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276.【ナナ(彩花)】恋の面接

「おーい! そこの商船! なんか襲われてたみたいだけど大丈夫か~!!」


商船の隣りにつけた海賊船の上から、見覚えのある黒髪の男がこちらに手を振ってます。太陽をバックに元気満々な笑顔です。


 えーっと・・・誰でしたっけ?


マリちゃんの小麦色の髪の上で、そんなことを考えながら首を傾げていると、マリちゃんが「ディルお兄ちゃんだ!!」と、頭の上に乗ってる私を気にする素振りもなく、元気に頭を揺らして走って、船の手すりに身を乗り出しました。


 ディル君・・・前に映像で一度見てますが、実際に会うのは久しぶりですね! 身長が伸びてます!

(ディル・・・あの男が!! お姉ちゃんを誑かす男!!)


彩花()朱里(アカリ)の心の声が重なります。


 ちょっと朱里、言い方・・・。

(あの男、一発ぶん殴ってやる!!)

 うわっ!?


体の主導権を朱里に無理矢理奪われちゃいました。ナナ(朱里)はマリちゃんの頭の上から飛び立ち、商船から飛び出し、こちらに手を振るディル君に向かって突撃していきます。マリちゃんが慌ててナナの体を掴もうとしたけど、空を切りました。


「ナナちゃん!? 急にどうしたの!?」


 まさか本当に殴るつもり!? 無理ですって!サイズ的に!

(無理なもんか! お姉ちゃんを誑かそうとする男は、妹の私が成敗してやるんだから!)


「ん? ・・・え、ソニア・・・?!」


突撃してくるナナを見て、ディル君は目を大きく開けて驚きました。そしてよく目を凝らしてナナを見たあと、首を傾げます。


「あれ?・・・違う・・・胸が小さい」

「ぁんだってぇ!? おらぁああ!!」


かつてのアイドル、アカリちゃんからは想像も出来ないような野太い声を出して、ディル君の頬に殴り掛かろうとする・・・けど、ひょいっと軽く首根っこを掴まれました。


 ほぉら、言わんこっちゃない・・・。


ぷらーんと首根っこをつままれたまま、ジタバタと暴れるナナ(朱里)。そんなナナをジーっと見つめるディル君。


 ・・・あれ? ディル君って片腕でしたっけ? あんまりじっくり見たことは無いから自信は無いけど・・・両腕ちゃんとあったハズです。


「あっ・・・どっかで見たなと思ったら・・・もしかしてナナか!?ブルーメでソニアが生み出した虹の妖精だよな! 髪の長さとか瞳の色は違うけど、ソニアにそっくりだな! 騒がしいところもな!」

「キィー!! 放してよーー!!」


 みっともないですよ、もう・・・朱里、交代です!


暴れる朱里と体の主導権を変わって、「ふぅ」と落ち着く。


「おーい! ディルお兄ちゃーん! 何してるのー!? こっち来てよ~!」


向こうの船からマリちゃんが大声で手を振る。


「マリ!? どうしてこんなところに・・・って、マリと一緒に居るハズのナナが居るんだから当然か・・・あ、いや! 何で2人ともここにいるんだよ! 2人だけでここまで来たのか!?」


ディル君は何やらブツブツと言ったあと・・・「ごめん。暫くそこの商船と並走させといてくれ!」と近くにいた青い髪の女性に言って、私を持ったままぴょんとひとっ飛びして商船に乗りこみました。


 うわっ、すご・・・数十メートル以上離れてるんですよ!? 人間とは思えないです!!もはやオリンピックとかそういう次元じゃないですよ!


「ディルお兄ちゃん久しぶ・・・りゅわぁ! 腕が片方ないよ!?」


マリちゃんがディル君の失くなった片腕を見て仰天してひっくり返りそうになりました。


 やっぱり、もともと両腕ちゃんと揃ってたんですね。


「俺の腕のことは気にしないでくれ。それよりも、どうしてこんなところにマリがいるんだよ?」

「それは・・・! ディルお兄ちゃんとソニアちゃんが連絡を寄越してくれないからだよ! だからナナちゃんとヨームと一緒に村を出て探しに来たの!!」

「え!? ヨームもいるのか!?」

「うん。ちょっと怪我をしちゃって今は中で寝てるけど・・・」


ヨームはこの商船をモッサモサウルスから守るために囮として戦って重傷を負って、今はマリちゃんが治癒の魔石を使って回復したけど、その反動で今は眠ってます。


 そして、マリちゃんも魔気を大量に流したせいで疲弊してるハズです。


「ディルお兄ちゃんこそ、こんなところで何をしてるの? ソニアちゃんは?」


その言葉に、ディルは一瞬だけ口籠ったあと、「それがな・・・」と口を開きます。


 え、待って・・・もしかして、このまま私の首根っこを摘まんだまま話始めるつもり!?


