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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第1章 暇な妖精と忙しい少年

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22.傭兵さんと恋のキューピット(犬)

「ひゅーーー!気持ちーーー!」


わたしは今、背中の羽をキラキラとさせ、黄金色の長い髪とひらひらのノースリーブのワンピースを(なび)かせながら、夜の王都を爆走ならぬ、爆翔している。


「久しぶりに自由に飛べるよー!」


 ここ何日かはボトルの中だったり、革袋の中だったりで窮屈だったからね。解放感が凄い。


真下に広がる王都を見下ろすと、カラスーリが言っていた通りまだ魔物がちらほらと見え、巡回している騎士や兵士がそれの対応に追われていた。


 そういえば、他の住民達もどこかに避難してるのかな? 戦ってる人しか見えないけど。


考えても分からないことを考えながら飛んでいると。あっという間に西門に着いた。


 ん? アレなんだろう?


西門の見張り台の下には何か大きな塊が置いてあり、騎士団長とコンフィーヤ公爵と騎士ではない武装した男性がその見張り台の上からその塊を見下ろしている。


「みんな~!」


「おーい」と大きく手を振ると、見張り台の上に居る皆がこちらを見上げた。


「ん?なんだアレは?」

「ソニア様・・・?」

「地下牢の時の妖精さんか!」


騎士団長、コンフィーヤ公爵、武装した男性、3人の大きな影が柵から身を乗り出してわたしに注目している。


 そっか、暗いし、わたしがちっちゃいしでよく見えないのか。


見張り台に近付くにつれ、向こうからはわたしが見えるようになり、わたしからは武装した男性が誰だか分かるようになった。


「あ!依頼主と一服してたら攫われたって言ってた傭兵の人!」

「違う、依頼主に一服盛られて売られた傭兵のデンガだ」

「そうそう!それそれ!」


 アボンのお店の地下牢でお話したよね! ジェシーにまだ王都から出てないとは聞いていたけど、こんなところにいたんだ。


「・・・んで、デンガは何でここに?」

「俺もこの国の兵士達と一緒に魔物を駆除してたんだが、途中でブラックドッグが走って行くのが見えて、それで慌てて追いかけて行ったら西門に見知った顔が居たもんでな」


デンガはコツンと騎士団長の重そうな鎧を拳の裏で叩いた。わたしが叩かれた騎士団長に視線を向けると、騎士団長は苦笑交じりに口を開いた。


「デンガは昔、武の大会の決勝で戦った相手なんですよ」

「武の大会って何?」

「数年に一度、周辺国の貴族達によって開催される世界的に有名な武闘大会ですよ。それより、無駄話はそれくらいにしてコレをどうにかする方法を考えてください」


コンフィーヤ公爵が相変わらずの仏頂面でそう言いながら黒い塊を指差す。その指の先を目で追うと、黒くて大きなハスキー犬が倒れていた。


「コレって・・・ブラックドッグ!? 倒したの?」


騎士さんを睨んでいたブラックドッグの赤い目は閉じられていて、動き出す様子は全くない。


「ええ、この2人が王都から出ようとしていたブラックドッグをわざわざ引き留めて戦闘し、倒しました」

「私は逃がすようデンガに言いました。引き留めたのはデンガです」


騎士団長が口を尖らせてジトーっとデンガを睨む。睨まれたデンガは「俺は悪くありません」とでも言いたそうな顔でそっぽを向いた。


「ハァ・・・どちらでも良い。仕方ありませんね。これは城に持ち帰りましょうか。このまま放置しても腐って大変なことになりますし、最悪、他の魔物の餌になり兼ねません」

「でも、持ち帰るってどうやって?」


 まさか・・・騎士団長のその強靭な筋肉で!?


「デンガ」


コンフィーヤ公爵がデンガの名前を呼ぶ。


「なんだ・・・ですか?」

「確か貴方はブルーメの出身でしたよね?」

「そうだな・・・です」

「では、水球の魔石も持っているのでは?」


 ブルーメ? 水球? わたしにはよく分からないぞ?


