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227.スズメの我儘とオームの希望

食器を回収しに来たメイドさんに、夕食の席にわたしも参加することを伝えたら、回収するハズの食器を放置して、顔色を変えて「陛下に伝えてまいります!」と勢いよく走り去っていった。


 あ、わたし城下町で買い食いしたせいでお腹いっぱいだからあんまり食べられない・・・って言う前に居なくなっちゃったよ。


ディルがわたしに貰った指輪を色んな角度から満足そうに眺めているのを、わたしが満足そうに眺めていると、2人のメイドさんが迎えに来た。片方は放置された食器を回収して、もう片方はわたし達を夕食の席に案内してくれるらしい。


「どんな料理が出てくるんだろうな!」


王様達との食事だというのに、ディルは料理にしか興味が無いらしい。ディルも図太くなったものだ。まぁ、わたしも今更緊張なんてしてないんだけどね。今までこういう機会は何度もあった。最初から緊張してなかったけど。


右足と右手を同時に前に出して歩いているメイドさんに案内されて、豪華な二枚扉の前に着いた。


「す、すす既に国王様、ヒバリ様、オーム様、スズメ様がいらっしゃいます! どうぞお入りくださいませ!」


 めっちゃ声裏返ってるじゃん。


メイドさんがゆっくりと扉を開けてくれる。中はたくさんの燭台が置いてあって明るい・・・と思ったけど、よく見たら燭台じゃなくて、何か魔石を使った魔道具みたいだ。真ん中に大きな四角いテーブルがあり、そこに王様達が座っている。わたし達が入ってきたことに気が付いたらしい1人の男性が使用人に椅子を引かれて素早く立ち上がった。


「お初にお目にかかります。雷の妖精ソニア様。私はカイス妖精信仰国の国王、イーグル・ピス・カイスでございます」


そう言ってわたしの前に跪いた男は、キンケイとニッコクにそっくりだった。


 そういえば、キンケイとニッコクは国王様の影武者って言ってたもんね。激似なのも当然だ。整形でもしたのかな?


「初めまして。知ってるとは思うけど、わたしはソニアだよ。まだ8歳だけど、こう見えても大人だから、子供扱いしないでね」


 スズメみたいに、と心の中で付け加えておく。妖精としては8歳だけど、人間だった頃も足したらもう三十路だもん。立派な大人だ。この場だと、たぶん四十代くらいの王様と王妃様の次に大人だ。


イーグルがメイドさんに目配せすると、メイドさんがわたし達を席に案内する。


「ソニア様はこちらに。ディル様はこちらにおかけ下さい」


わたしとディルは隣同士だ。わたし用に小さな可愛らしい椅子がテーブルの上に置かれている。わたしの向かいにスズメが、ディルの向かいにオームが、そしてわたしとスズメの間、四角の違う辺に王様と王妃様が座っている。心なしか、オームの顔色が悪い気がする。


「ソニア様。お食事の前に、お詫びを。スズメの報告によって分かったのですが、オームが裏で操っていた闇市場関係で、ソニア様とディル様、そしてくるみ村に大変なご迷惑をお掛けしたようで・・・大変、申し訳ございませんでした」


王様だけでなく、ヒバリとオームと、スズメまでが一斉に深く頭を下げる。そして王様は、オームが闇市場を使ってわたし達に何をしてたのか、丁寧に教えてくれた。オーム自ら王様に自分の行いを話したらしい。


オームの意思とは関係なく妖精(わたし)に手を出して勝手に自滅した闇市場を、各地で再結成させたこと。空の妖精に金髪の妖精を連れてこいと命令もとい脅されて、闇市場を使って各地でわたしを連れ出そうとしたが、失敗したこと。同じ金髪の妖精であるナナちゃんを狙ったミリド王国を使ったくるみ村への襲撃・・・などなど、色々とわたしの知らないことまで話してくれた。オーム曰く、わたしやディルに危害を加えるつもりは無かったらしい。


 思った以上に迷惑掛けられてたんだね・・・。空の妖精の言う通り、影響力はあるけど、その使い方を間違ってるよ。最初から事情を説明してくれたら、もっと早い段階でこの国に来てたかもしれないのに。


「ソニア様はオームを次期王に推薦してくださるそうですが、この事実を知ってもなお、お気持ちは変わりませんか?」


王様はじっと確かめるようにわたしを見つめている。オームは表情は変わらないものの、机の上に置いてある拳がきつく握られている。スズメは気遣う様な目線をオームに向けたあと、何かを諦めるような、覚悟を決めるような目で顔を伏せた。ディルは目の前にある美味しそうな料理を涎が垂れそうな顔でじーっと見つめている。


 ちょっとディル! あなたもまったく無関係な話では無いんだよ!? というか、闇市場のせいで死にそうになったんだから!被害者なんだよ!? そこんとこ分かってる!?


