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284.北を目指す

「クゥーンクゥンクゥン!!」


 怪我を治してくれて、ありがとさん!・・・って言ってるね。


宿の前、白いドラゴンのスノウドラゴンことシロちゃんの嘴を優しく撫でる。可愛い。


 まぁ、治したのはわたしじゃなくてジニアなんだけどね。


「それじゃあ、アタシとシロちゃんは念の為一晩休んでから、明日に出発するわネ」

「んじゃ、ゆっくり休んでね~」


むすっとした表情のビオラの左手を持って、バイバイと手を振らせる。ミカちゃんは苦笑しながら、小さくなったシロちゃんと一緒に宿に入っていった。わたしはそのままビオラの手を握って、くるっと回る。


 さて、わたし達は村を出発しよう!


「じゃあ、わたし達は――――」

「あ、待って! お嬢さん達! いえ、大妖精様!!」

「ヴェぇ!?」


 今、大妖精様って呼ばれた!? ビックリして変な声出ちゃったよ!


ギギギ・・・っと音を立てて、振り返る。宿の受付の人間が緊張したように背筋をピンとして立ってた。


「申し訳ございません。実は、ミカモーレ様が女湯に入って行くのを見て、先にアナタ様達が入っているから男湯に・・・っと伝えようと思って後を追いかけたら・・・」

「私達の話声が聞こえてきたというわけね。もともとソニアと知り合いだったあの人間だけではなく、普通に村の人間にバレてしまった・・・と。」


ビオラがそう言いながらニンマリと笑ってわたしを見る。きっと罰ゲームのことを考えてるに違いない。


「あの・・・それで、本当に大妖精様なんですよね?」

「ハァ・・・そうだよ。でも、誰にも・・・」

「わぁ! 本当に大妖精様なんですね! 皆様、人間離れしたとても美しい容姿をしていらっしゃると思っていたんです! 村の外周にいた気味の悪い兵隊を追っ払ってくれたそうで! 本当にありがとうございます! お陰で先送りにしてた店舗の移転を進められそうです!」


誰にも言わないでねって注意しようとしたんだけど、近所中に聞こえたんじゃないかと思えるほどの物凄い大きな声で叫ばれた。そのせいで、聞きつけた村人達がワラワラとやって来る。


「ねぇねぇ、お姉さん達、妖精さんなの?」


ちっちゃな女の子がわたしの手をちょいちょいと掴んでくる。純粋な瞳がわたしの心に刺さる。


 もう・・・今更誤魔化すのも面倒くさいや。


「そうだよ。わたし達は妖精だよ」


見えなくしていたわたし達の羽と尖った耳、それからわたしの黒髪を金髪に戻す。その瞬間、周囲が一層ざわめきだした。


「本当に妖精だ」「前に愛し子様と一緒にいた金髪の・・・」「か、可愛い・・・」


 たまに思うんだけど、わたしってそんなに可愛いかな? ちっちゃくなってた時は、まぁ・・・ちっちゃいからそう言われてるのかなって思ってたけど・・・おっきくなった今も可愛い? 何だか子供扱いされてるみたいで素直に受け取れないんだよね。


そんなことを考えてると、わたしの腰くらいのちっちゃな女の子が人混みの中からトテトテと走ってきた。


「わぁ! わぁ! わぁ! 凄い! 本当に妖精さんだぁ! 綺麗な羽に、綺麗な金髪だぁ~。それに、耳も変な形!!」


 変な形て・・・わたしからしたら人間の耳の方が変な形なんだけど・・・。


「おう! お前見どころがあるなぁ! ソニアの変な形の耳は動揺したりすっと、たまにピクピク動くんだぜ!」

「そうなんだ! 可愛いお耳だね!!」


 何の話をしてるのさ・・・。


「フフッ、可愛い子供ですね。歳はいくつですか?」


ケイトだけでなく、リナムまで屈んで女の子とお話し始める。


「私、今7歳だよ!」

「そうですか! ではソニアと一緒ですね」


 いや、わたし7歳じゃないよ?


