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256.【ナナ(虹の妖精)】私達の推し

(ねぇ、彩花さん。ううん、彩花。私の今の感情が分かる?)

 も、もちろん分かりますよ? アカリちゃん。同じ体に宿ってる魂で、感情もしっかりと同期されてますからね。


夜中2時頃・・・いや、3時くらいかもしれない。そんなことはどうでもいいんだけど、私こと虹の妖精は、名も無き村で、つい最近知り合った女の子のマリちゃん、その子に眠ったまま掴まれている。そして、私と同じ虹の妖精に宿っているアカリちゃんに責められている。


(私ね。楽しみにしてたんだよ。やっとお姉ちゃんに会えるって思ってたんだよ。そしていざ神様に呼ばれて、この世界に先に来てるあなたと同じこの虹の妖精の体に転生したら、既にお姉ちゃんとは別れちゃったって・・・どういうことさ!?)

 だってぇ・・・

(だってもダッチもないよ!)

 ダッチって・・・確かに体を割り勘してるみたいなもんですけど・・・。

(何を訳の分からないことを言ってるの! 私は怒ってるの! 私、お姉ちゃんが亡くなった日から頑張ってアイドルを続けて、お姉ちゃんがいない世界を頑張って生きて、なんと52歳! 両親と感動的なお別れをしてここに来たの!)

 落ち着いてくださいアカリちゃん・・・もう52歳なんですから。

(年寄り扱いしないで! 私はまだ若いから!)

 あぁ・・・あの可愛かったアカリちゃんが面倒くさい年寄りみたいに・・・。

(ちょっと? 心の声もしっかりと聞こえてるんですけど・・・とにかく! 理由を聞かせてくれる? 虹の妖精としての記憶も共有されてるから何があったかは分かるけど、その時の考えまでは分からないの)


私はあの時のことを思い出す。


『初めまして! 私は虹の妖精です! 光の妖精の願いで産まれました!』


そう元気に挨拶して登場した私は、もちろん光里ちゃん・・・じゃなくてソニア先輩と一緒に行動するつもりだった。でも・・・。


『生誕おめでとう! お陰でわたしもマリちゃんも笑顔でお別れできそうだよ!』


先輩は既にこの世界で大切な人達と出会っていた。


(いくらこの子がお姉ちゃんとお別れするのが可哀想だからって、わざわざ私達がこっちに残って連絡係みたいなことをする必要ないでしょ?)

 だって、この子は人間ですよ? 私達は妖精だから、先輩が戻ってきたらこの先何十年も何百年でも一緒にいれます。でも、この子はそうじゃないです。

(気持ちは分かるけど、私はそれでもお姉ちゃんと一緒について行きたかったなぁ。これから何百年もずっと一緒にいられるとしても、同じ思い出は作れないんだから)


 それはマリちゃんだって同じですよ・・・。


(でも、それより何より! 私が心配なのはあの男の子だよ! ディル君だっけ? お姉ちゃんが男と一緒なんて想像しただけでもゾッとするのに!)


背筋がゾッとするような感覚が共有される。


 でも、男って言っても、ディル君はまだ成人してないですよ?

(13歳だっけ? この世界は一年が長いから実際は15歳くらいでしょ? 一番危ない次期でしょ! その年頃の男の子はほんっっとにケダモノなんだから! ずっとエッチなことしか考えて無いんだよ!? お姉ちゃんの貞操が危ない!)

 偏見がすごいよ・・・

(私もお姉ちゃんも中学校の頃は男の子関係で色々と苦労したんだから・・・とにかく、彩花だってお姉ちゃんが他の男とイチャイチャしてたら嫌でしょ?)

 確かに嫌ですけど、マリちゃんに聞いた感じだと滅茶苦茶良い子みたいですよ? それに、先輩も珍しく異性なのに仲良さそうにしてましたし。

(そう!それ! あの子お姉ちゃんのタイプの男の子なの!)

 電気タイプ?

(突然何を言ってるの? ともかく! このままじゃあお姉ちゃんが結婚しちゃう! きぃぃぃぃ!!)

 ハァ・・・面倒臭い同居人が増えたなぁ。



こうして私は、こっちの世界で無事?アカリちゃんと再会して合体した。

その後、マリちゃんと一緒に緑の森に挨拶をしに行ったり、私が来る前の先輩のことを他の妖精や村の人達に聞いたりして過ごした。


体を動かしているのは基本的には最初にこの妖精の体に入っていた私だ。アカリちゃんが「私はもう人間として長く生きたし、いきなり虹の妖精の性格が変わったりしたら変でしょ?」と言っていたから、お言葉に甘えてそうしてるんだけど、夜、私が寝ている間にたまーにアカリちゃんが勝手に動いて仙人掌の妖精と何やら語ってるっぽい。


・・・。


マリちゃんによってくるみ村と名付けられたこの村で皆で仲良く暮らし、旅をしている先輩達のお陰で村人が増えていったある日。くるみ村にミリド王国の刺客が襲ってきた・・・っぽい。


