゃダメだよね?」


口角をあげてそう言うと、男は絶望の表情になった。


「えいっ」

「うっ、うぁぁぁああああああああ!!」


軽く足で押すと、男は奈落に落ちていった。


 うん。これでよしっ。


「おーい! ついて来てないと思ったら、そんなとこで何やってんだー!」


門の向こう側からザックが大きく手を振ってる。少し時間を掛けすぎちゃったね。


「今行くよ~!」


スッキリした様子の弟妹達と、吐き気を我慢するような怯えたような真っ青な顔の、一連の出来事を見ていたモネさんを連れて、わたしは世界一治安の悪いと呼ばれているミリド王国に入った。

読んでくださりありがとうございます。

ソニア「エリカもメイドふk・・・」

エリカ「嫌だ」

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