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281.なんやかんやで村に到着

「それで、わたしはどうしてこんなところで眠ってたんだっけ?」


腕に抱き着いていたビオラの頭を無理矢理引き剝がしながら、わたしを見下ろしてる皆を見上げて、コテリと首を傾げる。皆は何故か一瞬だけ目を丸くしたあと、呆れた顔になった。


「そういうところだぞ。ホント・・・」

「え? なに? ケイト?」


 何がそういうところなの?


「ハァ・・・何でもない。ソニアは人間の腐った死体と目が合って、ビックリして気絶しちまったんだ」

「人間の死体? ・・・あっ、あ~・・・そうだった、そうだった。アケビが作った罠を踏んで、そしたら頭の上から、あらビックリ。人間の腐乱死体がこんにちわ・・・って、何で人間の死体が?」

「それは、少し前に人間が罠に引っ掛かったからだよ」


アケビはそう言いながら、振り返って後ろにある宙ぶらりんの死体を見る。


 あ~。じゃあ、アレは罠に引っ掛かった人間かぁ。こいつが何でこんなところまで来たのかは知らないけど、こんな悲惨な姿になる為に来たわけではないよね。・・・いや、もしかしたら腐乱死体になる為に来たのかもしれない。きっとそうだ。変わった人間だね!


「よしつ、じゃあ気を取り直して、再出発・・・っと~・・・お?」


立ち上がろうと腰を浮かせたところで、エリカに抱き上げられた・・・っと思ったら、ジニアに奪われて、お姫様抱っこされた。


「ちょっと! わたしは荷物じゃないんだけど!? 自分で飛べ・・・じゃない、歩けるから降ろしてよ!」

「ダメよ!だってソニアちゃんはすぐにバカみたいなドジをやらかしちゃうんだから!こうやって抱えておかないと」

「ヤダよ!わたしだってちゃんと自分で歩けるし、それに皆のお姉ちゃんなんだから!こうやって前を歩かないと!」


ジニアの腕の中でジタバタと暴れて、やっと降ろして貰えたかと思ったら、今度はビオラに腕を引っ張られた。


「じゃあ、ソニアは私が運ぶわね。末っ子のジニアには任せておけないもの。ここは次女である私が運ぶべきよ」

「次女とか末っ子とかお姉ちゃんとか、私達にそういう上下関係は必要ないでしょ! 皆が平等な家族なのよ! だから、私が運ぶわ!」


ビオラとジニアに反対側から両腕を引っ張られる。それを「やれやれ」みたいな呆れたような顔で見守る他の妖精達。


 平等と言うなら、自分で歩かせて欲しいんだけどね。皆明らかにわたしをダメな子扱いしてるよね。


「「私が運ぶわ!!」」


グイグイと引っ張られる。最初は手加減してくれてたのに、だんだんと本気になっていく。


「ちょ、ちょっと・・・わたしの腕千切れちゃうから・・・」

「私が運ぶのよ!」

「いいえ、私が運ぶのよ!」


 ハァ・・・、困った姉妹達だよ。わたしを想ってくれてるのはありがいたいし、とっても嬉しいんだけどね。


わたしは「ハァ」と一つ溜息を吐いたあと、自分の体を光にする。わたしの腕を掴んでいたビオラとジニアの手がすり抜けて、急に手が自由になった2人は勢い余って壁に激突しちゃった。


ゴツン!!


「きゃあ!」

「んっ!!」


ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・


 え、なにこの音?


「あの罠が発動したんだよ・・・マズイよ・・・」


アケビが半べそをかきながらわたしのワンピースの裾を引っ張る。


「あの罠って?」

「トンネルの壁に一定以上のダメージが加わった時に、こうやって作動する罠だよぉ・・・」


ゴゴゴゴゴゴゴ・・・


わたし達の前と後ろから、黄色い壁が迫ってくる。こののままだと潰されちゃうね。


 壁? アケビはこんなので焦ってたの?


「大丈夫だよアケビ。こんな壁、わたしが壊しちゃうから!」


壁に向かって手のひらを突き出し、わたしはレーザービームを撃つ。びゅーん!どかーん!