「ディルはどう思ってるの?」

「料理が冷めそうだと思ってる」

「そうじゃなくて、闇市場のこと! 話聞いてた!?」

「聞いてたけど、どうでもいいよ。もう終わったことだ。ソニアの好きにしたらいいと思う」


 面倒なことをわたしに丸投げしてきたよ!


「ハァ・・・ねぇ、イーグル。もし、わたしがオームを次期王に推薦しなかったら、どうなるの?」

「スズメを次期王とし、オームにはその補佐をしていただきます」

「補佐・・・罪に問われたりはしないんだね」


 てっきり、罪人として扱われるのかと思ってたよ。


「ソニア様がそうお望みでしたらそう致しますが、オームは国にとって、なくてはならない存在なのです。私としては、今回の罪は公にせずに、スズメの補佐をしつつ、何か償いをさせるつもりです。これ以上、王族を減らすと国が上手く立ち行きません」

「ふーん・・・」


 わたしに国のことは分からないし、まぁ、それが妥当なのかな? オームはちょっと可愛そうだけど、罪人として扱われないだけマシだし、そもそも悪いことしてたんだからしょうがない。


「じゃあ次期王はスズメに・・・」

「ソニア様」


わたしの言葉を遮って、スズメがスッと手を挙げた。そのグレーの瞳が今までのスズメからは想像出来ないほど真剣な光を帯びていて、わたしは思わずゴクリと唾を呑む。


「このようなこと、本来なら言うべきではないでしょう。ですが、わたくしは自分の気持ちをソニア様に隠したくありませんし、ソニア様やディル様、そしてヨームお兄様のように、自由に生きたいのです」


スズメが何を言いだすのか、何となく見当がついた。


「わたくしはっ・・・王にはなりたくありません! どうか次期王には、わたくしの兄、オームを推薦して頂きたいですわ!」


 そうだったよね。学園にいた時も、スズメは王になりたくないと言っていた。本当は好きなものに正直に生きたいと言っていた。


「スズメ! 我儘を言うでない! もうすぐ成人だと言うのに・・・それに、相手は妖精様だぞ!」


イーグルがスズメを厳しく叱りつける。それでも、スズメは真っ直ぐにわたしを見ている。オームはそんなスズメの横顔を申し訳無さそうな顔で見ていた。


「お父様。最低限の王族の義務は果たします。ですが、王にはなりたくないのですわ。なりたい者がなればいいではないですか。わたくしは、王の補佐をしつつ、ドレッド共和国の学園祭の時のように、気の合う仲間達と研究をして過ごしたいのです」

「お前の研究をしたいという望みは初耳だが、王になりたくないという言葉は以前にも聞いた。あの時は了承したが、今は状況が変わった。お前は学園で妖精様とお友達になるというとんでもない功績を残した。つい先ほど届いた報告では、街中で仲睦まじそうに、デートと言いながら妖精様と屋台を練り歩いていたと聞いた」


ディルがピクリと動いて、疑う様な目でわたしとスズメを交互に見る。


 た、確かにデートとか言ってた気がするけど、違うからね!? 友達以上の仲とかでは無いからね!?


テレパシーで必死に弁護すると、ディルは溜飲が下がったように溜息を吐いた。心配し過ぎだよ・・・嬉しいんだけどね?


「スズメ、もはや国民はお前が次期王だと言い始めている。王族として、民の期待を裏切るな」

「ですが・・・」


王様とスズメはどちらも引く姿勢を見せない。ディルがわたしの肩をちょんちょんと叩いた。


 うん、早く料理が食べたいから終わらせてくれ・・・ってことだね? ディルにとっては誰が王でもどうでもいいみたい・・・いや、わたしなら悪いようにはしないだろうっていう信頼かな? そうだと嬉しいな。


「あ~・・・コホン!」


わざとらしく咳払いをすると、王様とスズメがハッとしたように姿勢を正し、口を噤んでわたしを見た。


「えーっと・・・スズメは王になりたくないんだよね?」

「はい。そうですわ」

「オームは王になりたいんだよね?」

「ソニア様とディル様が許してくださるのなら・・・」


オームとスズメが縋るようにわたしを見る。オームの後ろに控えているカササギも同じような目で見てくる。


 ・・・ところで、カササギが抱いてる黒猫様って、あれからずっと抱き続けてたわけじゃないよね? さすがに違うよね?


「ソニア様?」

「え、ああ! コホン! じゃあ、次期王はオームで!」


スズメが安堵の息を吐き、オームが唇を噛み締めて、深く頭を下げた。そしてイーグルはそんな2人を見てから、わたしを見て難しい顔で口を開く。


「ソニア様・・・よろしいのですか?」

「いいよ、いいよ。空の妖精もオームの所業を知ったうえで王の資質があるって言ってたし、何より、スズメが可哀そうだもん」

「ソニア様・・・」


オームが椅子から立ち、わたしの隣りに移動して跪いた。


「ありがとうございます。ソニア様。ソニア様がお望みであれば、私の一生を貴女に捧げたいです」

「い、いらないです」


 急に何言ってんの!?


