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267.【ナナ(朱里)】皆が寝静まる夜に

ソニア(光里)の妹のナナ(朱里)視点のお話です。

「すぅ・・・すう・・・おさかなぁ・・・」


可愛らしい寝言を呟くマリちゃんの手の中から、私、虹の妖精ナナこと朱里(あかり)はするりと抜け出す。そしてマリちゃんの頬を指でツンツンと突いてみる。


 よしっ、ちゃんと寝てるね。


私は目を瞑って、意識を内に集中させる。


 彩花~・・・起きてる~? おーい・・・


返事は無い。


 うん。彩花も寝てるみたいだね。


「んっ~~~~」


体を伸ばして、「ふうぃ~」と息を吐く。


「さてとっ、行こうかな」


真っ暗闇になった窓の外を見て、そう小さくぼやく。


「どこに行くんですか?」

「わぉ!?」


大きな声を出しちゃった。慌ててマリちゃんの様子を窺う。


「すぅ・・・すぅ・・・べべーん・・・」


 べべーん? 何だかよく分からない寝言だけど、起きてはいないみたい。よかった。


「・・・」


 ・・・いや、よくない。起きてる人が一名ここにいた。


「ヨーム。こんな時間にどうして起きてるの?」


そう言いながらくるっと後ろを振り返ると、何故か上半身裸のヨームが少し息を切らしながらベッドに腰かけていた。


「え? 何してたの?」


 こんな時間に半裸で息を切らして・・・本当に何してたの!?


「いえ、ちょっと少しトレーニングをしてただけですよ」

「ふーん・・・いつもしてるの?」

「始めたのは村を出てからですよ・・・それが何か?」


 ふーん。へぇ~・・・。


「もしかして、マリちゃんの為?」

「自分の為ですよ。守りたいものを守る為です。すぐに効果が出るものではないのは分かっていますが、後悔はしたくないので。・・・あっ、マリさんには他言無用でお願いしますよ」


 なんか、やたらと早口で言うなぁ。まぁ、私は彩花と違って他人の事情に興味なんて無いからね。だから別に誰かに言ったりはしないけど、そもそも昼間にナナの体を動かしてるのは朱里(わたし)じゃなくて彩花だからね。言うか言わないかは、この記憶を後で共有した彩花次第だね。


「・・・そういえば、ナナ先生はその喋り方が素ですか?」

「え? 喋り方?」

「いつもよりだいぶ崩れた話し方をしてますよね? それに、昼間よりも何だか落ち着いてるというか・・・大人びてる雰囲気です」


 あっ・・・。不意を突かれたせいで完全に油断してた。いつもは変に思われないようにしてた彩花の真似を忘れてたよ。


これが彩花だったら慌ててボロが出たかもしれない。でも、私は人間だった頃は50年以上生きた朱里だ。こんなことで慌てたりしない。なんてことも無いように返事をする。


「どっちも素だよ。人間だってその時の気分で態度が変わったりするでしょ?」

「・・・それにしては差がありすぎるような気がしますが・・・まぁ、妖精ですもんね。人間とは感覚が違うんでしょう。夕食の時に僕のお皿に食べきれなかったお菓子昆布をコッソリ乗せてきたことといい、僕には妖精の思考が理解できません」


 うん。やっぱりこういう時は堂々とするのが一番だね。勝手にいいように解釈してくれた。・・・それと、お菓子昆布に関しては私も彩花に注意したんだよ。妖精の体じゃあ絶対に嚙み切れないよって、やめときなって。なのに、「大丈夫ですよ」の一点張りで聞かないんだもん。


「妖精に限らず他人の思考なんて理解出来ないもんだよ。・・・じゃあ、ヨーム。私はちょっと出掛けるからマリちゃんのことよろしくね」

「出掛けるって・・・こんな夜中にどこに行くんですか?」

「水の山。ちょっと気になることがあってね。朝までには戻ってくるから」


そう言いながらコンコンと窓を叩くと、ヨームが仕方なさそうに溜息を吐きながら窓を少し開けてくれる。


「ナナ先生の羽はソニアさんと同じで夜だとキラキラしていて夜だと凄く目立ちます。ソニアさんはそれでこのブルーメで襲われかけたそうですから、充分に気を付けてください」