「あれ? びくともしない」


結構思いっ切りやったハズなんだけど、壁はびくともしない。


「よし、ここはアタイに任せろい!」


ケイトがさっきのわたしと同じように手のひらを突き出し、超高温の炎のビームを出す。ブォォン! ぷす~・・・。


「あれ? びくともしないぞ」


首を傾げるわたしとケイト。数メートル前まで迫りくる壁。アワアワしながら壁を指差すアケビ。


「あの・・・あれね・・・あれだよ・・」

「何だよアケビ! アタイでもソニアでも壊せない壁なんて! どうやって作ったんだ! というか、同じ物質を作って止めてくれよ!」


 いや、ケイトもわたしも、本気でやればたぶん壊せるけどね? でもほら、一緒に色んなものが壊れちゃうから。主に惑星とか。


「それがね・・・あの物質はもう作れないんだよ」

「え、どうして?」

「自分でもどうやって作ったか分からないんだよ。ただ・・・その・・・あの壁の物質は、私が知る中で一番硬いよ」


 物質を司る土の大妖精であるアケビがそう言うんなら、きっとこれ以上に硬い物質は無いんだろうね。


「どうしてもう作れないんですか? まさか作り方を忘れちゃったんですか?」

「ち、違うよ。それに。忘れん坊のリナムには言われたくないよ」


 リナムはド忘れが酷いからね。だからこそ、本人は気を付けようと普段からしっかりするようになって、今ではわたし達の中で一番のしっかり者になったもんね。まぁ、ド忘れは治ってないけど。


「じゃあ、何で作れないんだよ! もう壁がそこまで迫ってるんだぞ!? 早くしないと星ごとやっちゃうぞ!? ・・・ああ! もう! 狭い!」

「えっとね、最近、うどんよりもパスタが食べたいなぁって・・・」

「ハァ!? 急に何を・・・うみゅう!! 狭いぃ・・・」


壁に押されて抱き合うアケビとケイト。前と後ろから壁に押されて、わたし達はもう、ぎゅうぎゅうに詰められてる。


「この罠を作ってる時に、パスタが食べたいなぁ、なんて考えてたら、この硬すぎる物質で出来た壁が完成したんだよ」

「なるほどな。じゃあ、その新しい物質の名前にはパスタの三文字を入れようか・・・って、アホか! どうすんだよこれ! どうにかしてくれソニア!」


 そんなこと言われても・・・。


ジニアのぽっちゃりお腹がわたしの顔面に押し付けられ、ビオラの顔面がわたしの胸に押し付けられる。


 なにこれ、どういう状況!?


「ビオラ! あの、体をバラバラにして違う場所で展開する・・・なんてったっけ・・・そう! 空間転移みたいなやつ! 出来ないの!?」

「うへへぇ・・・ソニアのぽよぽよぉ・・・」


 ダメだこれ。使い物にならないや。ここは本当にわたしが何とかしないと! 壁が壊せないなら、他を壊せばいい!


「壊すなら・・・天井だぁああ!!」

「え、ちょ、ソニア待ってください。ここがどこだか忘れ・・・」


 うりゃあああああ!!


天井に向かってさっきのビームをドカン!


 ちょっとやりすぎちゃったかな?


天井には綺麗な丸い穴が開き、明るい光が差しこみ、青い空と少し欠けた月が見えた。ケイトとジニアが「さすが!」と喜び、リナムとアケビが「あーあ」と溜息を吐く。


 あ、ちょっと月を傷付けちゃったかな。


なんて考えてたら、青空とお月様は一瞬で見えなくなって、大量の水が、いや海水が流れこんでくる。


「え、なんで海水が!?」

「何を言ってるんですか! ここは海底トンネルですよ? 天井に穴を開けたら海水が入ってきま・・・きゃああ!皆! 手を繋いでください! まとめて海上まで流します!」


 海水に流されるまま、そして上も下も分からないまま、皆で手をつなぐ。


「わぁ! ちょっとソニア! 僕の・・・どこを掴んでるの!?」


何だか未知の感触のモノを掴んだ気がするけど、わたしは皆とバラバラにならないように必死に掴む。リナムが海水を操って上まで連れていってくれてるのは分かるけど、めちゃくちゃ乱暴すぎて、視界がグルグル回る。


 あわわわわわ!! こんな予定じゃなかったのに! お姉ちゃんらしく皆をリードしたかったのに!! もうっ!


