259.妖精のわたし(後編)
この島に人間がやって来た。様子を見に行っていた空の妖精曰く、鉄で出来た船に乗り、海氷を魔法で破壊しながら来たらしい。
「風を利用して、人間達の会話を聞いたけど、人間達は、僕達妖精がここにいることは、知らない、みたい。この人類未開の地を、調査しに来た、っぽい」
なるほどね。人間達の理由はどうでもいいけど、丁度いいタイミングで来たもんだ。
「ソニア、何をにやけてる、の?」
「ん? いや、あのペンギン達の実力を試すのに丁度いいなって思って。魔法の使える人間達にどれくらい通用するかな?」
「でも、通用しなかったらペンギン達が絶滅しちゃうんじゃないの?」
緑の妖精が心配そうに言いながら窓の外でペタペタ歩いているペンギン達を見る。
「大丈夫だぞ。ジニア。ソニアのお気に入りの生き物だ。いざとなればアタイが人間達から守ってやるぞ!」
火の妖精の言葉に、ジニアは「お願いね」とホッと息を吐く。
「エリカ、人間達は今どうしてる?」
「僕達の家を見て、驚いてる。巨大だって」
まぁ、無駄に7階建てだからね。最上階しか使ってないけど。
「じゃあ、わたしはそんな驚いてる人間達のもとにペンギン達を送ってこよっかな」
「私も行くわ」
「わ、私も行く! あっ、行くわ!」
闇の妖精とジニアと一緒にペンギン達を誘導する。
「みんなこっちだよ~。ついてきてね~」
「アアアアアア!!」
相変わらず可愛くない鳴き声だけど、こうしてわたしの言うことを素直に従ってくれる姿は可愛らしい。わたしのことを主か何かだと思ってるのかもしれないね。まぁ、そうなんだけどさ。
「人間、思ったよりも多いわね。大丈夫かしら?」
ビオラがたいして心配してなさそうに棒読みで言う。
わたし達の前には、防寒着というものを来た人間が100人弱くらいいる。対してこっちのペンギンは50匹もいない。
「お、おいあれってまさか光の大妖精様じゃないか?」
「隣には闇の大妖精様と緑の大妖精様もいらっしゃるぞ・・・」
「・・・ってことはあの巨大な建造物は大妖精様方の・・・? やばくないか? 俺達死んだか?」
人間達がわたし達を見て恐れおののいている。
大妖精? いつの間にか人間達の呼び方が少し変わってるけど、まぁ、どうでもいっか。
「大妖精様! 私の名はアウル・ピースと申します! この海を越えた先にあるピース王国の第二王子です!」
人間達の中で一番豪華な服を着た人間が何故か名乗り始める。
だから何? って感じだよね。
「私達はここが大妖精様方の住処だとは知らず・・・ただこの地を調査しに来ただけなのです! 直ちに撤退しますので・・・どうかお慈悲を・・・」
よく見るとこの人間は震えていた。
わたし達を怖がってる?
「ハァ・・・ケイトやビオラのせいだよね。よく人間達で遊んでるから、無害なわたしまで怖がられちゃってるよ」
「何を言ってるのよ。ソニアだって一緒になって遊んでたじゃない」
「わたしは人間達と遊んでたの!」
「『エリカと同じ体だー』とか言って、人間の幼い男の子の服を脱がせまくってたのも?」
「・・・・・・」
だって、皆も股に変なものがついてて面白かったんだもん。あとからジニアに教えてもらったけど、あれはセイショクキ?とか言って、とても大切なものらしい。何故か赤面しながら教えてくれた。
「2人とも、話してる間に人間達がどっか行っちゃうよ・・・行っちゃうわよ」
「あ、ホントだ! よしっ! ペンギン達、行けえええ!」
「アアアアアア!!」
ペンギン達はビリビリと体に青い閃光を纏いながらシャーっと雪の上を滑って人間達の突進して行く。物凄いスピードだ。わたしの飛翔速度には遠く及ばないけど。
「ギャアアアア!! 何だこの生き物は! 魔法みたいなのを使ってくるぞ!」
「きっと大妖精様の御使いじゃあ! 近衛兵! 王子の身を守るじゃばばばばばばばばば!!」
「爺!!」
ありゃりゃ、思ったよりも人間って弱いのかもしれない。
「何人かは魔法で応戦してるけど、ペンギン達には当たってないね。もっと大きな魔法を使えばいいのに」
「そんなことをしたら他の人間達ごとやってしまうから出来ないんじゃないかしら?」
「人間ならこの星にたくさんいるんだから、気にしないでやっちゃえばいいのにね」
「確かにそうよね。変ね」
「そ、そうよね! 変だよね! あっ、変よね!」
そうこう言ってる間に、人間達の数が2/3くらいになってきた。わたしは少し近付いて様子を見てみる。どうやら一人の人間を守りながら後方の船に逃げようとしてるみたいだ。
「クソッ・・・よくも爺を!! 大ようせええええ!! くらえ! 火の玉」
「王子! おやめください!!」
ん?