「え、なに。心配してくれんの?」

「当たり前じゃないですか。昨日はマリさんの手前ああ言いましたが、ナナ先生も大切に思う守りたい対象ですよ」

「ふーん」


 昨日ヨームが何を言ったのか気になってナナの体にある記憶を探るけど、何の事だかわからない。まぁ、でも、悪い気はしない。私はお姉ちゃんのこと以外はたいして心配してないけど。


私はヨームに軽く「いってきまーす」と言って窓の外に出る。大きなまん丸お月様が見える。空気が澄んでいてとても綺麗だ。


 お姉ちゃんも同じ月を見てるのかな・・・。


朱里(わたし)がマリちゃんについて来ている理由はただ一つ。お姉ちゃんに会って、私との思い出が・・・人間だった頃の記憶が失われてないか確認すること。そして、失われていた時は神様に教えてもらった方法で記憶を取り戻させる。それだけだ。


マリちゃんの目的はお姉ちゃんとディルお兄ちゃんって青年を探して連れ帰ること。

ヨームの目的はそんなマリちゃんを守って導くこと。

そして、私の相棒であり一心同体の彩花は、朱里(わたし)、マリちゃん、ヨームの3人の目的すべてらしい。


 彩花とマリちゃんはこの旅を楽しんでもいるみたいだけど、私は最初から自分の目的(お姉ちゃん)のことしか考えてないからね。楽しむならお姉ちゃんと一緒に、だ。・・・だから、しっかりとお姉ちゃんの情報を集めなきゃ。


ヨームに気を付けるようにって言われたので、私は上空を飛んで水の山に向かう。これなら人間が見ても星空の一部にしか見えないハズ。・・・ただ、普段体を動かしてるのは彩花なうえに、こんな高い所を飛んだことないから、かなりフラフラのへにょへにょになりながら飛ぶ羽目になっちゃったけど。


 まだ暗くてよく下が見えないからいいけど、明るい昼間だったら飛べなかったかもしれない。その点、お姉ちゃんは高い所恐いとか聞いたこと無いし、妖精になってもすぐに飛べたんだろうなぁ。


水の山の頂上に近付くにつれて、何やら変な影が見え始めた。


 頂上には大きな池があって、その中に水の妖精達が居るってマリちゃんに聞いてるけど・・・あれは何?


暗闇の中に池っぽいのがあるのは何となく見える。ただ、その池から何か大きな生き物の頭のようなのが飛び出している。例えるなら、シルエットは巨大なチンアナゴだ。


 あれって・・・もしかしてアレじゃない? 人間だった頃にTVか何かで見た都市伝説、ある湖に存在すると言われている伝説のアレ。お姉ちゃんは「絶対にいるって!」って可愛らしく鼻の穴を広げて興奮気味に言ってたけど、私は「そんなわけないでしょ」と否定していたアレ。


ここにいるのがお姉ちゃんだったら興奮して考えなしに突っ込んでいくんだろうけど、私は正体の分からない巨大な生物は普通に恐いから、そっと地面に降りて、様子を伺いながらゆっくりと歩いて近付く。


 ・・・んん? 誰かと話してる?


「――――くださ―よ! きっと―――ちゃんは――考えてない―――って!」

「それでも―――――――悲しい―です。せっかくの―――でしたのに・・・」


 声が小さくてよく聞こえないけど、やっぱり誰かと会話してるみたい。そして相手は・・・妖精かな?


近付いて分かったけど、小さな影がフワフワと飛んでいるのも見える。


 妖精も一緒に居るってことは危険な魔物とかでは無いんだよね?大丈夫だよね?