「それが、地下牢に入れられた時に盗られちまったんだ、です」

「水球の魔石なら私が持っています。アボン商会の者が所持していたものです。私には使えませんが」


騎士団長がポケットの中にから青い魔石を出して見せた。


「あ、それ俺の・・・」

「そうですか、それを使って運びます」

 

 なんだかよく分からないけど、筋肉で運ぶわけではないみたいだ。残念。


コンフィーヤ公爵達は階段を使って見張り台から降り、わたしはそのまま飛んでブラックドッグの目の前まで移動した。騎士団長から青色の魔石を受け取ったコンフィーヤ公爵はそれをデンガに投げる。


「私に水の適正はありません。デンガ、貴方が発動させてください。・・・それと、貴方は大人なんですから言葉遣いは何とかしなさい」


デンガは不服そうな顔をしながらも、水の魔石をブラックドッグに当てて発動させた。すると、魔石から水の球がプクーっと広がっていき、ブラックドッグがすっぽりと収まるくらいの大きさで止まった。


 おお! 何それ面白い! 大きな水の玉だー!


ブラックドッグが収まった大きな水球の周りをグルグルと回るわたしを放置して、コンフィーヤ公爵は話を進める。


「騎士団長は引き続き西門での監視をお願いします。デンガは水の魔石を持って私の馬に一緒に乗ってください。それから、ここの引継ぎに関しては・・・」


 皆に役割が振られて行く。・・・わたしはどうしよっかな? ・・・もう戻ろっかな。


「ソニア様は移動中にお城での状況を教えて頂けませんか?」

「え~・・・・早く戻らないとお風呂に間に合わなくなっちゃうんだけど・・・」


わたしがそう言って唇を尖らせると、コンフィーヤ公爵は普段の仏頂面を消して不可解な物を見るように眉を顰めてわたしを見上げてくる。


「・・・ソニア様はこちらに何をしに来られたのですか?」

「えっと、色々と気になることがあったから来たんだけど、もういいや」

「・・・やはり人間とは考え方が違いますね」


コンフィーヤ公爵が何かを諦めるようにボソッと呟いた。


 もしかしたらガマくんに言われたみたいに、ミドリちゃんとの長い同居生活で性格が影響されちゃったのかもしれないね。


「ソニア様。でしたら、デンガが面白い話をしてくださるそうなので、代わりにソニア様のお話を聞かせて貰えませんか?」

「は!?」


デンガが素っ頓狂な声をだした。


 面白い話はぜひ聞きたい。どうせなら異世界っぽい感じのアクション要素多めなやつ!


「いいよー!じゃ、出発ー!」


コンフィーヤ公爵が馬に乗り、その後ろに魔石を持ったデンガが乗る。わたしはその横を並んで飛ぶ。馬が走りだすと、ブラックドッグを包んでいる水球が浮遊して、わたし達の後を同じ速さで追尾して来た。


 わぁ・・・便利~。


「これって、どういう原理で浮いてるの?」

「ソニア様はどういう原理で飛翔しているのですか?」

「・・・」


 そういうことね。なるほど分かんない。きっと、そういう自然なんだろう。


わたしとデンガとコンフィーヤ公爵は城に向かう途中、デンガが面白い話をすると言って自分の失恋話を語ってくれた。この国に来る前に付き合っていた彼女に、戦ってばかりじゃなくて構って欲しかったと言われて、別れることになった、と・・・。


 なにそれ、全然面白くないんだけど!? 何故面白い話をしてと言われて話すのが失恋話なのか・・・それが普通の人間の考え方なら、わたしにはこの世界の人間は理解出来ないよ。


一応デンガが恥を晒してくれたので、わたしも孤児院からお城に向かう途中で起きたことと、お城の客室でカラスーリから伝言を聞いたことを説明する。途中で何度か魔物に遭遇したけど、デンガが守ってくれた。

