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266.【マリ】まだちっちゃいけど

「予定通り過ぎてつまんないよ」


今から乗り込むカイス妖精信仰国行きの商船を目の前に、私はそうぼやく。


「そんなマリさんに朗報ですよ」


商船の一番偉い人と何か話していたヨームがカラスーリの紹介状を丸めて仕舞いながら戻ってきた。


「どうやら、この先の海域で凶暴な魔物が出たらしく、様子を見て出港を一日遅らせるそうです」

「やった!」

「・・・予定が狂って嬉しそうにするなんて、マリさんは変わってますね」


 だって、せっかくブルーメに来たのに何もせずに通過するだけなんて勿体無いもん!


「おや? ヨーム君の同行者っていうのは君達かい?」


少しぽっちゃりしたグレーの髪のおじさんが話しかけてきた。さっきまでヨームとお話してた商船の偉い人だ。


「まさかこんなに幼い子供を連れてたなんてね」

「幼くないです」

「ハハッ、ごめんね。そうだね、女の子はいくつでも立派なレディだね。もしかしてヨーム君のパートナーかい?」

「パートナー?」


 そうなのかな?


「はい、パートナーでふぐっ!?」


急にヨームに口を塞がれた。


「ヨーム君・・・まさか本当にこんな・・・」

「違いますよ! マリさんも変な冗談はやめてください!」


 冗談なんて言ってないよ?


コテリと首を傾げる私にヨームは「はぁ」って溜息を吐いて私の口から手を放して「あとで意味を教えてあげますね」って優しく言う。


「ハハハッ、何だか大変そうだね。・・・ああ、そうだお嬢さん。一日遅れるお詫びにこれをあげるよ」


おじさんは大きなカバンの中から何かを取り出して、私に渡してくる。


「なにこれ・・・ちっちゃい、こんぶ?」

「お菓子昆布って言ってね。干した昆布に色々な調味料を付けたもので、カラスーリ様は定期的にこれを大量に注文してくださるんだよ。何でも、ダイエットにいいとかで」

「そうなんだー」


 ダイエットが必要なのはカラスーリさんじゃなくてコンフィーヤ公爵の方だと思うけど・・・もしかしてコンフィーヤ公爵に食べさせてるのかな? あーんって。


さっそく貰ったお菓子昆布を口に入れてみる。


もぐもぐ・・・


 うっ・・・


「うぇぇ・・・」

「ちょっとマリさん!? 口に合わなかったからってそのまま出さないでくださいよ!」


私の口から出たふにゃふにゃになった昆布を手で受け止めるヨーム。


 出した私が言うのもおかしいかもだけど、ばっちいよ。


「ハハハッ、まぁ、確かに子供の口には合わなかったかもしれないね」

「子供じゃないです。でも、もう昆布は食べたくないです」

「あっ、私は欲しいです!」


ナナちゃんがそう言ってポシェットの中から飛び出してきた。


「よ、妖精様!?」


おじさんはナナちゃんを見て目を丸くしたけど、すぐに立ち直ってカバンの中からお菓子昆布を取り出した。


「どうしてポシェットの中から妖精様が・・・? いやいや、そんなことよりも、まさか妖精様の目に留まるとは・・・。どうぞ差し上げます。是非とも宣伝・・・じゃない、移動中にでも美味しく頂いてください」


おじさんはお菓子昆布を摘まんで渡して、ナナちゃんはそれを両手で「ありがとうございます! しっかり宣伝しておきますね!」って受け取る。おじさんは満足そうに頷いて「また明日」って船に戻っていった。


「ナナちゃん・・・それ、美味しい?」

「むちゃむちゃ・・・うーん、癖になる味ですね~」

「私は好きじゃない」

「フフッ、そういえば先輩も海藻系は苦手でしたねー。好みまで先輩に似てきましたね!」

「そうなんだ」


 ナナちゃんはこのブルーメで一度しかソニアちゃんと会ったことが無いけど、何だかたまに私よりもソニアちゃんに詳しい気がする。もしかして私が知らない間に2人で通信っていうのをしてるのかなぁ。


「2人とも、そんなとこで突っ立ってないで、さっさと宿を取りに行きますよ・・・ああ、あそこがいいですね。前回来た時に泊まった山の麓にある・・・」

「カカおばさん!」

「デンガさんのお母さんが営んでいるっていう宿ですね! 会ってみたいです!」


私は頭の上にくちゃくちゃと昆布を噛じるナナちゃんを乗っけて、ヨームと手を繋いでカカおばさんの宿まで歩く。その途中で、ヨームは「パートナー」について教えてくれる。


「パートナーというのは、つまり婚約者や結婚相手や、夫や妻のような存在を差す言葉なんですよ。マリさんは僕と友人ではありますけど、そんな関係ではないでしょう?」

「うん。()()そうだね」


 ・・・??


