235.子供の遊び相手めっちゃ疲れる!
ツンツンツン
んぅ~?
ツンツンツン
なに? 何かにお腹を突かれてる?
「妖精しゃん、起きないね」
「そうだね」
ツンツンツン
「ぷにぷにだよ」
「私にも触らして~」
「私も~」
ぷにぷに? 何が?
ツンツンツン
「妖精しゃん、ちっちゃくて可愛いね」
「可愛いね。それに、お羽が綺麗だよ」
ひゃん!?
突然、羽に強い刺激が走った。わたしはガバッと勢い良く起き上がる。
「あ、妖精しゃん起きた!!」
「目が青いよ! きれい~!」
「おはよ~」
女の子がいる。3人も。しかも、わたしを囲んでいる。
えーっと・・・まず、ここはどこ?
辺りを見回すけど、知らない部屋だ。棚には可愛らしい動物のぬいぐるみが並べられている。わたしは(わたしにとっては)大きなベッドの上で寝かされていて、右で1人、左で2人の3歳か4歳くらいの女の子達がキラキラとした瞳でわたしを見ている。3人とも白系の髪色だ。
1人は知ってる。イチカの娘さんだ。じゃあ、あとの2人はお友達かな?
「おはよう、妖精しゃん」
「お、おはよう」
イチカの娘さんが挨拶してきたので、とりあえず返す。
「わぁ、妖精しゃん喋った!」
「可愛い声!」
一言「おはよう」と言っただけで大騒ぎだ。可愛らしいけど、それよりも現状把握だ。
「えっと・・・わたし、なんでここで寝てるの? とういか、ここってどこ? イチカの家?」
わたしのお腹をツンツンと突こうとする指を両手で払いながら尋ねる。
「ここは私のお部屋だよ。朝起きたら、ママが妖精しゃんを連れて来たの。オサケ?で潰れちゃったんだってぇ。ベッドから落ちないように見てあげてって言われたぁ」
わたし、イチカに赤ちゃんか何かだと思われてるのかな? さすがにこんな大きなベッドから落ちるほど寝相悪くないよ。というか、3歳くらいの幼女に面倒を見させないでよ! そもそも、3歳にひとり部屋は早いよ!!
「それでぇ、お友達が遊びに来たから、一緒に見てたんだよ!」
得意気な顔で胸を張る娘さん。「えへへ」と可愛く笑い合うお友達。
でも、まぁ・・・事情は分かったよ。昨日わたしはあのまま寝ちゃったんだね・・・ってヤバい! ディルに何も連絡してない!! あわわわわ! 今頃めっちゃ心配してるよー!!
「ごめんね! わたし、もう行かないと! ママはどこかな? とりあえず挨拶だけでもしておきたいんだけど・・・」
ふわっと浮き上がりながら言うと、娘さんはわたしを見上げながら「今は居ないよ?」と首を振る。
「え、いないの? まさか子供達だけ置いて外出してるの?」
3歳の子供達だけを置いて外出するのは危険じゃない? この世界では普通なの?
「私のお母さんがいるよ。今はおしっこに行ってるの」
そう答えたのは娘さんのお友達だった。
あ、ママ友に子供のお世話を頼んで出掛けてるのかな?
そう納得していたら、ちょうどそのお友達のお母さんが部屋に戻って来た。茶髪の若いお母さんだ。ベッドの上でふわふわと浮いているわたしを見て目を丸くする。
「よ、妖精様! 目が覚めたんですね。おはようございます」
「おはようございます」
ぺこりと頭を下げる。そしてお互いを見ながら沈黙が流れる。
「えっと・・・その・・・この子達が何か失礼なことをしませんでしたか?」
「失礼なこと? ・・・されたよ! 寝起きに羽を触られた!」
「羽を・・・ですか?」
「うん! めっちゃびっくりした!」
羽はデリケートなんだからね! 他人に触られるのは嫌なんだよ!
若いお母さんは咎めるような鋭い目付きで自分の娘を見る。わたしは庇うようにその子の前に出た。
「で、でも! 一瞬だけだったから! 大丈夫だよ! 悪気はないだろうからあんまり怒らないであげて! ただ、これから先にこの子達が寝てる妖精の羽を触らないようにだけ注意して欲しい・・・かな?」
「・・・フフッ」
何故か笑い出す茶髪のお母さん。
「な、なに?」
「ごめんなさい。マイナちゃんママの言った通りだと思いまして・・・」
「マイナちゃんママ?」
「この子の母親・・・イチカさんのことです」
イチカの娘さんはマイナちゃんって言うんだね。
「マイナちゃんママが、ソニアちゃんはとっても優しくて親しみ安い妖精さんだって言っていたので・・・」
「そ、そうなんだ」
照れるよぉ・・・って照れてる場合じゃない!!