そっと浮き上がって、声を掛けてみることにする。


「あの~・・・」

「わおっ!? だ・・・誰!? ・・・羽が光って・・・もしかしてソニアですか!?」

「え! ソニア様ですの!?」


小さな影・・・青い髪の溌剌(はつらつ)とした女の子の妖精が嬉しそうに飛んで近付いてきて、大きな影・・・額に綺麗な青い魔石が付いた青い龍? みたいな生き物がこちらをバッと勢い良く見る。


 ソニア? 妖精のお姉ちゃんの名前だよね? 知り合いなのかな?


「えっと・・・私はソニアじゃないよ」

「ソニアじゃないんですか!? 同じ金髪で羽も光ってるのに!? じゃあ誰なんですか!」


ガシッと肩を掴まれる。


 勢いが凄いなぁ。


肩に置かれた手をベシッと払って、私は自己紹介する。


「私は虹の妖精のナナ。ソニアの妹だよ」

「妹! 眷属ってことですね! 私と水の妖精みたいなことですよね!?」


 やっぱり。髪が青いからそうなんだろうとは思ったけど、水の妖精の眷属だった。緑の髪以外の妖精を見るのはお姉ちゃんを除けば初めてだから、何だか新鮮だ。


「でも確かに。よく見るとソニアと似てるけど所々違いますね。ナナの方が髪が短いし、ソニアは目が青いけどナナは金色ですし、胸もソニアの方が大きいです」


 胸のことはいいから。彩花は人間だった頃より大きくなったって喜んでたけど、私は人間だった頃よりも小さくなっちゃったんだから。・・・正直、お姉ちゃんに見た目で勝ってた唯一のものが無くなっちゃって凄く残念だよ。


「あ、私達も自己紹介しないとですね! 私は波の妖精で、以前ブルーメを訪れたソニアと一緒に遊んだりしてお友達になりました! そして、池から顔を出してるこの方は・・・」

「水の大妖精様に創造された水のドラゴンの、レヴィと言いますの。よろしくですの」

 

 うーん・・・喋り方がおかしいのは指摘したら駄目なのかな? よくアニメや漫画で個性的な喋り方のキャラがいたりするけど、実際に目の前にいると凄く違和感。「絶対普通に喋れるでしょ!」ってツッコミたくなる。


「それで、ナナはこんな夜中に何をしに来たんです? もし水の妖精・・・あっ、今は水の大妖精でしたね。彼女に用があるのなら今はいませんよ」

「そっか・・・まぁ、いないならあなた達でもいいや」


 本当は水の大妖精にお姉ちゃんの居場所を聞こうと思ったけど、この2人もお姉ちゃんと知り合いみたいだし、何か知ってるよね。


「私は今お姉ちゃんを探してるんだけど、どこに居るか知ってる? もしくは何かお姉ちゃんの情報とか・・・」


私の質問に、波の妖精とレヴィは顔を見合わせる。


「ソニアなら他の大妖精達と一緒に南の果てにある家に帰って行きましたよ。それで今の今までレヴィが置いて行かれたって落ち込んでたので、私が慰めてあげてたんです。かれこれ半年くらい落ち込みっぱなしですよ。勘弁して欲しいですよね?」

「置いて行かれただけじゃないんですの。・・・私、いくら水の大妖精様のお願いとはいえ、ソニア様の御邪魔をしてしまいましたの。それに、以前にも海中でお見かけしたのですが、その時も何やら怯えたような顔で私から逃げてしまわれましたの。きっとソニア様は私のことを嫌っておられるんですの」

「もう、またそうやって・・・大丈夫ですって! ソニアは何も考えてないだけですよ!」


 レヴィが落ち込んでるとかは心底どうでもいいけど、大妖精達と一緒に帰ったっていう南の果てってどこ? もしかして・・・。


「ねぇ、波の妖精。レヴィのことは今はいいから、お姉ちゃんのことを教えて。南の果てってもしかして南極のこと?」

「ナンキョク? がどこかは知りませんけど、南の果てはそのまま南の果てです。この星の一番南にある雪と氷の大地ですよ」


 南極で確定だね。問題はここが惑星のどの位置で、どれくらい距離があるかだ。四季や気候的に地球で言う日本と同じような緯度だと予想してるけど、もしかしたら地球よりも大きな惑星でかなり距離があるかもしれないし、逆に小さくて近いかもしれない。