「「()()?」」


私とヨームの言葉が重なる。


「まだ、とは?」

「え、えっと・・・その・・・違くてっ・・お、お父さんが! あ、いや、お母さんが・・・」


 わ、私、どうして「まだ」なんて言っちゃったんだろう!? 全然そんなこと考えてないのに! 恥ずかしいよぉ・・・。


「ああ、ジェシーさんが僕を結婚相手にとか言ってたんですか?」

「う、うん! そうなの!」


 お母さんごめんなさい! でも、前に似た感じのこと言ってた気がする!


「安心してください。貴族社会じゃないんですから、いくらジェシーさんがそう薦めても本人の許諾なしに婚約は出来ないですよ。それに、デンガさんは反対してるみたいですしね」

「うん・・・」


 ヨームは・・・。


「ヨームは、私がパートナーだったら嫌?」

「現状ではありえませんね」

「・・・っ」


 ありえない・・・そうなんだ・・・。


何でだろう。目から涙が出てきそうになる。


「ちょっとヨーム! 黙って様子を見てたら、なんてこと言い出すんですか! デリカシーとかそういうのは無いんですか!? マリちゃんだって乙女なんですよ!? 結婚相手にありえないとか言われたら傷つきますよ! ・・・ああ、マリちゃん泣かないでください!」


ナナちゃんが頭の上から降りてきて、私の涙を昆布を持った手で拭う。


 ・・・昆布臭いよぉ。


その様子を見たヨームが慌てて私の前に膝をついた。


「ごめんなさいマリさん! 昔から妹にも女性の扱いが雑だと言われていて・・・」


ヨームは私の左手をそっと持って、私の顔を覗き込む。


「えっと・・・まだ幼い子供のマリさんをパートナーとして見るのは、法的にも、僕の倫理的にも現状ではありえないと言いたかっただけで・・・。その、マリさんがもう少し大きくなって大人の女性になれば・・・その・・・ありえなくはない・・・です」


ヨームは薄っすらと頬を染めて目を彷徨わせる。こんな表情のヨームは初めて見た。


 そっか・・・私がまだちっちゃいから駄目なんだ。私自身が駄目なわけじゃないんだ。


「私、ソニアちゃんみたいにおっきなおっぱいになる!」


私の言葉にナナちゃんは大笑いして、ヨームは「そういうことじゃ・・・」って顔に手を当てて頭を振って、立ち上がる。


「マリさん、言っておきますけど、現状でマリさんと同等以上に大切な女性は妹くらいしかいませんからね」


ヨームはそう言って私の手を握ってくれた。何だかヨームの手が少し熱い。見上げてみると、耳を真っ赤にしてた。


・・・。


宿に着いたら、お父さんのお母さんのカカおばさんと、お父さんの妹のプラティお姉さんが「いらっしゃいませ」って出迎えてくれた。


「よく来たね。突然で驚いたよ。デンガの奴は元気かい? 手紙で子供が産まれたって知ったけど、ちゃんとやれているかい? ジェシーさんは大丈夫かい?」

「うん! お父さんもお母さんも元気だよ。弟のユイ君はもっと元気だよ!」

「そうかい。そりゃよかった。ジェシーさんはあの歳での出産だからね。心配だったんだよ」


 そういえば、お母さんの歳っていくつだっけ? 弟のジェイク叔父さんがもう40近いって言ってたから・・・いくつ?


首を傾げてたら、後ろからプラティお姉さんに抱っこされた。お父さんの妹なだけあって、とっても力持ちだ。


「マリちゃん久しぶりだね! 見ない間に少し背が伸びたんじゃない?」

「うん!これからはおっぱいもおっきくなるよ! ソニアちゃんみたいに!」


床に降ろして貰って、両手で「これくらいになるの!」ってプラティお姉さんに見せる。


「フフッ、胸は程々がいいんだよ。あんまり大きいと垂れるのも早いらしいからね!」

「そうなの? ソニアちゃんも?」

「ソニアちゃんは妖精で歳を取らないから、垂れないんじゃないかな?・・・羨ましいね! 私は垂れる程大きくないけど!」

「そうだね!」

「えっと・・・それは何に対しての『そうだね』なのかな?」


 じゃあおっぱいはナナちゃんくらいが丁度いいのかな。


プラティお姉さんが「ちょっとマリちゃん? 急に黙らないで?」って言ってる横で、ヨームがカカおばさんに話し掛ける。


「本当に急ですみませんが、部屋は空いてますか?」

「空いているよ。このところ魔物の活性化とやらで客足が遠のいててね。暇してたところさ。・・・プラティ、部屋に案内しておくれ」

「はーい」


プラティお姉さんが2階のお部屋に案内してくれる。


「そういえば、あの2人は今日はお休みですか?」

「2人? ああ、グアテマとアンナね」


 グアテマさんは確かプラティお姉さんの恋人で、アンナさんはこの宿で働いてる女の人だったよね。


「グアテマは傭兵としての仕事をしてるよ。最近は忙しいみたいであんまり会えてないの。アンナは今日は普通にお休みだよ。今は息子さんとお散歩に行ってるみたい」


 傭兵かぁ。そういえば、お父さんとジェイク叔父さんも魔物が多くなったって言って忙しそうにしてたっけ。


「ここがお部屋になります。これが鍵です。夕飯は下の食堂でお召し上がりになってもいいですし、お部屋での食事をご希望でしたら事前にお申し付けください。・・・じゃあ、ゆっくりしてね!」


