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23.ピカッ・・・ドカーン!

「ここはわたしに任せてよ!」


キラキラと光る月の下、同じようにキラキラ光る羽を羽ばたかせながら、わたしは遠くに見える魔物の群れをバックに腰に手を当ててふんぞり返る。皆がアホみたいに口を開けてわたしに注目している。マリちゃんだけが1人後ろの方で眠そうに船を漕いでいるのが気になるけど、今は構っている余裕はない。


「ソニア、今はふざけてる場合じゃないぞ」


ドヤ顔で皆を見下ろしていたら、ディルに咎めるような口調でそう言われた。


 なんだとぅ! わたしのどこがふざけてるって言うのさ!


わたしはパタパタ羽を動かすのを止めて、頬を膨らませてディルを睨む。


「失敬な!わたしはふざけてないよ!」

「じゃあ、何がしたいんだ」

「それはね!ふふん! ディル? わたしが何の妖精か忘れちゃったの?」


 ほら! 皆の前で言っちゃってよ!


「え?・・・えーっと、カミノケの妖精だっけ?」

「違うよハゲ!」

「ハ・・・?」


ディルは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、片手で自分の頭を撫でる。


 大丈夫だよ。本当にハゲてるわけじゃないから。


ディルが「ちゃんと髪の毛生えてるよな?」と首を傾げる横から、王様が頭に被っている王冠の位置を微調整しながら一歩前に出て来て、期待するような眼差しでわたしを見上げながら口を開いた。


「ソニア様。妖精は皆この世界の自然のひとつを司っていると人間の間では伝えられていますが、その認識で間違いないでしょうか?」

「うん、その通りだよ?」


首を傾げながら言う王様に、わたしも首を傾げながら返事する。


「そういえば、子供の頃に孤児院でそう教えられたわね。妖精と関わることなんてもう無いと思ってたから忘れていたわ」


ジェシーが昔を懐かしむように遠くを見ながら言う。


 ジェシーの子供の頃って何年前なんだろう? 気になるけど聞けない。


ジーっとジェシーのことを見ていたら、コンフィーヤ公爵が「コホン」と咳払いした。


「つまり、ソニア様はこの状況を解決出来る自然を司っている・・・と、そういうことですか?」

「そういうこと!」


グッと親指を立ててみる。コンフィーヤ公爵の表情は1ミリも変わらない。きっと感情表現が出来ない呪いかなんかにかかっているんだろう。可哀想に。


「それで、結局ソニアは何の妖精なんだよ。勿体ぶらないで教えてくれよ・・・それと俺はハゲじゃないぞ」


未だに自分の頭を気にしているディルが膨れっ面でわたしを見上げて言う。


「ソニアちゃんが何の妖精なのか、私も気になるわ」

「あの魔物の群れをどうにか出来る自然現象ですか・・・」

「殺傷能力のあるもの・・・ですか?」

「どうかこの国を救って欲しい」

「すーすー・・・ソニアちゃんは食べ物じゃないよぉ・・・むにゃむにゃ」


ざわざわとしだした皆を見下ろして、わたしはニッコリと微笑む。


 そうそう。そんな風に期待したらいい! 今まで迷惑ばっかりかけてたからね。ここで大活躍して、わたしの印象を変えるんだ! 出来る妖精だと思われたい!


「わたしは雷を司る、雷の妖精だよ!」


腰に手を当てて、脳内で「じゃーん!」という効果音を響かせながら堂々と言った。


「あー、そういえばそんな感じのやつだったな。何だかよく分からなかったから忘れてた」


 そんな感じのやつって・・・なんかわたしの扱い雑になってない? というか、反応薄くない? 雷だよ?


「カミナリ・・・?コンフィーヤ公爵は知っているか?」

「いえ、私も初めて聞く単語ですね」


王様は騎士団長とジェシーにも視線を向けるけど、2人は首を横に振った。


 そっか・・・そうだよね。わたしが生まれるまでこの世界には雷が無かったんだもんね。


「ま、知らないのも仕方ないよ。わたしが生まれたのはたった5年前だし・・・」

「ソニア様が5年前に生まれた事と我々が知らないことに何か関係が?」


コンフィーヤ公爵が何かを探るような目でわたしを見てくる。


 あれ?その辺りは人間の間では知られてないことなのかな?・・・あ、そっか、わたしみたいな妖精が生まれることは今まで無かったってミドリちゃんが言ってたし、知らないのも当然かもしれない。とりあえず、今は説明する時間はないし、めんどくさいから無視しよう。