黙って会話を聞いてたら、エリカもジニアもアケビも女の子を可愛がり始める。


「なんか、皆って子供好きだよね・・・」


 思えば、皆が子供を傷付けたり殺したりしてるところ見たことないなぁ。


「私も、ケイト達の気持ちは少し分かるわね」

「ビオラも? なんか意外・・・」


 ビオラは他の弟妹達と違って、もっと淡白だと思ってたけど・・・新たな発見かも。


「人間の子供って、純粋で、我儘で、おバカで、愛嬌があって・・・ソニアと似ているのよね。だから、皆は人間の子供が好きなのよ」

「へぇ~・・・」


 何だかちょっと・・・いや、かなり失礼じゃない?


「フフッ、自分以外が可愛がられていて嫉妬しているの? 大丈夫よ。私はソニア以外を可愛がることは絶対にないから」


 それにしても、遠巻きに見ている村人達の中に、女の子に似た女性がめちゃくちゃ不安そうな顔でこっちを見てるんだけど、この子の母親だよね? そんな眉毛をへの字にするくらいなら、こっちに来ればいいのに。


一通り女の子を可愛がったわたし達は、最後に女の子から美味しいソフトクリーム屋さんを紹介されて、村人達からは色々とお礼を言われた。兵隊を追い払った(消した)こと、それから、半年以上前に南の果てでディルとミカちゃんとトキちゃんと一緒に凍って止まっちゃった人達を助けたことも。


さらに、半年前の歌をめちゃくちゃ褒められた。凄く心に響く歌声だったって。凄く嬉しかった。えへへ。


「あ、あれじゃない? 女の子が言ってたソフトクリーム屋さん!」


村の端っこの方にある牧場の前に、小さなソフトクリーム屋さんを見つけた。わたしは勢い良く飛んでいく。そして皆も飛んで付いてくる。


 もう、ここでは人間のフリしてわざわざ地面を歩く必要もないしね。


「いらっしゃい! 初めて見るお客さんですね!! 村の人達じゃないでしょ・・・っていうか・・・人間ですらない!?!? え? よ、よよよ、妖精様!?」


仰天する赤髪のソフトクリーム屋さん。


この人間は、甘味研究の旅の途中でこの村に寄って、そのまま兵隊に囲まれて村から出られなくなったらしい。名前はヨツカ。聞いてもいないのにどうでもいいことをべらべらと喋ってくれた。


「こちら牛乳ソフトクリームです! 手に持ってると溶けやすいので、お早目に召し上がりください! それと、よ、よよ、良ければ握手を・・・」


美味しそうなソフトクリームを人数分貰って、握手もした。何でも、握手がお代金の代わりだそうだ

。やったね!


 ・・・ところで、オダイキンって何? よく分からないけど、美味しそうなものをゲットしたね。


「あんまぁい! サイコーね! これ! クルミパンに挟んだらもっといいんじゃない!?」


歩く植物という不気味なものに乗ったジニアが、植物に持たせたソフトクリームをペロッと舐める。ジニアはちっちゃい姿になって、自分の背丈よりも大きなソフトクリームを一生懸命に舐めていた。


