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283.時の妖精の行方と温泉満喫

「ジニア。いつまでもお湯の中に潜ってないで、出てきてミカちゃんの斬れちゃった腕を治してあげてよ」


お湯に浮かんでいる、まぁるい葉っぱに向かってそう言うと、葉っぱの下からジト目のジニアが現れた。


「まったく、もう! 治させるなら初めから斬らないでくれない!?」

「斬ったのはわたしじゃなくてケイトとアケビだからね。わたしに言わないで」


ジニアは、口笛を吹いて知らんぷりしているケイトとアケビを一睨みしたあと、ミカちゃんの前に立つ。


「もしかして・・・緑の妖精のミドリちゃん? 久しぶり・・・ネ」

「今は緑の大妖精のジニアよ。まぁ・・・ミドリちゃんって呼ばれるのも嫌じゃないけどね。ほら、黙って斬られた腕をこっちに差し出して」

「え、ええ・・・」


ミドリちゃ・・・じゃない、ジニアがミカちゃんの腕に手を添えると、あっと言う間にミカちゃんの腕は再生した。人間が使う治癒の魔石と違って、正真正銘の再生だ。体力を消耗することも無い。


 それにしても、ジニアはちゃっかり自分で服を創造して着ているあたり、わたし達と違ってしっかり乙女だよね。わたしと他の皆は素っ裸だからね。・・・わたしもタオルくらいは巻いとこっと。


いそいそとタオルを巻いていると、何故かビオラが残念そうに溜息を吐いた。そして、その隣ではジニアとミカちゃんがお喋りしている。


「す、すごいわネ。あっと言う間に腕が生えてきたわ。さすが大妖精ネ!」

「ふふん。こんなもんじゃないわよ! なんならもう10本くらい腕を生やせるわよ? どう?」

「そ、それは遠慮しておくわ・・・」


 腕が12本もある人間か・・・ちょっと気持ち悪いかな。・・・っと、そんなことより、聞きたいことがあるんだった。


「ミカちゃん。さっき言ってた時の妖精が行方不明ってどういうことか話してくれる?」

「ええ、そのつもりでアナタ達に会いに来たからネ。村の外周にいた兵隊を消したのはアナタ達でしょう? 人間の仕業とは思えなかったもの。・・・まぁ、まさかアタシまで腕を燃やされて斬られるとは思わなかったケド」


ミカちゃんはそう言いながら、温泉に浸かる。


 わたし達、今から上がるところだったんだけど・・・まぁ、いいや。わたしももう一回入ろっと。


わたしはさっき巻いたばっかりのタオルを外す。すると、何故かビオラが嬉しそうに目を細めて微笑んだ。


ビオラとジニアがわたしの両隣にぴったりとくっついて座り、アケビとケイトとリナムがそれぞれバラバラに座る。


「アナタ達も知っているとは思うけど、少し前に時の妖精のトキちゃんが、ある組織に連れて行かれたのよ」

「うん」


 知らないけど。


知ったかぶりをしたわたしを、皆がジト目で見てくる。やめてよ。


「ソニアちゃん。知らないなら知らないって言ってちょうだいネ。顔に出てるわよ」


ミカちゃんは「そういうところは変わらないのネ」と笑う。


 こいつぅ! 人間のくせにわたしを下に見てっ!


「知らないから! さっさと説明してよ!」

「フフッ、分かったわ」


 よし、決めた。あとで殺す。


ミカちゃんは「ふぅ~」と気持ちよさそうに息を吐いてから、説明を始める。


 もしかして、真面目に聞こうとしてるのってわたしだけ? ビオラとジニアはわたしにびったり抱き着いてるだけだし、リナム達は隅の方でお湯をかけ合ってもん。


ミカちゃんが言うには、トキちゃんは泡沫島の研究者達に雇われた、元闇市場組員に攫われたらしい。トキちゃんが大事にしている老人と村人を人質にして。


「『抵抗すれば、いつでも村人達を殺せるぞ』。そう言って、奴らは兵隊を何十人も村の外周に配置させたのよ。それで、トキちゃんは碌に抵抗もせずに、大人しくついて行ったってわけよ」