・・・というのも、襲ってきたのは夜で、私はその時間寝ていた。


 いや、襲ってくるかもっていうのは知ってたんですけどね? 対策するためにマリちゃんとヨームと一緒に王都に行ったりしたし。ただ、まさか寝て起きたら全部終わってたなんて・・・。


(なにを落ち込んでるの? 私が代わりにナナちゃんとして動いて、無事・・・ではないけど死者を一人も出さずに乗り切れたんだからいいでしょ)


緑の森の先輩が住んでいたらしいオシャレなツリーハウスで項垂れていると、私の心の中で朱里がそんなことを言う。


そう。私は間抜けにもぐうすか寝てたわけだけど、その間に朱里がナナの体を動かして、夜によく『お姉ちゃん自慢』とやらをしている仙人掌の妖精と一緒にくるみ村を救援に行ってくれた。


(それよりも、私の彩花のマネどうだった? 上手かったでしょ? 特にバカっぽいところが)


共有されている記憶を覗いてみる。


 ・・・確かにいつものナナ()とそう変わりはないけど、バカじゃないですよ。

(人間だった頃はドラマに出たこともあったからね。お姉ちゃんに見てほしかったな。彩花も見たかったでしょ?)

 はぁ、まぁ、そうですね。

(何? その面倒臭い人を相手にしたような反応は?)

 いえ、私ヒカリちゃん推しだったんで・・・。

(あなたのそういうところ嫌いじゃないよ。私もお姉ちゃん推しだし)


その後もツリーハウスの中で朱里と記憶の共有と相談をしていると、外が騒がしくなった。


「キャーー! 緑の妖精が暴れてるわ~!」

「ナナちゃーん! 出番よ~!」


最近くるみ村に行くことが多くなって村に愛着が沸いたらしいミドリさんは、自分が寝ている間にくるみ村が滅茶苦茶になって、怒ったり悲しんだりと忙しい。


 ハァ・・・またミリド王国に突撃しようとしてるんですかねぇ。

(何をのんびりしてるの。早くしないと本当に一国を滅ぼしかねないよ)

 分かってますよ。


家の扉を開けると、ミドリさんが物凄い形相でそこらじゅうに植物の毒をまき散らしていた。


「ちょっとミドリさん! 何やってるの! いくら妖精にその毒が効かないからって、ここにはマリちゃんだってくるんですよ!?」

「そんなこと分かってるわよ! でも、こうでもしないと私の()が収まらないのよ!」


そう言って毒の大木を生やすミドリさん。文字通り()が収まらなくなっている。


「いい加減にしてください! くるみ村はもう大丈夫って言ってるじゃないですか! マリちゃんも、他の村の人達も、復興の為に頑張ってます! 私達妖精は温かく見守っててあげましょうよ!」

「そうじゃないのよ! それとは別件よ! 莢蒾(ガマズミ)の妖精が、私が持ってる光の大妖精の記憶を盗んでたのよ! 久しぶりに確認しに行ったら見た目だけのパチモンだったもの! あれのことを緑の森で知ってるのはアイツだけだわ! 絶対にアイツだわ!」


私はそう言って暴れるミドリさんを羽交い締めにしながら心の中で朱里に話しかける。


 朱里、聞いた?

(聞いたよ。前にお姉ちゃんにミドリちゃんに記憶のことを聞いてほしいって言われた時も思ったけど、神様が言ってたことは本当みたいだね)


『向こうの世界で俺の知らぬ間に他の大妖精が何やら企んでいるみたいでね~。それで万が一の時の保険っていうのかな~?』


神様はそう言って私達を転生させた。


 他の大妖精の企み・・・先輩に光の大妖精の記憶を蘇らせることですよね。

(そうだね。でも、それ自体は神様も容認してた)


そう。神様は先輩に光の大妖精の記憶を蘇らせること自体は別に問題ないと言っていた。


(問題なのは、その後のお姉ちゃんに人間だった頃の記憶があるのかどうか・・・だね)


神様は、普通なら人間だった頃の記憶が消えることはないと言っていた。でも、闇の妖精なら自分にとって面白くない記憶は消しかねないし、それが出来るだけの力があるとも言っていた。


(私とお姉ちゃんの2人の思い出を消すなんて闇の妖精はとんでもない妖精だよね)

 まだ先輩の記憶が蘇ったわけでもないし、闇の妖精が人間だった頃の記憶を消すかも分からないのに、早とちりにも程がありますよ。・・・っていうか、2人だけの思い出じゃないですし。

(とりあえず、私達の出番はまだってことだね)

 もしかしたら出番が無い可能性もありますけどね。


・・・。


そうして、更に時が過ぎ・・・ミドリさんは精神的ショックで巨大樹の中に引き籠り、くるみ村はヨームとコルトさんを中心にどんどんと発展していき、遠く離れた土地で行われた先輩のてぇてぇなステージが終わった夜のこと。