「皆、無事ですか?」


小さな海氷の上で、リナムが点呼を始める。


「ソニア?」

「”皆のお姉ちゃん”ソニア。無事だよ」

「ジニア?」

「”皆の可愛い妹”ジニア。無事よ!」

「ケイト?」

「”皆のカッコイイ妹”ケイト。無事だぜ」

「ビオラ?」

「”ソニアの愛しのパートナー”ビオラ。無事よ」

「エリカ?」

「うっ・・・うぅ・・・」

「どうしました? エリカ?」


何故か股間を抑えて悶絶しているエリカ。どこからかやって来たアザラシがそんなエリカを見ている。美味しそうなアザラシだ。


「み、”皆の可愛い弟”エリカ、ぶ、無事」

「良かったです。とても無事なようには見えませんけど、エリカも妖精の前に男ってことですね。新しい発見です」


 何のことか分からないけど、逆じゃない? 男の前に妖精だと思うけど・・・。


「じゃあ、”皆の頼れるお母さん”リナムが皆を助けたわけですけど、これからどうしますか?」

「え、ちょっと待って、お姉ちゃんよりも上のポジションを作らないでよ。お母さんなんてずるいよ!」


ポカポカとリナムを両手で叩いてみる。何故か頭を撫でられた。


「本当に可愛いですね。・・・でも、それはそれとして、まだ人間縛りをして旅をしますか? ここは海のど真ん中に漂う流氷の上ですけど、どうやって陸まで行くつもりです?」

「え、それは・・・っと、空を飛んで行けばいいよ」

「どこに空を飛ぶ人間がいるんですか? 今の人間は魔石無しに魔法を使えないのに」

「じゃあ、空中を歩く」

「空中を歩く人間を見たことがあるんですか?」

「・・・」


結局、陸まで皆で飛んだ。まぁ、海底トンネルでさんざ光の玉を出したりビームを出したりしたし、人間縛りも今更だしね。もう、人間に妖精だってバレなきゃいいや。


「何だお前達は! どこから来た!? そっちは海しかないハズだろう!? それに、その服装で寒くないのか!? 」


上陸して、近くの村に入ろうとしたらこれだ。


「おかしいなぁ。前に来た時はこんな兵士みたいな人間は居なかったと思うんだけどなぁ」


鉄の鎧を身に付けた青髪の男を前に、わたしは首を傾げる。兵士っぽい1人は村を囲むようにぐるりと配置されていて、わたしに話しかけている兵士以外は何故か皆村の内側を見張っている。


「おいお前! 聞いてるのか!?」


目の前の兵士がわたしに掴みかかろうとした瞬間、心臓部分に風穴が空き、頭に土の槍が刺さり、体の半分が燃え、もう半分はバラバラになり、顔はまるで酸でもかけられたかのように溶けた。


「あーあ、これじゃあ妖精だってバレちゃうよ」

「大丈夫よ。他の兵士は皆消したから」


何か黒いモヤモヤした塊を持ったビオラが、周囲を見回しながら言う。確かにさっきまで居たハズの兵士達が消えてる。


「ビオラが持ってるその黒いのは何なの?」

「この中には、その兵士の脳味噌が入っているわ。脳だけ生かして、苦痛を与えているところなのよ。こいつ、ソニアの胸元をいやらしい汚い目で見てたから」

「わたしはそういう目で見られるの慣れてるから別にいいんだけど・・・とりあえず、それは見えないようにしてね。これから村に入るんだから」

「分かったわ」


その前に、怪しまれないようにジニアに皆の防寒着を作って貰う。

わたしが着せられてるのは可愛らしい白色のふわふわポンチョだ。少し子供っぽい気がするけど、気に入った。ビオラは黒と白のゴスロリ風コートで、ジニアはぶかぶかのジャンバー、ケイトは動きやすいベスト、アケビは大人しめの茶色いコート、リナムは黄色いローブ、エリカは青と白の繋ぎの防寒着を身に付けている。


