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27.お土産を持って

「ただいま、お父さん。今帰ったよー」

「よっと!テーブルはここでいいか?」


少女が扉を開けて、ディルがテーブルを中に運び込む。


「あ、ありがとうございます。助かりました、1人で運ぶのは大変だったので」

「ま、わたしの雷でお父さんが腰を痛めたのが原因だし。これくらいはしないとね」

「いや、ソニアは俺が運んでるテーブルの上で座ってただけだろ!」


現在、わたしとディルは、パンを売っていた少女を手伝って、少女のお父さんが営んでいるパン屋さんまで来ている。


「なんだ、なんだ、友達でも連れてきたのか?」

「あ、お父さん!もう動いて大丈夫なの?」

「重い物は持てないがな、普通に動くことは出来る。それより、その子は誰だ?頭に何を乗せてるんだ?」


お店の奥から姿を出した腕の太い男が少女のお父さんらしい。そして、ディルが頭の上に乗せているのはわたしだ。


「この子は私のパンを買ってくれて、テーブルを運ぶのも手伝ってくれたの」

「ディルだ、お姉さんのパン、凄く美味しかったぞ」

「わたしはソニア!クルミのパンが甘くて美味しかった!」


ニコッと笑って挨拶をする。


「うおぉ!妖精!?・・・・いってて・・・」

「うわぁ!大丈夫?お父さん!」


少女のお父さんがわたしを見て、驚いて勢い良く尻餅をつく。そして、ジトーっと説明を求めるように少女を見上げた。


「・・・はぁ、どういうことだ?」


少女がお父さんに、広場でパンを売っていたら突然妖精に話しかけられたこと、そしたら、王様がやってきて、そのまま王様と妖精のお話が始まったこと、終わったあとにパンが全部売り切れたことを説明した。


「あー、なるほど・・・ちょっと頭の中を整理する時間をくれ」


男は眉間に手を当てて黙り込んでしまった。


「ごめんなさい、お父さん普段は咄嗟のことにも柔軟に対応出来る人なんですけど、流石に今回は無理だったみたい。あ、今お茶を出しますね」

「いや、大丈夫だよ!それより、パンを作る場所を見学させてくれない?」


 実はわたし、人間だった頃にパン屋さんでアルバイトしてたことがあって、成人してからもたまーに実家で作ってたんだよね。こっちの世界でどうやってパンを作ってるのか気になる。


「では、中にどうぞ!」


わたしとディルは少女に工場内を見学させてもらった。当然のことながら、ホイロなどの発酵機器はなく、代わりに緑の魔石が付いた大きな箱が置いてあった。


「この魔石を発動させると、指定した範囲を腐らせることが出来るんです。これのお陰で、時間をかけずに生地を発酵させられるんですよ」


 腐らせる魔石でパンを発酵かぁ、考えた人は天才だ。


他にも石釜や面台などを見せてもらい、見学を終えてお店に戻って来ると、少女のお父さんが恐縮した顔で立っていた。


「お見苦しい姿をお見せしてすみませんでした」


ビシッと腰を九十度に曲げて、わたしに頭を下げる。


「こっちこそ、昨日の雷もそうだけど、驚かせちゃってごめんね」

「とんでもないです!魔物を追い払ったことに比べたら、俺の腰なんて・・・」

「お父さん!」


少女がムッと頬を膨らませる。


「あぁ、そうだな。時間を取らせてしまってすみません。そして、娘を手伝ってくれてありがとうございます」


少女のお父さんはもう一度わたしに頭を下げる。少女がそのお父さんを肘で退けて、わたしの前に出てきた。


「妖精様!あの・・・私、ルテンって言います!私も妖精様とディル君に会いに村に行ってもいいですか?」


少女は緊張した素振りの無い自然な笑顔で言う。


「ああ!来てくれよ!」

「もちろん!それと、わたしの名前はソニアだよ。様はいらないからね」

  

ディルがお店の扉を開けて外に出る。


「ソニアさんにディル君、また!」

「うん!またね!」

「またな!」


笑顔に笑顔で返す。


 思わぬところで村民ゲットだね! ううん・・・お友達だよね!


ディルが扉を閉めて、わたし達はお城に向かって進む。すると、お店の中から大きな話し声が聞こえてきた。


「聞いてよお父さん!私の作ったパンを皆が美味しいって言ってくれたの!えへへ!」

「だから言っただろ?お店に出しても大丈夫だって」



お城に戻ると、城門でコンフィーヤ公爵が馬車を準備して待っていた。


「お待ちしてました。馬車の用意は出来ています」


 はい、見れば分かります! 遅くなってすみません!