トキちゃんの気持ち、少しだけだけど分かる気がするなぁ。わたしも前に、飼ってる人間を庇ってやられちゃったし。


「よしっ、じゃあ、皆でトキちゃんを助けに・・・」

「待って」


突然、エリカの声が周囲に響いた。男湯の方から風を使って声を届けてるみたいだね。ミカちゃんが急に聞こえだした声にウロチョロと視線を彷徨わせる。


「僕は、助けに行かない方が、いいと思う」

「え、どうして? トキちゃんはケイトの眷属だよ。家族なの。助けに行かないと・・・」


 ケイトは話そっちのけでリナムとアケビと遊んでるケド・・・。


「助けに行くのは、危険」

「危険? 相手は人間でしょ? 問題ないよ」

「忘れた? ソニアは、その人間のせいで、2000年の、時間を失った」


あの勇者とかいう人間の刀で眉間を貫かれた時の記憶が蘇る。わたしからすればほんの少し前の出来事だけど、エリカや皆にとっては2000年以上前のことだ。


「でも、あの勇者はもういないし、あの刀に付いてた時空を操る危険な魔石も、ビオラが黒猫様と一緒に何処かにやったでしょ?」


 何処にやったかは知らないけど・・・。


「確かに、あの勇者はいない、けど、魔石はまだある」

「え、でも魔石は確かにビオラが・・・ビオラ、あの魔石は今どこにあるの?」


わたしに抱き着いてるビオラの頭を撫でる。ビオラは幸せそうに目を細めたあと、「えっと・・・」と口を開く。


「安心していいわよ。今は絶対に手に入らない所にあるから。・・・だから、そんなこと気にしないで、私達は私達の旅行を楽しみましょう? 出来れば2人きりで」


可愛く首を傾げて上目遣いで言ってくるけど、そんなわけにはいかない。


「ほら、魔石はもう無いって言ってるよ? エリカ」

「あの魔石は、複製されたもの、もしくは、本体から分割されたもの、だと思う」

「え? どういうこと?」

「いい? おバカなソニアにも、分かるように、出来るだけ、簡潔に話す」


 そんなおバカなわたししか、ミカちゃんの説明をまともに話を聞いてなかったんだから、他の妖精はわたしよりもおバカってことだよね。だから、わたしは相対的にバカじゃないってことだね。


エリカは、2000年前にわたしが居なくなってから、人間の国を裏から支配して妖精に対する意識改革っていうのを何百年かかけて行っていたらしい。


そして、その途中でわたしを刺した勇者の刀を発見して、また同じことが起きないように人間の研究者達を世界中から集めて、その刀を分析させた。その過程でカイス妖精信仰国という研究者が多く集まる国になったわけだけど、今は関係無い話だ。


刀を分析した結果、魔石と刀は同一の物体として存在しているらしく、絶対に切り離せないことが分かったが、新たに分かったことはそれだけだった。


「それ以降も、刀の研究は、続けさせてた。けど、ある日、突然刀が紛失した」


エリカは人間に探させたり、自分でも探したけど、当時は大妖精ではなく、ただの偉い妖精だったエリカには見つけられなかった。


「そして、大妖精に戻った今、僕は、刀が今どこにあるか検討がついている」

「それが泡沫島ってわけネ」


急に話に入って来たミカちゃんにビックリ。わたしは目を丸くしてミカちゃんを見る。


「何よ。その『居たんだ』みたいな顔は。アタシの説明を中断して話し始めたのはそっちでしょう?」

「泡沫島の研究者は、危険。彼らは、自分達の研究欲のためなら、手段を選ばない」


エリカは完全にミカちゃんを無視して話を再開する。


「彼らは、人の弱みを利用することに、長けている。そして、それを実行するだけの、科学技術、人数を、持っている。つまり、彼らは、ソニアの弱みを握り、ソニアを殺す可能性が、ある」


 なるほどね。バカじゃないわたしはしっかりと理解したよ。


「でもさ。そうは言っても、わたし達全員で向かえば大丈夫じゃない?」

「大丈夫じゃ、ない。いい? よく聞いて?」


 言われなくても、よく聞いてるけどね。


「彼らは、既に、ソニアの弱点となる、時の妖精(家族)と、妖精を殺す方法である、勇者の刀を持っている。もし彼らに、少しでも動けば時の妖精を殺すと言われたら? ソニアはどうする?」

「少しも動かないで、そいつを殺すよ」

「ソニアなら、出来るだろうね。でも、彼らが時の妖精を捕らえて、研究所で何を研究してるか、大妖精の僕でも、分からないんだよ」

「そうなんだ?」


 だから・・・何なの?


首を傾げてみるけど、エリカは衝立の向こうの男湯に居るわけだから、意味が無いんだよね。


「つまり、彼らは、大妖精に匹敵する科学力、もしくは未知の力を保有している・・・と考えられる」

「ふーん・・・」


わたしは目を閉じて、世界中の光を見る。


 見つけた。アレが泡沫島だね。


断崖絶壁の上に、更に高い塀が建てられた、まるで要塞のような島。その島の奥に視界を進ませて、島の中全体を見る。


 あれ? なんか不自然に光が無いところがある。無いというか・・・吸収してる?