「ソニア! 危ないわ!」
「ソニアちゃん!」
王子が放った炎の魔法がわたしの目の前まで飛んでくる・・・けど、ビオラがその魔法を打ち消し、ジニアが魔法を放った王子を蔦で縛り上げて乱暴にこちらに引き寄せる。王子は無様にわたし達の前に倒れる。
「よくも私の大好きなソニアちゃんに攻撃を・・・!! この人間殺してやる!」
「待つのよ! ジニア! いたぶってから――――」
ぐしゃ!
王子と呼ばれていた人間は、ジニアの蔦によって真っ二つに千切られちゃった。
あーあ。やるならもう少し綺麗にやってほしいよね。綺麗な雪が汚い血で真っ赤になっちゃったよ。
「そんな・・・王子まで・・・」
「て、撤退だ! 国に帰ってこのことを伝えなければ・・・!」
しかも、何故か皆戦意を失っちゃったよ。これじゃあペンギン達の実力を測れない。
「ペンギン達、もういいよ。帰ろっか」
「アアアアアア!」
「ジニア、ビオラ、守ってくれてありがとね。でも、あれくらいわたしでも何とか出来たからね」
2人が疑う様な目付きで見てくる。
「ほ、本当だよ!?」
「そうね。そういうことにしておいてあげるわ。・・・フフッ、そういうところもまた可愛いんだから」
もう! また馬鹿にしてっ! ・・・でも、生き物に魔石を埋め込ませて魔法を使わせるのはいい手段かもしれないね。
・・・。
それからわたし達は、各地を巡り、色々な生き物に色々な属性の魔石を埋め込んでいった。その道中でわたしが料理にハマって色々な物を作っては皆に食べさせてあげたり、何故か邪魔してくる人間達を皆で一緒に殺したり、誰が一番強い魔石を埋め込ませた生物を作り出せるかで競争したり、なかなか楽しい日々を過ごした。
「ごちそうさまでした。相変わらずソニアの料理は美味しいですね。特にこのサンガ焼というのは最高です」
水の妖精は満足げにそう言って、水球を出して空になったお皿を洗い始める。
わたしは今、海に面したある村の大きな家を使って皆に料理を振る舞っていた。すぐ横に人間達の死体が転がってるのは、「ちょっと台所を貸してね」って来ただけなのに、「魔王が攻めてきた!」とか訳の分からないことを言って攻撃してきた人間達に反撃したからだ。真っ先に燃やし尽くそうとしたケイトを止めるのは大変だった。危うく台所ごと燃えて無くなるところだった。
「アタイはカニ玉炒飯ってのが気に入ったぞ!」
ケイトが食器でカチャカチャと遊びながら言い、
「私はカレーうどんが好きだよ」
土の妖精が思い出すように頬を緩ませながら言う。
今まで食事ってあんまりしてこなかったけど、美味しいし、料理を作れば喜んで貰えるし、幸せだね。
「そういえばさ、最近順調に人間達の数が減って来てるよね・・・あれ? 何で減らしてるんだっけ?」
「もう、何を言ってるんですかソニア。それはですね・・・何でしたっけ?」
リナムとわたしは2人で首を傾げる。
「人間が調子に乗って動物を狩って、他の生き物が絶滅するかもって、ソニアお姉ちゃんが」
エリカが呆れたような目で教えてくれる。
そうそう。それで、他の生き物に魔石を埋め込んで、人間以外の生き物にも戦える術を持たせたんだったね。別に人間の数を減らすことが目的じゃなかったけど、まぁ、相対的に他の生き物の方が多くなるんだったらいいや。
「あ、そうそう。ソニア。私達が生み出した魔石を埋め込んだ生物だけど、人間達には魔獣とかって言われてるみたいですよ」
「ヘぇ~」
魔獣ね。わたしも色んな生き物に魔石を埋め込んでたけど、皆も色んな魔獣を生み出してたよね。わざわざジニアにお願いして、もはや原型をとどめてないくらい体の構造が変わった魔獣もたくさん生まれたっけ。
「そして、魔獣に埋め込まれた魔石を使って人間達が何やら便利な道具・・・魔道具って呼ばれてるらしいんだけど、そういうのを作ってるみたいですよ」
人間の中には、たまにそこらの魔獣なんかを簡単に屠っちゃうくらい強いのがいる。そんな奴らは大抵冒険者とか言われてるんだけど・・・一人だけ変なのがいる。
そんなことを考えながら隣に座っているエリカの頭を撫でながら、ビオラとジニアに頭を撫でられていると、突然この家の扉がバァン! と大きく開け放たれた。
黒髪黒目の青年が一振りの刀を掲げて叫ぶ。
「やっと見つけたぜ! 大魔王とその他達! 俺の名は勇者オノデラ! ここでお前達を成敗してやる!」
そうそう。こいつ。冒険者の中でも頭一つ抜けて強くて、次々と強い魔獣を倒していってるらしい人間。・・・っていうか、いつの間にか大魔王とか呼ばれてんの? わたし。
「オノデラ、1人で突っ込むな」
そしてもう一人、勇者と名乗った人間の後ろから弓を持った人間が1人・・・
「うるさいぞ」
ボフッ
「ぐわああああああああ!!」
ケイトの炎によって、弓を持った人間は丸焦げになってその場に倒れた。
「相棒~~~~!!」
どうやら勇者の相棒だったらしい。
「おのれ大魔王! よくも相棒を! 可愛くておっぱいがデカいからって調子に乗るなよ!」
勇者はそう言って刀を構える。
ハァ、そういう気分じゃないんだけどなぁ。
「ソニアのおっぱいはデカいだけじゃなくて美しくて気持ちいいんだぞ! 馬鹿にするな!」
ケイトがそう言ってガタッと立ち上がり、超高温の炎の玉を勇者目掛けて放つ。
「なんのこれしき!次元断裂剣!」
勇者が刀を振り下ろすと、炎が空間ごと切れた。その裂け目はどこかで見た覚えがある気がする。
って、それどころじゃない!
