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28.再会のハグ

「忘れ物なんてないよ!」


緑の森の目の前まで追いかけてきたディルに向かって叫ぶ。


「はぁ、はぁ、あるんだよ!これ!お土産を持ってくんだろ!?」


激しく肩を上下させながら、ディルがお土産のクルミパンが入った紙袋を差し出す。


「あ、本当だ・・・えへへ!ありがと!」


 あっぶなーい・・・すっかり忘れてたよ!


「何がえへへだよ。結局俺まで緑の森に来ちゃったじゃないか。ソニア意外と速いし!途中で止まってくれよ!」

「わたしとディルが初めて会った場所だね?」

「ご・ま・か・す・な!」

「ごめんって!」


 めっちゃ睨まれた! でも瞳が優しい! ごめんね!


「はぁ・・・まあいいや。ほれ、持って行けるか?」


ディルが差し出してきた紙袋を揺らす。わたしはそれを両手で掴んだ。そしてディルが手を離した瞬間・・・


「うひゃん!」


中に入っているパンの重みに負けて、紙袋を掴んだまま落下する。


 うわああ!パンが潰れるぅ!頑張れ! わたしぃぃぃ!


「よっ!」

「いたっ!」


ディルが左手で紙袋をキャッチして、右手でわたしの羽を摘まんだ。


 は、羽がぁ!


「痛い痛い!離して!」

「うわっ、ごめん!痛いのか!?」


摘まんでいた手を慌てて離した。


「いや・・・そんなに痛くはないんだけど、あんまり雑に触らないでほしい・・・かな?」

「そっか、悪かったな」

「ん-ん!紙袋、ナイスキャッチだったよ!」


 というか、わたしは飛べるから摘ままなくて良かったんだけどね。


「どうやって持ってくんだよ、これ」


ディルは「1人で持って行けるのか?」と心配そうに言う。


 無理だね。


「ディル、これ持って付いて来てくれない?」


 ちょうどいいところにディルがいたね。


「俺が行ってもいいのか?妖精しかいないところなんだろ?」

「だって、わたしだけじゃ持っていけないし・・・」

「どうしてもお土産を持って行きたいのか?」

「・・・うん」


 これで、何日も戻らなかったことに関してお茶を濁したいっていうのもあるけど、純粋に皆と美味しいパンを共有したいとも思ってる。妖精は食事をしないから、これを期に食事の素晴らしさを知ってほしいな。


「分かった、俺も行くよ」

「ほんと!?ありがと!」

「人間が入ったからって、いきなり攻撃されたりしないよな?」


 さすがにしないよ・・・ね?


「前にディルが森に入った時はどうだった?」

「されてないけど・・・そんな奥まで行ってないからなー・・・ま、考えてても仕方ないか」


わたしとディルは川沿いから森に入って行く。ディルが「こっちは森じゃなくて川だぞ?」と訳の分からないことを言っていたけど、無視して進む。


「なぁ、妖精って皆ソニアみたいな感じなのか?」


脳裏にわたしだらけの緑の森がよぎった。ブンブンと頭を振ってすぐに取り払う。


 そういうことじゃないよね。


「なんていうか、皆ソニアみたいな性格してるのか?」

「そうだとしたら?」

「いや、何か鬱陶しいなって・・・あっ」

「はい!?」


 わたしの性格は、大人っぽくて頭脳明晰で冷静沈着で少し愛嬌があって、決して鬱陶しいと言われるような性格ではないもん!


「いや、違うぞ!?良い意味でだ!良い意味で鬱陶しいんだよ!」

「苦しいよ!言い訳が苦しいよ!正直に言って!わたしは鬱陶しいの!?」


 普通にショックなんだけど!