「まぁ・・・詳しいことは置いといて、とりあえず見ててよ!」


こうしてグダグダしている間にも魔物達は王都に近付いて来ている。まだ距離があるとはいえ、時間が無いことには変わりない。誰かさんが勿体ぶって時間を無駄に使ったので尚更だ。


「あ、そうだ。誰かカラスーリと院長さんに、今からビックリすることが起きるけど心配しないでって伝えてくれる?」

「では私が伝えてきましょう。ついでに、城に居るもの全員に周知させるよう、メイド長にも知らせて来ます」


王様の後ろで控えていたベルガットが走ってくれた。


 わたしも人間だった頃は雷が怖かったからね。妖精になってからは何故か全く怖くないけど。雷で死んだのに不思議だ。


「ビックリすることが起きるのか?」

「起きるよー。でも、皆には絶対に危険が及ばないようにするから安心してね!」

「そこは心配してないぜ」


ディルがグッと親指を立てた。わたしもグッと親指を立てる。


「ソニア様、民達にも危険は無いのだろうか?」

「無いよ~。わざわざ王都から出て魔物の群れに突っ込んで行くような人がいなければね」


流石にそんな無謀なことする人いないよね? と一応王様に確認する。コクリと頷いてくれた。


「只今戻りました。公爵夫人と孤児院の院長にソニア様の伝言を伝えました。メイド長には公爵夫人から伝えてくださるそうです」


わたしからの伝言を伝えに行ってくれていたベルガットが戻って来た。


 じゃあ、やりますか!


「それじゃあ・・・行くよー!」


ゴクリと誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。「すぅすぅ」と誰かの寝息も聞こえる。一度皆を見回してわたしに注目していることを確認してから、わたしは皆に羽を向けて黒い霧をキリッと睨む。


 雷を落とすのは簡単だ。腕を動かす時に脳から腕に命令を下すように、わたしから自然に命令を下せばいい。ただ、力加減が難しい。想像してみてほしい、ある日突然自分の腕がゴリラと同等の腕力になったら?

 ・・・うん、想像できないよね。つまり、わたしの脳はこの雷の(新しい)力を使いこなせる程の想像力を持ち合わせていない、ということ。だから、ちょっと派手にやり過ぎても仕方ないよね!?


「ていやぁ!」


ドゴォォォン!!


魔物の群れの中心に、ピカッと光る一筋の雷が直撃した。後ろでジェシーが「ひゃっ!」と小さな悲鳴を上げたけど、雷はまだまだ続く。


「どんどんいっちゃうよぉ!」


ドゴォォォン!!ドゴォォォン!!ドゴォォォン!!


間髪入れずに幾つもの閃光が魔物の群れに落ちる。落ちまくる。わたしが知ってる雷と違うのは雷雲が無いところだ。それはもう雷じゃなくて、ただ空から強烈な電撃を落としてるだけだと思う。結果だけ見れば同じ事なんだけどね。


「これは・・・凄まじい」


後ろで王様が震える声で何かを言っているけど、よく聞こえない。


ドゴォォォン!!ドゴォォォン!!


魔物騒動が収まって静かになった夜の王都に、無数の落雷による轟音が轟く。ご近所迷惑どころじゃない。


「ソ・・ちゃ・!・・・ん・よ!」


マリちゃんの慌てたような高い声が耳に入って来た。柵の外側でうんうんと満足感たっぷりにニッコリしていたわたしは、マリちゃんがさっきまで寝ていて状況を把握できていないことに気が付いた。明らかにパニックになっているマリちゃんを安心させるために、ニッコリ笑顔のまま、わたしの声がマリちゃんに届くくらい近くまで移動する。


「ソニアちゃん!たいへんだよ!ピカッて!ドカンって!」


両手をブンブンと振り回しながら飛び跳ねるマリちゃん。可愛い。


「大丈夫だよマリちゃん。あの光はわたしがやったの。この大きな音もそうだよ」

「ヒ、ヒカリ? よく分かんないけど、ソニアちゃんが凄いってこと?」

「そういうこと!とにかく、大丈夫だから!それによく見て? いっぱいピカッてなって綺麗だと思わない?」


わたしは今もまだ降り続ける雷の雨を指差して、マリちゃんにニッコリと微笑みながら聞いてみる。


「・・・思わないよ?」

「あ、そうだよね。わたしも流石に無理があるかなーって思ったよ!本当だよ?」


雷の直撃を何度も食らった魔物達は意外にもあっさりと退散・・・というか、黒い霧になって霧散した。さっきまで暗闇で分からなかったけど、黒い霧が魔物の群れになっていたみたいだ。それが逆再生のように戻って霧散する。それが雷の光に照らされて見えた光景だった。


 もう魔物はいないよね? ・・・うん! 大丈夫そう!


