258.妖精のわたし(中編)
「見てよ! この生き物可愛いくない? めっちゃ可愛い~~~!」
白一色の雪景色の中で、わたしはペタペタと一生懸命に歩いていた愛嬌たっぷりな小さな生き物を掲げて皆に見せびらかす。
「私はソニアの方が遥かに可愛いと思うわよ」・・と、黒い髪が。
「わ、私も可愛いと思うよ。でも、そんなに乱暴に持ったら可哀想だよ」・・・と、茶色い髪が。
「可愛い? アタイはそんなもんよりカッコイイ生き物が好きだ!」・・・と、赤い髪が。
「私、さっき海の中を泳いでたのを見ましたよ。お魚さんのお仲間なんでしょうか?」・・・と、青い髪が。
「僕、その生き物の鳴き声、聞いてみたい」・・・と、白い髪が。
「私もソニアちゃんと同じ! いや、同じよ! 可愛いと思う! あっ、思うわよ!」・・・と、緑の髪が。
6色の髪の子達がそれぞれに返事をする。わたしはそんな皆を見て、何だか楽しくて、幸せで、思わず「フフッ」と笑みが零れた。
――――。
ビオラと出会ってから私達は、更に5人の存在に出会った。というか、創った?
最初に出会ったのは茶色い髪でアホ毛が特徴的な「アケビ」。
固体に限ればほぼ全ての物質を生み出して操ることが出来て、よくわたしが適当に言った物を作ってくれる。わたし達の中で一番多才かもしれない。ただ、めちゃくちゃ泣き虫で、ちょっとした失敗でもすぐに泣いちゃう。
次に出会ったのが赤い髪で短髪の「ケイト」。
あらゆるエネルギーを操ることが出来て、物質の動きを完全に止めることも出来る。わたし達の中で一番短気で、考えなしに突っ込んで行くことが多い。
そのケイトと一緒に生まれたのが青い髪で目が細い「リナム」。
あらゆる液体を生み出して操ることが出来て、本人曰く血液すら生み出せるらしい。わたし達の中で一番冷静だけど、ちょっぴり天然。それ見えてるの? っていうくらい目が細い。
その後に出会った白い髪で可愛らしいとろんとした目の「エリカ」。
あらゆる気体を生み出して操ることが出来て、音を運ぶことも出来るらしい。わたし達の中で一番口数が少ないけど、いつの間にか何かをしてることが多い。エリカはわたし達とは体が違って、胸が無い上に、股に何か変なものが付いてる。
そして、その4人と一緒に作った星で、ビオラ以外の皆の願いによって生まれたのが、緑の髪を毎朝三つ編みに結っている「ジニア」。
あらゆる細胞を生み出すことが出来るけど、意思のあるものを生み出した場合は操れないらしい。わたし達の中で唯一呼吸と睡眠と水分補給が必要で、何だか大変そう。一番最後に生まれただけあってビオラ以外の皆に可愛がられていて、よくわたしの後ろをくっついている。
ちなみに、ビオラは魔力というものを生み出すことが出来て、これはわたしが元々持っていた創造する力をビオラが受け継いだような感じだ。
魔力は気体と同じように重力に引かれてこの惑星中を漂っていて、意思を伝えれば火や水、草木や空気など、あらゆるものを作り出す。ただ、「生み出す」のではなく「作り出す」だから、その為に必要な物が無いと作り出せない。例えば、火や水を作り出すなら空気中の酸素やら水素やらが無いと作り出せすことが出来ない。
―――――。
「そういえば、最近人間達が私達のことを変な名前で呼んでるらしいですよ」
ペタペタと雪の上を歩いていた生き物に心の中で「ペンギン」と名付けていたら、リナムがそんなことを言って「ねぇ、エリカ?」とエリカを見る。
人間ねぇ・・・。確か、いつの間にか二足歩行してて、いつの間にか道具を作り始めて、いつの間にかこのわたし達の星の上を我が物顔で生き始めた、わたし達そっくりな見た目の生き物だよね。たまに観察してるけど、よく同じ種族同士で争ってるよね。頭がいいけど愚かな生き物だよ。
「確か・・・ソニアお姉ちゃんのことは光の妖精、ビオラお姉ちゃんのことは闇の妖精、アケビのことは土の妖精、ケイトのことは火の妖精、リナムのことは水の妖精、エリカのことは空の妖精、ジニアのことは緑の妖精・・・って呼んでる」
「ヨウスィ?」
「妖精ですよ。アケビ」
「なにそれ?」
アケビが茶色いアホ毛を揺らしながら首を傾げる。リナムは「分かりません」と首を振った。
「まったく、アタイ達にはちゃんと名前があるんだからそっちで呼んで欲しいよな!」
ケイトが背中の羽をボゥと燃やしながらわたしの肩に手を置いてきた。
「わたしはどうでもいいかな。そもそも人間にそんなに興味無いし、名前はここにいる大好きな皆が知ってくれてたらそれでいいよ」
「ソニア、お前・・・アタイもそうおもっ―――」
「私も! ソニアが私をビオラと呼んでくれるのならそれだけで十分よ!」
わたしの肩に手を置いていたケイトを蹴っ飛ばして、ビオラが抱きついてくる。その後ろからジニアも緑色の三つ編みを揺らしながら「わ、私もよ!」と抱きついてくる。横では吹き飛ばされたケイトが羽を更に燃やさせて「アタイも!」と叫んでいて、リナムとエリカが遠巻きに見ながら「私もよ」「僕も」と微笑んでいた。そしてアケビが何故か泣きながら「私もだよぉ」と私の足元で言っている。
うんうん。皆愛らしいね!
