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224.謝る時は・・・

「・・・ってことで、お姉ちゃんが歌を歌ってくれるから、君達はその準備とか、色々とお願い。それが無事に終わったら、次期王に推薦したげる。よろ」


空の妖精が音の通さない膜の中でわたしと話していた内容をオームとカササギに説明して、軽い口調で準備を頼んだ。


「なんと! 大妖精であるソニア様自ら歌ってくださるのですか!?」


オームがキラキラと感極まったような瞳で見つめてくる。やめて、そんな目でわたしを見ないで。わたしは引き攣った笑顔でコクリと頷くことしか出来ない。


 ・・・引き受けちゃったものはしょうがない。やるよ。やってあげるよ! ・・・あとでこっそり歌の練習しなきゃ!


どちらにしろ、わたしが歌を歌うのは記憶を取り戻す為には必須・・・らしい。


 空の妖精が言うには、各地で偉い妖精が管理しているわたしの記憶が入ったRAMディスクを、ガマくんが集めてくれてるらしい。そのガマくんにわたしの居場所を知らせる為に、そして、多くの人間を味方にする為に、わたしは歌を歌わなきゃいけない・・・って改めて整理してもちょっと納得出来ない部分があるよ!? 歌う必要本当にあるかな!?


「多次元一可愛いお姉ちゃんの歌を、最大限活かせる、めっちゃ凄いステージ、用意して。マジで楽しみにしてるから」


わたしとオームの二方向に凄まじいプレッシャーを与えて、空の妖精は「またね」とわたしの頬をそっと撫でてから空の滝壺へと消えていった。


 ・・・多次元一可愛いってなに!?


啞然とするわたしの横で、オームがやる気に満ちた顔で立ち上がった。


「カササギ、ここが最後の正念場だ。なんとしても、多次元一可愛いソニア様のステージを成功させ、次期王に推薦して頂くぞ!」

「はいぃ!」


 だから、多次元一可愛いってなに!? 妖精になってから、ちっちゃいからか、何かと可愛いと言われることが多くなって言われ慣れてきたけど、それは次元が違うよ! 意味不明過ぎて褒められてる気がしない!


「それで・・・ソニア様はこの後どうされますか? 私とカササギは部屋に戻り、ソニア様のステージの構想を練る予定ですが、ソニア様も参加なさいますか?」


オームとカササギと、ついでに黒猫様が、空中で「うぐぅ」とプレッシャーに押しつぶされそうになっているわたしを見上げる。


「ううん、わたしは別でやることがあるから・・・ディルに会わないと」


 いい加減に変な意地張ってないで仲直りしないと、時間が経つにつれてどんどん「ごめんなさい」が言い出しにくくなっていっちゃう。


わたしの呟きを聞いたオームがカササギに視線を移す。カササギは黒猫様を抱え直して少し考えてからわたしを見て口を開いた。


「今ディル様はぁ、国王様に挨拶したあとぉ、スズメ様の案内で客室に向かっている頃だと思われますぅ」

「どの客室か分かるか?」

「三階にある最上級の客室ですぅ」

「では、そこまで私共で案内いたしましょう」


わたしは「よろしくね」と言って黒猫様の頭の上に座った。ふわふわ飛んでると、獲物を狙うような目でじーっと見てくるんだよね。さっきもカササギの腕の中でずっとわたしと空の妖精を目で追ってたし。こわいよ。食べられちゃいそう。


 客室に着くまでの間に、謝る心の準備をして置かないと・・・。


・・・って思ってたら、客室に着く前に、廊下の正面からディルとスズメが歩いてくるのが見えてしまった。


 ・・・あ、謝らないと! もう先送りにしちゃダメだ! ごめんなさいって! 言うんだ!


「あら、ごきげんよう。オームお兄様。・・・あら? 一緒にソニア様がいらっしゃったように見えましたけど・・・どちらに?」


 ・・・やっちゃった! とっさに近くに置いてあった壺の中に隠れちゃったよ! だって! 何だか分からないけど、すぐ横に高そうな豪華な壺が置いてあったんだもん! どうしてこんな廊下の端に空の壺が置いてあるの! 壺は壺として使いなよ! 漬け物でも入れて置きなよ!


