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226.接吻で爆上がりですわ

「ほら、ソニア様。着きましたわよ」


ディルがいる客室の扉の前。後ろからスズメにポンと背中を軽く押される。


「スズメェ・・・」

「そ、そんな可愛いすぎる顔で見つめられても・・・わたくしは一緒に行きませんわよ。ちゃんとソニア様の言葉でディル様と仲直りしてくださいませ」


 分かってるよぉ・・・。


「ふぅ・・・1人で行くから、扉開けて?」


わたしは今、ディルにあげるための指輪を両手で持ってるから自分では開けられない。いや、別に両手が空いてたとしても、こんな巨大な扉を開けれるわけないんだけどね。


「あ、そうですわ。ソニア様」


扉の取っ手に手を置いたスズメが、悪戯っぽく口角を上げてわたしを振り返る。


「その指輪を贈るついでに、口付けの一つでもして差し上げたらどうです? ディル様の好感度が爆上がりですわよ」

「え、はい!? 口付け!? 爆上がり!?」

「はい。接吻で爆上がりですわ」


 そ、そんな恥ずかしいことするわけ無いじゃん!


口をパクパクするわたしに、スズメは「頑張ってくださいませ」と笑って、扉を開けた。


 頑張ってきます! 頑張って仲直りしてきます! ・・・なんか、初めて誰かと喧嘩した幼い子供みたいだね。


元気の無いディルが待ってるんだろうと思ったら、そんなことは無かった。めっちゃ食事中だった。テーブルいっぱいに載せられた料理をバランス良く順番に食べている。


 ・・・ん? 順番に?


ディルはいつも、好物から先に平らげる。それによく見ると食べるスピードもいつもよりも遅い。


 分かりずらいけど、ディルにしては元気が無いみたい。わたしが入って来てもまるで気が付いてないし。


わたしはそーっとテーブルの上に移動する。無心で料理を頬張るディルを見上げて、声をかけようとしたら、いきなりディルに鷲掴みにされた。ビックリして指輪をテーブルの上に落としてしまった。


「うひゃあ!?」


 さ、触られた!?


「ん? なんか柔らかい・・・ソニア!?」


慌ててバッと手を放したディルが、目玉が飛び出るんじゃないかというほど目を大きく見開いて、わたしと自分の手を見比べている。


「え、俺、今ソニアの・・・」

「えいっ!」

「むぐっ!?」


近くにあった肉団子をディルの口めがけてぶん投げた。


 これで誤魔化されて!


「ソニア・・・」


口を拭いて、今度はわたしを見て眉を下げるディル。


 何を考えてるんだろう・・・じゃなくて! 謝らないと!


「ごめんなさい! ディル」

「ごめん・・・ソニア」


わたしの大きな「ごめんなさい」とディルの小さな「ごめん」という言葉が重なった。お互いを見合うわたし達。


「その・・・」

「えっと・・・」


 き、気まずいよ・・・。でも、謝らないと。大人のわたしから、大人らしくちゃんと謝らないとっ。


「ディル・・・わたし、言い過ぎちゃってごめんなさい。大嫌いなんて言っちゃって、ごめんなさい!」


落っことしちゃった指輪を拾って、頭を下げながらディルに差し出す。


「これは・・・?」

「手」

「え?」

「手、出して!!」


顔を上げて、両手で指輪をブンブンと振りながら叫ぶ。


 もう! 察しが悪いんだから!


ディルは困惑顔で右手を差し出す。


「違う! そっちじゃない!」


指輪を振ってペシッと右手を追い払う。ディルは更に頭の上にクエスチョンマークを増やしながら左手を差し出した。わたしはディルの左手を見つめて、軽く深呼吸する。妖精だから呼吸の必要は無いけど、気分的なものだ。


 よしっ。やるぞ! わたしはやる時はやる女! やると決めたらやる女! 大丈夫!


わたしは指輪を持ち直して、慎重に、丁寧に、ディルの左手の薬指に指輪を嵌めた。


 ちょっとサイズが大きかったかな?


「指輪? くれるのか?」


指輪とわたしを見て、目を丸くするディル。わたしはぴょんとディルの左手の上に乗って、そのまま腕をぴょんぴょんと飛んで、勢いのままディルの左頬にチュッ。


 きゃああ! やっちゃった! やっちゃった! わたし、いやらしい女だよ!


自分でやったものの、あまりにも恥ずかしくて、ビュンと飛んで部屋に置いてあった花瓶の後ろに隠れる。そーっと顔を覗かせると、ディルは真っ赤になった顔で左の頬を手で押さえて、ポカーンと口を開けてわたしを見てた。


「可愛すぎかよ・・・」


ディルが小さく何か呟いた気がするけど、半分パニック状態のわたしには聞こえない。


 スズメ! 言う通りに口付けしたよ!? さすがに口にするのは恥ずかしすぎてまだ出来ないけど、でも、やったよ!? 今、ディルの好感度爆上がりしてるんだよね!? 赤面具合と比例して、好感度も上がってるんだよね!?


