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261.人間のあなた達(後編)

《わたしの人間観察日記1日目》

 人間を飼うことにした。ビオラとジニアに「すぐに飽きるでしょ」って言われた。でも、確かにただ飼うだけなのもつまらない。わたしは日記をつけることにした。文字を書くのは苦手だけど、書く。


《わたしの人間観察日記2日目》

 昨日の夜、人間が排泄行為を行うトイレっていうのを作ってあげた。檻からは出したけど、トイレにはちゃんと鍵が付いてるし、魔力も無いから安心。とりあえずそこで寝させたんだけど、人間は「屈辱ですわ」と不満そうにしてた。きっと、ベッドが無かったのがいけなかったんだと思う。ジニアに簡素なベッドを作って貰って、トイレに置いてあげた。人間はポカーンって口を開けてた。言葉にならないくらい嬉しかったみたい。


 ・・・ところで、人間は他の人間からナントカ王女って呼ばれてる。でも、もうわたしの物になったんだから、新しく名前を考えてあげた。この人間の新しい名前は・・・そう! 排泄物! 初日に排泄行為について色々と教えてくれて、その印象が強いから!


《わたしの排泄物観察日記4日目》

 うっかりしてた。わたしの排泄物をトイレに丸一日放置して忘れてた。「お腹が空いた」と力なく言ってた。わたしは急いで台所で人間の食べ物、カレーを作って、わたしの排泄物に食べさせてあげた。最初は何故か微妙な顔をしてカレーを見てたけど、やっぱりお腹が空いてたのか、すごい勢いで食べてくれた。

 人間は食べ物を食べないと死んじゃう。覚えて置かないと。


《わたしの排泄物観察日記5日目》

 日中はわたしの排泄物をトイレから出して、わたしの部屋に置いてるんだけど、最初の威勢はどこへやら、この5日だけですっかり大人しくなっちゃった。「退屈だし、もう殺しちゃおうかな」と呟いたら「ちょ、まま、待ってくださいまし! そ、そうだ! 何か面白い話をしますわ! それでどうか・・・」って必死に言うので、試しにその面白い話を聞いてみた。恋バナというものだった。わたしの排泄物は勇者に恋をしてるらしい。面白いかは別として、なかなか興味深い話だった。恋って何だろう。


・・・。


《わたしの排泄物観察日記10日目》

 今日は、朝起きたらわたしの排泄物がビオラとジニアに虐められてた。慌てて止めたら、虐めてたんじゃなくて一緒に遊んでたみたい。一瞬傷だらけに見えたわたしの排泄物も、次に見たら傷は何も無かった。見間違いだったのかもしんない。排泄物が何かを訴えるように涙目でわたしを見てたけど、どうしたんだろう?


・・・。


《わたしの排泄物観察日記18日目》

 わたしの排泄物は物知りだ。今日は、その排泄物に聞いた船っていう人間が海を渡る魔道具を作ってみた。最近は海岸でずっと見張りをしていたリナムとアケビに手伝って貰った。人間の船なんかよりも、よっぽどスピードの出る船が出来た。少し小振りだし、ブレーキも付け忘れちゃったけど、海に浮いてるんだから成功だ。


・・・。


《わたしの排泄物観察日記30日目》

 最近、わたしの排泄物が臭い。人間は代謝っていうのがあって、何日も体を洗ってないと臭くなるらしい。ここは主のわたしが洗ってあげようと思って、普段はどうやって洗ってるのか聞いたら、温泉というものに入ってるらしい。温泉とは・・・?


《わたしの排泄物観察日記31日目》

 今日はわたしの排泄物を温泉に連れていってあげようと思った。丁度近くの大陸に温泉がある村があるらしい。わたしの排泄物も喜んでたけど、ビオラとジニアが同行するって聞いて、顔を真っ青にして気絶しちゃった。たまにビオラとジニアがトイレにわたしの排泄物に会いに行ってるみたいだから、仲良くしてると思ってたけど、違うのかな? 結局今日は行けなかった。


《わたしの排泄物観察日記32日目》

 今日はわたしの排泄物を連れて、ビオラとジニアと一緒に温泉に行った。わたし達が降り立ったらそこらにいた人間達が逃げて行った。わたし達は排泄物の言う通りに服を脱いで、温泉に入った。露天風呂というらしい。なかなか良いものだった。