「何を言ってる。ソニア様ならこちらに・・・あれ? さっきまでいらっしゃったハズだが・・・」

「・・・まぁ、いいですわ。それよりも、一応紹介させてくださいませ。こちら、ソニア様の愛し子のディル様ですわ」

「はじめまして、ディルです」


 ・・・あれ? 心なしかディルの声が元気無い気がする。


「ああ、そうですわ! せっかくですから、ディル様の案内を任せますわ!」

「は? 何を突然・・・」

「わたくし、師匠せんせいに学園での報告を急かされているのです! では、そういうことですので!」


タタタッとスズメが走り去る音が聴こえる。


「ちょっ・・・・・・ハァ、まったくあのバカ妹は・・・。申し訳ありません。ディル様。そういうことですので、ここからは私が案内させていただきます。・・・カササギ、一応城の中で軽くソニア様をお探ししてくれ、その後、私の部屋に来い」


オーム達が立ち去る音を確認してから、「居なくなったかな?」と壺から顔を出す。


 ふぅ、誰もいな・・・


「ソニア様」

「うひゃあ!?」


パリーン!!


突然、背後からスズメの声が聞こえた。驚いて、壺から勢い良く飛び出したのと同時に高そうな壺を床に落としてしまった。


「ああ・・・高そうな壺がぁ・・・」

「大丈夫ですわ。妖精(ソニア)様がやったことですもの。誰も責めませんし、むしろ、この壺の破片に新たな付加価値が付きました。国宝になりました」


 責められなかったら何をやってもいいわけじゃないんだよ。そして、こんなものが国宝になるわけない。ただのガラス片だよ。


「・・・っていうか、何でまだここに居るの! さっき立ち去ったよね!? せんせい? のところに行くとか何とか言ってたじゃん!」

「まぁ、そう可愛くプリプリと怒らないでくださいませ」


スズメはそう受け流しながら、わたしが割った壺の破片の上に「ソニア様がお割られになった壺」と書いた紙を丁寧に置く。


「何それ、やめてよ! 新手のイジメ!?」


両手をブンブンと振って訴えるけど、スズメに「フフッ」と微笑ましいものをみるような目で受け流された。


 くぅ! 出会ったばかりのスズメなら、慌てて床に頭を擦り付けてたハズなのに! 妖精(わたし)に慣れたせいで扱いが子供みたいになってるよ! わたしは立派な大人の妖精だよ!


「ソニア様がこの壺の中に隠れていらっしゃったので、適当に口実を作ってソニア様が壺から顔を出すまで少し遠くから見守っていました」

「隠れていらっしゃったのでって・・・よく分かったね?」


 人の目では追えないような速度で隠れたつもりだったんだけどな・・・。


「確信は持てなかったのですが、カササギが抱いていた黒猫がじーっと壺の方を凝視していたので」


 猫の動体視力すごっ!


「それと、ディル様もチラチラと壺の方を気にしていらっしゃったので」


 ディルの動体視力もすごい! 猫並み!


「それで、ソニア様はディル様と仲直りしないんですの?」

「うっ・・・」

「ディル様、とても落ち込んでいましたよ。正直に言うべきだったと」


 わたしも・・・ディルがわたしの為に隠してたのは分かってたのに、言い過ぎちゃった。


「・・・でも、船から降りる時はディル、スズメと楽しそうに話してたじゃん。あの時、気にしてるのはわたしだけなんだと思った」

「そんなわけありませんわよ。あの時のディル様は、周囲の雰囲気を暗くしないように無理に笑っていましたわよ?」

「・・・そうなの?」

「そうですわ」


 そっか・・・わたし、少し捻くれた目で見てたみたい。ディルの表情を見間違うなんて。スズメも気付いてたのに。


「仲直り、します?」


優しい微笑みを浮かべてわたしを見るスズメ。


「うん。仲直りしゅる・・・」


 嚙んじゃった。


「フフフッ、相変わらず可愛らしいですわね。では、ディル様の所に案内しますわ」


スズメが手を差し伸べる。わたしはその手の上にちょこんと座った。


 今度こそ、心の準備をしっかりとして、謝るんだ!


・・・って思ってたら、ディルのいる客室に着く前に、頭に直接(ソニアちゃん!)というマリちゃんの声が響いた。


 マリちゃん?