その四角い建物は真っ黒で、何も感知出来ない。中に何があるのか、何をしているのか、まったく把握出来ない。


 エリカの言う通りみたいだね。わたしでも覗けない場所がある。月の裏側だって覗けるわたしが、だ。


視界を元に戻す。わたしが何をしてたのか見当のついてる妖精達は特に変わりないけど、そうでないミカちゃんが心配そうに「どうしたの?」と顔を覗かせていた。


「分かった? あそこは、マジで、ヤバい」

「分かったよ。・・・でも、だからってトキちゃんを放っておけないよ! 家族なんだから!」

「うん。それは、そうだ。ソニアのそういうところ、大好き」

「え、うん。えへへ・・・わたしもだよ」


 急に照れちゃうよ・・・。


「まずは、情報収集。失ってもいいやつを、とりあえず、泡沫島に送る」

「失ってもいいやつ?」


わたしはミカちゃんを見る。皆も見てる。


「・・・アタシってわけネ」

「この人間は、情報ギルドから、時の妖精の捜索を依頼されて、ここにいる。僕が、その依頼を出させた」


エリカはわたしにだけ聞こえるように、耳元に風を送って伝えてくる。


「え、じゃあ、エリカはこの状況を最初から知ってたの!?」

「うん。本当は、情報が出揃ってから、皆にも共有するつもりだった。でも、ソニアが、突然旅に出るって言い出した。それはそれで、楽しいから、いいけど」


 楽しんでくれてるんだね。余計なことしたんじゃなくて良かった!


「ねぇ、アナタ達がアタシを泡沫島に送りたいことは分かったわ。アタシもトキちゃんを探してるから、それは全然いいんだけど、ただ、シロちゃんが泡沫島の兵隊達との戦いで羽を負傷しててネ・・・」


 ああ、スノウドラゴンのシロちゃんだね。ミカちゃんはシロちゃんに乗って移動してるもんね。


「じゃあ、シロちゃんの怪我は治してあげるよ。ジニアが」


そっとジニアの頭を撫でる。ジニアはギュッとわたしに抱き着く力を強めて、嬉しそうに笑った。


 うんうん、好いてくれてるのは嬉しいんだけど、そろそろ離れてくれないかな。動きづらいよ。


「ありがとう。シロちゃんの怪我を治してくれるのは、本当にありがたいわ。もう一生飛べないんじゃないかと思ってたから・・・本当にありがとう」


ミカちゃんは勢い良く立ち上がって、腰を90度に曲げる。


「あと悪いけれど、先に上がらせてもらうわネ。少し長く浸かりすぎちゃったみたい」

「顔が真っ赤だもんね。あとでシロちゃんの怪我を治してあげるから、先に上がっていいよ」

「そうさせてもらうわネ」


ミカちゃんはふらつきながら出て行く。「こっそりと少しずつ温泉の温度を上げておいて正解だったな」とケイトがニッと悪戯っ子のように笑った。


 そういうことね。まぁ、わたしも家族水入らずでゆっくりしたいなとは思ってたけどね。ナイスだよ。


「じゃあ、僕達は、スノウドラゴンを治したあとは、旅を再開する、ってことで」

「そうだね!」


 ビオラがお湯の中で小さくガッツポーズをした気がしたけど、気のせいかな?


「よしっ、そしたらエリカもこっちにおいでよ!」

「え!? な、何で!?」

「だってミカちゃんも男なのにこっちに入って来てたし、いいでしょ?」

「え、いや・・・だめ。恥ずかしい」


珍しく動揺するエリカ。何だか楽しい。


「じゃあ、わたしがそっちに行くね!」

「え!?」


わたしに抱き着いてるジニアとビオラを引き剝がして、柵の方へ飛んで、男湯を覗く。


「わ、わ・・・ソニア、こっち見ないで!」


温泉に浸かったまま、耳を真っ赤にして後ろを向くエリカ。わたしは柵を乗り越え一緒の温泉に浸かる。ポチャンと音が鳴る度に、エリカはビクッと肩を跳ねさせる。


 ふふふ、面白い!


「ソニアがそっちに行くのなら、私も男湯に入るわ」


ビオラがわたしの後を追って入ってくる。「アタイも!」「私も」と皆も入ってくる。


「ほんと、マジで、勘弁して。僕は、人間達のことを、知って、昔と違って、色々と知ってる。羞恥心だって、ある」

「大丈夫! 羞恥心ならわたしにもあるから!」


後ろを向くエリカの肩にポンと手を置く。


「ち、違う。ソニアは鈍感だから・・・」

「ふぅ、やっぱりソニアの隣が一番いいわね」


ビオラがわたしの背中にもたれかかってくる。


「おっとっと・・・」


むにっ


「うわぁあ!? 」


エリカの背中に当たっちゃった。


「ほ、ほんとに勘弁してよぉ・・・」


耳を更に真っ赤にさせて、背中を丸めてどんどん小さくなっていくエリカ。


 さすがに、そろそろ可哀想かな。いや、最後のはわざとじゃないんだけどね。


そのあと、わたし達は男湯で楽しくお喋りしてから、温泉を出た。エリカはわたし達が男湯から出るまで、ずっと隅の方で背中を丸めていた。

読んでくださりありがとうございます。

むにっ

エリカ「ほんとに勘弁してよぉ」

エリカ(とは言いつつも、この感触は一生忘れない//////)


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