「ハァ・・・最高だったわ。ソニアちゃんの歌声。もう・・・私の耳が妊娠してしまいそうだったわ!」


私の目の前で、普段無口な仙人掌の妖精が興奮冷めやらぬ様子で熱く語ってくる。その言葉に全力で同意しようとしたら、体の所有権を強引に朱里に奪われた。

ちなみに、先輩のステージが始まる直前から終わるまでも同じように朱里に体を奪われていた。


「分かるよ! 仙人掌の妖精! お姉ちゃんの歌声は最高だよね! 技術とかそういうのを超越してるんだよね!」

「そうなのよ! ソニアちゃんの前に歌ってた人間の男もなかなかだったけど、それとは比べ物にならないわ!あぁ・・・あの歌声をもっと近くで聞いてみたいわぁ」

「そうだよね~。私も近くで・・・いや、出来るならもう一度一緒に歌いたいなぁ」


 ヒカ&アカの復活かぁ。私はヒカリちゃん推しだけど、2人が楽しそうに歌ってる姿は私ももう一度見たいな。


白熱する朱里と仙人掌の妖精の話を意識の遠くに追いやって、私はあの頃の・・・アイドルをやっていたヒカリちゃんの姿を思い出しながら、ゆっくりと眠りについた。



「ひぃ~~~っあっははははははは!」


 なにごとっ!?


誰かの壮大な笑い声で目が覚めた。誰の笑い声かと思ったら、巨大樹の中だろう場所で、私の手がミドリさんの脇をくすぐっていた。


 えっと・・・朱里? これはどういう状況です?


とりあえず私の意識が眠っている間に体を動かしていたハズの朱里に問いかける。その間もミドリさんは笑い続けている。苦しそう。


(あ、彩花。おはよう。これはね、お姉ちゃんに頼まれたんだよ)

 頼まれたって・・・いきなりミドリさんをくすぐってって?

(うん)

 いや、そんなわけないですよね。いくら先輩でもそんな突拍子もないことを頼んだりしないですよ。

(疑うなら記憶を探ってみなよ。本当だから)


朱里の言う通りに体の記憶を探ってみる。


 えーっと? どれどれ?


(ナナちゃん!! あなたの助けが必要だよ!!)

(ソニア先輩! 急にどうしたんですか!? 私の助けが必要なら何だってしてやりますよ! シュッシュ!)

(ナナちゃん! 急いでミドリちゃんが引き籠ってる巨大樹の中に突入して、ミドリちゃんをくすぐりまくってやって!)

(何だか分かりませんけど分かりました! 私はソニア先輩の後輩で妹で娘で下僕なのでソニア先輩の言う通りにしますね! )


・・・というような会話があったみたいだ。


 本当にそう頼まれてた・・・。

(でしょ? それに私の彩花のマネうまいでしょ?)

 いや、確かに口調はそっくりだと思いますけど、私そんなシュッシュって素振りとかしないですし、先輩の下僕じゃないですよ。というか、いつまで私達の存在を先輩に隠すんですか?

(しょうがないでしょ。神様に闇の妖精に勘付かれないように出来るだけ隠してって言われてるんだから)

 出来るだけって・・・あの神様って意外と適当ですよね。神様なのに。

(細かいことはどうでもいいの。それよりも早く体を変わってよ)


朱里と体の所有権を変わって、私はミドリさんをくすぐっていた手を止める。


「ハァ・・・ハァ・・・ナナ! 長いわよ! いつまでくすぐってるつもりよ!」


ぷりぷりと怒るミドリさん。そりゃ、こんなにくすぐられたら誰だって怒る。


「どうせ雷の妖精ちゃんに言われたんでしょうけど・・・というか!こんな無駄話してる場合じゃないわ! ヤバいのよ! 早く戻らないと雷の妖精ちゃんが記憶を取り戻しちゃうわ!」

「え・・・どういうことですか?」


私の問い掛けは聞こえていないようで、ミドリさんは親指の爪を噛んで悔しそうにブツブツと何やら言う。


「どうにかして戻らないと・・・でも、あの人間に渡してた種は一個だけだし・・・もうっ、せっかく水の妖精に協力を仰いで水のドラゴンを貸してもらったのに・・・こうしちゃいられない! とにかく行かなきゃ!」

「あっ、ちょっと待ってください!」


ミドリさんは今まで見たことのないようなスピードで巨大樹から出て行ってしまった。慌てて追い掛けるけど、巨大樹の外に出た時点で見失ってしまった。植物を自由自在に操る緑の妖精である彼女を森の中で追い掛けるのは無理っぽい。


(行っちゃったね)

 そうですね・・・でも、何となく事情は分かりました。

(うん。私達の出番もそろそろ近いかもしれないね)


・・・。


それから半年が経った。


「ナナちゃん! ヨーム! 私達で旅にでるの!」


マリちゃんのその言葉で、私達はくるみ村を飛び出して旅をすることになった。

読んでくださりありがとうございます。

朱里「人間だった頃に比べて胸が小さくなったのが残念だね」

彩花「人間だった頃に比べて胸が大きくなったのが嬉しいね」

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