「じゃあ、皆! 無駄話はここまでにして・・・わたし達がこの星の最南端に来た目的を思い出して!」
両手を広げてこの氷と雪の大地を皆にアピールする。
「えっと・・・」
アケビが口を開くけど、言い切るのを待たずにわたしが口を開く。
「そう! わたし達のお家を作るんだよ! 皆で」
「私まだ何も言ってないよ・・・」
アケビが何か言ってるけど、わたしは気にしない。
「お家って人間の住処ですよね? さっき人間には興味無いって言ってましたけど・・・」
「な、何を言ってるの! リナム! ま、真似とかじゃないからね!? ただ、皆で人間の家族みたいに暮らしたいなって思っただけだからね!」
「思いっきり人間の家族みみたいにって言っちゃってますよ・・・」
ち、ちがうもん! 別に人間の家族が羨ましいなんて思ってないんだからね!
「でも、アタイ達の住処を作るっていうのはいい考えだぞ! 今までは皆それぞれ自由に行動してた・・・っつっても、ソニアとビオラとジニアの3人は常に一緒にいたけど・・・まぁ、とにかく、帰る場所ってのがあってもいいかもな!」
「確かにいいわね。もちろん、私とソニアは2人で同じ部屋なのよね?」
「わ、私も同じ部屋がいい! あっ、いいわ!」
ビオラとジニアがまた喧嘩し始めたよ。まぁ、楽しそうだから止めないけど。
「ソニアお姉ちゃん」
「ん? なぁに?エリカ」
「どうして、こんな星の端っこにしたの?」
「だって、ここって寒いらしいじゃん? わたし達にはよく分からないけど、人間は寒いと生きていけないんだって。ジニアが言ってた。だから、人間が住めない所にしたの!」
人間はわたし達を見たら騒ぎ出すからね。鬱陶しいもん。・・・それに比べてエリカは大人しいし、可愛いいし、何だか見ていて胸がキュンとしちゃう。もう、食べちゃいたい。
わたしはエリカの頭をヨシヨシと撫でながら「エリカとわたしで同じ部屋にしよっか!」と微笑む。
今はまだジニアに教わって修行中だけど、いつかわたしも眠れるようになったらエリカを抱きながら眠るのもいいかもしれないね。でも、股に変なのがついてるからちょっと異物感があるかな? まぁ、最悪切っちゃえばいっか!
「ほら! ビオラ! ジニア! そんなとこで雪玉を投げ合ってないで、皆でお家を作るよ!」
・・・。
そうして7人で同じお家で暮らし始めて数百年。わたしはある特技を身に付けた。
「じゃあ、いくよ?」
そう言って、わたしの部屋に集まった・・・というか、いつも居るビオラとジニアを見る。
よしっ・・・やるぞ~。
「・・・すぅ~・・・うっ」
「??」
「??」
「けぷっ」
出来た!
「ソニア・・・まさかそれは・・・」
ビオラが驚きに目を丸くしながら恐る恐ると聞いてくる。
「そう・・・曖気だよ! 凄いでしょ!」
「凄いわ! ずっと練習してたものね! 遂に出来るようになったのね! 人間がするとああも汚くて下品なのに、ソニアがするととっても可愛らしいわ!」
「あ、あの・・・」
ふふふん! この為にわざわざ呼吸っていうのを習得したからね!
「それでね、次は屁っていうのに挑戦してみよっかなって思ってるんだよ!」
「なんだか分からないけれど、きっとソニアがやったら可愛いと思うわよ!」
「ね、ねぇ・・・」
実のところ、わたしもおならが何なのか分からないけど、こうやって褒められるのは気持ちいいし、楽しい!