「用意周到だね!」

「ディルから早めに村に戻りたいと聞いていたので」


「それなのに遅かったですね?」という副音声が聞こえる・・・気がする。


「ミーファおばさんに黙って来ちまったからな。心配してるだろうから早く戻ろう」

「では、行きましょう」


コンフィーヤ公爵が馬車に乗り込もうとする。


「え?コンフィーヤ公爵も行くの?」

「はい、村長の処遇を決めなければいけませんので」


わたしとディルとコンフィーヤ公爵が馬車に乗り込むと、ゆっくりと馬が走り出した。御者は騎士団長だ。


「王都を出る前に、孤児院に寄ります」


馬車の中、わたしとディルの対面に座ったコンフィーヤ公爵が、窓の外を眺めながら言う。


「そっか、一緒に来ることにしたんだな」

「どういうこと?」

「ジェシーが言ってたんだ。マリが俺とソニアと一緒に村に行きたがってるから、俺達が帰る時に同行するかもしれないって」

「そうなんだ!馬車の中が賑やかになるね!」


 ここから三日も掛かるからね。大人数の方が楽しいでしょ!


わたし達が乗る馬車は、孤児院の前でジェシーとマリちゃんを拾って王都を出る。わたしはマリちゃんの膝の上だ。


「デンガは来ないんだね?」

「あら?どうして?デンガは別に子供達と関係ないでしょう?」


 あなたと関係があるんだよ!


ジェシーが悪戯っ子を見るような目で微笑む。


「それを言ったらジェシーだって子供達と何か関係があるわけじゃないでしょ!」

「ふふっ、デンガは村の方で受け入れる準備が出来たら、子供達と一緒に来るそうよ。子供達の護衛代わりなんですって」


 ジェシーが嬉しそうに言う。やっぱり一緒の村で住めることが嬉しいんだね。


「子供達は全員が来るのか?」

「ううん、まだ親の迎えを待ってる子もいるから・・・まぁ、そこら辺は子供達次第ね」


ディルが「そっかー」と言いながらマリちゃんの膝に座っているわたしを撫でる。


 なぜ? ・・・え? 手持ち無沙汰だったから? わたしは愛玩動物か何かか!


「マリちゃん達はどこに住むの?」

「私はお兄ちゃんと一緒に住むよ」

「え?ミーファおばさんのところか?」


 ああ、ディルってミーファと一緒に住んでるんだったっけ。


「村の様子を見てからだけど、どこかで居候させてもらって、その間に空き家を整えて引っ越そうかと思っているわ」

「住居に関しては、国からも資材と人手を派遣するつもりです。先日の魔物騒動で大量に魔石が手に入ったので、質の良い建材を取り寄せましょう」


コンフィーヤ公爵が人の胡散臭い貴族らしい笑顔をしながら言う。ジェシーが深々と頭を下げてお礼を言う。


ぐうぅぅ・・・


ディルのお腹がなった。手に持っている紙袋を見ながら「腹減ったな」とぼやく。


「食べちゃダメだよ!ミドリちゃん達のお土産なんだから!」

「流石にお土産を食べるようなことはしないぞ」


 いーや! 絶対食べる気だったよ! 獲物を狙う獣の様な目で紙袋を見てたもん!


「あ、そういえば!ジェシーとマリちゃん!」

「なぁに?」

「何かしら?」


マリちゃんがわたしの顔を覗き込む。


「パンのお土産ありがとう!美味しかったよ」

「うん!私も食べたよ。美味しかった」

「どういたしまして。そろそろ夕飯にしましょうか」


ジェシーがパンッと手を叩いて、コンフィーヤ公爵を見る。


「食料などは後ろの荷台に積んであります。どこか落ち着ける場所で馬車を停めて休みましょう」


 夕飯か、何だか今日は一日が早かったな・・・それもそうか、そもそも起床する時間が遅かったもんね。


行きは3日掛かった道程だったけど、騎士団長が急いで馬を走らせてくれたお陰で、帰りは2日で着いた。なんでも、そこらの馬とは違う、優秀な馬だそうだ。パンの消費期限的にも助かった。


「おや、これは、国王様の側近の方ではありませんか!王への献上品はご満足いただけましたかな?」


わたし達が乗った馬車を迎えたのは、得意そうな顔を浮かべた、この村の村長アバンだった。

先に馬車から降りたコンフィーヤ公爵が、馬車の中のわたしを見た後に、ジェシーを見て指示を出す。


「ソニア様・・・いえジェシー、私は村長と大事な話をしてきます。ディルの保護者のところに行って、これまでの経緯をディルとソニア様と一緒に説明しておいてください。」

「分かりました」


 今、わたしに指示を出そうとしてやめた? なんで?