「あ、あのね。別にオームを選んだんじゃないからね!? スズメが王になりたくないって言ったから、スズメの希望を聞いたの! スズメには学園でたくさんお世話になったから、そのお返しみたいなもので・・・とにかく! わたしに感謝するのは御門違いだから! ・・・ひぃ!? 手の甲に触れようとしないで!!」

「手の甲に額を当てることは、最大の敬意の証なのです・・・どうか・・・」


バシッ


わたしのちっちゃな手を取ろうとするオームの頭に、ディルがいきなりチョップした。王子様だろうとお構いなしだ。


「ソニアが嫌がってるだろ。放せ」


 ひぃ! こわいこわい! ディルが過去一こわい顔してるよ!


シュンと落ち込んだオームが椅子に座る。


「では、当初の予定通りに。空の大妖精様が企画した、ソニア様の多次元一可愛い歌のステージの準備をオーム主導で行ったあと、正式に次期王と発表する、ということでよろしいかしら?」


今まで黙っていたヒバリがおっとりとした口調で言う。


 あれ? 【歌納祭】じゃないの? いつのまに【多次元一可愛いソニア様のステージ】になってるの!?


「色々と言いたい事や、取り決めたいことなどはあるが、とりあえずそれでよかろう。今は食事の場だ。また後日詳細を詰めることにしよう」


 本当だよ。食事の前になんて重たい話してくれるんだよ。完全に料理が冷めちゃったよ。


やっと食事の時間だ。とは言っても、わたしはお腹いっぱいなので、せっかくわたし用に小さく切り分けてくれている料理も、ディルにあげちゃう。


「あら? ディル様、そちらの指輪は・・・とてもお似合いですわね」


あまり箸が進んでない様子のスズメが、ディルの付けている指輪を見て、わざとらしく褒めた。


「ふふん、ソニアがくれたんだ。いいだろ? 魔石も嵌め込めるんだぞ」


自慢げにスズメに指輪を見せびらかすディル。なんだか恥ずかしいからやめて欲しい。


「フフッ。でしたら、魔石の加工はわたくしの管理している研究所にお任せくださいませ」

「研究所? そんなのを管理してるのか?」

「ええ。とても広い実験場もあり、わたくしはよくそこで魔石の扱いを練習していましたの」

「へぇ~~、じゃあ俺もそこ借りていいか? 試したいことがあるんだ」


そう言いながらわたしを見る。


 あ、わたしの電撃が効かないかどうかを試すんだね。


「いいですわよ。ついでに師匠(せんせい)も紹介しましょう。複数の魔石を扱うのに苦戦していたでしょう? きっと厳しく指導してくださると思いますわ」

「助かるよ」


スズメとディルの会話がひと段落したところで、イーグルが「ディル様」と声を掛けた。


「挨拶の時に聞かれたディル様のご両親ですが、やはり、オームの報告にあったドレッド共和国の件以降は行方が分かりませんでした。申し訳ありません」

「そうですか。・・・調べてくれてありがとうございます」


 挨拶の場にわたしはいなかったけど、ちゃんと聞くことを聞いてたんだね。偉い。情報が無かったのは残念だけどね。


「ですが・・・」

「ふぁ~~~ぁ、難しいお話をしたせいで眠くなってきちゃったよ・・・ん?王様、何か言った?」

「いえ、何でもございません」


首を傾げながら、クシクシと目を擦る。


「眠ってもよろしいですわよ。わたくしがお部屋まで送り届けましょう」


スズメが自分の料理をそっと隣のオームに押し付けながら言う。

 

 そういえば、スズメもわたしと一緒に買い食いしてたもんね。小食だって言ってたし、夕食が入らないのかな。


スズメが椅子から立ち上がり、わたしのもとにやってきてそっと手を差し伸べる。


「じゃあ、ディル。先に戻って寝てるね。おやすみ」

「ああ、おやすみ。ソニア」


無我夢中に食事していたディルが、手を止めてわたしを見て微笑む。わたしも微笑み返してから、スズメの手のひらの上に乗った。ちょっと手汗が気になる。


「では、お父様、お母様、お兄様、ディル様、わたくしも先に失礼いたしますわね」


スズメがペコリとお辞儀をしてから、メイドさんに開けて貰った扉から退室していく。


「ソニア様。おやすみなさいませ」


わたしはスズメに優しく背中をポンポンされながら、眠りについた。


「子供扱いしにゃいでよぉ・・・すやぁ」

読んでくださりありがとうございます。

ソニア「Zzz・・・」

スズメ「寝顔が愛しすぎますわ・・・・」(*´Д`)ハァハァ

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