 わたしの排泄物を温泉で洗ってあげてたら、温泉の外から「この中に無防備な大魔王達が」「でも女湯だぜ?」と話声が聞こえてきた。わたしの排泄物が「勇者様!」と騒ぎ出した。もしかしたら、わたしの排泄物が奪われるかもしれない。そう思って慌てて裸のまま外に出たら、勇者とその相棒がいた。

 相棒が生きてたことにも驚いたけど、勇者の顔が信じられないくらい赤くなってることにも驚いた。勇者はわたしの裸を凝視したあと、勢い良く鼻血を吹き出して気を失っちゃった。わたし、何も攻撃とかしてないのに、びっくり。わたしは勇者を連れて脱兎の如く逃げていく相棒を啞然としながら見送った。

 ビオラとジニアには「勇者を殺す千載一遇のチャンスだったのに」って言われたけど、わたし的にはわたしの排泄物が奪われなくて良かったって思った。


・・・。


《わたしの排泄物観察日記50日目》

 今日は、わたしの排泄物を連れてお散歩をした。エリカが「最近、勇者の声が、不自然なほど届いてこない。だから、少し、様子を見に行く」って言ってたから、それに同行するついでだ。

 更についでに、この間作ったブレーキを付け忘れた船をこっそりと人間達の使う港に置いてみたら、興味本位で乗った人間は、案の定、猛スピードで水平線の彼方へと消えて行った。

 ・・・それと、結局勇者は見当たらなかった。死んじゃったのかな? でも、何だか嫌な予感がする。


・・・。


《わたしの排泄物観察日記61日目》

 またまたうっかり。アケビと一緒にある物を作ってたら、わたしの排泄物に餌を与えるのを忘れてた。急いで与えに行ったら、「わたくしに飽きたから、もうこのまま餓死させられるのかと・・・」と泣いて安堵してた。


―――――――。



「えーっと、ソニア? 見せたいものがあるって言うから、わざわざ皆で家の地下室に集まったけど、この下品な日記が見せたいものですか?」


リナムが困った表情の皆を代表して、わたしの日記を持って呆れた声で言う。


「違うよ! その日記は絶対に見ちゃダメだよって言ったのに、皆がそう言われたら気になるとか言って勝手に見たんでしょ!! もう! なんでかな! 自分の日記を見られるのって恥ずかしい! ・・・っていうか! 何でアケビまでそっち側にいるのさ! 一緒に作ったでしょ!」

「・・・っ! そうだったよ!」


 もう、困ったちゃんなんだから!


この二日間、わたしはアケビと一緒に地下室である物を作っていた。それは・・・


「じゃーん!!」


わたしはスッと横に避けて、後ろにある物を皆に見せる。


「何だ? この箱は?」

「それにその薄っぺらいのも・・・」


それぞれの色の箱が7個。同じ円盤が6枚、置いてある。ケイトがツンツンと箱を突き、ビオラが不思議そうに薄い円盤を見る。


「この箱は、遠くにいても会話が出来る道具だよ! そして、この円盤はわたしのバックアップ!」


わたしは皆に、電話と名付けた箱の使い方を教えて、この円盤にわたしの記憶が現在進行形で保存されていることを伝える。


「あのね。わたし、あの勇者って人間に凄く危険を感じるの」


 正確には、あの勇者の使っていた空間を斬る刀。ずーっと昔に見た覚えがある。黒い存在だ。


昔、その黒い存在にお別れだって言われた時、わたしは消されるかもと、恐怖を感じた。根拠は無いけど、あの時の恐怖が近付いて来てるような気がしてならない。


「わたし達が本気になれば、勇者を殺すことも、この星ごと破壊することだって簡単に出来る。でも、それでもわたしは・・・こわいの」


 だって・・・もし黒い存在が関わってるのなら、勇者を殺したり、星を破壊したところで解決はしなさそうなんだもん。


「だから、いざという時の為に遠くでも会話出来る道具を作ったの。エリカは風を利用して遠くでも会話出来るけど、それに頼らない連絡手段があった方がいいと思ったの」


 それに、考えたくないけど、エリカが消されたら連絡が取れなくなる。その為の保険だ。


「そして、このわたしの記憶が保存された円盤だけど、コレがあればもしわたしが消されても、ジニアとビオラが無事ならわたしを新たに作ることが出来るよ」

「え?」

「私達が?」


ビオラとジニアがお互いを見合う。


「ジニアがもとになる体を作って、それをビオラが魔力で妖精の体に作り替える。そして、この円盤を触れさせれば、わたしの記憶がその体に入る。これでわたしが元通りでしょ?」

