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234.よし、飲みに行こう

わたしは今、めちゃくちゃに落ち込んでいる。フィギュアだと思って振り回していた物が実は爆弾だった。そして沢山の研究者達とディルを危険に晒してしまった。


「ソニア。もう怒ってないから出てきてくれよ」

「ソニア様、誰も気にしていませんから、出てきてくださいませ」


お城に向かう道中、ディルが身に付けている腕時計に、スズメとディルが心配そうに話しかける。腕時計の中にはわたしが入っているからだ。ちなみに、2人の後ろには第一研究所をピカピカにして来たらしいスズメのメイドであるアリサが満足そうなホカホカ笑顔でついて来ている。


「ソニア~」

「ソニア様~」


 ハァ・・・。姿を出した方がいいんだろうけど、気分じゃないんだよね。今は放って置いてほしい。


「出てこないな」

「出てきませんわね」


ディルとスズメは互いを見合って溜息を吐きながら首を横に振る。


「仕方ない。とりあえずソニアから出てくるまで放って置いてやるか」

「ですわね」


2人はちょくちょくわたしが入っている腕時計を気にしながら歩く。


「そういえば、ディル様の指輪はどうなったんですの? 今は身に付けていないみたいですけど・・・」

「魔石を嵌めて貰うために第二研究所に預けてるからな。出来上がるのは明後日になるらしい」

「そうなんですの。・・・もしや、ソニア様が出て来られないのはディル様が指輪を外してるからでは?」

「まさか、それで不貞腐れて閉じこもってるなんて子供みたいなこと・・・ソニアならあるかもな」


 ないよ!


「ディル様はこのあとはどうするのですか? 確か、もうそろそろ【ソニア様の多次元一可愛いステージ】の詳細を決める会議が終わる頃だと思いますけど・・・」

「ああ、そういえば今日そんな会議があるとか言ってた気がするな」


 その【多次元一可愛いステージ】っていう名前、どうにかならないのかな。恥ずかしいよ。


「お父様とオームお兄様としては、今日中にソニア様とディル様に報告と打ち合わせをしたいと言っていました。出来れば夕食の場に」

「うーん・・そうだなぁ。俺は王様にちょっとお願いしたいことがあるからその夕食の場に出たいと思ってるけど・・・」


そう言いながら、腕時計(わたし)を見つめる。


 わたしは出ないよ。報告はともかく、打ち合わせなんて面倒くさいもん。どうせわたしは歌うだけなんだから、他は勝手に決めて欲しい。皆ほどやる気があるわけじゃないし。それに、やっぱり気分じゃない。


「まぁ、後で俺からソニアに伝えればいいか。・・・あっ、あそこで焼いてる肉旨そう! ちょっと買って来る」


それからディルは、屋台でいくつも買い食いをしてからお城に戻って、更に遅めの昼食を平らげた。スズメはお城に戻って早々にアリサに「スズメ様のお部屋もお片付けしましょうね」と半ば引きずられていった。


「ソニア~? そろそろ出て来いよ~」


ディルがツンツンと机に置いた腕時計を突く。いつの間にか腕時計の中で寝てしまっていたみたいだ。窓の外が薄暗い。


「はぁ・・・俺、行くからな。そんなに長くはならないと思うけど、遅くなりそうだったら先に寝てていいからな。あ、寝るなら腕時計から出て寝てくれると助かる。パッと見ただけじゃあ腕時計の中にソニアが入ってるかどうか分からないから」


ディルはわたしがいつでも出て来れるように、いつでも寝れるように、腕時計を部屋に置いて出ていった。暫くして、わたしはそーっと腕時計から出る。


「んっ、んっーーーー!!」


腕を上げて伸びをして、キョロキョロと周囲を見回す。


 うん。誰もいないね。


「よしっ、飲みに行こう!」


 あとで怒られそうな気がするけど、今はそういう気分だ。一通り落ち込んだあとは、やっぱりお酒だよね。


鏡の前で軽く身だしなみをチェックしてから、わたしは窓ガラスに手を触れる。今までのわたしなら、ガラスを壊すか他に出られる所が無いか探さないといけなかった。でも、今のわたしは違う。


 実は、新たな特技を身につけたんだよね~。


自分の体に意識を集中して、「光にな~れ」と自分が光になるとこを想像する。すると、見た目は何も変わらないけど、わたしの手がスーッと窓ガラスを通り抜けた。そしてそのまま体も通り抜ける。


「よしっ。脱出成功!」


 あとはどこに飲みに行くかだけど・・・・


このカイス妖精信仰国でわたしが知っている飲食店は一つしかない。


 確か、黒猫様が香しい匂いに釣られて突撃した家に居た女の子のお母さん・・・イチカだっけ? あの人が下の階でお店をやってるって言ってたハズ。


「そうと決まれば誰かに見つかって大騒ぎになる前に素早く行こう!」


 この国に上陸した時も見つかって、跪かれたり、合唱されたり、服を脱がれたり、大変だったもん。暗いから羽が光って目立つけど、最悪騒がれる前に飛び去れば大丈夫でしょ!


