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223.可愛い空の妖精のとんでもない話

空の妖精。前にちょっとだけ見えた昔の記憶だと、無口な男の子だった気がする。


 うーん・・・綺麗な真っ白い髪だったのは覚えてるけど、いまいち顔が思い出せない。他の偉い妖精達がキャラ強すぎるんだよね。


カササギの胸の中でがっしりとホールドされた黒猫様・・・の頭の上で、わたしは横を歩くオームを見上げながら口を開く。


「ねぇ、オーム。空の妖精ってどんな妖精?」

「どんな妖精・・・ですか」


オームは何度か同じ言葉を繰り返して考えたあと、わたしを微笑ましいものをみるような目で見て口を開いた。


「私は今まで空の大妖精様とソニア様しか妖精を御目にかかったことが無いのですが、空の大妖精様はソニア様と比べると静かな妖精様だと思います」


 ふーん・・・なるほどね。


「わたしがうるさい妖精だって言いたいわけだ」

「そんな! ソニア様の御声は小さいながらもとてもお可愛らしく・・・」


 まぁ、そんな冗談は置いておいて・・・


オームとカササギに連れられて、お城の奥の奥・・・その更に奥にある長い廊下を抜けた先にある重厚な扉を開けた先・・・。


 なにここ・・・?


そこはお城の中ではなく、外になっていた。向こうに海が見える。ただ、その手前に大きくて深い穴が空いていて、向かいの海が途中で途切れている。


「ここは空の滝と呼ばれる場所で、中には様々な大気が流れており、その遥か下にある空の滝壺に空の大妖精様はいらっしゃいます」


恐る恐る空の滝の下を覗くけど、深すぎて底が見えない。

オームは一歩前に出て「空の大妖精様」と空の滝壺に向かって声を掛けた。


「ソニア様をお連れいたしました」


「・・・・・・」


返事が無い、何も起こらない。


「空の大妖精様! ソニア様をお連れいたしました!」


大きな声でもう一度言うけど、やっぱり何も起こらない。


「聞こえてないんじゃ・・・」


わたしが声を発した瞬間、突風が巻き起こった。わたしは思わず目を閉じるのと同時に、少し後ろにクルクルと縦回転しながら飛ばされる。


 突然なにぃ!?


目を開けると、目の前に男の子の妖精がいた。サラサラで綺麗な白髪を肩の長さで揃えた、白く透明な羽に同じく白い衣をまとった幼さの残る可愛らしい男の子の妖精。


 空の妖精!可愛い! こういう弟が欲しかった!


たぶん、すっごくアホみたいな顔をしてそんなことを思ってたら、オームとカササギが慌ててその場に跪くのが視界の端に見えた。空の妖精はずずいっとわたしに近付いて、上目遣いでわたしを見てこう言った。


「やっと会えた。お姉ちゃん」

「お姉ちゃん!?」


 お姉ちゃんって言われた!?


まったく感情の読み取れない表情をしてるけど、心なしか優しい声色だった気がする。


「えっと・・・お姉ちゃんってわたしのことだよね?」

「そう。昔、光の妖精にそう呼んでって、言われた」


 記憶を失う前のわたし、グッジョブ!!


わたしが感動に打ち震えていたら、空の妖精は「呼んでも、いい?」と甘えるように首を傾げた。


 チョー可愛いんですけど!?


思わずギュッと抱きしめる。空の妖精がわたしの胸に顔を埋めて何かモゴモゴと訴えてるけど、気にしない。跪いてるオームとカササギが目を大きく見開いて驚いてるけど、気にしない。


「ふぅ・・・」


ひと通り撫でまわしたわたしは、満足して空の妖精を解放してあげる。


「・・・やめて」


どことなく、不貞腐れたような声で空の妖精はそう言った。でも、わたしと同じ尖った耳が真っ赤になってるし、羽もパタパタ動いてるけど、それは言わないであげよう。


「空の大妖精様。金髪の妖精・・・ソニア様をお連れしました」


オームが何度か口を開け閉めしたあと、意を決したようにそう言った。


「うん。おつ。褒美に次期王に推薦したげる。それが望みなんでしょ?」

「な!? 何故それを・・・!?」

「君のそういう声、何度も聞こえてたから」


ポカンと口を開けて驚きと喜びの間くらいの表情をしているオームに、空の妖精は淡々とした口調で言葉を重ねる。


「でも、それは、次の歌納祭が終わってから」


 ・・・歌納祭? なにそれ?


「今年の歌納祭はもう終わったハズでは・・・」

「もっかいやる。そこで、お姉ちゃんに歌を歌ってもらう」


 ・・・ん!?


「ちょっと待って! どうしてわたしが歌うの!? そもそも歌納祭って何?」

「歌納祭とは、一年に一度、カイス妖精信仰国の皆で空の大妖精様に歌を納める祭りです」


オームが丁寧な口調で教えてくれる。


「僕は歌がチョー好き。お姉ちゃんの可愛い歌はめっちゃ好き。だから歌って、オームみたいになって欲しい」


 ・・・途中までは理解できたよ。最後、なんて? オームになって欲しい?! 意味が分からない!