「そう・・・かしら? 肝心なものが抜けてるような気がするのだけれど・・・」


 確かに今のわたしが元通りってわけでは無いかもしれない。でも、わたしっぽいのは出来るハズ。そうすれば、わたしのことを大好きでいてくれる、大好きな皆が悲しまずに済むかもしれない。


「頭の悪いソニアが、ここまで一生懸命に考えて手を打っていたことには驚いたわ。色々と穴だらけな気がするけれど、一応保険があるのはいいことだと思うわ。でも、そもそも私達がソニアを守ればいいだけの話。現に、リナムの青いドラゴンが近海を守ってくれてるお陰で勇者達は海を渡ってここまで来れた事がない」


 何度か船でここまで来ようとしてるみたいだけど、その度に青いドラゴンに沈没させられてるらしいからね。さすがの勇者も海の上では本領を発揮出来ないみたい。というか、殺す気で攻撃してるのに、いつも何故か生き残ってるのがおかしい。本当にタフな人間だよね。勇者って。


「だから、ありがたいけれど出番は無いと思うわよ?」

「それでもいいの。わたしが安心したいから作っただけ、みたいなとこあるし」


 わたしの気にしすぎならそれでいいんだ。


アケビが「作ったのは私だよ・・・」と言うけど、それは気にしない。


「それにしても、勇者達はアタイ達を消せばそれぞれが証明している自然も消えることを知らないのか? 細胞を司ってるジニアなんかが消されたら、人間達も消えるだろ?」


ケイトが片方の眉を上げて不可解そうに言う。


「さぁね。そこら辺はわたしの排泄物に聞いてみたら分かるんじゃない?」

「そうだな。・・・ってか、今まで誰もツッコまなかったけど、そのわたしの排泄物って言い方おかしいだろ。ソニア大好きなアケビとジニアもさすがに変だと思うよな?」

「当り前よ。人間にしては立派な呼ばれ方すぎるわ」

「私もそう思うよ。あっ、思うわよ。人間なんかより、本当のソニアちゃんの排泄物の方がよっぽど可愛いと思うもの。もしソニアちゃんがそういう行為をしたら、の話だけど」


 わたしは排泄物というものを見たことがないけど、可愛いものなの?


そんな雑談をしながら、地下室から出る。


「じゃあ、排泄物に会いにトイレに行ってくるね」

「私も行くわ」

「わ、私も!」


ビオラとジニアが元気に手を挙げるけど、わたしは首を横に振る。


「何故か2人が・・・というか、最近は皆が来るとわたしの排泄物が怯えるから、わたし1人で行くよ」

「え~・・・ソニアはあの人間に気を使いすぎよ。最初は絶対にすぐに飽きると思っていたのに、愛着が湧いちゃったの?」

「まぁね。よく懐いてくれるし! 最近は言うこともちゃんと聞くし! 面白い話もしてくれるし!」


 まだ一年も一緒にいないけど、愛着は沸くよね! 今では毎日ちゃんと餌もあげてるもん! 待っててね!わたしの可愛い排泄物!


わたしは勢いよく玄関の扉を開け放つ。その瞬間、エリカが叫んだ。


「ソニアお姉ちゃん! 待って! 外から複数の呼吸の音が聞こえ――――」

「しまった! 大魔王だ!!」

「だから暫くは身を潜めて様子を見ようと・・」


外には、わたしを指差して驚く勇者と、呆れたように肩を竦める勇者の相棒がいた。


 あ、やばい! 何かしないと! 攻撃? それとも逃げる? えっとえっと・・・


「大魔王! 姫様はどこだ!」


ブォン!!


勇者が刀を抜刀する。


「ソニア! 避けるのよ!」


パニックになって固まってるわたしの羽をビオラが掴んで、後ろに引っ張って家の中に戻される。ひらりとわたしの髪がその場に落ちた。


 あ、危なかった~~! 空間ごと斬られるところだったよ~!


「相変わらずどんくさいんだから。でも、そんなとこも可愛いわよ」


ビオラが尻餅をついたわたしの頭を優しく撫でて、勇者達のいる外に向かう。


「風の動きが、いつもと違う。どうやら、海底のさらに下、土の中を掘って、向こうの大陸からこの島まで辿り着いたみたい」

「そうですか。私のドラゴンを打ち破ったのかと思いましたけど、そうじゃないんですね。それはよかったです」


エリカとリナムが静かにそう言ったあと、安心させるようにわたしに微笑んで外に出る。


「ソニア、大丈夫だよ。私が今あの人間をぶっ殺しに行くよ」

「・・・」


アケビがらしくない乱暴な言葉を言って、静かに怒りながら外に出て、ケイトが無言で背中の羽を燃やしながら外に出る。


「ソニアちゃん。待っててね」


ジニアがわたしの手をギュッと握ってから、外に出る。


 ・・・ち、違うよ! わたしが皆を守ってあげたいんだよ!


