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245.パンツの話とオームの歌

「ほら! 空の妖精! 早く早く!」

「お姉ちゃん・・・待って。手を繋いで?」


そう可愛くおねだりする空の妖精の手を引っ張って、街中を飛んでディル達の待つステージに向かう。


「お姉ちゃん! どうして、上空を飛ばないの? わざわざ地面に近い所を、飛ぶ必要ない」

「それはね、わたしの下着が見えちゃうからだよ。上空を飛んで行こうとしたら、ディルに注意されたの」


 下着と言ってもドロワーズなんだけどね。


「下着?」

「そう。パンツのことだね。空の妖精だって履いてるでしょ? ・・・履いてるよね?」

「聞いたことある。人間の男は、女のパンツを見たいって」


 皆がそうってわけじゃないと思うけど・・・まぁ、だいたいそうなのかな?


「僕も、お姉ちゃんのパンツ、見たい」

「え!?」


 今なんて!? 聞き間違いだよね!?


「人間の男が見たいと思うもの、僕も気になる」

「だ、ダメだよ!」

「どうして?」


 そ、そんな純真無垢な顔で聞かないで!!


「恥ずかしいから!」


 ドロワーズだったら不意に見えちゃうくらいならまぁ許容範囲内だけど、自分から見せるのはもう痴女じゃん!


ぐいっと空の妖精の手を引っ張る力を強めて、スピードを上げて飛ぶ。これ以上変な質問はされたくないからね。


裏口からステージに入ると、オームとスズメが衣装に着替えた状態でスタンバってた。スズメを見た空の妖精がボソッと「あの女、苦手」と呟く。その気持ちは分かる。


「あ、ソニア様! それに・・・空の大妖精様! お会いできて光栄ですわ! 2年と23日ぶりですわ!」


興奮したように鼻息を荒くして近付いてくるスズメ。最近で一番気持ち悪い。わたしはそっと距離を置く。空の妖精はわたしの後ろに隠れる。手を繋いだままなので関節が痛い。


「ぐふふ・・・ソニア様と空の大妖精様、お二人とも仲良く手をお繋ぎになって・・・ぐふふ・・・尊いですわぁ」


 き、気持ち悪いよ。普段そんな笑い方しないでしょ。


わたしはスズメを出来るだけ視界に入れないようにして、可愛らしいワンピース姿のオームに話し掛ける。


「オーム! 似合ってるよ! 可愛い!」

「ソニア様に言われても素直に喜べないですよ。ソニア様の方が比較にならない程可愛いです」

「その通り」


わたしの後ろに隠れていた空の妖精が同意しながら出てくる。気持ち悪いスズメも「その通りですわ!」と激しく頭を振っている。


 いや、正直初見なら女の子と間違うレベルで可愛いんだけどね。まぁ、女のわたしよりも男性のオームの方が可愛いって言われたら、それはそれでショックだけど。


「スズメ、準備が出来たのならバックヤードで待機していろ。ソニア様、空の大妖精様、準備が整いましたら、バックヤードの方へお願い致します。スズメが案内・・・」

「任せてくださいませ!」


ステージの真ん中にある階段を降りて、まだ気持ち悪さの残るスズメに控室に案内して貰う。控室には既にディルが椅子に座って寛いでいて、その隣ではアリサとカササギが何やら話し合っている。入って来たわたし達に気が付いて、慌ててわたし達の前に跪こうとするのを「いいよ」と手を払って止める。


「わたし達は適当に寛いでるから普段通りにしてていいよ」

「「かしこまりました(ぁ)」」


2人はそう返事すると、スズメのもとに行き、指示を仰ぐ。


「カササギはステージに上がってお兄様の補助を、アリサは外に出て各員に準備が整ったことと、入口を開放し、観客船を動かすように指示を出してくださいませ」

「「かしこまりました(ぁ)」」


2人が出て行くのを見計らってディルが「ソニア」と椅子に座ったまま声をかけてくる。わたしは空の妖精の手を引っ張ってディルの前にある机に降り立つ。


「何で手を繋いでるんだ?」


ディルは空の妖精と繋いでいる手を睨みながら言う。すると、空の妖精が対抗するようにわたしの胸に抱き着いてきた。


「人間、心が狭い。それくらいで怒るな」

「べ、別に怒ってない! というか離れろ! それはさすがにアウトだぞ!なぁ!? ソニア!」


 なぁ!? って言われてもねぇ・・・。


わたしの胸に顔を埋めてる空の妖精を見下ろす。「お姉ちゃん?」とうるうるした瞳でわたしを見上げてくる。うん、可愛い。


「空の妖精は可愛い弟みたいな存在だからね!」


ヨシヨシと頭を撫でてあげる。空の妖精は嬉しそうに微笑んだ。


 可愛い!!


