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289.問題発生、大丈夫だよね?

ガヤガヤと騒がしいイザカヤというお店のテーブル席。大妖精の皆に囲まれて、串に刺さった焼き魚をぐにぐにとわたしの頬に押し付けてくる。一番力強く押し付けてくるビオラがコテっと首を傾けてわたしの目の前に申し訳なさそうな顔で口を開く。


「ソニア。そろそろ機嫌を治してくれないかしら?」


ぐにぐに・・・。わたしは今、とても機嫌が悪い。不貞腐れてるとも言う。

ぷくーっと頬を膨らませて串を押し返そうとするわたしに、今度はジニアが頬をツンツンと突きながら少し早口で言う。


「ま、まさかブルーメに着くまで眠り続けるとは思わなかったのよ!」


ツンツン・・・。ここはブルーメ。南半球にある小島で釣りを楽しんでいたと思ったら、勝手に眠らされた挙句、気が付けば北半球にあるブルーメまで運ばれていた。

皆が突っついてくる串をパシっと払うと、ケイトが皆を軽く睨みながら言う。


「アタイはソニアを眠らせるなんてこと知らなかったんだけどな。眠ってるのをいいことに勝手に着替えさせたのだって、アタイは止めたんだぞ?」


そう。わたしは今、赤くて、スラッとピチッとしている不思議な形のドレスを着せられている。ビオラが「チャイナドレス」とか言ってたけど、チャイナって何だろう? 初めて聞いた。ビオラも何だか分からないらしいから、たぶん人間が考えたものだと思う。


 まぁ、服に関しては、露出もそこまで多くないし、案外動きやすいから別にいいんだけどさ。勝手に脱がされて着替えさせられたと思うとちょっぴり恥ずかしいけど、それは今更だもん。


そんなことを思いながらも、皆の視線から逃れるためにプイッとそっぽを向く。すると、向いた方向にリナムがわざわざ移動してきて、串に刺さった魚を見せつけてくる。


「ほうら、美味しそうな焼き魚ですよ。塩焼きです。あ~ん」


はむっ・・・。


「おいちい!」


 ・・・はっ!! つい口を開けて食べちゃった!!


もきゅもきゅと咀嚼するわたしを見て、皆がホッと安堵の息を吐いてお互いを見合う。リナムが微笑まし気な顔で頭を撫でてくるのが何だか恥ずかしい。


 ま、まぁ、皆に悪気が無いのも、わたしのことを想っての行動なのも知ってるから許すんだけね。ただ、最初から本当のことをわたしに言ってくれなかったのは皆のお姉ちゃんとして少し寂しいよ。


皆が持ってるお魚をそれぞれ皆に食べさせたあと、男の人間が面倒くさいノリで話しかけてきた。でも、ケイトが男の股を蹴り上げてたら大人しくなった。何故かエリカが「ひっ」と怯えたような声を出してたけど、何かを聞く前にビオラに背中を押されてイザカヤを出ちゃう。


「いい? これからは旅を楽しむ為とかそういうんじゃなくて、危険を避けるために妖精バレしないようにちゃんと人間に擬態するんだよ!」


元々はわたしが「人間に擬態した方が面白そう!」みたいな考えで始めた擬態だけど、わたし達大妖精に危害を及ぼす存在がいることが判明した以上、情報が集まって対策、もしくは排除が出来るまで人間に擬態することになった。・・・ちなみに、人間バレ=罰ゲームは変わらない。


 罰ゲームって言っても、着せ替え人形にされる程度なんだけどね。

 

わたし達はお店を出たその足でそのままグリューン王国行きの船に乗った。途中で何人かの男に声を掛けられたけど、その度にケイトが股を蹴り上げて追っ払った。そのせいかどうか分からないけど、エリカが酷くケイトに怯えてる気がする。


・・・。


「うん~~~っ! 人間がたまにこうやって伸びをするけど、何となく気持ちが分かる気がするよ~」


飛べば一瞬で着くところを、乗り心地の悪い人間の船に乗って丸一日を掛けてやってきたグリューン王国の港町で、気持ちいいほどの晴天を見上げて体を伸ばす。わたしの真似をして意味も分からず体を伸ばしていたアケビが、首を傾げて口を開く。


「こっからはグリューン王国の王都を通って北の・・・ドレッド共和国? ってところに行くんだったよね?」

「そうだね!」

「徒歩で行くの? それとも飛んで? それともそれとも、馬車を使って?」


 うーん、考えてなかったや。


顎に手を当てて考え込むわたしに、ケイトが吞気な声で言う。


「歩いてったらいいじゃねぇのか? 日数はかかるけど、楽しそうじゃんかよ。道中で襲ってくる魔物やら人間やらを撃退してくんだ!」


 襲ってきてもいない、声を掛けてきただけの男の股関を蹴り上げてたもんね。わたしには何が楽しいのか分かんないけど、楽しそうなケイトを見てるのは好きだな。


ケイトの言葉に心が傾きかけてたところ、リナムが呆れたような声で言う。


「私は徒歩なんて嫌ですよ。飛んでいきたいですし、徒歩だと迷子になりそうです。それが一番早いじゃないですか」


 まぁ、確かに早く着きたいよね。もしも道中何もなかったら暇だもん。でも、飛んだら妖精だってバレないかな?