わたしは雷を止めて、轟音が鳴り止むのをマリちゃんを背負っているディルの傍で待つ。ディルは目を見開いて雷を凝視していた。


「・・・でも、ソニアちゃんのキラキラの羽は綺麗だよ。お日様が出てる時のパタパタのかわいい羽も好きだけど、夜の羽はもっと好き」

「そう?ありがとう!」


マリちゃんと「えへへ」と笑い合う。そして、夜の静けさが戻った。


「これが雷ですか・・・」

「なんと恐ろしい・・・いや、民達への説明をどうするか・・・いやいや、まずは国が助かったことを喜ぶべきか・・・?」


コンフィーヤ公爵が興味深そうに魔物が居た場所を眺めて、王様は何やら考えること沢山あるみたいで忙しそうに目を泳がしている。その隣でジェシーが頬に手を当てて眉を下げながらコテリと首を傾げた。


「ソニアちゃんって実は凄い妖精だったのね。ソニア様って呼んだほうがいいかしら?」

「やめてよ!そんなことしたら次はジェシーの頭にドッカーンだよ?」

「フフッ、それは怖いわ。じゃあ今まで通り気軽にソニアちゃんって呼ばせてもらうわね」

「うん!それがいいよ!」


わたしとジェシーが笑い合っていると、「報告です!」と1人の騎士が階段を上がってきた。王様が「ハァァ」と大きな溜息を吐いてから返事をする。


「大体検討は付くが・・・一応聞こう。どうした?何があった?」

「はっ!先程の轟音を聴いた一部の国民達が自宅待機の勧告を無視して城門に押しかけて来ています」


 わたしのせいじゃないですよぉ~・・・。


ぷいっと視線を逸らす。


「魔物による被害は無いか?」

「それが・・・その轟音が鳴り響いた後、騎士や兵士たちと交戦していた魔物達が突然霧となって消滅したそうです」


 遠くにいた魔物の群れだけじゃなくて、王都にいた魔物まで消えたんだ! 良かったじゃん!


「やはり、あの黒い霧と王都の魔物は関係がありそうですね・・・。それよりも国王様、国民達への説明は私とカラスーリで行います。国王様は一度お休みください、長い間ここで黒い霧と睨み合っていたのでしょう?」

「ああ、そうさせてもらおう。流石に疲れた。色々な意味でな」


コンフィーヤ公爵と王様がコクリと頷き合う。幼馴染のような雰囲気を感じる。


「じゃあ、わたしはジェシーとお風呂に入ろっかなー」

「ソニアちゃん、今は・・・」


「楽しみだなー」とマリちゃんの周りを飛び回るわたしを、ジェシーが何か言いたそうな顔で見てくる。


「・・・」


お城組の3人が「お前は気楽そうでいいよな」と言わんばかりのジト目で見てくるけど、わたしは気にしない。


 気楽ですけど・・・何か?


「ソニア様達は一度子供達がいる客室に戻ってお休み下さい。私もそこに居るカラスーリに用事があるので、一緒に行きます」

「え~、お風呂はー?」


 ここまできたら意地でも入りたいよ~。だってずっとお預け状態だったんだよ?


めんどくさそうに溜息を吐くコンフィーヤ公爵と睨み合っていると、間にカラスーリが割り込んできた。


「お風呂くらい良いではありませんか。ソニア様はこの国を救って下さったのですから。・・・ソニア様、後ほどメイド達を向かわせて、浴場まで案内させましょう」


 カラスーリはわたしの味方! コンフィーヤ公爵はわたしの敵! ・・・今ハッキリしたね!


