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238.空の妖精のお願い

ディルの魔石の特訓とステージの簡単な打ち合わせを終えた翌日。わたしは今、空の滝壺に来ている。そう、滝ではなく滝壺だ。前は滝の前でお話したけど、底が見えない空の滝壺が気になったので、せっかっく飛べるんだし降りてみた。


 明日のわたしのステージについてお話するために来たわけだけど、前は急に現れて驚かされたし、今度はわたしが驚かしてやろうと思ったんだけど、暗すぎて何も見えないし、光の妖精の力で少し見えやすくしても、土の壁しか見えない・・・まったく底が見えないよ。いったいどこまで深いの?


「ホント・・・星の裏側まで繋がってるんじゃないの? これ」

「そこまで、深くない」

「きゃあ!!」


真後ろに空の妖精がいた。また驚かされた。


「わ、わたしの後ろをとるなんて・・・!?」

「簡単にとれた。音も殺してない」


 まぁ、そうだろうね。わたしにそんな気配察知能力なんてないし。


「お姉ちゃん。また会えた」


空の妖精は嬉しそうにギュッと抱きついてきて、わたしの胸に顔を埋めてスリスリしてくる。


 なにこの動き! もう! ホント可愛いんだから!


一通り撫でまくってから、名残惜しいけど引き剝がす。


「それで、お姉ちゃん。何か用? もちろん、用が無くても、僕は嬉しい」

「わたしが歌う日付が決まったから教えに来たんだよ! 明日のお昼頃に歌うことになったから!」

「明日、分かった」


そう言いながら、またわたしの胸に顔を埋めようとするのを、手で頭を押さえて止める。凄く残念そうな顔をされたけど、まだ話は終わってない。


「前に空の妖精はわたしの歌声を全世界に届けるって言ってたけど、具体的にはどうやって声を届けるの?」

「空気を使う」


 うん。説明が簡単すぎる。なんとなく察せられるけど、もう少し説明して欲しいところだよね。


首を傾げるわたしに、空の妖精は「実際に、やってみる」と集中するように目を閉じる。


「「ああ! いい感じだな!」」


突然、ディルの声が聞こえて来た。新しい雷の魔石を使ったテレパシーかと思ったけど、普通に耳から聞こえる。


 ディルは今、第二研究所にわたしが贈った指輪を受け取りに行ってるハズだけど・・・どうして?


「こうやって、遠くの声を、届ける」


 なるほど。声を届けるってこういうことか。


「もしかして、これを世界規模でやるの? そんなこと出来るの?」

「凄く集中しなくちゃいけない。けど、出来る。昔は簡単に出来た。あと、月にいる闇の妖精にも届けてあげる」


 そうだった。闇の妖精って月にいるんだったよね。とんでもない所にいるもんだ。


思わず空を見上げるけど、ここからじゃ見えない。


「・・・って、宇宙って空気が無いんじゃないの!? 出来るの!?」


 空気が無いから、音が出ないって聞いたことあるけど・・・。


「僕だけだったら出来ない。本当は、お姉ちゃんに力を貸して貰うのが、一番簡単。だけど、お姉ちゃんには歌に集中してほしいから、今回は闇の妖精に、協力してもらう」


 そういえば、他の妖精は植物、火、水、土、空気って分かりやすい自然を証明してるけど、闇の妖精だけはよく分からないんだよね。闇って何?


「闇の妖精はどうやって協力してくれるの? わたし、闇の妖精のこと何も知らないんだけど」


わたしが何気なくそう聞くと、空の妖精は一瞬だけ酷く傷ついたような顔をしたあと、寂しそうに目を細めながらわたしを見て「早く記憶を取り戻して」と小さく呟いた。ズキリと心が痛み、焦燥感に駆られる。


「緑の妖精は命、火の妖精はエネルギー、水の妖精は液体、土の妖精は固体、僕は気体、お姉ちゃんは波動、それぞれに司ってる自然があるのは、知ってる?」

「今知った。というか、波動って? わたしが司ってるのって雷・・・電磁波じゃないの?」


 自分では大きく括って電磁波を司ってるんだと思ってたけど、違うのかな?


「電磁波も波動。昔のお姉ちゃんは、『伝える力』って言ってた。緑の妖精は、その辺のこと、説明してくれなかった?」

「うん。してくれなかったね」


 雷の妖精だとしか言われなかったからね。


「緑の妖精は、自分勝手なところがあるから、教えたくなかったのかも、しれない」


 それか、ただ忘れてただけかもね。


「それか、ただ忘れてただけかも、しれない」


わたしの考えと空の妖精の考えが見事に被った。


「とにかく、闇の妖精にも司る自然がある」

「そうだろうね。で、闇の妖精は何を司ってるの?」

「魔力」


 わおっ!魔力! !