ディルは気持ちを切り替えるようにブンブンと頭を振って、椅子から立ち上がった。そしてゆっくりと歩いて来て、花瓶の後ろから顔を覗かせるわたしと視線を合わせるように少し屈んだ。


「ソニア。8年前・・・いや、もう9年近く前か。村が炎上した原因がソニアの雷だったことを黙っててごめん。それから、咄嗟に隠そうと噓を付いてごめん。俺、本当にソニアに嫌われたんじゃないかと思って・・・」


情けない声を出して、「こわかった」と言うディル。わたしは花瓶の後ろから出て、ディルに手招きする。近くに寄ってきたディルの頭をそっと撫でた。


「何度も言うけど、わたしはディルのことを嫌いになったりしないよ。絶対に。・・・ディルは?」


 答えが分かってて聞くのは、なんだかずるっぽいけど、それでも、ちゃんとディルの言葉で聞きたい。


「俺も、ソニアが何をしたって、絶対に嫌いにならない。例え故郷の村が燃えた原因だったとしても、だ」


 ズキッと心が痛むけど、ディルが真摯にわたしと向き合ってくれてると思うと、この痛みもちゃんと受け入れようと思える。そして、その事実を知ったから、より一層、力の使い方には気を付けようと心構えが出来る。自分の失敗を知ることは大事だ。それを教えてくれる存在も大事だ。


「フフッ。じゃあ、これで仲直りだね☆」


パチッとウィンクしたら、ディルもバチンと慣れないウィンクで「だな!」と返してくれた。


 よかった。仲直り出来た!


「もうお互い、隠し事はないよね!」


「おう!」とか「ああ!」っていう元気な返事を期待してたんだけど、ディルは「あ、あ~・・・」と曖昧な返事をして、頬を染めてわたしから目を逸らした。


 あ・・・もしかして、わたしに恋してること・・・かな? それを言ったら、わたしもディルにこ、恋しちゃってるのを隠してるわけだけど・・・別に隠し事ってわけじゃないよね? この気持ちはそういう括りにはならないよね?


お互いがそーっと目を逸らす。非常に気まずい。そして数秒後、先に口を開いたのはディルだった。


「その・・・実は、さっき、 間違えてソニアを掴んじゃった時に、ソニアのおっ・・・胸を指で触っちゃった。ありがと・・・じゃなくて! ごめん!」


 そ、それは隠しておいていいんだよ! わざわざ真面目に謝らなくていいよ! 余計気まずいわ!


「・・・・・・」

「・・・・・・」


恥ずかしいし、気まずい。なんとなく胸元を手で隠して、赤面するディルを睨みながら別の話題を考えていたら、ふと思い出した。わたしもディルに隠し事をしていることを。


 別に隠してたわけじゃないんだけど、言って無かったよね。ディルになら、別に言っても態度を変えられたりしなさそうだし。


わたしは気まずい空気を変えるように、大きな声で「あ、あのね!」と顔を上げる。


「わたしね。実は元人間なんだよ! ディルよりも、歳上のお姉さんだったんだよ! 死んで、気が付いたらちっちゃい妖精になってたの!」


まだ薄っすらと頬を染めながらわたしの胸をチラチラと見ていたディルは、わたしの言葉を聞いて一瞬だけ目を見張ったあと、「ぷっ」と吹き出した。


「あははは!ソニアが歳上のお姉さんか! あははは!」


ディル、大爆笑である。ひとしきり大笑いしたディルは「はぁ」と深呼吸してから優しい笑みをわたしに向ける。


「ありがとな。変な噓まで吐いて気を使ってくれて。お陰で元気が出たよ」

「うんうん。これでわたしも噓を吐いちゃったからお互い様だね・・・・・・って、なんでやねん!」


 噓と違うよ!


「わたし、本当に大人の人間だったんだよ!」

「はいはい、ソニアはお姉さんなんだもんな。分かったよ」


背伸びをしている幼子を見るような目でわたしの頭をクリクリと撫でてくる。


 絶対に分かってないよ!


「本当に大人の女性だったのにぃ・・・」

「ははっ、じゃあ、大人の女性のソニアは、頬じゃなくて口にもキス出来るよな!」

「そ、それは・・・!」

「そんなんで顔を真っ赤にして羽をパタパタさせてるようじゃあ、まだまだ子供だな!」


 な、なにさ! 言ってる本人だって、言いながら耳を真っ赤にして視線を泳がしてるくせに! 必死に背伸びしてるのはどっちさ!