とりあえず空高く飛び上がって、目的のお店を探す。夜も遅いので人は少ないけど、所々に明かりが見える。夜遅くにやっているお店は結構あるいみたいだ。街の中央付近には明かりが密集している場所もある。


 えーっと、どこだったっけなぁ。あそこのお店も夜までやってるお店だといいけど・・・。上陸してすぐの所だったから・・・あれかな?


海の近くに、一つだけ明かりのついた建物を見つけた。そこ目掛けて目にも留まらぬ速さで飛ぶ。お店は扉が開けっ放しになっていて、中から賑やかな声が聞こえてくる。わたしは地面に降り立って、そーっと中を覗いてみる。


「なぁ、おい聞いてくれよ。この間さぁ、娘が妖精様になりたいって言い出してよぉ」

「ハハッ、ウチの娘も昔は同じ事を言ってたぜ。女の子なら必ず通る道らしいからな。イチカさんのとこの娘さんも同じ事を言ってるんじゃないか?」

「ウチの娘はそういうことは言ってないわね。ただ、今は昨日会った妖精様のことを嬉しそうにずっと話しているわ」

「ああ、噂の金髪の妖精様か。昨日は色々な所で目撃されたらしいな。黒猫に跨って移動してたとか」

「昼には第一王女のスズメ様と一緒に護衛を連れて歩いていたって妻が言ってたぞ」

「それじゃあ、妖精様は無事にお城に行けたのね。よかったわ。空の大妖精様には会えたのかしら?」


どうやら、わたしの話をしているみたいだ。


 よかった。イチカのお店であってた。それにしても・・・思ったよりも白い髪の人が少ないね。赤に茶色に・・・所々に青い髪の人もいる。やっぱり世界最大の都市なだけあって色んな国の人達がいるのかな。


 でも、そんなことよりもお酒が飲みたい!


男達が手に持っている美味しそうなお酒が気になってしょうがない。わたしはそのまま地面を歩いてお店に入って「すみませーん!!」と叫ぶ。


「あら? 気のせいかしら。今女の子の声が聞こえた気がしたんだけど・・・」

「こんな時間にこんなところに女の子が来るわけないだろう。イチカさん、疲れてるんじゃないか?」

「そうなのかしら・・・?」


 まぁ、そりゃあそうだよね。


ふわりと浮かび上がって、パッと眩しい光を出す。


「きゃあ! なに!?」

「うおっ!? なんだ!? 灯の魔石の故障か!?」


皆が眩しさに目を閉じている間に、お店の中央でお客さんとお話していたイチカの前に移動する。光を消すと、イチカはゆっくりと瞼を開ける。


「・・・・・・へっ!!??」


目の前に突然現れた妖精(わたし)に、目を大きく開けて固まるイチカ。


「どうしたんだイチカさ・・・うおっ!! 妖精様!?」

「なんだと・・・うわぁ! ホントだ!」

「妖精様だって? こんなところにいるハズが・・・うひゃあ!」


お客さん達が面白いくらいに椅子から転げ落ちていく。わたしがその様子に「クスクス」と笑っていると、再起動したイチカが恐る恐ると話し掛けてきた。


「よ、妖精様・・・何故このようなところに?」

「何故って・・・お酒を飲みに来たからだよ。それに、前にまた来るって言ったでしょ?」

「おっしゃってましたけど・・・というか、妖精様ってお酒を飲まれるのですか?」

「普通に飲むよ!」

「そうなのですか・・・」


イチカは小さく「娘に教えてあげよう」と呟く。


 それは止めてあげて? 娘さんの中の妖精のイメージが崩れちゃうよ。


「とりあえず、なんかちっちゃい入れ物にお酒を入れて持って来てくれないかな?」

「か、かしこまりました! 一番高いやつを入れて来ます!」


イチカは張り切ってお店の奥にあるカウンターへと走っていった。ふとイチカから視線を外すと、わたしの周りに白い髪の人達が跪いていた。それを見た他の髪色の人達も跪こうとするのを、わたしは慌てて止める。


「ちょっ、止めて! 止めて! わたしはただ飲みに来ただけだから! そういうのはいらないから!」

「ですが・・・」

「はっきり言うと迷惑なの! 妖精とか関係無く、普通に接して!」

「・・・承知いたしました」


白い髪の人達は不満そうに頷いて、他の髪色の人達はホッと安堵したように息を吐いた。


「妖精様! お待たせ致しました!」


イチカが何かの蓋にお酒を入れて持って来てくれた。わたしはそれを受け取り、近くのテーブルの上にペタリと座る。すると、お店にいたお客さん達がわらわらとわたしの周りに集まって来た。