「ケイト! 危ない!」
わたしはケイトを押し倒して、勇者の得体の知れない斬撃から助ける。
「ソニア! ケイト! 大丈夫!?」
アケビが心配そうに泣きながら近付いてくる。
「大丈夫だよ。ケイトも大丈夫だよね?」
「もごもごもご・・・っ」
わたしの胸の中で何か言ってるケイト。何を言ってるのか分からないけど、何だか幸せそうだし大丈夫だろう。
「ソニア、ケイトが羨ましい・・・じゃなくて、ケイトが身動き取れないから離してあげて」
ビオラがそう言ってわたしからケイトを引き剝がす。ケイトは名残惜しそうわたしの胸を見たあと、勇者を見る。勇者は隣にある相棒の丸焦げ死体を抱いて泣き叫んでいる。
「勇者! あんたの攻撃は何だか危険っぽいな! でも、アタイは負けないぞ! こい! アタイのドラゴン!!」
ケイトがそう叫ぶと、家の外でドスン! と何かが降り立つような音がした。
「あ、あれ? ケイト様に呼ばれた気がしたんだけども・・・どこにもいねえ」
呼び出されたはいいけど、わたし達を見つけられないみたいだ。ケイトが「この家、邪魔だな!」と言いながら家だけを燃やして溶かす。オレンジ色の夕焼け空と、巨大な赤いドラゴンが見えるようになった。
「あ、ケイト様に他の大妖精様方も、お呼びですか?」
図体の割にやけに低姿勢なこのドラゴンは、ケイトが作った魔獣で、高温の炎を操ることが出来る。
「アタイのドラゴン! あんたの力を試すいい機会だぞ! 今すぐにそこの勇者を片付けろ!」
「あ、分かりましたー」
赤いドラゴンはそう言ってばさりと翼を広げて勇者に威嚇する。勇者は相棒を抱いていた手を放し、立ち上がる。
「やっぱりお前達は神様が言ってた通り人類の敵だ。神に選ばれし勇者オノデラがお前達を成敗する!」
敵って・・・味方なわけでもないけど、別に敵でも無いんだけどなぁ。というか、カミって何?
「ふぁ~~~~ぁ」
シリアスな雰囲気のなか、吞気に欠伸をする者がいた。いや、わたしじゃないよ。ジニアだ。
「ソニアちゃん、ごめん。私、もう眠いよぉ」
そうだね。ジニアはわたし達と違って睡眠が必要だ。いつもならそろそろ寝てる時間だもんね。
「ケイト、ドラゴン君。あとはよろしくね。わたしはジニアと一緒に帰るから」
「あ、じゃあ私も一緒に帰るわ」
「私もそうします」
「僕も」
「あ、私も」
ケイト以外の皆が帰ることになった。
「え、ちょ・・・アタイ達の活躍見ていかないのか・・・?」
「おい! 待て大魔王! 逃げるのか!! ・・・え!? 姫様!?」
最後に勇者が訳の分からないことを言ってたけど、わたしは気にせず眠そうなジニアを抱っこして飛び去る。
ちょっと抱きづらいなぁ。ジニアぽっちゃりしてきた?
「私のドラゴンも凄いんですよ」という言葉で呼び出された青いドラゴンの背に乗って、海上をゆっくりと進んで帰路に着く。
いつもみたいに猛スピードで上空を飛んで帰るのもいいけど、たまにはこうしてゆっくり帰るのもいいね。
・・・。
「それで・・・誰なの? その人間は?」
アケビによって鉄の檻に入れられた人間の少女を見る。家に帰るわたし達の後ろを、こっそりと魔法で飛んでついて来てた所をビオラとアケビによって捕まえられた少女。
「わたくしの名前はスパロ・ピース! ピース王国の第一王女ですわ!」
何か既視感があるような・・・?
読んでくださりありがとうございます。思いのほか過去のお話が長くなったので、後編のあともまだ続きます。




