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236.デート

「ふんふんふふーん♪」


鼻歌を歌いながら、鏡の前で何着もの服を体に合わせてはポイっと投げ捨てる。


「ふふふふーん♪」


鼻歌を歌いながら、手で髪を持ち上げて色々な髪型を試しては下ろす。


「ふっふふーん♪」


鼻歌を歌いながら、マリちゃんとお揃いの青いリボンを結ぶ。


 うん! バッチリじゃない?


最後にクルッと回って鏡に写った自分の姿を確認する。妖精になったばかりの頃、一番最初に着ていたノースリーブの白いワンピースを着て、マリちゃんとお揃いの青いリボンをカチューシャのように結んで尖った耳を出す。


 フリフリと飾りがついた服もいいけど、こういうシンプルな方がわたしの金髪は映えるよね! たぶん!


「とっても可愛いですわ!!」

「おわっ!!」


いつの間にか後ろにスズメがいた。何故か鼻血を垂らしている。


「これならデートでディル様を骨抜きどころか内臓抜きにできますわ!」

「こわいよ・・・というか、いつから部屋にいたの?」

「わたくしですか?」

「あなたしかいないでしょう」


 この部屋にわたしとスズメ以外の誰がいると言うのか。ディルとは敢えて一緒に行かないで街で待ち合わせしているのに。


「わたくしは最初からいましたわよ。ソニア様がお鼻歌をお歌いになられてから所々記憶が飛んでしまっていますが」

「最初から? 鼻歌? じゃあ・・・着替えを見てたの?」

「はい! ゼロ距離で!」

「こわいって!!」


 なんで気付かなかったの! わたし! 思い返せば鏡にスズメが写ってたような気がするよ!


「さすがにディル様とのデートまでついて行くつもりはないので安心してくださいませ」

「そりゃそうだよ!そこまで来たら図々しいにも程があるよ!」


 って言いつつも、スズメなら付いてくるかもとか思ってたよ。よかった。それくらいの常識はあって。


「でも、城門までは送りますわ」

「うん! ・・・あんまりディルをまたせるのも可哀想だし、そろそろ行かなくちゃ!」


ふわりと飛び上がって、スズメの頭上を通過して扉に向おうとすると、スズメに「ソニア様!」と呼び止められた。


「ソニア様・・・その・・・スカートの中から下着が見えてしまっています」

「あ~・・・」


以前はスカートを履くときは中に短パンを履いていた。でも、今は履いていない。当然、いつもみたいに自由に飛んだら中身が丸見えだ。


 でも、今履いてるのっていつもの普通のショーツじゃなくて、ドロワーズなんだよね。この世界の人達からしたら下着で見られたら恥ずかしいものなのかもしれないけど、わたしからしたらあんまり下着ってイメージじゃないんだよ。短パンとあんまり変わらない気がする。まぁ、少しスースーするけど。


とりあえずスズメには「気を付けるね」と微笑んで、そのまま行くことにする。


「ディル様との待ち合わせ場所は中央広場の噴水前でしたわよね? 場所は分かりますの?」

「だいじょーぶい!」


 やっぱりデートの待ち合わせといったら噴水前だよね! 少し夢見がちな感じがあるけど、人間だった頃に男の人とまともなデートをした経験なんて無いんだから仕方ないもん。


「一応、わたくしの持て得る手段を全て活用して、国民達にはソニア様を見かけても普段通りに過ごすようにと命令していますが、全国民に伝わっているかは確認していません。気を付けてくださいませ」

「うん! ありがとね!」


城門の前でスズメと別れたわたしは、道行く人に目で追われながらディルが待つ噴水前へと飛んで行く。


「あっ、いたいた!」


噴水の前にはたくさんの人達がいる。皆が待ち合わせなわけではないと思うけど、大半の人達はそうだと思う。そんな中に、腕時計を見ながらソワソワとしているディルの姿があった。わたしが到着すると、周囲がざわめきだす。スズメのお陰で大騒ぎにはならないけど、皆がわたしに注目しているのが分かる。


「ディル~! 遅くなってごめんね! 待った?」

「いいや、今来たところだ。・・・・・・これでいいのか?」


ディルには『わたしが来たらこう言って』と伝えてあった。一度は言われてみたいと思ってたんだけど、なんか違う。


 そもそも、ディルが今来たところなわけが無いもんね。わたしがここで待つように言ったんだから。


「どうして首を傾げてるんだ? ほら、行くぞ」


ディルはそう言って手を差し出す。


 もしかして、エスコートしてくれるの?