そして、わたしの説明が終わる頃には城門に到着した。


「ソニアちゃん!」

「あっ、ジェシー!」


城の入口からジェシーが手を振りながら走ってくる。


「窓から宰相様が帰って来るのが見えたのよ」

「へぇ~、それでよくわたしが居るって分かったね。ちっちゃいのに」

「その目立つキラキラの羽のおかげよ。本当はマリちゃんも行きたがってたんだけど、さすがにお風呂上りで外に出ると風邪をひいちゃうからね」

「ジェシーは入らなかったの?臭くなっちゃうよ?」

「ならないわよ!私はソニアちゃんが戻って来るのを待ってたのよ。お風呂はこの後で入らせて貰うわ」


ジェシーが「遅いんだから」とわたしの頭を指でぐりぐりと撫でまわしてくる。髪がボサボサだ。わたしも早くお風呂に入りたい。


「グルルルルゥ・・・」

「え?」


聞き覚えのある鳴き声が聴こえた。鳴き声の聞こえた方を見ると、水球の中にいるブラックドッグの赤い瞳がギョロリと動いてこちらを見ていた。そしてわたしを見た後にジェシーに視線を流す。


 ブラックドッグ生きてるんですけど!? これがゲームだったらPAUSEボタンを慌てて押してるところだよ!


バシャーン!


一瞬で水球が弾けた。驚いて目を閉じて、そして開けた時には自由になったブラックドッグが鋭い爪をジェシーに向けて振りかざしているところだった。


「ジェシー!危ない!」

「ソニアちゃん!離れて!」


わたしはジェシーに弾き飛ばされた。ヒューンと消しゴム飛ばしのように飛ばされるて回る視界の中、ブラックドッグに襲われるジェシーが見える。


「きゃああ!」

「ジェシー!」


 だめ!ジェシーがスプラッタになっちゃう!


ドン!


「・・・・あれ?」

「・・・ふぅ、無事か?」


わたしは空中でキキーッと急ブレーキを踏んで止まって、慌ててジェシーに視線を向ける。ブラックドッグの爪は宙を割き、ジェシーに当たることはなかったみたいだ。デンガがジェシーを庇うように抱きながら地面に倒れているのが見える。


「あ、ありがとうございます・・・」

「いや、礼は早いぞ。俺の後ろにいな」


デンガが腰に下げていた直剣を構えてブラックドッグと睨み合う。ブラックドッグは根負けしたのか、別の理由か分からないけど、「グルゥ」と鳴いてどこかへ立ち去って行った。ホッと胸を撫でおろしたわたしは、デンガとジェシーのもとに飛んで行く。


「ジェシー!デンガ!大丈夫!?」

「俺は大丈夫だ。ジェシーさん・・・だったか?怪我はないか?」


デンガはシャキンとカッコ良く剣を納めながらジェシーを見下ろす。


「はい、大丈夫です。その・・・ありがとうございます。格好良かったです。デンガさん」

「あ、いや・・・ハハハ。そんなことはないですよ。付き合っていた彼女にも戦いばかりだと振られてしまったばかりですし・・・」

「何かを守る為に戦ってるの、私には分かります。デンガさんは素敵な男性だと思います」


 おやおやおや? 2人とも顔が真っ赤だ。これは・・・落ちたね。


「ふむ・・・、デンガ、あの時確かに止めを刺したんですよね?」


空気を読まないコンフィーヤ公爵がブラックドッグの立ち去った方向を見ながらデンガとジェシーの間に割って入る。


「あ、ああ、刺した。騎士団長に聞いても同じ事を言うと思うぞ」

「そうですよね、私もその場に居ましたから疑っているわけではありません。確認したかっただけです」


無表情で考え込むコンフィーヤ公爵。


「とりあえず、城の中に入らない?ジェシーが風邪をひいちゃうよ」

「そうですね」


わたし達はデンガとジェシーの甘酸っぱい雰囲気を感じながら子供達が居る客室まで戻る。


「おう!ソニア!遅いぞ!もう晩飯まで食べちゃったぞ!」


部屋に入った瞬間にディルがわたしに気付いて、元気に駆け寄って来た。尻尾が生えていたら元気に振っていたに違いない。


「わたし、ディルに西門に行くって言ってたっけ?」

「わたしが教えました」


カラスーリがどこからともなくスーッと現れた。


「そういえば、カラスーリに伝言を頼んでたよね。ありがとう」


 色々あったせいですっかり忘れてたや。


「おかえりなさい、コンフィーヤ」


カラスーリがわたしの後ろから部屋に入ってきたコンフィーヤ公爵の肩をそっと撫でる。


「ああ、戻った、カラスーリ。国王様はどちらに?」

「まだ展望台に居ますわ」


 まだ居るの?あそこって外だよね、寒くないのかな?展望台で何をしてるか知らないけど、身体に悪いんじゃない?


