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291.【アネモネ】大妖精達と里帰り(後編)

「だから言っただろ! 髪色を変えただけじゃあ簡単にバレるって!」

「まだバレてないしっ! ていうか、髪だけじゃなくて瞳の色も変えてるから!それに、ケイトの方が火の大妖精だってバレてるじゃん!」

「んだとぉ!? そんなわけねぇだろ!」


食事処レイカの店内で、取っ組み合って言い合うソニアさんと火の大妖精様。


 何この状況・・・えっと、私はどうすればいいの?


レイカさんもニカちゃんも、フィーユさんも「何が起きてるのか分からない」みたいな顔で呆けている。そんな風景をボーっと眺めていたら、横からトントンと肩を叩かれた。そちらの方へ首を向けると、茶髪の子、アケビと紹介された大妖精様が何でもないような顔で立っていた。


「完全にバレてるみたいだから、改めて私から紹介するよ」

「は、はい・・・」


アケビさんは大妖精様達を指差しながら紹介を始める。


「まず、そこで頬を膨らませてる黒髪の女の子が光の大妖精のソニアだよ。私達の可愛いお姉ちゃんだよ」


 可愛いお姉ちゃんか・・・確かにソニアさんのイメージに合ってる言葉だねぇ。いや、妹の方がもっと合ってるような気がするけど、それはソニアさんのことを私よりも理解してる他の大妖精様達からすれば違うんだろう。


「それで、そのソニアの頬を引っ張ってるツンツン赤髪が火の大妖精のケイトだよ。よく誰かと喧嘩してるけど、決して仲が悪い訳じゃないよ」


 火の大妖精様は知ってる。よくカニ玉炒飯を食堂に食べに来ていた。その時はこんなに大きいサイズじゃなくて、手のひらサイズだったけど。


「端っこでソニアのことをじーっと見守ってる黒いゴスロリが闇の大妖精ビオラだよ。何よりもソニアのことを優先するんだよ」


 確かにソニアさんしか視界に入ってない感じがする。どこかディル君に似てるような気がするけど、何だか近寄りがたい雰囲気はディル君とは正反対かもしれない。


「私の隣りにいる白髪の無表情の男の子が空の大妖精のエリカ。何故か一番ソニアに可愛がられてる憎い奴だよ」


 無表情だけど、すべてを見透かすような灰色の瞳で見られるのは少し怖い。


「で、私が土の大妖精のアケビだよ。泣き虫克服中だよ」


そう言いながらピースをしてくるアケビさん。「そうですか・・・」としか言えない。


「あと、ここにはいないけど緑の大妖精と水の大妖精も・・・うぷっ」


隣にいたエリカさんがアケビさんの口を塞いだ。


「僕達に対して、何も質問は受け付けない、口外も許さない、分かった?」


淡々とした口調でそう言い放つエリカさん。「逆らったら殺される!」そう察した私達はコクコクと頷く。レイカさんが「とんでもない客を連れてきたわね!」みたいな険しい顔でニカちゃんを睨んでいるけど、これは仕方ないと思う。


「ほら、ソニア。そんなにプンプンしてないで椅子に座ってよ」


アケビさんがソニアさんの変わった服の袖を摘まんで声を掛けるけど、ソニアさんは座るどころかアケビさんの肩をガシッと掴んで揺さぶり始める。


「ねぇ、アケビ! 最初に妖精バレしたのはケイトだよね! わたしじゃないよね!」

「どっちでもいいよ。とにかく座ってよ。チキンライスを食べるんだよね?」

「その前にどっちか決めてよ!」

「じゃあ、ソニアだよ」

「えぇ!? なんでさ! 絶対ケイトだっ・・・ひゃあ!!」


ソニアさんの後ろに急に土のゴーレムが現れ、ソニアさんの肩を抑えて無理矢理座らせた。突然のことにパチパチと瞬きして呆けるソニアさん。その隣ではケイトさんが恐る恐るといった感じでそーっと椅子に座っていた。


「いつも止めるリナムとジニアが居ないからって羽目を外さないでよ」

「「はい、ごめんなさい」」


肩を落としてしょんぼりとしてしまうソニアさんとケイトさん。


 大妖精様ってもっと威厳のある方達だと思ったけど、何だか可愛らしい方達だねぇ。


そう思って少し和やかな気持ちで大妖精様達を見ていたら、ソニアさんが「あ、そうだ」と手を打って、周囲を見回し始めた。


「他のお客さんは邪魔だよね!」


パチンッと指を鳴らすソニアさん。同時に店内にいた他のお客さんが一斉に倒れた。

呆気にとられる人間の私達、「ソニアにしては賢いわね」と穏やかな雰囲気を崩さない大妖精様達。


 え、何をしたんだい?