ディルの大きな手に、わたしのちっちゃな手をちょこんと合わせる。どう考えてもサイズが合ってない。


「何してるんだよ・・・乗んないのか?」

「ううん。乗るよ・・・」


 漫画や小説みたいにエスコートして貰うのは無理だね。身長差カップルなんてレベルじゃないサイズ差がある。


わたしがディルの手の上に立つと、既に目的地が決まっているのか、ディルは迷うことなく歩き始めた。


 うーん・・・乗せて貰えるのはありがたいんだけど、これじゃあせっかくのデートなのにディルが見えないよ。前しか見えない。


クルッと振り返ってディルを見上げる。目が合った。けど、ディルは何故か慌てて目を逸らして前を見た。


「ど、どうしたんだ? ソニア」

「いーや、ただ、前を向いてたらディルが見えないなって思って!」


「えへへ」と笑って見せると、ディルは何かを踏ん張るようにギュッと口を堅く閉じたあと、少し口を開いて何かを言おうとして、すぐに閉じた。


「どうしたの?」

「あっ、その・・・いや、何でもない」

「?」


その後も、ディルは薄らと頬を染めて、時々わたしを見ながら歩き続ける。


 なんだろう・・・ディルに違和感。いつもよりも口数が少ない?


「ディル・・・もしかして体調悪かったりする? 帰って休む?」


ディルとのデートは楽しみだけど、ディルが体調不良ならまた今度でもいい。このままじゃあ心配で楽しめないもん。


「ディル?」

「えっ、ああ、いや、体調は大丈夫だぞ」

「じゃあ、どうして元気がないの? わたし、何か嫌なことしちゃった? 待たせすぎちゃったかな?」

「ち、違うから!」


急に大きな声を出すので、思わずビクッと跳ねた。


「あ・・・ごめん」

「ううん」


ディルは立ち止まる。数秒間、沈黙が流れたあと、ディルは「ハァァ」と大きく溜息を吐いた。


「俺・・・こうやって女の人と、ましてやす・・・ソニアとデートなんて・・・緊張しちゃってさ・・・いつも2人で過ごしてたのに、今更おかしいよな」


「ハハハ」と空笑いするディル。


「本当は景色を見ながら色々と話そうと思ってたんだ。その為にスズメから沢山アドバイス貰ったし。本当に・・・色々と頭の中でシミュレーションしてたんだ。でも、待ち合わせに現れたいつもと違う雰囲気のソニアを見て、全部吹き飛んじゃった」


 違う雰囲気・・・服を変えたからかな?


「ソニアに心配までされて・・・カッコ悪いよな。俺」


グッと眉を寄せて、悔しそうに目を伏せるディル。


 むぅ・・・よく分からないよ。男のプライドってやつなのかな?


パチンッとディルの顔の間で静電気を発生させる。ディルにわたしの力は効かないけど、その音で驚いたように目を開けてわたしを見る。


「気にし過ぎだよ!! 初めてなんだから緊張して当たり前でしょ! むしろ慣れてた方がショックだよ!」

「でも、ソニアは緊張した様子ないし・・・」

「わたしは特別なの! 妖精だから!」

「妖精だから・・・」


 そう! 妖精だから!実はわたしも緊張してるけど、恥ずかしいから言わない!


「とにかく! その緊張も含めてお互いに初めてのデートを楽しもうよ!」


ディルの手の上から浮かび上がって、腰に手を当ててディルを見下ろして言う。ディルは顔を赤くして口をパクパクとさせながら周囲をキョロキョロと見回してはわたしを見上げる。


「ソ、ソニア! その・・・」

「なに? あっ、スズメとのデートはノーカンだからね! あれはお遊びのデートで、本物のデートじゃないから! だから、わたしも今日が初めてのデートだからね!」

「ち、違う! そうじゃなくて・・・」

「そっか。いつだったかディルと2人で歩いててデートだって揶揄われたこともあったっけ」

「ソニア! だから違うって!」


ディルは何故か目を手で覆って、指の隙間からわたしを見上げている。そして顔が赤い。


「なにしてるの?」

「それはこっちのセリフだ! パンツが丸見えだぞ!」


 そんな大きな声で言わないでよ! いくらドロワーズと言っても、そんな大音量で「パンツ」って言われたら恥ずかしいでしょ!