「ソニア・・・空の妖精に変なお願いとかされてもその調子で聞いたらだめだからな」

「空の妖精は変なお願いなんてしないよ。・・・あっ、でもさっきパンツを見たいって言われたね」

「はい!?」


 まぁ、空の妖精はそこら辺の常識が無いからしょうがないんだけどね。むしろ妖精としてはわたしの方が非常識なのかもしれない。


「おい! 空の妖精! なんてことソニアに言ってるんだ!」

「パンツくらいで怒るな、人間」

「パンツくらいだと!? パンツはそんなに軽くない!」

「人間は意外と非力、パンツは軽い」


 何を言い合ってるのやら・・・。


2人の言い合いを呆れながら見ていると、後ろからそっと指で耳を塞がれた。振り返ると肩を竦めて首を横に振るスズメがいた。


「ソニア様の御耳に入れるような会話ではありません」


そう言っているような気がする。


そんなくだらないやり取りをしている間に、外に出ていたアリサが戻って来た。


「国民達がすごい勢いで会場に雪崩れ込んでいます。そろそろオーム様の説明が始まると思います」


そして、それほど時間が経たないうちにステージの方からオームの声が聞こえてきた。どうやら空の魔石で声を拡大しているみたいだ。


「「皆、集まってくれてありがとう。私はオーム・ピス・カイス。この国の第一王子だ」」


その言葉のあとに大きなざわめきが聞こえてくる。可愛らしいワンピース姿のオームに驚いているに違いない。


「始まったみたいだな」


ディルがステージに続く階段を見ながら言う。


「わたし、ちょっと覗いてくる」

「僕も」

「じゃあ俺も」

「妖精であるソニア様と空の大妖精様はともかく、人間のディル様が行ったらさすがにバレますわよ」


わたしと空の妖精の2人で階段から顔を出してステージを覗いてみる。


「パンツが見える」

「・・・そうだね」


妖精のわたし達はちっちゃい。だから視線も低い。そうなると、ワンピースを着ているオームを下から見上げることになる。当然、中身は見える。


「あんまり見ちゃだめだよ」

「わかった。お姉ちゃんのことだけ見てる」


真横でジーっとわたしを見つめてくる。普通に止めてほしい。


オームはわたしにパンツを見られているとも知らずに、真面目な顔で自分が正式に次期王になったことを告げる。


「「金髪の妖精様のことは既に噂が出回っていると思う。その金髪の妖精様に私を次期王に推薦していただき、空の大妖精様にも推薦していただいた」」


その言葉に会場中が再びざわめきだす。何を言っているか分からないけど、所々「スズメ」という単語が聞こえることから皆が困惑しているのが分かる。


「「例え妖精様の推薦でも納得できないと思うのも仕方ない。私は他の2人の弟妹に比べて突出して得意なことは無いし、父上のように人を惹きつけるようなカリスマも無い。なので、私はこれから歌を歌おうと思う」」


今度は会場に沈黙が流れる。国民達はまた別の困惑の仕方をしている。


 そうだよね。話の流れ的に意味が分からないよね。でも、オームの歌を聞けば分かると思う。オームの歌には心を動かす力がある。人を惹きつける力がある。歌はオームにとって突出した特技で、才能だ。それで支持を得られるかは分からないけど、少なくともファンは増えると思う。


「「妖精様の歌声を楽しみしている者達には申し訳ないが、余興だと思って暫し付き合ってくれ。ソニア様、お願いします」」


オームはそう言いながら、後ろをチラッと見る。


 スクリーンだね。分かってるよ!