フィーユさんやレイカさん達を見るけど、揃って首を横に振る。


「殺したのか?」


ケイトさんが何気ない顔で恐ろしいことを聞く。


「ううん。脳の電気信号を止めただけだから、そのうち起きるよ。たぶん・・・一年以内には」


 一年!? この人達は今から一年も眠り続けるかもしれないってことかい!?


「一年か。割とすぐだな」


人間と妖精の感覚の違いを突き付けられる。いくら見た目や言動が可愛いらしくても、その実はどれくらい生きてるかも想像できない、自然を司ると言われている畏れ多い存在なんだと実感する。


「私、今夢でも見てるのかな?」

「ニカ、現実だから大妖精様方の注文を取ってちょうだい。・・・私はちょっと・・・胃が痛くなってきたわ・・・」


そうして真っ青な顔のレイカさんは裏に去って行き、カチカチに緊張したニカちゃんが大妖精様達から注文を取ってから、逃げるように厨房の方へ去っていった。


皆それぞれ何か頼むのかと思ったら、チキンライスと杏仁豆腐を一つずつしか頼まなかった。


 ソニアさんしか食べないのかね?


「そういえば、あなたって『食堂のお姉さん』だよね! 確か・・・何たら王国のお姫様? 王妃様とかだったよね?」


ソニアさんがずずいっと可愛らしい幼い顔を近付けてくる。同性なのについドキッとしてしまう。


「アネモネ・シロ・ミリド。34歳。ミリド王国の公爵家の一人娘。16歳で第一王子と結婚。17歳で子供を授かる、けど流産。33歳の頃革命が起きて、亡命。今はカイス妖精信仰国のオームの要請に応えるかどうかで、フィーユに相談してた」


 え・・・。


突然、エリカさんが私の生い立ちを暴露しだした。「どうして知ってるんだい?」と聞きたいところだけど、「質問は受け付けない」と言われた以上、何も聞けない。


「オームの要請って何?」


ソニアさんが退屈そうに椅子をカタカタ揺らしながら何気なく聞く。


「アネモネに、ミリド王国の、新しい王になって欲しい、っていう、お願い」

「へぇ~・・・」

「興味ない?」

「んにゅー」


どっちともつかない返事をするソニアさん。何か別の考え事をしてるのかもしれない。


「でも、その要請も、もう意味ないけど。オーム、死んだから」

「ふぇ~」


 えぇ!? 「ふぇ~」じゃないでしょう!! 死んだって!? カイス妖精信仰国の第一王子のオーム様が!? いつ? どうして? どうやってだい?


聞きたいけど、エリカさんの「質問は受け付けない」という言葉が脳内で反芻する。フィーユさんも気になるようで、食事の手が止まっていた。

私はどうにかソニアさんから聞いてくれないかとソニアさんを見つめる。


 ソニアさん、もっと今の話に興味持ってください!! そんな欠伸を嚙み殺したような顔しないでください!可愛らしいですけど! 今はそれどころじゃないんです!


そんな私の様子を察したのか、エリカさんが私を見ながら説明を付け足してくれる。


「この国を出たあと、殺された」


 殺された!? 誰に?


聞きたいけど、聞いていいのか分からない。チラッとソニアさんを見ると、「殺された」という単語に反応したのか、エリカさんに少し近付いて身を乗り出した。


「ねぇ、誰に殺されたの? わたし少しだけオームのこと気に入ってた気がするから、懲らしめてやりたいなぁ」


 ナイスです! ソニアさん! よく聞いてくれました!


「過去に、息子を闇市場に売られた、女性。闇市場のトップにいたオームに、恨みがあった。そして、闇討ちした。因果応報」

「い、いんが・・・?」

「自分の行いが、自分に帰ってきたってこと」


エリカさんはそう言いながら少し表情に影を落とした・・・ような気がした。


 殺されたことが仕方ないとは言えないけど、あまり犯人を責められるものでもないねぇ。それよりも、私はこれからどうしたらいいんだろうか。やっと気持ちの整理が出来て、先のことが見えるようになったのに・・・。