ジトーっとコンフィーヤ公爵を見るけど、無視される。そしてそのままコンフィーヤ公爵はアバンと一緒に、前にわたしがボトルに入れられた村長の家に入っていく。


「それじゃあ、私達も行きましょうか。ディル君、案内をお願いできる?」

「まかせとけ!」


ここぞとばかりに胸を張るディル。「じゃあ行こうぜ」と馬車から降りようとする。


「あ!ちょっとマリちゃん!」


ディルとジェシーが馬車を降りる前に、マリちゃんがわたしを持ったまま馬車から飛び出した。


「ここがお兄ちゃんの村ー?何もないねー」


キョロキョロと辺りを見渡したマリちゃんが退屈そうに言う。


「何もないから、何かを作れるんだよ。これから皆でこの村を発展させていこうね!」


マリちゃんを見上げて「楽しみだね」と微笑みかける。


「うん!ハッテン作る!」

「ふふっ、ソニアちゃん素敵なことを言うわね、私も協力するわよ」

「ああ!お母さんとお父さんが見たら、腰を抜かすぐらいの大きな村にするんだ!」


馬車から降りて来たディルとジェシーが賛同してくれる。わたし達はディルの案内によってミーファの家・・・つまりディルの家に来た。


「ただいまー!」

「ディル!!どこいってたの!?心配したのよ!10日近くも居なくなって!」


目元を潤ませたミーファがディルの頭をガシッと掴んで揺らす。


「うわぁ!ちょっと!説明するから離してくれ!紹介したい人達もいるんだ!」

「・・・あら?妖精さんに・・・女の子に・・・誰かしら?」

「久しぶり!色々あって戻って来たよ」


ミーファがわたし達を見て首を傾げる。突然居なくなったディルが、森に帰ったと聞かされていた妖精と知らない女の子と女性を連れて戻って来たのだ。訳が分からないだろう。


「初めまして、私はジェシーと言います。色々と説明したいことがあるんですけど・・・」

「そうね・・・どうぞお掛けになってください。今お茶を淹れますね」

「お気遣いありがとうございます」


ジェシーがお礼を言って、居間にある椅子に座る、膝の上にマリちゃんを乗せた。わたしはマリちゃんの頭の上に座る。お茶を淹れ終わったミーファとそれを手伝っていたディルが席に着いたところで、ジェシーが話を始める。


「それじゃあ、何から話したらいかしら?」

「わたしが村長に捕まったところから、かな?」

「俺がコンフィーヤ公爵と村を出たところからだな!」


わたしとディルとジェシーでこれまでの経緯を説明した。マリちゃんの感想付きで。


「そんなことが・・・」

「ああ、この何日かで色々あったんだ」


ディルは少し得意げな顔でミーファを見る。


「どおりで、何だかディルが大人っぽく見えたわけね」

「そうか?へへへ」


 そういう無邪気な顔をするところは子供らしいけどね。


「それで、ジェシーさんと、マリちゃんだったわね?住居が出来るまではこの家に居てくれて構わないわ。あまり立派な家じゃないけれど」

「いえ、助かります!」

「お兄ちゃんといっしょ!」


ジェシーがお礼を言って、マリちゃんが元気に頭を揺らす。お陰でわたしも揺れる。


「暫くの間よろしくな!」


ディルがミーファの隣で笑う。


「それで、妖精さん・・・じゃなくて、ソニアさんはこれからどうするのかしら?一緒にここに住むのかい?」

「いーや、わたしは緑の森に家があるから・・・って、いけない!早く戻らないと!」


 こんなのんびりとしてる場合じゃなかった!とりあえず、森に帰ってまた戻ってこよう!


「わたし、行かなくちゃ!後でまた戻ってくるね!」

「え!?」

「あ、ソニア!待て!」


わたしはマリちゃんの頭の上で立ち上がり、開いていた窓から飛び出した。


「忘れ物してるぞー!」


後ろからディルが追いかけてくる。


 忘れ物?わたしは身一つで緑の森を飛び出して来たんだ。持ち物なんて無い。忘れ物なんてあるはずがないよ。


わたしは気にせず飛んだ。

読んでくださりありがとうございます。やっと村に帰れました。ディル君お疲れ様です。

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