「・・・って、魔気じゃなくて? 魔力? 緑の妖精が人間には魔気っていうのが流れてるって言ってた気がするけど・・・皆も魔石に魔気を流すとかって言ってたよ?」


 わたしがこの世界にいない間、電気が存在してなかったって言われて、じゃあ人間の体に流れてるハズの電気もないのかなって聞いたら、代わりに魔気が流れてるって言ってたよね。


「魔気は、お姉ちゃんが居なくなる時に、そのままお姉ちゃんの司る自然が消えたら困るからって、闇の妖精がお姉ちゃんの電気を参考に、闇の妖精が新しく作った、情報伝達に特化した魔力のこと」

「えっと・・・魔力と何が違うの? そもそも、魔力って何?」

「闇の妖精は、可能性だとか、希望だとか、格好付けてたけど、たぶん、本人もよく分かってない。魔気は、脳からの命令を伝達するエネルギーのこと。電気と違って、細かい情報は伝達出来ないから、人間の体を動かすか、魔石を発動させることにしか使えない」

「とにかく、不思議な力ってことだね」

「そういうこと。ちなみに、2000年前、記憶を失う前のお姉ちゃんが居て、闇の妖精もこの星に一緒にいた時は、空気と同じようにそこら中に魔力が漂ってて、人間も脳からの電気信号で、魔力に命令を伝えて、自由に魔法を使ってた」


 電気信号で魔力を操れるんだね。なんか、想像してたよりも科学的だと思うのは、電気=科学っていうわたしの先入観のせいかな。


「闇の妖精は、その不思議な力で、僕が大気圏ギリギリまで届けた声を、拾って、月まで運ぶんだって」

「なるほど・・・」


 ・・・ん? まって。


「それって闇の妖精から聞いたことなんだよね?」

「そう」

「そういえば、ガマくんも闇の妖精と仲が良いみたいなこと言ってたし、闇の妖精と連絡とる手段はあるんだよね?」

「ある」

「じゃあ、それでわたしの声を届けられるんじゃないの?」


空の妖精は「うーん」とわざとらしく考えたあと、わたしの手を持って「こっち、きて」と引っ張る。何故だかその姿が無性に可愛いかった。


「こっち、こっち」


空の妖精は下へ下へと降りていく。そして空の滝壺の底に着いた。底は綺麗に整地されていて、その中央には見覚えがあるものが置かれていた。


「あれって・・・電話?」


スマホじゃない、ガラケーでもない、人間だった頃に実家にあった固定電話でもない。そして黒電話でもない。ピンク電話だ。まぁ、色は白いけど、形はピンク電話だ。


 わたしは世代じゃなかったけど、懐かしいなぁ。古い施設とかに置いてあったりしたっけ。


「これを使えば、各地にいる、元大妖精の偉い妖精達と、連絡がとれる。昔、お姉ちゃんと、土の妖精が、一緒に作ってた。お姉ちゃんが、戻って来たお陰で、また使えるようになった。でも、見ての通り、大き過ぎて、持ち運びが困難」

「そりゃあ、人間サイズだからね」


コードは繋がってないみたいだけど、それはそれとして大き過ぎる。妖精の力を使えば頑張れば運べなくはないけど、そもそも電話な時点で歌声を届けるにはどうかと思う。


「でも、これで闇の妖精とお話出来るんだよね」


前に断片的に見えた記憶で見た闇の妖精を思い出す。妖精の中で一番わたしを慕ってくれていた印象がある。


「出来るけど・・・」


空の妖精は難しい顔をして少し考えたあと、首を横に振った。


「やめてあげて欲しい。闇の妖精、お姉ちゃんに覚えてないとか言われたら、悲しいって、言ってた」

「そ、そっか・・・」


 うぅ・・・胸がズキズキと痛むよぉ。早く記憶を取り戻したい!


「だいぶ話が脱線しちゃったけど、お姉ちゃんの歌声は、僕がしっかりと世界中と、月にいる闇の妖精に届けるから、何も心配しなくてもいいよ」

「うん、ありがとう?」


別に心配してたわけじゃなくて、気になったから聞いてただけなんだけど、一応お礼を言っておく。


「じゃあ、わたしはそろそろ戻るね。そろそろディルも第二研究所から戻って来てると思うし」


空の妖精に軽く手を振って浮かび上がろうとしたら、「待って」と手を掴まれた。捨てられた子猫のような瞳で見てくる。


 か、かわいい!! 何でも言う事聞いてあげたくなっちゃう!