「えっと・・・たくさん居たら鬱陶しいってだけで! 別にソニアが鬱陶しい訳じゃないから! むしろ、ソニアには元気を貰ってるくらいだぞ!? それに、可愛いし!美人だし!スタイルもいいし! 胸も!」


 ディルは何を言ってるの? 明らかに動揺してるし、若干セクハラ紛いなことも言ってるし・・・でも、まぁ、わたしのことを悪く思ってないことは伝わってきたから、許してあげよう。


「そんなに焦んなくても、もう怒ってないよ」

「はぁ・・・」


ディルが深く息を吐いて、何故かどっと疲れた顔をした。

暫く他愛もない会話をしながら川沿いを歩いていると、わたしが生まれた場所である巨大な木の根本が見え始めてきた。


「もうすぐ着くと思うよ」


ディルの少し前を飛んで、森を案内する。


「あの巨大な木のところだろ?ちょっと楽しみになってきた」

「何にもないただの森だけどね。あ、わたしの家があるくらいかな?」


 あとは小動物がたくさんいるくらいかな?


「あー、そういえば、最初に会った時に言ってたよな、私の家があるって。妖精って人間と同じで家に住んでるのか?」

「いーや、多分わたしだけだよ」


 他の場所にいる妖精は知らないけど、緑の森で家に住んでいるのはわたしだけだったはず、皆、土や草花の中で寝てたもん。


「私も住んでるわよ!」

「うわぁ!」


川沿いから離れ、巨大な木に向かって歩いていたわたしとディルの前に、浅緑色の髪を後ろで三つ編みにした元気な妖精が近くの木からポンっと現れた。ディルが驚いて後退りする。


「ミドリちゃん!!」

「雷の妖精ちゃん!」


わたしとミドリちゃんはグルグルと回りながら抱き合って再開を喜び合う。


 このサイズ感!やっぱり同じ妖精同士が落ち着くなぁ。マリちゃんの手も悪くないんだけどね?


「・・・って、違うわよ!」


ミドリちゃんにバッと突き放された。むーっとほっぺを膨らませて怒っている。


「私の忠告を無視して勝手に人間の村に行った挙句! 王都まで連れていかれて!もう・・・!」


 そうだよね、そうだよね。ミドリちゃんはちゃんとわたしに忠告してたもん。それを無視して行ったんだ。怒るよね。


「もう・・・・心配したんだからぁ!」


ミドリちゃんが泣きながら両手を広げる。


「ミドリちゃーん!」


わたし達は再び抱き合った。涙を流して。


「・・・って、そうじゃなくて!」


今度はわたしがミドリちゃんをバッと突き放した。


「どうして、わたしが王都まで連れていかれたことを知ってるの!?」


 もしかして、ミドリちゃん自身が緑の森から出たの!?


「雷の妖精ちゃんがいつまで経っても帰って来ないから、莢蒾(ガマズミ)の妖精がこっそり近くの村まで行ったのよ。そこで聞いた色んな噂話から推理して、王都に攫われたんじゃ?って感じよ」

「へぇー、よくバレなかったね」

「ま、私達緑の森の妖精は植物があれば簡単に姿を隠せるからね」


 確かにね、わたしも似たようなことが出来れば、あんなことにはならなかったのかもしれないね。過ぎたことを言っても仕方ないけれど。


「そ・れ・よ・り!その紙袋!何だか幸せな匂いがするんだけど!」


ミドリちゃんがディルが手に持っている紙袋にビシッと勢いよく指をさす。


「あー、これね?お土産だよ!緑の森の皆に!」

「きゃー!雷の妖精ちゃんサイコーよ!それってアレよね?小麦粉を腐らせて焼いたやつ!」


 そう! 腐らせて焼いたやつ! それがパン!


「パンって言うんだよ。食べたことあるの?」

「ずーーっと前にね。他の子達は食べたことないはずだから、早く持って行ってあげましょ!さっ!それを渡しなさい!」


今まで黙って私達のやり取りを見ていたディルが「え?あ、おう」と煮え切らない返事をしながら紙袋をミドリちゃんに手渡した。


「よし!それじゃあ家に帰るわよ・・・って重い!重いわよ!これ!ちょっと雷の妖精ちゃん!手伝いなさいよ!」


紙袋を受け取ったミドリちゃんは、わたしと違って落とすことはなかったけど、地面すれすれで羽をパタパタさせて踏ん張っている。わたしはミドリちゃんの隣で一緒に羽をパタパタさせて紙袋を持つ。


「おもいぃ!」


慌ててわたしも紙袋を持つ。


「雷の妖精ちゃん、ちゃんと持ってる?全然変わんないんだけど!?」

「持ってるよ!ミドリちゃんこそ!わたしも持ってるからってちょっと楽してない!?」

「して・・・ない・・っわよ!」


 わたしとミドリちゃんの2人で持っても、紙袋はちっとも持ち上がらない。むしろちょっと高さが落ちた気がする。やっぱりミドリちゃんちょっと力抜いてない?というかそのままディルに運んでもらえばよくない??