「そうか、では私もそちらへ向かおう。それと、申し訳ないですがソニア様も来て頂けませんか?移動中に話してくれた事を、一応ソニア様からも国王様に報告して欲しいのです」

「え、わたしはお風呂に・・・」

「お風呂はそれが終わってからでいいだろ?別に逃げたりするわけじゃないんだからよ」


ディルが「行ってあげろよ」とわたしの背中を指で押す。


「むぅ、なんかディルがわたしを子供扱いするー」


 わたしの方が精神的には歳上なのに!


「あ、ソニアちゃん・・・またどこかに行くの?」


マリちゃんが「ふわぁ」と欠伸をしながらフラフラと頭を揺らしながらやってきた。


「うん、展望台に居る王様に会いに行くよ」

「てんぼーだい?私も行きたい」

「いいよ!」

「いいわけないでしょ?!」


ジェシーがチラッと様子を伺うようにコンフィーヤ公爵を見る。


「誰かが子供の面倒を見れるなら、私は別に構わない」

「え、いいんですか?」

「子供の些細な頼みごとを叶えられないようでは、この国の宰相は務まらない」


そう言ったコンフィーヤ公爵をカラスーリが眩しそうに見ている。


 なるほどね、カラスーリの前で格好付けたかったと、そしてカラスーリはそんなコンフィーヤ公爵の気持ちまで分かっている、と。・・・お腹一杯です。


「そしたら、私がマリちゃんを連れて行くわね」

「じゃあ、ディルも一緒に行こうよ」

「いいぜ」


グッと親指を立てるディル。ジェシーがマリちゃんの面倒を見るなら、わたしはディルの面倒を見る。


「私はここに残りますわね。国王様から子供達の面倒を見るように言われていますし。院長さんお一人じゃ大変でしょう?」

「助かる、カラスーリ」


わたし、コンフィーヤ公爵、ディル、ジェシー、マリちゃん5人で展望台まで移動する。デンガは子供達の寝具を運び込むのにカラスーリに駆り出されていた。


展望台までは長い階段があるので、眠そうなマリちゃんはディルにおんぶされている。そしてわたしはジェシーに「ソニアちゃんは飛べていいわね」と睨まれた。


 ジェシーだって若いんだから・・・って言おうと思ったけど、やめた。本当はいくつか分からないもん。目に見えてる地雷を踏みたくない。


展望台が近くなると、そこに居る国王様と護衛の騎士達の慌てふためく声が聴こえてくる。


「隣国に救援を呼ばなければ!」

「国王様!冷静になってください!そんな時間的余裕はありません!」

「しかし・・・!この数はあまりにも・・・」


 凄い混乱してるみたいだね。何かあったのかな?


そんな王様達の声を聞いて、コンフィーヤ公爵がやや早足になった。わたしもそのスピードに合わせて飛ぶ。


「国王様、どうされましたか?」

「どしたの王様?」

「コンフィーヤ公爵にソニア様達・・・。」


王様は「説明する前にあれを見てくれ」と西門の方角を指差した。目を凝らして見てみると、西門の外に広がる暗闇の中に無数の赤いポツポツが見えた。


「あれは・・・まさか!?」


コンフィーヤ公爵が目を見開いてガバッと柵に身を乗り出す。


「魔物だ。魔物の眼だ・・・」

「え?あれ全部?」


 だとしたら、もう100匹どころじゃないよ。これは王様が取り乱すのも仕方ないよね。普通に考えれば国の終わりだよ。


「国王様!大変です!黒い霧が突然魔物に・・・!」


汗をダラダラに流した騎士さんが下の階から報告に上がって来た。王様は顔を真っ青にして絶望感たっぷりの表情で口を開く。


「知っている。見ていた。私の代でこの国を終わらしてしまうのか・・・?」

「終わらないよ!」

「「え?」」


わたしはキメ顔で皆の前に飛んで出る。


 ここはわたしの見せ場だね!

読んでくださりありがとうございます。傭兵さん落ちる。格好付ける宰相。見せ場を見つけるわたし。の3本でした。

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