「いいね。それ。いっぱいソフトクリームを食べられるじゃん。わたしもちっちゃくなって食べよっかな」


ひとり、そうごちる。


「じゃあ、アタイがソフトクリームを持ってやるよ! アタイのはもう全部溶けちまったからな! 手は空いてるぞ!」


ケイトが両手を燃やしながら言う。それに続いて、皆までも・・・。


「いいえ、私が持ちます。アイスクリームはもう食べ終わってますから、手は空いてます」

「私が持ってあげるよ。私は食べ終わってはいないけど、土でもう一本腕を生やすよ」

「私が持つわ。そして、あ、あーんっていうの、してあげるわ」


 うわっ、皆相変わらずグイグイ来るなぁ・・・。


わたしは皆の後ろでペロペロとソフトクリームを舐めていたエリカに視線を向けた。


「?」


可愛く首を傾げるエリカ。


「エリカ! わたしのソフトクリーム持って~!」


エリカにソフトクリームを持って貰って、わたしはちっちゃい妖精さんになる。


「わ・・・ホントにちっちゃくなった!」


 やろうと思えば出来るものだね。・・・何だか懐かしい。たった半年前のことだけど。


「な、なんてことですか! 手のひらサイズのソニア! もう・・・ヤバいです!」

「ちょ、ちょっとこっちむいてくれよ! ソニア!」

「可愛いよ! 可愛いよ! ソニア!」

「尊いわ・・・」

「わっ、きゅ、急に何!? ちょっ、突っつかないでよ!」


わたしは皆からするりと逃げて、エリカの腕に乗った。ここが一番落ち着くね。エリカは皆と違ってグイグイ来ないし、何より可愛い。

エリカを見てニコリと笑うと、少し頬を染めてとってもいい笑顔を返してくれた。


 あ、ソフトクリームちょっと溶けちゃってるよ。


自分よりも大きなソフトクリームをペロリと舐める。舐めても舐めても減らない。最高だね。


「おいち~~~~!!」


一生懸命にソフトクリームを舐めるわたしの隣にジニアが飛んできて、コソッと耳打ちしてくる。


「ソニア、エリカは計算高い妖精なのよ」

「計算高い? 頭がいいってことだよね。知ってるよ?」

「そうじゃなくて・・・ぴゃあ!」


ジニアがエリカに指で弾かれた。聞こえてたみたいだ。


 それにしても、ここはいい村だね! のんびりした雰囲気だし、温泉は気持ちいいし、村人も良い人達だし、何よりソフトクリームが美味しい! そうだ! この村はクリーム村と勝手に名付けよう!


・・・。


ソフトクリーム屋さんの隣でくつろいだわたし達は、ようやく村を出発することにする。


「それでは、私達は旅を再開ですね」

「そうだね! リナム! じゃあ、しゅっぱーつ! おー!!」


ビオラの手を持って上に突き上げる。ビオラはされるがままだ。


「・・・つっても、どこに向かうんだよ? アタイはまだ目的地を聞いてないぞ?」

「まぁ、言ってないし、そもそも決めてないからね」

「だろうな。ソニアがそんな計画的に動くわけねぇもんな!」


「はっはっは!」とわたしの背中を叩くケイト。見えてないけど、背中には羽があるんだからやめて欲しい。


「そうやっていつもわたしをバカ扱いするけどさ。でもね、私も成長してるんだよ?」

「そんなバカなところが可愛いと思ってるんだけど・・・生まれて何百億年も成長してないソニアが成長だって?」


ケイトは皆を見渡して「クスクス」と笑う。


 ケイトだけじゃなくて皆まで笑って!! もう! 怒ったよ!!


ぷくーっと頬を膨らませて皆を睨む。


「フフッ、可愛いわね! アケビみたいに泣いちゃって。ほうら、ヨシヨシ」


一番下の妹に、まるで生まれたての妖精のように頭を撫でられる。わたしはパシっとジニアの手を払う。


「やめてよ! 目的地は決めてないけど、向かう先は決まってるんだから!!」

「へぇ~。ちなみに、どこに向かう予定なんですか?」

「よくぞ聞いてくれました! リナム! それはね・・・北だよ!! わたし達はとにかく北に向かうんだよ!」


 腰に手を当てて、胸を張って言ってやった!


それを聞いたアケビが、何故か呆れたように溜息を吐く。


「ねぇ、ソニア? 私達は”南の果て”から来たんだよ? どこに行っても”北”だと思うよ?」


アケビが純粋な目でわたしを見てコテリと首を傾げる。


「違うよ。もっと北まで行くの!! ”北の果て”まで!」

「そんな名前の地名はないけどな!」

「な、ないけど! そういうことじゃなくてぇ・・・」


 もう! どうして皆わたしをお姉ちゃんとして見てくれないの! 2000年前はもっと敬ってくれてたよね!? ・・・ん? いや、よく考えればそうでもなかったかも?


「ほら皆、それくらいにしてちょうだい。いくらソニアが可愛いからって、これ以上はさすがに可哀想よ。ソニアがアケビがみたいに泣いちゃうわ」


 泣かないよ!! っていうか、アケビも自分の名前が出されてるのに、何を普通に頷いてるの!?