手でスカートを押さえながら、そーっとディルの手の上に座る。


「ソニア。その・・・座るのは・・・感触が・・・アレだから・・・」

「・・・っ!!」


バッと立ち上がる。


 そ、そそ、そっか! そうだよね! 手のひらに座ったら、触れるよね! 今まで気にしてなかったけど、そう思ったら恥ずかしくて座れないよ! ・・・っていうか、ディルも今まで気にしてなかったじゃん!


わたし達はお互いを見合って、「でへへ」と笑う。


「なんか・・・恥ずかしいね。デートって」

「そ、そうだな! 普段気にしないことまで気にしちゃうな!」


 もう、羽がパタパタし放題だよ!


「そ、それで、ディルはどこに向かってるの?」

「あ、ああ。歌劇場だ」

「歌劇場?」

「歌を聞くところだな。スズメに教えて貰ったんだ。ついでに個室を予約してもらった」

「おお! 個室! 助かる!」


 なんだか、このデートのバックにスズメの影がチラチラと見え隠れするね。さっきもアドバイスを貰ったって言ってたし、わたしがいない間に2人で計画を立てたのかな。


「それと、ソニア」

「なに?」


またクルッと振り返ってディルの顔を見上げる。目が合った。今度は目を逸らされない。


「その服、最初に会った時に着てたやつだよな。やっぱりソニアにはそれが一番似合う。その髪型も、金髪も、青い瞳も、尖った耳も、薄黄色の羽も、全部を惹き立たせてる感じだ」

「ん、ありがと」


ディルから目を逸らして、サッと前を向く。


 ああ、もう! 耳を出す髪型にしなきゃよかった! 赤くなってるのがバレちゃうよ!!


後ろから小さな声で「ホント、可愛すぎかよ」と聞こえた。わたしの耳は更に赤くなった。尖っているせいでディルには丸見えに違いない。


大きくて立派な歌劇場に着くと、立派な髭を蓄えた紳士が「スズメ様から聞いております」と言って、わたしとディルを個室へと案内してくれる。


「こちらでございます。どうぞごゆるりとお過ごしください」


紳士は高級ホテルでしか聞かないようなセリフを吐いて、音もなく個室から出ていった。前を見ると、下に観客席とステージが見える。観客席にはぞろぞろとお客さん達が入って来ている最中だ。ディルはふかふかのソファに座り、わたしはそのひじ掛けに座る。


「わぁ・・・楽しみだね!」

「ああ、スズメが言うには、この国で一番の歌声を持つ美女が歌うらしいぞ」


 そんな映画やドラマみたいな存在が実在するんだ! 歌姫ってやつだね!


・・・。


「いや~。凄かったな。泣いてる人とかもいなかったか?」

「そ、そうだね・・・」


 本当に凄かった。凄すぎた。あの時のオームと同じくらいだった。・・・いや、あの時は軽く口ずさんでただけだったから、もしかしたらオームが本気で歌ったらもっと凄いのかもしれないけど。


「どうしたんだソニア? 肩を落として・・・あんまり楽しめなかったか?」

「ううん。そんなことはないよ。ただ、明後日にはわたしが歌うことになってるでしょ? ちょっと自信失くしちゃって・・・」

「そっか・・・でも、大丈夫だと思うぞ? 俺はソニアの歌を聞いたことあるわけじゃないけど、たとえ下手くそでも、この国の妖精好きな国民達なら無条件で感動してくれると思う。というか、確信できる」


 確かに・・・。


「だから、変に縮こまらないで堂々と歌ったらいい。それに、ソニアの歌は上手いと思うぞ」

「どうして? 聞いたことないんでしょ?」

「鼻歌なら聞いたことある。それに、声が可愛い」

「・・・可愛いかな?」


自分で「あ~あ~」と声を出してみるけど、普通に分からない。ただのわたしの声だ。


 でも、妹は可愛い声だった。じゃあ、わたしの声も可愛いのかな? 双子だし。


「じゃあ、そろそろ出ようか」


椅子のひじ掛けに座っていたわたしは、飛び上がろうと立ち上がる。


「あ、ちょっと待ってくれ」

「なに?」

「すぐに出たら巻き込まれるってスズメが言ってた」

「何に?」

「さっきの美女のファン達に・・・サインを貰う為に出口で待ち構えてるんだってさ」


 出待ち? マナー悪いね。それとも、この世界だと普通なのかな?