悩むわたし。睨み合うケイトとリナム。成り行きを見守る態勢のアケビとエリカ。そして他人事のように美味しそうな果物が並んでる屋台を眺めてるジニア。そんな中、ビオラがそっと手を挙げて口を開いた。


「間を取って馬車でいいじゃない」

「うん、それがいい!」


・・・というわけで、まずは王都行きの馬車に乗るために馬車の停留所に来た・・・というところで問題が発生した。


「あれ? そういえばジニアは?」


いつの間にかジニアが居なくなっていた。


 途中までは居たハズなんだけど・・・。「美味しそうなものがいっぱいね!」ってキラキラした瞳で屋台を見ていたのを覚えてるもん。


探しに行こうかなと思ってたら、後ろから既に馬車に乗り込んでいるケイトの怠そうな声が聞こえてきた。


「え~、マジかよ~。もう馬車出発しちゃうっぽいぜ~」

「次の馬車はいつなの?」

「分かんねぇけど、魔物の活性化? とかで本数を減らしてるらしいから、だいぶ先らしいぞ」

「ハァ・・・仕方ないですね。世話の焼ける子です。私がジニアを探してくるので、皆は先に行ってください」


リナムが「やれやれ」みたいな顔でそう言いながら馬車から降りる。わたしはそんなリナムのスカートの端を掴んで止める。


「先にって・・・リナムはどうするの?」

「ジニアを見つけ次第追い掛けますよ。目的地が一緒なんですから最悪そこで合流できますし、何ならジニアを連れて海中を泳いで先回りしてますよ」


 確かに海を泳げば人間からは見えないし、リナムにとっては飛ぶよりも水中の方が早いもんね。でも・・・。


「だったら、わたしがジニアを探したあと、姿を不可視化して皆を追い掛けるよ?」


 そっちの方が早いし、確実だもん。


「ダメですよ」

「それはダメだろ」

「うん、ダメ」

「ダメね」

「ダメだよ」


何故か一斉に反対された。


「ソニアが私達から見えなくなるのは出来るだけ避けたいです」

「なんで?」

「目を離した隙にどこかに・・・いえ、ソニアは目の保養ですから」

「はい?」


 目を離した隙にどこかに・・・なんだって?


「おーい! 嬢ちゃん達! 何をコソコソ話してンだ? もう馬車を動かすぞ~!」


馬の手綱を握っていた御者のおじさんがこっちを見て叫ぶ。


「とにかく! 私が行きますから! ジニアのことは任せてください!」


リナムはそう言いながら走り去っていった。そして、馬車も反対方向に走って行く。


 まぁ、リナムはしっかり者だし、任せておけば大丈夫だよね! ・・・大丈夫だよね?


・・・。


わたし達が乗る馬車は何事もなく王都に着き、そこでまた馬車を乗り換えて、ドレッド共和国を目指す。


「あ~あ、男どころか魔物すらもぜんぜん襲ってこねぇな~。暇だ、何でもいいから襲ってこねぇかなぁ~」


少し広めの馬車の中で、ケイトはそう退屈そうにいいながら背もたれにぐでぇっと寄りかかる。すると、その向かいに座っている人間の女がそんなケイトを見て「クスリ」と笑った。


「面白い冗談ね。魔物は護衛の冒険者さんがいるから大丈夫だと思うわよ。・・・あっ、でも、男は放って置かないかもしれないわね。可愛い女の子がこんなにいるんだもの。・・・可愛い男の子もね」