「そうだな。さすがに言い過ぎたかも。ごめんな、ソニア」


ペコっと頭を下げるケイト。


「別にいいよ。わたしはお姉ちゃんだから、妹達のやりすぎは許してあげるよ」

「ワー、オネエチャンアリガトー」


お姉ちゃんのわたしは、皆を引き連れて村を出る。


「ソニアは北の果てって言ったけど、それってつまり、アタイが2000年の間居たドレッド共和国に行くのか?」


果てしない雪原を歩きながら、ケイトがそう言ってわたしの隣に並ぶ。


「え? あ、そうだね! うん、その通りだよ! わたし達はドレッド共和国に向かってるんだよ!」

「そうか。今決めた感が凄いけど・・・まぁ、いいや」


それからわたし達は、村を出て、歩いた。とにかく歩いた。朝も夜も、雪原も、荒野も、砂漠も、ひたすら歩いて歩いて歩きまくった。


「ここは土の海だよ。私が2000年の間住んでたんだよ」


ある小さな国の端っこ、土の海を前に、アケビが茶色いアホ毛を元気に揺らしながら言う。そんなアケビに、リナムが首を傾げながら声を掛ける。


「これ、どうやって渡るんです? 歩いても沈んじゃいそうですが、泳ぎますか? 土の中を泳いだことはないですが・・・」

「私はあるよ」

「そうでしょうね。・・・ソニア、どうやって向こうに行きますか?」


 どうやってって・・・。


「そこに浮いてる船を使えばいいじゃん。確か、アケビなら自由に動かせるんでしょ?」

「そうだよ。土の海の流れを操作して、動かすんだよ」

「じゃ、お願いしていい?」

「もちろんだよ」


皆で丁度いいサイズの船に乗り込む。


「ちょ、そこの嬢ちゃん達! その船は国の所有物だぞ! 子供の遊び道具じゃないんだ! すぐに降りなさい!」


この国の兵士っぽい人間が怒鳴ってる。


「アタイ達を嬢ちゃん呼ばわりなんて、あの人間の目はどうなってんだ? アケビやソニアならともかく、アタイはどっからどう見ても大人の女性だろ」

「いや、ケイトも十分子供に見えますよ。この前の宿ではかろうじて大人判定でしたが、アケビとソニアは言うまでもなく、ケイトとジニアも人によっては 子供に見られる外見をしてますよ」

「え? ちょっとちょっと!他はともかく私は違うでしょ! 私とリナムとビオラは大人の女性で、ケイトは 少女、アケビとソニアは子供、それが現実よ!!」

「ハァ・・・くだらないわね。ソニアが一番可愛い。それだけが唯一不変の現実よ」


 まったく・・・皆してくだらない言い争いして。一番可愛いのはエリカだよ。


わたしは適当に兵士の記憶を弄って大人しくさせたあと、手すりに座って、近くにいたエリカを手招きして膝の上に乗せる。


「え、ソニア・・・普通、逆じゃ・・・」

「ん? なぁに?」

「いや、何でも」


まるで人形のように固まったエリカを乗せて、土の海の向こう側にある旧セイピア王国、現オードム王国に向かった。


そしてわたしは、人間にバレた罰ゲームとしてビオラとジニアに人間の踊り子のような衣装を着せらて、髪もそれに合わせてポニーテールにされた。


 ・・・やけに露出が多い衣装だ。ちょっぴり恥ずかしい。


・・・。


「素通りするのもいいけど、やっぱり少し寄り道したいよね!」

「じゃあ、私はここのカレーうどんを食べたいです。アケビが美味しいって言ってましたから。・・・どこに行ったら食べられるんです? アケビ」

「うーん・・・どこでも食べられるけど、一番美味しいのはお城だよ」


・・・ってわけで、わたし達はお城の前までやって来た。


「ちわっ! カレーうどんが食べたいんだけど、ここ、通ってもいいかな?」

「何だ君達は? ダメに決まっているだろう。カレーうどんなら街でも食べられる。他所に行きなさい」


門前払いだ。今にもこの人間を殺しそうな眼つきをしているビオラを抑えながら、わたしは考える。


 さて、どうしよう? アケビのお気に入りの国みたいだし、なるべく穏便に済ませないとだよね。

読んでくださりありがとうございます。

ソニア(何だか見覚えのある顔だったなぁ・・・あのアイスクリーム屋さん)

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