「あの、ソニアちゃん・・・」
「何よジニア。ソニアが可愛いことをしているのに邪魔をしないでくれない?」
「こら、喧嘩しないの! ・・・ジニア、どうしたの?」
ビオラの頭を撫でて宥めながら、ジニアを見る。
「私、その曖気も屁もどっちも最初から出来るよ・・・あっ、出来るわよ」
「え、そんな・・・」
わたしの数百年の努力はいったい・・・。
「ジニア! ソニアを泣かせたわね!」
「あっ、ごめんなさいソニアちゃん! そんなつもりじゃなくて。その・・・」
「いいの・・・いいの。ジニア。ジニアはわたし達と違って呼吸が最初から出来てたもんね。そうだよね。出来るよね」
ううん。ここはポジティブに捉えよう。出来るってことは、お手本を見せて貰えるし、教えてもらえるんだ。
ってことで、「おならを見せて」と頼んでみた。
「え、は、恥ずかしいよ・・・。でも、ソニアちゃんが言うなら・・・」
ジニアはそう言いながら、もじもじし始める。そして・・・。
ドカァァァァン!!
「えぇ!? 何今の!? それがおならなの!?」
「ち、違うよ! 私まだ何もしてないし、思いっ切り外から聞こえたでしょ!? あっ、聞こえたわよね!?」
確かに、外から聞こえてきたね。・・・また人間かな?
「また人間でしょうね。魔法とか言って私が生み出した魔力を使って動物を狩っているのでしょう」
「最近多いよねぇ」
人間は魔法を覚えてから調子に乗り始めた。戦争で使うのはもちろんのこと、動物を狩るのにも大きな威力の魔法を使って自分の力を誇示したりする。
「このままだと人間以外の生き物が絶滅しちゃうよ・・・あっ、しちゃうわよ」
ジニアが悲しそうに言う。
「そうだね。昔にいた恐竜みたいなのとは違って、ここら辺に生息してるペンギンみたいな可愛い生き物が絶滅したりしたら嫌だもんね」
昔は恐竜と名付けた大きな生き物がたくさんいたけど、吞気にお散歩してたわたしが食べられそうになったことで他の皆が怒って、気が付いたら火山を噴火させたり、隕石を落としたり、凍らせたりで、絶滅してた。
「何か対策した方がいいかもね」
わたしとビオラとジニアの3人で話し合った結果。人間以外の生き物にも魔法を使えるようにしてあげよう! ってなった。
「つまり、属性の方向性を決めた魔力を結晶化したら魔石っていうのが出来る。その魔石を生き物に埋め込めば、特定の属性の魔法なら扱えるようになる・・・で、合ってる?」
「合っているわよ! 凄いわね! ソニアは馬鹿なのによく理解出来たわ!」
え、馬鹿にされてる?
「ただ、その為にはその生き物の体の構造を少し弄らなきゃいけないわ。ジニア、協力してくれるわよね?」
「ソニアちゃんに頼まれたらいいけど・・・」
「あなたって子は・・・」
ビオラが仕方なさそうにわたしを見る。
それくらいなら・・・。
「ジニア、お願い?」
「うん!」
いい返事!
とりあえず、家の近くでペタペタと歩いていたペンギンで試してみることにした。
「よしっ。これでいいんだよね? ビオラが創った魔石にわたしの属性を決めて埋め込んで、体の構造もそれに合わせてジニアに変えて貰ったし!」
わたしはそう言いながら、額に黄色い魔石を埋め込まれた、今は意識が無いペンギンを雪の上に立たせる。ペンギンは地に足が付いたと同時に目を開いた。
「アアアアアア!!」
相変わらず、見た目と鳴き声が合ってないね・・・。それはそれで愛嬌なんだけどさ。
「これでこのペンギンはソニアの属性の光を扱えるハズなんだけど・・・」
ビオラがそう言いながら周囲を見渡す。
「あ、あそこに丁度いいのがいるわね。あそこのシロクマに相手になってもらいましょう。じゃ、行きなさい!」
ビオラはペンギンを持ち上げて、氷の上を滑らせるようにペンギンを放つ。シャーっと勢い良く滑ってくるペンギンに、シロクマはグルルゥと牙をむき出しにする。
さて、どうなるかな?
バチバチンッ!!
結果、ペンギンの圧勝だった。一撃だった。
「おおっ! すごいよ! やったね! これならペンギン達でも人間相手に戦えそう! 絶滅せずに済みそうだよ!」
興奮のままにビオラとジニアに抱きつく。2人は「でへへ」と嬉しそうにだらしなく笑った。
・・・。
それから数日後。
周辺にいたペンギン全員に魔石を嵌め終えた頃。人間がこのわたし達の住む南の果ての島にやって来た。
読んでくださりありがとうございます。
ソニア&エリカ(空の妖精)
アケビ(土の妖精)&ケイト(火の妖精)
ジニア(緑の妖精)&リナム(水の妖精)
・・・が相部屋になりました。ビオラは一人部屋です。