(あ、繋がった! ソニアちゃん久しぶり! マリだよ!)


マリちゃんからのナナちゃんを通じたテレパシーだ。何だか凄く久しぶりにマリちゃんの声を聞いた気がする。最近はナナちゃんとばかりテレパシーで話してて、マリちゃんとは話してなかったからね。


 久しぶりだね、どうしたの?

(うん。ナナちゃんからね。ソニアちゃんが私のこと心配してたって、あと、フィーユおばちゃんがソニアちゃんに私を助けるように言われたって・・・だからね、ありがと!」

 わざわざその為に連絡してきたの? ありがとう、いい子だね!


焦っていた心が和む。


(最近はね。ミドリちゃんはくるみ村にぱったりと来なくなっちゃったけど、仙人掌の妖精さんが遊びに来るようになったんだよ)

 仙人掌の妖精? ・・・あぁ、緑の森に居た頃に何度か見かけたことがある気がするよ。頭にお花の飾りを付けた女の子だよね?

(うん、ソニアちゃんのファン? なんだって!)

 え、ファン? わたしの?

(ソニアちゃんのお話をしてあげたらね、羽をパタパタさせて喜ぶんだよ)


何だか記憶の中の仙人掌の妖精と一致しない。わたしの記憶の中では、仙人掌の妖精は大人しくていっつも陰からこっそりと様子を伺ってるような感じだった気がする。


(ねぇ、ソニアちゃん達は今何してるの? ディルお兄ちゃんは元気?)


ディルの名前を聞いてドキッとする。一瞬強張ったわたしに、わたしを手の上に乗せているスズメが首を傾げたのが分かった。


 ディ、ディルはいつも通り元気だよ! そ、それよりも! えっと・・・あっ、そうだ! ナナちゃんから聞いたけど、マリちゃん、ヨームの前髪を勝手に切って喧嘩してたらしいじゃん! ちゃんと仲直りしたの?


心にダメージ。盛大なブーメランを投げた。


(し、したもん)

 ・・・ホントに?

(フフッ、大丈夫ですよ。ちゃんと仲直りしてましたよ!)


ナナちゃんの声だ。


(マリちゃんは、焼けた村の中で一生懸命に探したお花を持って、恥ずかしそうにごめんなさいって謝ってましたよ!)

(ちょ、ちょっとナナちゃん! 勝手に言わないでよ!)

 わぁ・・・その姿、見たかったなぁ。頑張ったんだね、マリちゃん。

(もう! ソニアちゃんまで・・・ナナちゃんが、謝る時は何かプレゼントを用意したらいいですよって言うから、頑張って探したんだもん)

(でも、その花の中に虫がいて、マリちゃんは驚いて花をヨームの顔面に投げつけてました。虫ごと顔面に投げつけられたヨームは額に青筋が立ってましたよ!)

(ナナちゃん! 余計なこと言わないで! ちゃんと仲直り出来たんだからいいでしょっ)


声だけでも、マリちゃんが顔を真っ赤にしてるのが分かる。ナナちゃんは楽しそうに(面白かったですよ!)と笑っている。


(まぁ、そんな感じで、くるみ村はいつも通りの日常が戻って来てるので案内してください。今はヨームとコルトを中心に、より先進的な村にしようと悪い顔で色々と計画を建てているところです。それよりも、偉い妖精達の方が何やらゴタゴタしてるみたいなので、先輩も気を付けてくださいね。何かあったら、連絡くださいね)

 うん、分かったよ。

(またね。ソニアちゃん)

 うん。またね、マリちゃん。


マリちゃんとナナちゃんの声が聞こえなくなった。


「・・・ソニア様?」

「んにゃ?」

「どうしたのですか? 急にボーっとして・・・ディル様の客室の前に着きましたわよ」


目の前に心配そうにしている、逆さまのスズメの顔がある。手の上に乗っているわたしを上からの覗き込んでる形だ。


 『謝る時は何かプレゼントを用意したらいいですよ』・・・か。よしっ。


「スズメ・・・回れ右!!」

読んでくださりありがとうございます。

マリ「ごめんなさい! ・・・きゃあ! 虫!」ベシッ

ヨーム「・・・」(-"-)

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