「その南の果てってここから遠い?」

「ここからだと・・・遠いんですかね? ・・・ソニアなら一瞬で行けると思います。私達水の眷属の妖精は海中を移動すれば3日も掛からずに行けると思います。あっ、ナナはソニアの妹ですし、一瞬で行けるかもしれませんね!」


 うーん・・・いまいち分からない。ソニアなら一瞬で行けるって・・・お姉ちゃんっていったいどんなスピードで飛んでるの?


「もし、ソニアや他の大妖精達とお話したいなら、たぶん出来ますよ!」

「え、出来るの!?」


 そんなことが出来るなら、手っ取り早くお姉ちゃんの記憶の有無を確認できる!


「ささ! こっちに来てください!」


波の妖精は私の手を引っ張って、レヴィの横を通ってポチャンと池の中に入る。


「・・・っ!!」


 息がっ・・・・・・って、妖精だから息はする必要無いんだったね。人間だった頃の感覚が抜けないなぁ。切り替えが出来ないね。歳かな。


波の妖精に手を引っ張られて連れてこられたのは、火山のマグマだまり、ならぬ、水の山の水だまり・・・の側面にぽっかりと空いた空洞の中。そこだけ不思議と空気があって、一枚の木の扉の横に、人間サイズの椅子が置いてある。それだけの空間だ。


「確か、この中にあったハズです」


波の妖精はそう言いながら木の扉を押して開ける。人間サイズの扉をちっちゃい妖精が開ける姿は何だか違和感が凄い。


「ほら、ぼーっとしてないで入ってください!」

「あ、うん」


中に入ると、普通に部屋だった。人間サイズの本棚に、人間サイズのデスク、そして、その上に置いてある人間サイズの青い電話機。


 あれって公衆電話みたいな・・・違う、ダイヤル式の・・・なんだっけ? 人間だった頃にどっかで見たことある。でも、この世界に来てからもどっかで見たような気がするんだけど・・・気のせいかな? 気のせいだよね。


「なんと! この不思議な箱で南の果てにいる大妖精達とお話出来るんですよ! 水の大妖精がここを出る前に教えてくれました! さっそく掛けてみますか!? みますよね!」


凄くワクワクしたようなキラキラの目で見つめてくる。


 波の妖精が掛けたいだけなような気がするけど・・・まぁ、掛けてくれるなら何でもいい。私はダイヤル式の電話機の使い方なんて知らないからね。


「じゃあ、お願い」 

「かしこまりましたー!」


波の妖精は大きな電話の受話器を乱暴に取ってぷらーんとさせて、ダイヤルを両手で一生懸命に回し始めた。


「えっと確か・・・3、7、3・・っと」


 南の果てで373(ミナミ)って・・・。


リリリリリリ・・・リリリリリリ・・・・


5分くらい待った。


リリリリリリ・・・リリリリリリ・・・・


10分くらい待った。


リリリリリリ・・・リリリリリリ・・・・


15分くらい待った。


リリリリリリ・・・


「出ないですね・・・」

「そうだね・・・もしかして寝てるんじゃない? こんな夜中だし」

「それは無いですよ。緑の大妖精以外は睡眠は取らないハズです」

「じゃあ・・・不在なのかな」

「そうじゃないですか?」


波の妖精は残念そうに首を振りながらぷらーんとなっていた受話器を両手で抱えてガチャリと戻す。


 お姉ちゃんが向かったであろう場所は分かったけど、今は不在か・・・。さて、これからどうしようかな?


「うーん・・・」


 とりあえず、早いとこ宿に帰ってマリちゃんの手の中に戻らないとだね。

読んでくださりありがとうございます。

波の妖精(ソニアの妹の割には何だか冷たいというか・・・大人しい妖精ですね)

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