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278.【ナナ(朱里)】金髪の妖精ソニアを探して

「じゃあ、俺らはこのグリューン王国の城で世話んなるから、あとは若い奴らだけで向かってくれ!」


船でグリューン王国の港に着いたあと、「海賊の全員で行動するのも動きづらいから面倒を見る」っていう名目でお城で美味しいものを食べたそうな顔の、海賊団の船長であるダリアにそう言われて、ディル、ヨーム、マリ、ウィック、ナナ()で出発してから丸一日が経った。そう。まだ一日しか経っていない。


「ディルお兄ちゃん。もう疲れたよ~。休もうよ~」

「ハァ・・・ハァ・・・マリさんの言う通りですよ。ディルさん。もう丸一日歩きっぱなしですよ。休みましょう」


マリちゃんを背負った、明らかにマリちゃんよりも疲れてる様子のヨームがそう言って、意気揚々と前を歩くディルとウィックに話し掛ける。本当はディルが背負うハズだったんだけど、マリちゃんが「ヨームがいい」と我儘を言ったせいで、ヨームの荷物をディルが持ち、ヨームがマリちゃんを背負うことになった。


「え~、()()丸一日しか経ってないぞ? バテるのが早すぎないか?」

「いやいやいや、()()丸一日も歩きっぱなしなんですよ? 休まずに、歩きながらの軽食だけで! しかも何故か僕だけマリさんを背負ってますし!」

「しょうがないだろ? マリは1人しかいないんだ。全員がマリを背負うなんて無理だ」

「そういう意味じゃないですよ!!」


私はそんな意外と元気なヨームの頭の上で、皆のしょうもない会話を聞きながらダラダラしている。妖精は楽なものだ。同じ体にいる彩花も暇すぎて眠っているくらいだからね。


「しょうがない。ここら辺で野宿でもするかぁ」

「ここら辺って、今ここがどこだか分かって言ってるんですか!?」

「ああ、何もない荒野だな」


ディルがそう言いながら、少し遠くの方からこっちに向かってきていたそこそこ大きな魔物に、落ちていた石を投げて撃退した。


「何もないけど、魔物だけはいる荒野ですよ! 寝てる間に魔物の腹の中ですよ!? だいたい、どうして馬車に乗らないんですか!? そうすればもっと快適な旅だったでしょう!?」

「休みたいのか休みたくないのかどっちなんだよ。それに、馬車はウィックが・・・」


ディルは隣を歩くウィックをチラリと見る。


「馬車は別の街に寄る為に少し遠回りするらしいッスからね。歩いて最短距離を真っ直ぐに突き進むッスよ!」

「ハァ・・・あなたはバカですか」


 ヨームが溜息を吐くのも分かる。ウィックはバカだ。私は出来るだけこいつと会話したくない。


「まぁまぁ。俺とウィックが交代で見張りをするから大丈夫だって。とりあえず、そこの大きな岩まで行ったら一旦荷物を降ろして休もうぜ」


人間2人分くらいの大きな岩の下で、ディルが荷物を降ろし、ヨームがマリちゃんを降ろす。私もヨームの頭の上から降りて、岩の天辺で腕を組んで胡坐をかく。


 妖精は精神的な疲労があっても、身体的な疲労が無いのが素敵だね。彩花は「体も疲れる時は疲れるよ」って言うけど、たぶん暗示とかにかかりやすいタイプなんだと思う。その点はお姉ちゃんも同じだよね。


「あ~あ、姉御達は今頃お城で豪華な食事ッスかね~。羨ましいッス。ソニアの姉御の知り合いだって言っただけで、貴族みたいな対応なんスから。姉御は別に知り合いでもないのに・・・」

「ウィック・・・お前、自分で『俺はお城でジッとしてるなんて暇過ぎて耐えられないッス』とか言ってただろ。グダグダ言ってないでテントを張るの手伝ってくれ」


ディルとウィックが2人で大きなテントを張っているのをボーっと見下ろしていると、「ナナちゃん、ナナちゃん」と真下から声が聞こえてきた。


「ナナちゃん、降りてきてよ。届かないよ」


大きな岩の天辺に居る私に向かって、手を伸ばしながらぴょんぴょんと跳ねている。


 降りたところで撫でまわされるだけだよね。お姉ちゃんならともかく、他の人に触られたくないもん。


私は無視をして寝転がる。


(ちょっと! 何無視してるんですか! マリちゃんが可哀想ですよ!)