どうやら、そのつもりでした。


「・・・そういうわけで、今はあの海賊船に同乗してミリド王国に向かってる途中なんだ」


 話してる最中になんとかディル君の手の中から抜け出せたけど、話の内容はまったく入ってきませんでした。ミリド王国に向かってることだけは分かったけど・・・。


そして、話を理解してないのは私だけじゃないみたいです。マリちゃんも頭にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げてます。


「まぁ・・・いいや。子供と妖精に話しても分かんないよな。あとでもう一回ヨームに話すわ・・・っと、とりあえず寝てるヨームは俺が運ぶから、マリは荷物をまとめて置いてくれ。その荷物も俺が運ぶ」

「「え、何で?」」


私とマリちゃんの言葉が重なりました。今日はよく声が重なる日です。


「何でって・・・マリ達は俺とソニアを探してたんだろ? だったらこのままこの船に乗ってても意味ないだろ。俺は反対方向にソニアを探しに行くんだから」

「え、うん。わかったよ。行こ。ナナちゃん」

「はーい」


マリちゃんに頭の上に乗せられて、一緒に部屋に行って荷物をまとめる。・・・とは言っても、妖精の私はマリちゃんに指示を出してるだけで、実際に作業してるのはマリちゃんですけど。


「ディルお兄ちゃん。荷物をまとめ・・・・・・」

「姉御、受け取ってくれー!」


ディル君が眠ってるヨームを海賊船にふんわりと投げてました。マリちゃんが「ヨーム!?」と目を見開いて驚いてます。


「ふぅ、俺も気配りってのがだんだん分かってきたな!」


 ディル君は何を言ってるんですかね?


マリちゃんの代わりに私が商船の人達に事情を説明して、お別れの挨拶とお礼をしたあと、海賊船と商船の間にかけられた板橋を(マリちゃんが)渡って海賊船に移ります。


「・・・そういうわけで、ソニアの自称姉のマリと、自称後輩のナナも俺達と一緒に同行することになったから!」


ディルが海賊の人達に私達の事情を説明して、紹介してくれました。


 マリちゃんはともかく、私は自称じゃなくてちゃんと後輩なんですけど・・・。

(私は後輩じゃなくて、ちゃんと血のつながった双子の妹だけどね)

 ()、ですけどね。

()も、だよ。どこに行っても、どんな姿になっても、お姉ちゃんの記憶が無くなっても、私はお姉ちゃんの双子の妹なの)


マリちゃんの頭の上で、心の中で朱里とそんな会話をしていると、海賊船の船長らしい大柄な青髪の女性、ダリアさんがずいっと私に顔を近付けてきました。マリちゃんがビクッと震えたのが分かりました。圧力が凄いです。


「これが妖精ねぇ・・・こんなちっちゃかったか? ちょっと小突いたら吹っ飛んじまいそうだなぁ」


そう言いながらツンツンと、私の頭を小指で小突いてきます。やめて欲しいですけど、怖くて言えないです。


(情けないなぁ。私が変わってガツンと言ってあげようか?)


「ナナちゃんをイジメないで!」


朱里に変わるまでもなく、マリちゃんがギュッと私を持って胸に抱き寄せて庇ってくれました。


 マリちゃん! いい子過ぎですよ!

(子供の頃のお姉ちゃんにそっくりだね。まぁ、お姉ちゃんの方が数百倍可愛いいけど。今も昔も)

 ほぇ~、子供の頃の先輩・・・見てみたいです。


『朱里をイジメないで!!』


 ・・・!?


急に、頭の中に映像が流れてきました。先輩に似た小さな黒髪の女の子が、数人の男の子達に向かって木の棒を両手に持って、がむしゃらに振り回してます。


 これは・・・朱里の昔の記憶?


「ナナちゃん? どうしたの? ボーっとして・・・」

「あ、マリちゃん。ううん。何でもないよ」


・・・。


その後、海賊船の中を軽く案内してもらったあと、ヨームが運ばれた部屋(私達の部屋)に荷物とマリちゃんを置いて、私はこっそりとディルの背中に張り付いて、ディルの個室までついて行きました。


ガチャリ・・・。


「ナナ。俺の背中に張り付いて、何の用だ?」


 き、気付かれてました・・・。まぁ、どっちにしろ姿を現す予定だったからいいんですけど。


私はディル君の顔面の前に飛び、ビシッとディル君を指差します。


「面接です!! 先輩に相応しい男かどうか、私が見極めます!!」


(ちょっと! 違うでしょ!? お姉ちゃんを誑かそうとする男を排除するの!!)

 物騒ですよ!! 朱里が先輩に特別な想いを寄せてるのは知ってますが、だからと言って物理的に排除するのはダメです!


朱里に無理矢理体の主導権を奪われて、うっかりディル君を殺しちゃわないように気を引き締めながら、私はキッとディル君を睨みます。


「面接って・・・妖精の考えることは本当に理解できないなぁ。・・・まぁ、どうせ暇だし付き合うよ」


 ふん! 余裕ぶっていられるのも今のうちですよ!

(無事生きて面接を終えられるかな!)