わたしも慌てて外に出る。そこでは既に勇者がとんでもない姿になってた。手足がバラバラどころか、木端微塵にされた勇者の肉片がそこらじゅうに散らばっている。相棒の姿は見当たらない。


「わぁお・・・すごいね。皆でやったの?」

「それが、ジニア1人でやっちゃったのよ」


ビオラがそう言いながら呆れた顔でジニアを見る。


「うん。細胞をバッて千切ったよ。あっ、千切ったわよ!」


満面の笑みでそう言うジニア。わたしは「凄いね」と頭を撫でてあげる。他の皆が「ジニア、ずるい!」と騒ぎ出した。


「ところで、もう一人の相棒はどうしたの?」

「だいぶ遠くの方に、走って逃げていった。今は、あっちの方」


エリカが遠くを指差す。わたしは光の屈折を利用して遠くを見る。勇者の相棒が弓を構えてこちらを見ていた。


 何してるんだろう? そこから矢って届くのかな? まぁ、届いたとしてもただの矢なんてわたし達には効かないけ・・・どぉ!?


勇者の相棒が弓から放ったのは、矢では無かった。


 違う! 勇者の刀だ! あれは危ない!


空気を割くような、いや、実際に空間を割きながら物凄いスピードで刀の刀身が飛んでくる。


「皆! 気を付けて! 刀が飛んでくるよ!」


ジニアに「ずるい」と責めていた皆に注意する。


「刀? ・・・っ!? ソニアちゃん危ない!」


刀はわたし目掛けて飛んできていた。


「あぶなっ!!」


間一髪で躱す。そして、避けた刀の行く先を見て、わたしは慌てた。


 そっちはダメ!!


その先には、トイレがあった。


「わたしの可愛い排泄物がっ!!」


考えるよりも先に体が動いた。光の速度で刀を追い越し、トイレの前に先回りして、両手で刀を受け止め―――。


「「「「「「ソニ――――」」」」」」


わたしの名を呼ぶ皆の声を聞き終えることなく、わたしの意識は暗転した。


・・・・・・。


 ・・・んぁ? ここはどこ?


もぞもぞと動く。感触から、土の中にいることが分かった。人間の白骨死体っぽい感触や、何か硬い物の感触、胸のあたりにモフモフとした感触もある。


 わたし、確か刀を受け止めて・・・それから・・・何だっけ? うまく記憶が繋がらないよ?・・・とにかく、この土の中から出ないとっ。


土の中からズボッと手を出して、外に出る。


「ぷっはぁ! おはよう!」


誰に言うでもなく、何となく挨拶をする。


 さて、ここはいったいどこかな?


わたしの後ろには、人間の墓石があった。


「・・・って、墓!? どうして墓に埋められてたの!? もしかして死んだと思われてた!?」


 ってことは、他の皆がわたしを埋めたの? というか、あの刀を受けたあと、わたしはどうなったの!? ・・・でも、他の妖精達の気配はちゃんとある。よく分からない気配もいっぱいあるけど、とりあえず無事なんだね。よかったよかった。


「んーーっ!」


鈍った体を解すように伸びをすると、胸の上に乗っていた黒いモフモフが落ちて来た。慌てて手で抱える。


 なんだか可愛い生き物・・・そういえば、わたしの排泄物は無事なのかな?


「ん? あれぇ?」


なんだか見覚えのあるような黒髪黒目の青年が立って私の胸を凝視している。


 勇者に似ているような感じだけど・・・別人だよね・・・何だっけ? えーっと・・・あっ、思い出した!


「ディル!!」


 そうだそうだ! 思い出したよ! 刀を受けて消滅したわたしは、理屈は分からないけど、どうにかしてジニアのもとでちっちゃい妖精さんになって復活したんだ! それで、暇だったから近くにいた少年についていったんだ! ここまでの旅のことも全部思い出したよ! ・・・何だか抜け落ちた大切な記憶があるような気がするけど、わたしの気にし過ぎだよね!

読んでくださりありがとうございます。ちょっと下品な感じの話になってしまいました。すみません。

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