上空に3つほど大きなスクリーンを出現させる。会場に何度目か分からないざわつきが起こる。


「「これは、かつて光の大妖精と呼ばれた妖精様。そして今は雷の妖精と呼ばれている金髪の妖精のソニア様の御力で映し出されている」」


会場から「まさか本当に妖精様がオーム様を」「オーム様は本当に妖精様に認められたのか」とか色々と声が聞こえてくる。


 おっと、そういえばヨームがオームの歌ってる姿が見たいって言ってたよね。


わたしはナナちゃんに(今からヨームのお兄ちゃんが歌うから映像を送るね!)と連絡して、スクリーンに映ってる映像と同じものを送る。ナナちゃんから(こっちは準備バッチリです! 村の皆で観てます!)と返ってきた。


 ところで、オームはそのワンピース姿については説明しないのかな? 未だに会場から「オーム様のあの格好は?」とか「俺、何か目覚めそう」とか聞こえてくる。いったい何に目覚めるんだろうね。


「「それでは聞いてくれ。曲は皆が知っている国歌だ」」


 国歌なんてあったんだ・・・。


オームは目を閉じて胸に手を当てながら「すぅ」と息を吸う。それだけで会場が静まり返った。そして数秒後、オームは目を開き、それに一泊遅れて口を開いて、力強く歌い出す。


「らぁ~~~~♪」


 すごい・・・。


オームは歌声に自信の無いわたしと違ってアカペラだ。だからこそ、オームの綺麗で荘厳で、それでいて透き通った中性的な歌声が心に響く。自然と過去の色々な情景が浮かんでくるような、そんな歌声だ。


「お姉ちゃんほどじゃないけど、あの人間もなかなか」

「わたしよりもよっぽど上手だと思うけどね」

「それはない」


どうやら空の妖精の耳に変なフィルターがかかっているみたいだ。


 っていうか、わたしコレのあとに歌うの!?


オームの歌声を聞いている国民達は口を開けて呆然とした顔でオームを見上げている。中には涙を流している人もいる。


 これが・・・歌の力なんだね。わたしには無理だよぉ。


オームの歌が終わると、数秒間静まり返ったあと、一斉に拍手が鳴り響いた。


「オーム様! 素晴らしかったです!」「オーム様! 推します!」「俺、可愛かったら男でもいいや!」「感動しました!」「王になったらまた歌って欲しいです!」


色々な声が聞こえる。どれもオームを讃え認める声だ。皆オームに惹かれている。


「オーム様ぁ・・・」


いつの間にか傍にいたカササギが目元を拭いながらそう呟いた。


 カササギはずっとオームの傍に居たんだもんね。そりゃあこの光景に思うところもあるだろうね。


「「・・・すぅ・・・はぁ・・・皆聞いてくれてありがとう。まだまだ未熟な私だが、スズメに・・・いや、現国王にも負けないくらいに立派な王になれるよう努めると、今ここにソニア様と空の大妖精様に誓う!」」


国民達から「わああああああ!!」と歓声が沸く。


 ・・・いや、わたしに誓わないで国民達に誓いなよ!


脳内でオームにツッコミを入れていると、ナナちゃんから(ヨームのお兄さんは何を言ってるんですか?)と聞かれた。音声までは送ってないので、何を言ってるのか分からないようだ。当たり前だね。


(これから次期王として頑張るぞ・・・的なことを言ってるんだよ。それよりも、音声なしでも本当によかったの? 何をしてるのか伝わった?)


オームには歌って踊ってって言ってたハズなんだけど、歌だけだった。まぁ、結果的にはそっちのほうが雰囲気的に良かったんだけどね。


(大丈夫ですよ!マリちゃんがヨームに代わりに歌ってって無茶ぶりをしてたので!)

(え、それでヨームは歌ったの!?)


 歌ってるヨーム、想像出来ない。


(渋々と歌ってましたよ!)

(マジか・・・どうだった?)

(元の曲を知らないので何とも言えませんが、たぶん下手くそです)


 兄弟だからってどっちも歌が上手いわけじゃないんだね。そういえば、わたしも妹とは好き嫌いとか得手不得手が逆なものが多かった。双子なのに。


「「では、皆楽しみにしているだろう。次は雷の妖精のソニア様が、その多次元一可愛らしい歌声を披露してくださる」」


歌い終わってから何か色々と演説していたオームがそんなことを言いだす。


 ちょ、やめてよ! 期待値上げないでよ!! ガッカリさせちゃうでしょ!

読んでくださりありがとうございます。


覗くソニア(あ、今度は女性用の下着ドロワーズを履いてるんだ・・・カササギが用意したのかな?)

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