「なぁ・・・やっぱり俺が持つよ」


見かねたディルが地面すれすれでわたし達が持っている紙袋をわたしとミドリちゃんごとサッと持ち上げた。


「っわ!」

「うひゃー!何するのよ!これくらい私達で運べたわ!」

「いや無理だよ!?」


プリプリと怒るミドリちゃん。


「というか、あなた誰よ!?」


ミドリちゃんがディルをキッと睨む。睨まれた本人は「紹介してくれ」とわたしに目で訴えている。


 うわぁ、先にディルを紹介しておくんだったかなー。


わたしは巨大な木に向かって進みながら紹介する。

ミドリちゃんが人間のディルが歩きやすいように、進行方向にある木や草をサッと退かしたのを見て、ディルが息を呑んだ。ディルを森の中心に連れて行くことはミドリちゃん的にも大丈夫みたいだ。


「紹介するね、この子はディル、最初に森に入って来た人間の子供だよ」

「あー、莢蒾の妖精が言っていた子供ね?」

「うん!王都でわたしがピンチの時に助けてくれたの!」

「そうなの・・・ねぇ、あなた、両親は?」


ミドリちゃんが真面目な顔で問いかける。まるで就活面接のようだ。わたしは空気を読んで口を紡ぐ。


「え?・・・えっと、5年くらい前に村を出て行ったっきりだ。今は知らない。村が大丈夫そうになったら、探しに行くつもりだけど」


ディルが「それが何か?」と不思議そうな顔をする。


「ふーん・・・、あと2.3年は待った方がいいわよ。探しに行くの」

「は?もう5年も待ったんだぞ?これ以上は待ちたくない」


ディルは頬を膨らませてむすっとした顔でミドリちゃんを見た。


「まず、そんな直ぐにあの村は立て直せないのと、あなた、まだ子供でしょう?今行っても道中で魔物の餌になるのが関の山よ。護衛を雇うお金もないでしょうし」

「でも俺は・・・」


ディルが悔し気な顔で俯く。


「そうね。強さには自信があるんでしょう。でも、その強さも「子供にしては」の範疇を超えるものではないわ。あなた自身王都で力不足を感じること、あったんじゃない?」


ディルはギリッと奥歯を噛み締めて、口を開く。


「・・・あともう少し、あの村にいることにするよ」


普段からは想像出来ないほど冷静なミドリちゃんに諭されたディルは、素直にミドリちゃんの意見を取り入れたみたいだ。


「はー!らしくないこと言っちゃったわね!」


うーんっと大きく伸びをしながら言う。さっきまでの冷静なミドリちゃんはもうどこにもいない。


「いきなり雰囲気が変わったんだもん!驚いたよ!」

「ふふふっ、知的な私に魅了されちゃったかしら?」

「ぜんぜん!むしろちょっと引いたよ!」

「ガーン!」


 それ口で言うんだ・・・。


そうこうしてる間に、わたしとミドリちゃんの家がある森の中心に着いた。ディルが足を踏み入れた瞬間、辺りで寛いでいた緑の妖精達が驚いてパッと姿を消してしまった。ただ1人を除いて。


「やあ。おかえり、雷の妖精。何か僕に言うことがあるんじゃないかい?」


家の前で腕を組んだガマくんが、圧のある怖い笑顔で出迎えてくれた。


 これは、お土産でお茶を濁すのは厳しそうだ・・・。

読んでくださりありがとうございます。ミドリちゃんの方が若干身長が高いです。

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