「そのイチカは何処に行ってるの!? わたし、ディルのところに・・・お城に戻らないといけないんだけど!」
「お城に行きましたよ。妖精様のことを報告しに」
おぅ・・・マジか。これはディルかスズメが迎えに来る感じかな? いや、どっちもか。怒られるかな。
「ハァ・・・」
ポスッと枕の上に落ちてうつ伏せになる。
なんか石鹼みたいな匂いがする。落ち着く。
「妖精しゃん・・・どうしたの? 具合悪いの?」
マイナちゃんが(わたしにとっては)大きな指で頭を撫でてくれる。
「マイナちゃん・・・優しいねぇ」
「妖精しゃん! それよりも遊ぼうよ! おままごとしたい!」
「マイナちゃん・・・」
子供って・・・そうだよね~。
「じゃあ、妖精しゃんは子供ね!」
しかもわたしが子供役て・・・普通に嫌なんだけど。せめてお母さん役がやりたいよ。
結局、わたしが子供役で、他の3人が全員お母さん役でおままごとをする羽目になった。お父さんは最初からいない設定らしい。
どんな複雑な家庭なのさ・・・。
「ソニアちゃーん、ご飯でしゅよ~」
「あ~~ん」
「むごごご・・・ちょっ、やめっ、指を口に突っ込まないで!」
「ソニアちゃ~ん、お風呂の時間でしゅよ~」
「脱ぎ脱ぎしましょうね~」
「え、なっ! 服を脱がそうとしないで!」
「ソニアちゃ~ん、お人形で遊びましょうね~」
「きゃっきゃっきゃ!」
「むぐぁあああ! 潰れる! ぬいぐるみで圧死する!」
「ソニアちゃ~ん、おねんねしましょうね~」
「お布団ですよ~」
「わぁ、なんか、めっちゃ肌触りの良い・・・って、これパンツじゃん! やめてよ!」
つ、疲れる・・・!! 子供の遊び相手めっちゃ疲れる! 唯一の保護者はずっと微笑ましげな顔で見てるだけだし! 助けてよ!
子供達に振り回されてヘトヘトになった頃、やっと部屋の扉が開いた。最初に疲れ切った顔のイチカが、次にニコニコ笑顔のスズメが、最後に申し訳なさそうな顔をしたディルが入ってきた。
ん? 何があったんだろう?
「どうしたの? 酷く疲れた様子だけど・・・」
茶髪のお母さんが心配そうにイチカに尋ねる。
「ソニアちゃんのことを報告しに行ったら、国王様に呼ばれて色々と質問をされて、帰りには王女様に質問攻めを受けたのよ・・・疲れるわよ」
なんか・・・ごめんなさい。
「ママ~、ちゃんと妖精しゃんのお世話してたよ~!」
マイナちゃんはそう言いながら、枕の上で女の子座りしていたわたしの首根っこを掴んで、イチカの前まで持って見せびらかす。イチカ、スズメ、ディルの前でぷらーんと掲げられるわたし。
なにこの状況・・・恥ずかしいんだけど・・・。
「まぁ!」と手に口を当てるスズメ。「いったい何をしてたんだ?」とでも言いたそうに首を傾げるディル。「ハァ」と溜息を吐いてマイナちゃんからわたしを受け取るイチカ。
「ディル君。どうぞ」
イチカはそのままわたしをディルに差し出す。ディルは「あ、どうも」と手のひらにわたしを乗せた。
なんだろう・・・。人間だった頃にトリミングをしたペットを受け取りに行った時のことを思い出したよ。
「ソニアがご迷惑をお掛けしました」
「いいのよ。お客さんも過去一盛り上がっていたし、娘達とも遊んでくれていたみたいだし」
「それと、道中、スズメがしつこく質問攻めしてすみませんでした」
「いえ、その・・・はい」
なるほど、それでディルは申し訳なさそうな顔をしてたんだ。大人だね。スズメと違って。
「妖精しゃん、もう行っちゃうの~?」
「まだ遊びたいよ~」
「また会える~?」
子供達が名残惜しそうに駆け寄って来る。
「ごめんね。今日はもう帰るね。また機会があれば一緒に遊ぼうね」
出来ればおままごと以外で、と心の中で付け足す。
ニコリと笑って手を振ると、子供達も可愛らしい笑顔で返してくれる。わたし達は最後にもう一度イチカにお礼を言って、お別れをした。
「それで、元気は出たのか?」
「え?」
お城に返る最中、何となく気まずくてディルの手の上で黙っていたら、そんなことを聞かれた。