「メイドさんが来るならヨモギちゃんとツクシちゃんに来て欲しい!・・・あ、お休み中だったら別の人でもいいからね?」

「分かりました、それでは行きましょうか」


護衛の騎士達を先頭に、展望台から出て階段を降りる。わたしも続いて出ていこうとしたけど、黙ったまま動かない人物が1人いた。・・・・いや、2人いた。


「ディル?どうしたの?」


再び夢の世界に行ってしまったマリちゃんを背負ったまま、ディルはどこか一点を見つめて動かない。


「大丈夫?そんなに雷怖かったの?ごめんね?」

「・・・あ、いや何でもない。」

「でも・・・」

「早く行こうぜ、置いてかれちまうぞ」


ディルが早歩きで展望台から出て行った。わたしも続いて出ていく。


 なんだろう・・・何故か胸が痛い。


階段を降りると、ジェシーとコンフィーヤ公爵と騎士団長がわたし達を待っていた。王様は護衛の騎士達と一緒に先に行ったみたいだ。


「どうかしましたか?」

「ディルが・・・。」

「あ・・・いや、ちょっと・・・驚いちゃって」


 まぁ・・・確かにね。あんな雷の雨なんて人間だった頃でも見たことないもん。そりゃ驚くよね。


わたしがうんうんと納得していると、他の皆が元気がないディルを励ますように明るい声で話し始める。


「私も未だに心臓がバクバクと言ってるわよ~。ディル君はまだ子供だもの、仕方ないわよ!」

「そうですね、確か騎士団長も子供の頃に草むらから飛び出してきた小さな魔物に驚いてひっくり返っていましたよね」

「昔の話は止めてください。それに、コンフィーヤ公爵も一緒にひっくり返っていませんでしたか?」


 この2人は仲いいねー。男同士の友情って感じで! そういうのいいよね! コンフィーヤ公爵と・・・あれ? 騎士団長の名前知らないや。


「そういえば、騎士団長の名前って何?聞いてなかったよね?」

「ああ、すみません、自己紹介をしていなかったですね。私はパンクロックと言う。公爵家の三男で、この国の騎士団長です。

「ーーーーーっぶぅ!」


突如ディルが吹き出した。驚いてビクッと体が跳ねた。


「なに?どうしたのディル?人の名前を聞いて吹き出すのは流石に失礼だよ!?」

「ぶははははははは!」


 ディル、大笑いである。わたしの雷がディルに直撃して頭がおかしくなっちゃった? そんなわけないよね?


周りの大人達も目を丸くして、突然笑い出したディルにちょっと引いている。


「いやー、ちょっとソニアの名前を考えてた時のことを思い出して・・・・っぶ!」

「分かんないよ!なに?わたしの名前ってそんな大笑いするようなことを経て思い付いたことなの!?違うよね!?」

「あー・・・違うけど。真面目な話、もし俺が付けた名前が気に入らなかったら友達になってくれなかったか?」


ディルが何かを確認するような眼差しでジーっとわたしを見つめながら、わたしの答えを待っている。


「もしディルが付けた名前が気に入らなかったら、気に入る名前を付けて貰うまで一緒に居たよ!」


自分の考えをそのまま口にする。すると、ディルは安心したように柔らかい笑みを浮かべた。


「・・・そっか!ソニアらしいな!」

「もう・・・何だか様子が変だよ?というか、結局なんで大笑いしたのさ!」

「うーん、そうだな。ソニアが大人になったら教えてやるよ!」


 まるでディルが既に大人みたいな言い方だ。確かに初めて会った時に比べて、この数日間で言動がかなり落ち着いたというか、大人っぽくなった気がする。男子3日会わざればなんとやら・・・だね。


「騎士団長様、ごめんなさい、別に騎士団長の名前を笑ったわけじゃないんだ」

「いや、いいさ。よく分からないがディル君が元気になって良かった」


 うん、やっぱり成長したよね。ちゃんと謝れるのは偉いよ。


「あー!なんか腹減ってきたな!肉が食べたいぞ!」

「メイドを向かわせる際に、ついでに何か夜食を運ばせよう」

「やった!」


 やっぱり・・・まだまだ子供だね!

読んでくださりありがとうございます。ディルはずっとマリちゃんをおんぶしています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白い。今後に期待できます。 久しぶりに出会った好みの作品。 [一言] ディルとソニアが大人になってどう関係が変化していくのか、とても楽しみです。 恋人になるのかな? そうだといいですね、…
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