「皆・・・どうしたの? わたしに構わずに飲んでていいよ?」

「いえ、せっかくの機会ですから、妖精様とお話出来たらと。ここには仕事で来ているのですが、ブルーメで待っている妻と娘にいいお土産になりそうですし」


青い髪の男性はそう言ってお酒を片手に気さくに笑う。


 ブルーメね。あそこはカイス妖精信仰国(ここ)と違って人間と妖精の距離が近かったよね。波の妖精が海で子供達と遊んでたりしたもん。


「じゃあ、一緒にお話しながら飲もう! こっちおいで!」


わたしが空いている椅子を見ながらそう言うと、周りの男達も騒ぎ出す。


「お、俺も!妖精様とお話出来る機会なんてこの先ないだろうから!」「じゃあ俺も! 娘に自慢してぇ!」「妖精様とか関係無く、普通にこんな美人さんと飲める機会すら無いからな」


 おぉ、おぉ、男達がお酒を片手にひしめき合ってるよ・・・。


「こら! 妖精様が引いてしまってるじゃない! 皆が話せるように椅子とテーブルを移動させるから手伝いなさい!」


イチカが腰に手を当ててそう一喝すると、男達はお互いの顔を見合ったあと、急いで椅子とテーブルを持ち始める。そして出来上がったのが、わたしを囲むように、観察するように円形に置かれた椅子とテーブルだった。


 こんな皆にマジマジと見られながらなんて・・・せっかくのお酒を美味しく飲めないよぉ。


・・・だいたい一時間後。


「ぷっはぁ! やっぱりお酒はおいちーー!!」


 お酒サイコー!! ひゃっほう!!


「ソニアちゃん凄いな! これで何杯目だ!?」

「へ? 分かんない!」

「ハハッ、これだけ一番高い酒を飲まれちゃあ商売あがったりじゃないかい? イチカさん」

「そんなことないわよ。ソニアちゃんは何杯も飲んでるけど、実際に減ってるのはこれくらいだもの」


イチカが少ししか減っていないボトルを皆の前で揺らす。


「カーッ! ちっちゃい体のソニアちゃんが羨ましいぜ! 俺も妖精になりてぇよ!」

「フフッ、じゃあお酒の妖精だね! 何となく水の妖精と気が合いそう!」

「おお! 水の大妖精様と! きっとソニアちゃんと同じですげぇ美人で可愛らしい妖精なんだろうなぁ」

「確かに美人だけど、物忘れの酷いおばあちゃんみたいな性格だよ!」


皆とはもう、めちゃくちゃに打ち解けてた。お酒の力ってすごい。


「いや~、ソニアちゃんは気さくで可愛くて美人で優しくていいなぁ。もしも人間だったら絶対に口説いてたよ」

「バーカ。ソニアちゃんがお前みたいな酒狂いを相手にするわけねぇだろ! たとえ釣り合うとしても、それこそ王族とかだろ」

「そうだよなぁ。でも、もしこの中だったら誰が一番カッコイイと思う?」


くるっと皆を見る。


「全員カッコ良くないよ! 皆、わたしと同じで酒狂いだもん! 同類だね!」

「ハハハッ、ソニアちゃん最高だぜ!」


・・・そして更に数時間後。


「・・・って感じで、スズメと屋台を巡ってたんらよぉ」

「ほう・・・王女様と妖精様のデートか。その少年の護衛が羨ましいぜ」

「確かにな。でも、これで次の王はスズメ様で決定か?」

「ううん、違うよ?」


わたしは次の王が第一王子のオームになることと、それが今度開催されるわたしの歌のステージが終わった後に発表されることと、ついでに可愛いワンピースを着て歌い踊っていたことを碌に回らない舌で話す。


「あっ、ワンピースを着て歌って踊ってたことは内緒らっらよ! てへっ」

「まぁ、第一王子も可愛いから許してくれるだろう」

「だな。この可愛らしい笑顔をみれば何でも許しちゃうな」

「ああ。可愛いは正義だ」


話し終えてウトウトし始めたわたしを横に、男達は第一王子のオームについて話始める。


「それにしても、第一王子ってどんな方だったっけ?」

「さぁ、たまに美男子だって噂は聞くけど、スズメ様と今はいないけどヨーム様が目立ってたせいで印象が薄いんだよな」

「正直、よく知らない第一王子が王になるよりも、たまに城下町に着て気さくに話してくださったり、色んな魔道具を研究するように研究所を管理しているスズメ様の方が安心出来るよな」

「あー、分かる。妖精のソニアちゃんが褒めるくらいの歌は気になるけどな」


 うーん・・・スズメは王になりたくないって言ってたから、わたしはオームを王にしたい。このままじゃダメだ。


朦朧とする頭でそんなことを考えながら、わたしは適当に口を開く。


「じゃあ、今度やるわたしの歌のステージでオームにも可愛い恰好で歌わせるよ! そこでオームのことを知ったらいいよ!」

「おお! それは楽しみだな! ソニアちゃんの歌ってだけでも楽しみだけど、妖精様に女装させられて皆の前で歌わされる第一王子を見るのも面白そうだ!」

 

 フッフッフ! そうやって笑っていればいいよ! オームの歌は感動するレベルで上手いんだから!

読んでくださりありがとうございます。

イチカ「一応、水で少しアルコールを薄めにしておきましょう」

ソニア「お酒おいちー!」

イチカ(薄めて置いて正解だったわ・・・)

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