「こっそりと城を抜け出して、お酒を飲みに行って、何の連絡も無しにそのまま酔いつぶれて、子供達と遊んで・・・元気は出たのか?」
「うぅ・・・ごめんなさい。元気出ました」
でも、また落ち込みそうです。ディルに怒られて。
本当は酔いつぶれる前に帰ってくるつもりだったんだよ・・・って言っても、言い訳にしかならないよね。
「別に責めてるわけじゃない。ただ、まったく腕時計から出てこないソニアを心配してずっと腕時計に向かって話しかけ続けてたら、『ソニア様は港町で飲んでいたみたいです』って報告を受けた俺の気持ちを考えて欲しい」
ディルは「まぁ、ソニアがそれで元気になったのなら良かったよ」と少し寂しそうに笑った。
「あ、あの! じゃあ、ディルが大人になったら一緒にお酒を飲もうね!」
「ああ、そうだな。そしたら酔いつぶれたソニアを俺が世話してやるよ」
そう言ってクリクリとわたしの頭を撫でる。
よかった。ディルの機嫌がなおったよ。
「ああ、それと、【ソニアの多次元一可愛いステージ】なんだけど、明後日やることになったぞ」
「明後日ね・・・明後日!? 早くない!?」
「ソニアがあんまり遅いと嫌だって言ったんじゃないのか? それで出来るだけ早く行うことになったって聞いてるぞ」
「確かにそんなようなことを言ったけど・・・」
それにしても早すぎるよ。まだ碌に練習もしてないし、何を歌うのかも知らないのに。
「歌に関しては、いくつかの候補があるがあるから、そこから決めてもいいし、自分で考えてもいいってさ。俺も簡単にしか報告を受けてないから、詳しくは王子様か王様から自分で聞いてくれ」
「うん、わかった」
今日の夜にでも聞いてみようかな?
「ディルはこのあと予定あるの?」
ディルの手からふわりと浮き上がって、顔の隣りを飛びながら聞く。
「午後からはクロミツさんに魔石の複数同時使用のやり方を教えてもらうつもりだ。本当は午前中のうちから教えてもらいたかったんだけどな・・・」
ディルはそう言いながら、スズメはちらりと見る。
「師匠は朝弱いんですの。午前中に行っても教えて貰えないと思いますわ」
「・・・そううわけで、午後はそういう予定だ」
じゃあ、午前中は暇なのかな?
わたしがそう思ってると、ディルがわたしをチラチラと見ながらモジモジし始めた。
「なに? トイレに行きたいなら待ってるよ」
「違う」
「違うの?」
「違う」
じゃあ、何なの?
わたしが首を傾げていると、スズメがニマニマとした笑顔でディルの脇腹を杖で軽く突いた。突かれたディルは小さな声で「分かってるって」とスズメに言って、少し頬を染めてわたしを見る。なんだかわたしも緊張してきた。
なにこの空気・・・もしかしてこれって・・・告白されるんじゃ!? ど、どどど、どうしよう!? 心の準備が出来てないよ! なんて答えるのが正解なの!? どうやって受ければいいの!?
羽がパタパタしているのを必死に隠そうとディルの視界からコッソリ外れようとしたら、ディルは逃がさないと言わんばかりに熱の籠った目でわたしを追った。そしてゆっくりと口を開く。
「その・・・ソニア」
「ひゃい!?」
こ、声が裏返っちゃったよ! 恥ずかしい!
「えっと・・・」
視線を彷徨わせながら頬を搔くディル。
こ、告白されちゃう! ママ! わたし男の子に告白されちゃうよ!
「その・・・今日、午後まで俺とデ、デートしないか?」
「オッケーです!!」
ひゃあああ! オッケーしちゃったー!! ・・・・・・ん?え?デート? 告白じゃなくて?
ディルは嬉しそうに「よかった」と笑っている。その横ではスズメが「おめでとうございます」と微笑ましそうにディルを見ていた。
そ、そうだよね~。こんな往来で告白するわけないよね~。変に期待しちゃったよ。恥ずかしっ。
・・・でも、嬉しいな。ディルにデートに誘われちゃった! フフフッ
読んでくださりありがとうございます。
他人の前「お母さん」
家族の前「ママ~」