プラティお姉さんに「バイバイ」って手を振って、お部屋に入る。


「あれ? ナナちゃんは?」


頭の上に居たハズのナナちゃんがいつの間にか居なくなってた。ポスポスと自分の頭を擦る。


「ナナ先生なら移動中にポシェットの中に移動してましたよ」

「そうなんだ」


 お菓子昆布を宣伝するって自信満々に言ってた姿は何だったんだろう。


ポシェットを開けて、ベットの上で逆さまにしてブンブンって振る。そしたら、ポシェットの中身とお菓子昆布を両手で持ってもきゅもきゅしてるナナちゃんが落ちてきた。


「うへぇ~・・ポシェットの中が昆布臭くなっちゃったよぉ」

「ごめんねマリちゃん。この昆布なかなか食べきれないっていうか、嚙み切れなくて、ごめんね。頭の上で食べてた時に一回落としちゃってマリちゃんの髪が少しベタってなっちゃったけど、ごめんね」

「うへぇ~・・・私シャワー浴びてくる」


私はシャワー室の扉を開ける。ヨームが「その間に水の魔石でポシェットを洗っておきますね」って言ってポシェットを手に取る。


 海を渡ったからかな? ナナちゃんが昆布を落としたとか関係なく、髪がベタベタしてるよ。


上着を脱いで、ソニアちゃんとお揃いの青いリボンを解いて、フリルが付いたワンピースを脱いで、パンツを脱いで、シャワー室に入る。


 えっと、この青い魔石に触れたら水が出るんだよね?


青い魔石に触れた瞬間、水が出てきて、同時に「あ、そういえばマリさん」って声と一緒にガチャリと扉が開けられそうになる。


「わぁ! ヨーム!? 開けないで!」


 何で!? どうして!?


私は慌てて扉を押さえる。


「別に見えるほど開けるつもりはないですよ。それより、シャワーを使うための水の魔石は適性が無いと発動しませんよ・・・って、あれ? 水が出てる音がしますね・・・どうしてですか?」

「知らないよ!魔石に触れたら出たんだもん! それよりも早くどっか行って!」


 ナナちゃん! お菓子昆布を食べるのに必死なのか分からないけど、ちゃんと見張っててよ!


私の気持ちなんて知らんぷりで、ヨームは何やらブツブツと言いながら去っていく。


「はぁ・・・」


 どうしてヨームは平気なの? 私って魅力がないのかな? ぺったんこだし。・・・早くおっきくなりたいな。


シャワーから上がった私は、服を着て出て、ヨームを睨む。


「どうしてヨームは勝手にシャワー室に入ってこようとするの? 私が入ってるのに!」

「別に入ろうとはしてませんし、扉も全開にするつもりもなかったですよ。ただ声が届きやすいように少し開けただけです。さすがの僕でも、いくら子供とはいえ、女性の裸を堂々と見るようなことはしないですよ」

「更衣室にはパンツだって置いてあったんだよ! それに、そもそも声を掛けずに少しでも扉を開ける時点で間違ってるの! ね! ナナちゃん!」

「もへ?」


ナナちゃんは未だにお菓子昆布を噛じってた。もう味がしなさそう。


「ヨームだって、私に裸を見られたら恥ずかしいでしょ?」

「いえ? 別に・・・これでも僕は鍛えてますからね。誰に見られても恥ずかしくない肉体のつもりです。見たいですか?」

「み、見たいなんて思ってない!」


 もう! 何だか私だけ意識して変みたいだよ!


「そんなことよりも、ですよ! どうして水の適性を持っていないマリさんが、水の魔石を発動させられたんですか!? いつもと変わったことなどありましたか!? 元々水の適性は持ってなかったですよね!?」


ヨームは興奮した感じに鼻息を荒くして私の肩を掴んでくる。私は「ベタベタするからヨームもシャワー浴びて来て!」って追い返す。


「フフフッ、マリちゃんはなかなか面倒な人を好きになっちゃいましたね! きっと苦労しますよ」

「好き?」

「はい! マリちゃんは恋愛対象としてヨームのことが好きなんですよね?」

「そう・・・なの?」

「そうとしか思えない言動をしてますけど・・・もしかして未だに自覚無しですか!?」


 ・・・そっか。私ってヨームのことが好きなんだ。だからこんなに意識しちゃうんだ。


9歳の冬。私は初めて恋を自覚した。

読んでくださりありがとうございます。

プラティ「おっきいと垂れるのが早いらしいですよ」

ナナ(彩花)言われてますよ。朱里。実際どうなんですか? 人間だった頃は50歳くらいまで生きてたんですよね?

ナナ(朱里)今はね、彩花が生きてた頃よりも美容医学が発達してるんだよ。


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