・・・。



「なぁ、ソニア。真面目な話なんだけどさ」


再び食事を再開させたディルが、頬一杯に肉団子を詰め込んで真面目とは程遠い顔でそう言った。


「くるみ村が燃えた原因がソニアの雷だって聞いて、どう思った?」

「・・・くるみ村が燃えたのは9年くらい前でしょ? わたしが生まれた時に無意識に周囲に落としちゃってた雷の一つが当たっちゃったのかなって・・・」

「・・・それから?」

「それから、わたしの、妖精の力を使うのが怖いなって・・・たまたま死者が出なかったからいいけど、力加減を間違えて人を殺しちゃったりしたら・・・嫌だ。でも、力があるのに、ディルが戦ってるのを見てるだけなのも、嫌だ」


思ったことを、そのまま話した。ディルは一言「そうか」と頷いて頬に詰め込んでいた肉団子を飲み込んだあと、力強い瞳でわたしを見た。


「ソニア。やっぱり俺に妖精(ソニア)の力で攻撃してくれ!」

「え!? 今の会話の流れから何でそうなるの!? 意味が分からないよ!」


 力を使うのが怖いって言ってるのに、どうしてその力で自分を攻撃しろと!?


「海賊船でソニアが間違って俺に攻撃した時、俺にはソニアの電撃が効かなかっただろ?」

「うん・・・でも、偶然かもしれないし、リスクが大きいから試すのは無しって・・・」

「ああ、あの時はそれで納得した。でも、やっぱり納得出来ない。もし、俺にソニアの攻撃が効かないなら、俺はソニアが力加減を間違えたり、狙いを間違えて誰かを攻撃しそうになっても、庇える。それに、万が一の時は俺に構わずに敵に電撃を放てる」


 ・・・それでも、やっぱりリスクの方が大きいよ。試しで攻撃してディルに電撃が効いちゃったら、死んじゃうかもしれないもん。


フルフルと首を振るわたしに、ディルは箸を置いて優しく微笑む。


「最初は弱っちい電撃からでいい。何度かふざけて俺やデンガに電撃を放ったことがあっただろ? あれくらいでいいから。ソニアが誰かを殺しちゃって、それでソニアが傷つくのは嫌なんだ。ソニアの心を、俺は守りたいんだ。ソニア、お願い」

「アレはほんの静電気くらいだったけど・・・それくらいからでいいなら。分かった。いいよ」


 そんな子犬のような瞳でわたしの心を守りたいとか言われたら断れないよ。


ディルは「ありがとな」とわたしの頭を撫でる。


 相変わらず、ディルの頭の撫でる力加減は丁度よくて気持ちいいんだから。


わたしはぷいっとそっぽを向きながら、「それで、いつ、どこで試すの?」と早口で聞く。


「そうだな・・・これから夕食を王様とか王妃様とかと一緒にとる予定になってるらしいから、その時にでもどこかいい場所が無いか聞いてみよう」

「そうだね」


 ・・・ん? え!? 今なんて!?


「これから夕食って言った!?」

「ああ、スズメとか王子様とかも呼ぶって言ってたな」

「いや、そうじゃなくて・・・ディルが今食べてるの夕食じゃないの?」

「ん? これは間食だぞ?」


 あ~・・・そうだったね。これがディルだ。さすが食べ盛り。成長期。


「いっぱい食べてすくすく大きくなるんだよ」

「ソニアもな」

「わたしはいくら食べでもこれ以上おっきくならないよ!」


 馬鹿にして! 人間だった頃は子供のディルよりは身長高かったんだよ!? ・・・あれ? 高かったよね? 14歳の男の子って、思いのほか大きいんだよね。でも、ディルは背が低い方だし、たぶんわたしの方が大きかったハズ。


「そういえば、俺と離れてる間、ソニアは何をしてたんだ?」


間食を食べ終わったディルが、食器を一か所にまとめながら聞いてくる。わたしは黒猫様の背に乗って街中を駆けたこと、第一王子のオームに会って持て成されたこと、空の妖精を紹介されて、そこでお話した内容を、簡単に話した。


「つまり、その王子様が闇市場の一番偉い人ってことか?」

「・・・というよりは、裏で操ってた人、かな?」

「どっちも同じだろ」

「まぁ、そうだね」


ディルは眉間に皺を寄せて数秒考えたあと、「ま、ソニアがいいならいっか」と考えることを放棄した。


「そよりも、ソニアが歌を歌うのか。楽しみだな」

「わたしはドキドキだよ・・・」


「ソニアでも緊張するんだな!」と笑うディル。そのディルの左手の薬指に見える指輪はわたしが贈ったものだ。


この世界では、あそこに指輪を嵌めることに大した意味は無いみたい。でも、「妖精のわたしでも、人間のディルと結婚出来たらな」「わたしのディルが誰にも取られないように」と、そんな想いを込めて、わたしはあの指に指輪を贈った。


 完全に自己満足だし、まるでプロポーズみたいだけど、誰も分からないんだし、いいよね?


そんなことを思いながら、わたしは何も嵌められていない自分の左手の薬指を見下ろした。

読んでくださりありがとうございます。


ソニア「うひゃあ!?」

ディル(クソッ! 身体強化を使って全力で指に神経を集中させるんだった!)


ソニア「ちゅっ」

ディル(クソッ! 身体強化を使って全力で頬に神経を集中させるんだった!)

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