「でも、サインを貰いたい気持ちも分かるね。歌凄かったし、美人だし、胸も大きかったし」


 観客のほとんどが男だったけど・・・気のせいじゃないハズ。


暫くして、個室の扉がノックされた。返事をすると、さっきまでステージで歌っていた美女と、わたし達を案内してくれた髭を蓄えた紳士が立っていた。なんでも、ステージから妖精(わたし)が見えた美女は、サインが欲しくて無理を言って来させて貰ったらしい。美女の手にはインクとペンがある。


 まさか逆にサインをせがまれるなんて・・・サインって言われても、そんなの考えてないよ。


適当にインクに手を付けてバシッとちっちゃな手形を付けたら、泣いて喜ばれた。家宝にして先祖代々に受け継ぐらしい。そしてディルが羨ましそうに美女を見てたけど、気にしない。


「お昼までまだ少し時間あるけど、ソニアはどこか行きたいところあるか?」


歌劇場を出たら、そんなことを聞かれた。


 うーん・・・行きたいところかぁ。


何となく、ディルを見る。


 ディルっていっつも同じような服着てるよね。やたらとポケットが沢山付いてるやつ。


「よしっ、じゃあ服屋さんに行こう!」

「服? 布じゃなくてか?」

「布? そんなの見てどうするのさ。服だよ!」

「まぁいいけど・・・たぶんソニアが着れる服は無いと思うぞ」


 そんな人を太ってるみたいに言わないで欲しい。


「わたしの服じゃなくて、ディルの服だよ!!」

「俺の? いいよ。間に合ってるから。それに、今の服が気に入ってる」


 ポケットがいっぱい付いてるから?


「わたしがディルに似合うカッコイイ服を買ってあげるから、次のデートにはそれを着て来て欲しいの!」

「次のデート・・・分かった。行こう」


若干速足のディルの手の上に立って、服屋さんに向かう。ディルに「というか、ソニアお金持ってないだろ」って言われたけど、気持ちの問題だよ。


「いらっしゃま・・・せ!?」


服屋さんに入った途端、出迎えてくれたオシャレなお姉さんがわたしを見て腰を抜かした。わたしは気にせず話しかける。


「ディルの・・・この人の背格好に合う服ってありますか?」

「そ、そちらの方にございますが・・・」

「ありがと! ほら! ディル! 行こっ!」

「ちょっ、耳たぶをひっぱるな!」


とりあえず、片っ端から試着して貰う。


「どうだ?」


ダボっとした黒い七分袖のロンTに、茶色い短パン。


「ディルが小さく見える」

「そうか・・・」


 わたし的にはアリだけど。ディル的には無しだね。


「これはどうだ?」


魔法使いみたいなカッコイイ長いローブに、とんがり帽子。


「魔法使いみたい」

「だろうな」


 魔法使い。それ以下でもそれ以上でもない。無しだね。


「これは・・・どうなんだ?」


ゴテゴテした甲冑。刃を潰した剣付き。


「よくそんなのあったね」

「な」


 こんなのでデートに来られたら普通に嫌だよ。


その後も色々と試着した結果、やっと決まった。少しサイズが大きめの胸に青いワンポイントが入った白いTシャツに、黒いズボン。凄くシンプルだ。本当はもっとカッコイイ服が良かったけど、「シンプルな方がソニアと一緒にいて不自然じゃない」って言われたら何も言えない。

わたし自身、シンプルな白いワンピースに青いリボンしか身に付けてないからね。ちなみに、少しサイズが大きめなのは、「成長しても着られるように」らしい。


「着たままでもよかったのに・・・」

「これは次のデートの時に着るやつだからな。それまでは着ないぞ」


買った服が入った紙袋を嬉しそうに抱えるディル。


 でも、喜んでくれてよかった! 提案したかいがあったよ! ディルが嬉しそうだとわたしも嬉しい!


服屋さんで思いのほか時間を使ってしまったわたし達は、屋台で買い食いをして、楽しくお喋りしながらお城に戻った。

読んでくださりありがとうございます。スズメ、実はコッソリと後をつけていました。

スズメ(ああ、ソニア様! だから下着が見えると言いましたのに!)

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