 ・・・朱里、本当にその物騒な考えはやめてくださいね? 洒落にならないですよ?


まるで親戚の子供の遊ぶに付き合うお兄さんみたいな顔でベッドに腰かけたディル君に、私はもう一度ビシッと指を差します。


「さっそく質問です! ディル君は先輩のことが好きですよね!? 女の子として!」

「ああ、もちろんだ。大好きだ」


薄っすらと頬を赤くして照れるように返事をするディル君に、朱里が心の中で「チッ」と舌打ちしました。


「じゃあ、先輩のどこが好きですか!?」

「・・・可愛いところ、だな」

「はい不合格!!」


私は頬を膨らませて、ブブーっと手をバッテンにします。


「軽い! 薄い! ありきたり! もっとこう・・・無いんですか! なんか、特別な想いっていうか・・・そういうの!!」

「はい? 何を言ってるんだよ。可愛いから好きになるのは普通だろ?」


 そうですけど!! なんか、薄っぺらいんですよ!

 (こいつ、お姉ちゃんのいい所を完璧に理解してる・・・!?)

 は!?


私には分からないけど、朱里には何か伝わったらしい。


「ハァ・・・じゃあ少し聞き方を変えます。先輩を好きになったきっかけは何ですか?」

「それは・・・そうだな。救われたんだ。ソニアの笑顔に、声に、そしてあの元気さに。孤独だった俺に、本当の笑顔を取り戻させてくれたんだ。そして、そんなソニアのお陰で色んな繋がりが出来た。俺にとってソニアは、俺を証明するような存在かもしれない」


 ふ、深い・・・今度は逆に深すぎて理解が追いつきませんよ。

(ナ、ナルホドネー)


「ディル君の先輩に対する想いは、よく分からないけど分かりました!」

「はい?」

「ですが、私はまだ認めませんよ! 趣味、将来の夢、特技、貯蓄・・・色々と聞いてから判断します!!」


 ただ好きだって気持ちが強いだけで、私が認めると思ったら大間違いですよ!

(私の方が絶対に強いけどね)

 朱里はいちいち張り合わなくていですよ!


「ハァ・・・いくら暇だとはいえ、さすがにちょっと面倒だな。いつまで続くんだよ?」


ディル君はそう言いながら、困ったように左手でポリポリと頬を掻きました。そこに私は信じられない物を見ました。


「ちょっとディル君!! その薬指に嵌められてる黒い指輪は何ですか!!」


(こいつ・・・まさか、既に相手が居るのにお姉ちゃんを狙ってるわけ!? 信じらんない! どうする!? 殺す!?)

 え、ちょっ・・・まずっ・・・


激怒した朱里に体の主導権を奪われる一歩手前、ディル君が「ああ・・・」と口を開きました。


「これはソニアから貰ったんだ」


ディル君はそう言いながら、愛おしそうな顔で指輪を見下ろしました。


「先輩から?」


(お姉ちゃんから?)


「ソニアがここの指に嵌めてくれたんだよ。ちょっとサイズが大きくて、親指とかなら丁度よく嵌りそうなんだけどさ、違う指に移そうとしたら何故か悲しそうな顔するもんだから、何となくずっと薬指に嵌めたままなんだ」


 そっか、そうなんだ・・・あの先輩が・・・。

(・・・・・・)


「先輩とは・・・どこまでいったんですか?」

「は、はぁ!? ど、どこまでって! ソ、ソニアとはまだそこまでの関係じゃないって!!」


顔を真っ赤にして、ブンブンと頭を振るディル君。


 まぁ、まだディル君は子供ですもんね。とりあえず安心です。


「あ、でも・・・この指輪をくれた時、ソニア、俺の頬にキスしてくれたんだ。それは、その・・・凄く嬉しかった・・・」


ズキッ。


その瞬間、心が痛みました。


 これは・・・私の痛みじゃない。


「ど、どうしたナナ? 何で泣いてんだ!?」

「あ、あれ?」


気が付いたら泣いてました。


 これは・・・朱里の涙、そして痛みですね・・・。

(お姉ちゃん・・・ずっと私だけのお姉ちゃんだと思ってたのに・・・)

 朱里・・・。今は・・・この世界でも先輩に大切な繋がりが出来て、相手も先輩を大切に思ってくれてる。それでいいじゃないですか。

(それでも私は・・・)

 え・・・あぁ!!??


急に体の主導権を奪われました。ナナ(朱里)はビシッとディルに指を差したかと思うと、人差し指を引っ込めて、拳を突き出しました。


「ディル! お前のことは認めてあげる!! でも、お姉ちゃんのパートナーになることを許すわけじゃない! 私のライバルとして認めるだけだからね!!」


そんなナナ(朱里)の姿に、ディルは一瞬だけ目を見開いたあと、「フッ」と不適に笑って、ナナの小さな拳に、大きな拳を突き合わせました。

読んでくださりありがとうございます。

マリ「あれ!? ナナちゃんどこ行ったの!?」

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