 あ、起きたんだ。彩花。おはよう。

(おはようじゃないですよ! 少し目を離したらこれですよ。さっさと体を変わってください!)

 はいはい。変わっても何も、彩花が寝落ちしちゃったから、仕方なく私が体を動かしてたんだけどね。


私はいつものように体の主導権を彩花に譲った。


・・・。


そして充分な休憩を取り、再び荒野を進み、ヨームが音を上げた頃にまた休憩を挟み・・・それを繰り返すこと5日くらい。ようやくミリド王国が見えてきた。


「なんスかこれ・・・でっかくて、深い・・・穴?谷?」


ウィックが驚くのも無理はない。ミリド王国の周囲は、底が見えない深い穴に囲まれていた。


「そういえば、これソニアがやったんだったな」

「私知ってるよ。くるみ村が襲われた時だよね。お陰で助かったよ」

「まぁ、その時ドレッド共和国に居た俺視点では、ソニアがただ酔っ払った勢いでやらかしただけなんだけどな」


 お姉ちゃん酒癖悪いからね。お酒好きな癖に。そこがまた可愛いんだけど。


見た感じ高い塀に囲まれている国みたいで、その周囲が底の見えない穴となっている。妖精の私ならともかく、人間がジャンプで乗り越えられる距離ではない。


「あの橋から入国するようですね」


ヨームがそう言いながら正面に見える心許ない一本の橋を指差す。それを見たマリちゃんが怯えるようにヨームの服を掴んだ。


「あの橋、柵が無いよ? うっかり落ちちゃいそう」

「大丈夫ですよ。マリちゃんは僕に背負われてるだけですから。落ちるとしたら僕共々です」


マリちゃんはスッとヨームの背中から降りた。


「一応マリとヨームはロープで繋いどくか。んで、そのロープを俺とウィックが持つ」

「了解ッス」


 ははは、まるでペットみたいだね。

(こら! 朱里! 皆は命懸けなんだからふざけないでください!)


「よしっ、じゃあ渡るぞ~」

「はいッス~」

「う、うん!」

「・・・」


気楽な様子のディルとウィックに、ロープで繋がれた強張った表情のマリちゃんとヨーム、それから心配そうに上空を飛ぶナナで、柵の無い細い橋をゆっくりと渡る。橋の向こう側には門番みたいな人がいて、こっちを見て馬鹿にするように笑っているけど、皆はそれどころじゃなさそう。


「い、今、橋のどこらへん? ディルお兄ちゃん」

「今は半分くらいだな~・・・」

「ま、まだ半分・・・」

「ふぁ、ふぁいとですよ! マリちゃん!」


 とっとと渡っちゃえばいいのに。ゆっくりする方が余計こわいでしょ。

(そんなこと言って~、朱里だったら怖くて渡れないんじゃないですか? 知ってるんですよ? 人間だった頃に先輩と遊園地に行って、先輩はバンジージャンプを飛んだのに、朱里は怖がって飛ばなかったの)

 また記憶が流れてるのか・・・。


最近、私と彩花の人間だった頃の記憶がお互いに流れ始めてる。そのうち完全にお互いの記憶が共有されることになるか、私と彩花が完全に1人になるんだと思う。まぁ、同じ体に二つの魂が入ってるんだから、そういうこともあるよね。


無事に橋を渡り切ったところで、厳つい顔の槍を持った門番が声をかけてきた。妖精に対してどんな風に接してくるか分からないから、ナナはマリちゃんのポシェットの中に隠れて顔を覗かせる。