人間の女はわたし達と、それからエリカを「本当に美形よね」と羨ましそうに見てくる。

今、馬車にはこの人間の赤髪の女(ニカって名前らしい)とわたし、エリカ、ビオラ、ケイト、アケビの6人が乗っていて、馬車の隣には二流冒険者が数人護衛についている。

そんな中、わたしは膝の上にエリカを乗せて、幸せそうな顔で寝てる(フリをしてる)ビオラを肩に寄りかかせながらケイトとニカの話を聞く。


「護衛なんていらねぇのになぁ」

「何言ってるの。最近は魔物が活性化していて、護衛無しで遠出なんてしたら危ないわよ?」

「活性化ねぇ~、たまに人間達がそんなこと言ってるけど、何なんだそれ?」

「ん?言葉のままよ。魔物の数が増えて、活発になってるのよ」

「そりゃあビオラがぶっ!?」


突然アケビに口を塞がれるケイト。


 「ビオラが月から帰ってきて、魔力が充満し始めたから」って言いたかったんだよね。実際に言ったら妖精だってバレかねなかったけど。


不思議そうに首を傾げているニカを見ていると、膝の上に座っているエリカがぴくっと小さく跳ねた。


「来る・・・」

「え、何が・・・」

「お客さん大変だ! 正面から・・・」

「何だ!? 魔物が来たのか!?」


嬉しそうなケイト。そんなケイトに御者のおじさんは引きながら首を横に振る。


「違う! 盗賊だ!」


 盗賊!?


「見たい!」

「見てぇ!」


わたしとケイトの声が重なった。わたしは膝に乗ってるエリカを退けて、肩に寄りかかってるビオラを引き剝がして、馬車から身を乗り出す。ニカが「ぼ、冒険者さんがいるから大丈夫よね!?」って半泣きになって震えてるけど、気にしない。


「おいおい! 見ろよお前ら! 今回の馬車は当たりも当たり! 大当たりだぜ! どえらいべっぴんさんが揃ってるぜぇ!!」


熊みたいな動物に乗った大柄な男が十数人、物凄い勢いで正面から近づいてくるのが見えた。


 わぁ! 盗賊って2000年前にも見たことあったけど、乗り物以外は何も変わってない! バカっぽくて野蛮!!


「お嬢さん達! 危ないから馬車の奥に引っ込んでてくれ!」

「ここは俺達冒険者に任せてくれ!」


そう言った冒険者の男達は、弓を構え、水の魔石が付いた矢を盗賊に向けて連射する。矢に当たった盗賊たちは次々に眠り、熊みたいな乗り物から落ちていく。残ったのはたった数人になった。


「うしっ!あとは俺の出番だな」


冒険者の1人が馬から降りて、こちらに向かって走ってくる盗賊達を睨みながら腰にぶら下げていた刀を手に取った。


「お嬢さん達の前だ。血は流さないでやろう」


男は鞘に収まったままの刀を正面に構え、襲ってくる盗賊達の攻撃を受け流すようにして捌き、そのまま相手の力を利用するようにして熊みたいな乗り物から落として気絶させてく。この間、たった数秒だった。


「ふぅ・・・少し手間取っちまったかな」

「・・・おいおいザック。可愛い女の子達の前だからってカッコつけんなって!」

「う、うるせぇよ! 別にカッコつけてなんかねぇって!」


気絶した盗賊達と霧散する熊みたいな動物達を後ろに、揶揄い合う冒険者達。わたしは再び肩に寄りかかってきたビオラをもう一度引き剝がして、馬車から降りて冒険者達のもとに駆け寄る。


「すごい! カッコイイ!!」


 なんていうか、すごくクールだった! わたしもやりたい!


わたしはザックと呼ばれた赤い髪の男に近づいて、テンションのままにぴょんぴょんと跳ねながら、見上げて見つめる。


「お、おぅふ・・・あ、ありがとうよ・・・へへっ」


鼻の下を伸ばして、だらしない顔でわたしの胸を凝視するザック。今はかっこよくない。


「ねぇ! さっきの盗賊を倒したアレ! わたしにも教えてよ!」

「お、おう!? も、もちろんだぜ! ドレッド共和国に着くまで付きっ切りで・・・い、いや、着いた後も、良ければ教えてやってもいいぜ? 俺が世話んなった道場もドレッド共和国にあるし・・・そ、そんで、その・・・一緒に食事でも・・・ゴニョゴニョ・・・」

「じゃあ、ドレッド共和国に着くまでお願いね! あ、わたしはソニ・・・えーっと・・・」


 ソニアって名乗ったらダメだよね。危ない危ない。妖精だってバレちゃうもん。でも、どうしよう・・・あっ、わたしは光の大妖精だから・・・。


「わたしのことはヒカリって読んでね! よろしく☆」


何故だかもの凄い形相でザックを睨んでる他の大妖精達を視界の端に写しながら、わたしはパチッとウィンクを決めた。

読んでくださりありがとうございます。

皆が会話してる間のジニアの脳内(食べ物、食べ物、食べ物、ソニア、食べ物)

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