「お待たせしました~。チキンライス一人前と、半量のチキンライスです」


相変わらず緊張した様子のニカちゃんが私の前に小さめのチキンライスを置き、ソニアさんの前にチキンライスを置く。


「じゃあ皆、食べよっか!!」


 え? 皆? チキンライスは一皿しかないけど・・・。


突然、ビオラさん以外の大妖精様が小さくなった。半年前に最初に出会った、ディル君と一緒にいたちっちゃなソニアさんと同じサイズ。


ちっちゃな妖精さんになった大妖精様達は、皆でお皿を囲んでパクパクと一生懸命にチキンライスを食べ始める。


 か、可愛い。


何だかモヤモヤしていた心がほんの少し晴れたような気がする。よく見れば、私と同じようにソニアさん達を見下ろしているビオラさんも微笑まし気な表情をしていた。


・・・。


「ふぅ~、美味しかった~! 満足だよ~!」

「なかなかだったな! けど、アタイはやっぱりカニ玉炒飯の方が好きだ!」

「私はカレーうどんの方が好きだよ。あ、でもこれも美味しいよ」

「僕はあまり食事は好きじゃないけど、こうやって、皆で食べるのは、好きかも」


人間サイズに戻った大妖精様達が椅子にもたれ掛かって、それぞれが満足そうにお腹を擦っている。

私はそんな光景を見ながら、気づかれないように「ふぅ」と溜息を吐く。


 せっかくのチキンライスだったけど、緊張して味が良く分からなかった・・・。しかも、いつの間にかフィーユさんは居なくなってるし・・・。先に逃げるなんてずるいじゃないかい。


ニカちゃんが伝票を置くかどうかを迷ってる姿を「可哀想だねぇ」なんて他人事のように見ていたら、ソニアさんがガタっと立ち上がった。


「よしっ、じゃあ美味しいものも食べられたし、面白い話もきけたし、そろそろ出発しよっか!」

「出発って、どこに出発するんだよ。目的地はここだったろ? それに、リナム達がここに向かってくるハズなんだから、アタイ達が離れちゃダメだろ」


ソニアさん達がどこから来たのか分からないけど、ここを目的地に皆でやって来たということは分かった。


「うーん・・・じゃあ、フィーユにリナム達宛てに伝言を頼んでくる!」


ソニアさんはそう言った直後、パッと明るくなったと思ったら、消えていた。


 何だか分からないけど、大妖精様ならそういうこともできるだろうねぇ。


目の前でソニアさんが消えたけどまったく驚く様子のないケイトさんは、「ハァ」と軽く溜息を吐いたあと、肩を竦めながらビオラさんとエリカさんとアケビさんを見る。


「現状ではこのドレッド共和国が一番安全だからってことで、ソニアが言うままにここを目的地について来たわけだけど、どうすんだ?」

「私はソニアについて行くよ」

「僕もソニアについて行く。あの様子のソニアが、簡単に止まるとは思えないし、僕もやりたいことができた」

「私もソニアについて行くわ。何があってもソニアの笑顔は私が絶対に守るもの」


 どうしよう。退席するタイミングを完全に失っちゃったじゃないかい。


「戻ったよ~!」


背後から突然ソニアさんの声が聞こえてきた。ビクッと肩が震える。


「あの人間に伝えてきたのか?」

「うん! 何か腰を抜かしてたけど、ちゃんと伝えて来たよ!」


 フィーユさん・・・同情します。


「じゃあ、今度こそ行こっか!」


ソニアさんはそう言いながら、私の手を掴む。


「え?」


そのままグッと引っ張られて、立ち上がらされる。


「ちょっ・・・え? え?」


戸惑う私にお構いなく、ソニアさんは手を引っ張ったままお店を出ようとする。私は助けを求めるようにニカちゃんを見るけど、ニカちゃんは伝票を握りしめたまま「お代金・・・」と立ち竦んでいた。

そして、ニカちゃんの呟きを拾ったアケビさんがクルッと振り返り・・・。


「人間は対価を要求するんだったよ。忘れてたよ。すごく美味しかったよ」


ドスン!


身の丈程ある金塊を店内に出現させた。「へ?」と口を開けたまま固まるニカちゃん。そんなニカちゃんの姿を最後に、バタンとお店の扉が閉められた。


「それでソニア? 一応聞いておくけれど、その人間をつれて何処に向かうつもりなのかしら?」


ビオラさんが私が物凄く気になってることを聞いてくれた。


「ん? ミリド王国? ってとこだよ。そこでアネモネを王様にするの! ・・・あっ、もちろんわたし達が妖精だってことは隠してね!」

「まぁ、そういうことだろうとは思っていたわ。どうせ、面白そうとか考えているのでしょう?」

「それもあるけど・・・オームのやり残したことだからね!」


 ソニアさん・・・、例え妖精でも、ソニアさんはやっぱりソニアさんだねぇ。


「それに、やっぱり面白そうだしね! 何か刺激が足りないなぁって思ってたんだよ!」


 ソニアさん・・・。


「まぁ、刺激が足りないってのはアタイも同感だな! もっとワクワクするようなことがしたいぜ!」

「だよね! だよね! そういうことだから、早く馬車かなんか見つけて行こうね!」


そうなんだろうとは思ってたけど、今から向かうらしい。


 ・・・部屋にある傷みかけのお肉は諦めるしかないねぇ。


欠けた月が浮かぶ少し肌寒い夜、私はルンルンなソニアさんに手を引かれるまま月に祈る。


 ・・・どうか穏便に事が進みますように。


読んでくださりありがとうございます。次話は普通にソニア視点です。

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