「ハハハッ、お前らみたいな根性なしは初めてだぞ。ようこそ。世界一の無法地帯へ! 入国審査は無しだぜ! 自由に入れや! 二度と出て来られないかもしれねぇがな!」


もの凄く物騒なことを言う門番に、ウィックが「面白そうッスね!」と笑い、ディルが「そんなことどうでもいいけど、金髪の妖精を見てないか?」と質問する。


「金髪の妖精? 知っててもタダでは教えねぇよ! 金を寄越しな!」

「じゃあいいよ。退いてくれ」


ディルは軽く睨む。すると、何故かそれだけで門番は震えあがり、サッと道を開けた。ディルとウィックが気にした素振りもなく普通に通り、その後ろをマリちゃんが軽く門番に会釈しながら通り、ヨームは憐みの視線を門番に送りながら通る。


「ディル、殺気を放つの上手くなったッスね!」

「まぁな。ソニアの前ではこんな物騒なことあんまりやりたくないけどな。ソニアが怯えるかもしれないから」

「まぁ、ソニアの姉御が本当にこんな物騒な国にいるんなら、その心配は無用ッスけどね。ディルはミリド王国がこんな状況だって知ってたッスか?」

「いいや。少し前に革命があったって聞いてたから、穏やかな国では無いだろうとは思ってたけど・・・ヨームは知ってたか?」


ディルが歩きながら後ろを振り返る。周りの世紀末みたいな見た目の人達にめちゃくちゃ睨まれてるのに、よく気にしないで会話できるものだ。


「僕が知ってるのは、半年以上前の革命でザーリスという男爵が国民に担ぎ出され王になり、その後、妖精の怒りを買ったり、闇市場という後ろ盾を無くしたりで、担ぎ上げた民達からの信用を失った上、まともな国民は別の国へと移住し、現在この国に残った者は、金が無くて移住できない者、この現状でも国に仕えようとする騎士団、そして行き場の無い犯罪者だけになったこと。そして、そこに噂を聞きつけてやってきた無法者が加わったのが、今のミリド王国だということくらいですね」


 うわっ、きもっ、めっちゃ知ってんじゃん! きもっ。

(朱里・・・口が悪いですよ・・・本当に前世は50近くまで生きたんですか? 中身と年齢がチグハグなのは先輩とそっくりですね)

 ありがとう。

(褒めてないですよ・・・)


「ヨームはどこでそんな情報を仕入れたんスか?」

「風の噂ですよ。魔石の魔法で風を操り、噂話を集めるんです。これを人がいるところで常にやっていれば、膨大な情報が集まりますよ」


 きもっ、盗み聞きじゃん。

(いや、そうですけど・・・言い方・・・)


「ねぇね、今どこに向かってるの?」


周囲の視線に怯えていたマリちゃんがヨームの手を繋ぎながらそう尋ねる。マリちゃんは自分だって怖いのに、小さな声で「大丈夫だからね」「ナナちゃんは私が守るからね」と、しきりにポシェットの中に居るナナを気にしてくれていた。お姉ちゃんがこの子を気に入るのも分かる。


「今は情報ギルドに向かっています。・・・そうですよね? ディル」

「え? ああ、そうだな? ・・・・えっと、こっちで合ってるのか?」


苦笑いしながら進行方向を指差すディル。それにヨームは仕方なさそうに「情報ギルドはだいたい城の近くにありますよ」と頷く。


 ディルはよくあの天然でマイペースなお姉ちゃんと2人で旅を出来たものだよ。絶対に迷子になりそうなのに。それとも、その場その場で別の人と一緒に行動してたのかな?


いつ周囲のガラの悪い世紀末野郎達に絡まれるかとドキドキしながらお城の方へ進んでいると、いつの間にか情報ギルドに着いたっぽい。ナナ(彩花)はポシェットの中でコックリしてたから分からない。


「一流冒険者のディルだ。情報を買いたい」


ディルが受付で質問する声が聞こえる。


 一流冒険者? 自分で何を言ってんの?