ちなみに、皆羽は服の中に折り畳んでいる。光の屈折で見えなくしてるとはいえ、消えたわけじゃないからね。ちょっとムズムズするけど、我慢だ。


「うーん・・・」

「どうしたの? ソニアちゃん」


村を皆と歩きながら考え事をしていると、手を繋いでたジニアがひょこっとわたしの顔を覗き込んでくる。反対側の手を繋いでいたビオラも同じように。


「このあとの行き先について考えていたの?」

「んーん。確かに行き先も決めなきゃだけど、そうじゃないの。ただ、前に来た時ってこんなに人間多かったっけなぁって思って・・・」

「あー。人間は気が付けばあっと言う間に増えているからね」

「確かに」


ビオラの言葉に納得してたら、後ろから「違う」とエリカの声が聞こえてきた。


「ここには、南の果てから追い出された人間達が増えた。ケイトの眷属の・・・」

「トキちゃん?」


 時の妖精のトキちゃんだよね。確か、村の人間達と一緒にいたよね。


「そう、その妖精と一緒に暮らしてた、人間達、ソニアが邪魔だって追い出した、でしょ?」

「あ~・・・そうだったね! じゃあ、トキちゃんと、ついでに宿も探そう!」


 せっかく寄ったんだし、少し顔を見て行こう!


「ソニア、どうして宿を探すの?」

「アケビ・・・よく考えてみて? アケビやわたしは眠る必要ないけど、ジニアは眠らないとダメでしょ?」

「そうだったよ。ごめんねジニア。気が付かなかったよ」


アケビはペコリとジニアに謝る。素直でいい子だ。


「私と私の眷属の体は、他の皆と違って細胞で出来てるからね。睡眠はもちろん、水分と呼吸も必要なのよ」

「眠るのは気持ちいいよね! ジニアのお陰でわたしは眠る気持ちよさに気が付けたんだよ! 宿では一緒に寝ようね!」

「ありがとう、ソニアちゃん。そういうところ大好きよ。でも、宿は探さなくてもいいわよ? 眠る時はこうやって・・・」


ジニアはそう言うと、わたしと繋いでいた手を放し、そして・・・小さくなった。ガマくんとかと同じサイズ、大妖精ではなく、ただの偉い妖精だった頃の小ささになっていた。


「え、ちっちゃくなれるの!? どうやって!?」


わたしだけじゃなくて、皆も驚いてる。皆も知らなかったんだね。周囲の人達は運良く気が付いてないみたい。


「ただ体の細胞を小さくしただけだけど・・・ソニアちゃん達の体は細胞で出来てるわけじゃないけど、きっと練習すれば出来るわよ! だって大きくなれたんだから!」

「確かに!!」


 おっきくなれたんなら、ちっちゃくもなれるよね! あとで挑戦してみよっと。


人間サイズに戻ったジニアや皆と一緒に楽しくお喋りしながらトキちゃんと宿を探してたら、後ろから「アナタ達!」と男の人間に声をかけられた。


「ん? なにか・・・あっ!」


振り返って男を見た瞬間、わたしは咄嗟にジニアの陰に隠れた。そして、何故かジニアもビオラの陰に隠れる。


「珍しい服だと思ったから声をかけたけど・・・すんごい美形揃いネ。アナタ達、どこから来たのかしら? 今この村は特殊な状況なんだけど・・・」


 ま、まずい・・・あの男をわたしは知ってる。えーっと・・・確か・・・そう、そう! ミカちゃんだ! スノウドラゴンと一緒にいた女みたいな男の人間! 本当はもっと長い名前だった気がするけど、忘れちゃった。


「ん? そこの後ろに居る子達、どうしたの? 具合が悪いのかしら?」


 とりあえず今はこいつをどうにかしないと! ・・・で、でもどうする!? サクッと殺しちゃう?


わたしは行動に移す為、ジニアの陰から一歩踏み出した。

読んでくださりありがとうございます。

ジニア「エリカ、思いっ切り掴まれてたけど、大丈夫?」

エリカ「大丈夫・・・何だか・・・」

ジニア「何だか?」

エリカ「何でも、ない」

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