「な、なにかな?」

「僕には、作ってくれないの?」


凄く悲しそうな潤んだ目で見上げられる。


 な、なになに!? わたし、何か忘れてる!? もしかして失った記憶に関係することじゃあ・・・。


「他の偉い妖精達が、お姉ちゃんに美味しい料理を作って貰ったって、言ってた。僕も、作ってほしい」


 あ~・・・わたしが自分で作ったのはオードム王国でのカレーうどんだけだけどね。ミドリちゃんにはルテンのクルミパンをお土産にあげて、水の妖精にはマリちゃんが作ったサンガ焼を料理大会で食べて貰って、土の妖精にはわたしが作ったカレーうどん、そして火の妖精にはナナカ君のカニ玉炒飯を食べて貰った。確かに、皆には美味しい料理を振る舞ってるね。


「ダメ?」

「ううん! 駄目じゃないよ! でも、何を作ったらいいのかな? 何か食べたいものとかある?」


 確か、ディルのリュックの中には鍛冶師のコルトとその弟子が作ってくれた妖精(わたし)サイズの調理器具があったハズ。よっぽど無茶なものじゃなければ作れると思う。こんなだらしないわたしだけど、料理だけはそれなりに出来るからね。・・・まぁ、一人暮らしでお酒の肴を作ってたから上達しただけなんだけど。


「食べたいもの・・・」


空の妖精は「うーん」と考える。そして、考える。考えて、考えて、考える。


「えっと・・・何も思いつかないなら、わたしが適当に作るけど」

「うん。それでお願い。マジで楽しみ」


空の妖精が満面の笑みを浮かべる。やっぱり可愛い。


「それじゃあ、明日はわたしが歌う日だし、今日中に何か作ってくるね!」


そう言って、わたしは今度こそ地上に向かって上昇する。下から空の妖精がついてくる。お見送りかな? って思ったけど、空の滝を離れてお城の中に入ってもついてくる。


「えっと・・・どこまで付いてくるの?」

「僕が付いてきたら、嫌?」


 うぅ・・・そんな目で見ないでよぉ。


「い、嫌じゃないよ! 嫌じゃないけど、ただ、気になって・・・」

「お姉ちゃんと一緒にいたいから、ついてきちゃった」


 か、可愛すぎるでしょ!! 聞いた!? わたしと一緒にいたいからついてきちゃったんだって!!


「もう、どこまでもついて来ていいからね!」

「うん!」


わたしは空の妖精の手を握って、引っ張りながら寝泊まりしている客室に向かってお城の中を飛ぶ。すれ違う人達がわたし達を見て皆揃って気絶していくけど、わたしも空の妖精も気にしない。


「ここが、お姉ちゃんが寝泊まりしてる部屋? 扉が開けっ放し」


わたし達の部屋の扉は、ちょうどわたしが通れるくらいの隙間が開いている。


「わたしだけだと扉を開けられないからね。窓とか通気口とかからでも入れるけど、スムーズに入って来られるようにこうやって中途半端に扉を開けて置いてくれてるんだよ。ディルが」

「へぇ~」


 でも、まだ開けっ放しってことは、ディルはまだ戻って来てないのかな?


空の妖精をつれて部屋の中に入ってみると、やっぱりまだディルは戻って来てなかった。


「ちょっと待っててね。今、調理器具を出すからね」

「うん」


わたしは空の妖精の手を放して、ディルのリュックを開く。そして、中身をポイポイと投げていく。「あ、あぶない!」とか「ぶつかる!」っていう空の妖精の声が聞こえてくる気がするけど、気のせいだろう。


「あ、あったあった」


リュックの奥底にあった調理器具を、電磁力を使って浮かしてリュックから出す。


「お姉ちゃん・・・すぐに散らかすところは、記憶を失っても、変わらない」


部屋の中を見渡した空の妖精が、何故か嬉しそうに言う。


「別に散らかしてるわけじゃないよ? リュックから荷物を出してるだけだから」

「そういうところも、変わらない」


 嬉しそうにいてるけど、なんか釈然としない。


嬉しそうに微笑んでる空の妖精の頬をツンツンと突いてると、半端に開いている扉が大きく開けられて、ディルが戻って来た。


「うわっ、また部屋が散らかってる・・・ってことはソニアが帰って来てるのか?」


 散らかってる=わたしっていうのも解せないけど、その通りだ。というか、散らかってはいない。


「ただいま~。ソニア~帰ってるのか~」

「帰ってるよ~。ディル、おかえり~」


入口付近から呼ばれたので、返事をする。


「おっ、いたいた。ソニア、指輪に魔石を嵌めて貰った・・・・・・ってうおぉい! ソニアが知らん男を部屋に連れ込んでる!!」

「ちょっ、言い方!!」


 それもその通りだけど、言い方が酷いよ! まるでわたしが男遊びしてるみたいじゃん!!


読んでくださりありがとうございます。空の妖精は、わざとやってます。かまととぶってます。

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