(彩花、知らないんですか? 冒険者のランクですよ。三流、二流、一流と三段階あって、一流はほんの一握りしかいないんですよ。・・・って、記憶を共有してるんですから分かりますよね?)

 うるさいなぁ。小さいことは気にしないの。



「金髪の妖精ソニア様の情報ですか・・・・・・申し訳ございません。金髪の妖精ソニア様の情報は、半年前のカイス妖精信仰国が最後で、それ以降新しい情報はありません」


 ないのかぁ・・・。


「おい! そこの兄ちゃん達ぃ! その情報、俺持ってるぜぇ~・・・ヒック」


明らかな酔っ払いの声が聞こえてきた。


(どんな人だろ?)


ナナがポシェットの中から顔を出すと、思った通り顔を赤らめた酔っ払いのオッサンが喋ってた。臭そう。


「何だよ。その代わり金を寄越せってか?」


ディルがそう言うと、オッサンはニヤリと笑う。ウィックがこっそり剣に手を置き、ヨームがマリちゃんを後ろに隠す。お陰でマリちゃんのポシェットの中に入ってるナナは少しオッサンが見えにくくなった。


「金はいらねぇよ。盗ろうと思えばいくらでも盗れるからな」

「じゃあ、何なんだよ・・・」

「何もいらねぇよ。タダで教えてやるよ。こんな情報でよければな」


何か引っかかる言い方だけど、ディルは聞くことにしたみたいだ。黙っている。


「城の裏側に小屋があんだけどよぉ。たぶん、そこに兄ちゃん達の探してる奴がいると思うぜ~・・・ヒック」


 うわ~・・・胡散臭い。


「どうするッスか? ディル。俺はディルに任せるッスよ」

「僕も基本的にはディルさんに任せます」

「わ、私も・・・」


皆がディルに任せると言う。まぁ、この中で一番強いのはディルだ。自然とそうなる。


「行ってみよう」


そういうわけで、皆でお城の裏側に向かう。最初に会った門番とは明らかに毛色の違う強そうな騎士が見回りしていたので、避けながら慎重に向かう。


「小屋って言うより、ちょっとした家ッスね。ここにソニアの姉御が住んでるんスかね?」

「さぁな。とりあえず入ってみよう」


ちょっとした森を抜けた先、まるでコテージの様な建物の扉のドアノブにディルが手をかけようとするのを、マリちゃんがディルの袖を掴んで止めた。


「ちゃんとノックしないとダメだよ?」

「お、おう。そうだな」


コンコンコン・・・コンコンコン・・・


返事が無い。


「留守なのかな?」

「いや、いる」


ディルが二階部分を見つめながらそう断言する。


「人の居る音が聞こえる。誰かいるハズだ」


 うわぁ・・・ほぼ盗聴じゃん。犯罪だよ。

(もう、また朱里はそうやって・・・先輩を見付ける為ですよ? 盗聴だろうが何だろうが、別にいいじゃないですか)

 それもそうだね。


コンコンコン・・・ドンドン!!


激しくノックしても、まったく返事が無い。


「よしっ。開けるか」

「えっ、勝手に・・・あっ」


マリちゃんが止める間もなく、ディルは扉を開けてズカズカと入っていく。


「マリちゃん。ソニア先輩を見つける為ですよ。少しくらい目を瞑ってあげましょう」

「そうだね。うん」


マリちゃんは本当に目を閉じる。そしてそんなマリちゃんをヨームが抱えてディルの後に続く。


「なんだこの家・・・めちゃくちゃ散らかってるなぁ。まさか本当にソニアがここにいるのか?」


 散らかってる=お姉ちゃん、になる辺り、悔しいけどディルはお姉ちゃんのことをちゃんと理解してるんだね。

(先輩、職場のデスクもぐちゃぐちゃでしたからね)


「おーい! 誰かいないのかー!!」


ディルが大きな声でそう言うと、二階の方からドタドタと慌ただしい音が聞こえてきた。

読んでくださりありがとうございます。

ウィック(時々ナナが冷たい目線を送ってくるのは何なんスかね?)

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