「足りて無いよ! 言葉が圧倒的に足りて無いよ! もっと丁寧に教えて!? オームを見習って!」


空の妖精は「うーん」と顎に手を当てたあと、ブンッと腕を振った。その瞬間、わたしと空の妖精の周りに薄い膜が張った。


「なにしたの?」

「声を届かなくした」

「えっと・・・わたしと空の妖精の声が膜の外に聞こえなくなった・・・ってことでいいんだよね?」

「うん」


 さっきから説明が足りてないんだよね・・・。苦手なのかな? 何で聞こえなくする必要があったのか聞きたいけど、碌な説明が返ってこなさそうだからやめとこ。


「お姉ちゃんは、人間にとっての強さって何だと思う?」


真っ直ぐにわたしを見て、真面目な声色でそう聞いてくる。


「人間にとっての? うーん・・・体が大きいこと?」


 妖精(わたし)の何倍も大きいんだもん。踏まれたらぺしゃんこだよ。


わたしの言葉に空の妖精は「ぷっ」と小さく吹き出したあと、フルフルと首を横に振った。


「違う。人間にとっての強さは、影響力」

「・・・なるほど」


 まったく分かんないけど、何となく分かったような顔をしておく。


「例えば、そこにいる(オーム)。彼は本来なら死刑のハズだった罪人や、没落した貴族などの命を救って、忠誠を誓わせて、闇市場って組織を作った」


 はい!? 闇市場って言った!?


「彼はその闇市場を使って、色々なことをした。貧しさで死ぬ寸前のスラムの子とか、親に捨てられた子供とかを、物好きの貴族なんかに売って命を救ってあげたり、攫った人間を売ったお金で、孤児院を建てて、そこで救われた子供を裕福な人間に売ったり・・・」

「ご、ごめんちょっとストップ!」


グッと空の妖精の口を両手で押さえる。


「なんだか良いことをしてるのか悪いことをしてるのか、分からなくなってきたよ!? えっと・・・つまり、オームが闇市場のボスってことだよね? そしたら悪い人なの?」


 わたしを何度も攫おうとしたり、その残党がドレッド共和国やくるみ村にも迷惑かけてるみたいだし・・・何より、ディルは殺されかけたもん。


「悪い人かどうかは、見方による。人によっては悪人かもしれない。でも、少なくとも、僕から見たオームは、多くの人間の命を救って、その命を平等に見て、有効活用する、頭の良い、王の素質がある人間だと思う」


 でも・・・人間を数字でしか見てない気がするんだよ。言うならオームは、世界一多くの命を救った人物で、世界一多くの人間を不幸にした人物だ。


 でも、命あっての物種とか言うし・・・。命を救うのは良い事だと思うし・・・。


「お姉ちゃんは、まだ彼と会ったばかり。悪い人かどうかは、お姉ちゃんの目で見て判断したらいい」

「うん・・・そうだね」


 まだ、なんとなく腑に落ちない気がするけど、とりあえずは空の妖精の言う通り、様子見をしよう。闇市場にされたこと、したことは、許せないことも多いけど、空の妖精の言っていることも一理ある気がする。


「まぁ、彼が悪人かどうかは今はどうでも良くて、それよりも、僕が言いたいことは、彼の影響力について」

「オームの影響力か・・・。今聞いた話だと、かなり影響力ありそうだよね」

「そう。彼が本気になれば、国の一つや二つ、簡単に亡ぼせる。それだけの影響力がある」


 闇市場がどれくらいいるのか知らないけど、ディルが両目を失うような苦戦を強いられた相手だ。そんな人物がたくさん闇市場にいるのなら、空の妖精の言ったことも実現可能かもしれない。


「そんなわけで、お姉ちゃんには、歌納祭で歌を歌ってほしい」

「どんなわけさ! そんな可愛く上目遣いでねだられても・・・っう、歌ってもいいけど! もう少しちゃんと理由を説明してよ!」


 ああ! わたしの馬鹿! 大馬鹿! 思わず了承しちゃったよ! 空の妖精が理想の弟みたいに可愛いのがいけないんだ!


わたしの心情とは逆に、空の妖精はフッと表情に影を落として話始める。


「昔、お姉ちゃんは・・・人間に殺された」

「え?」

「人間のことを、理解してなかったからだと思う。僕は、それから、人間を観察した。集めて、国を作って、もう二度とお姉ちゃんに敵対しないように、妖精を崇めさせた」


 ウザイと思ってたこの国の妖精信仰に、そんな理由があったんだ・・・。


「でも、まだ足りない。この国の人間は絶対に妖精に敵対しないけど、国外までは分からない。だから、お姉ちゃんの歌を世界中に届ける。そうすれば、オームのように世界中に影響を与えることが出来る。世界中の人間を味方に出来る・・・と思う」


 なるほど、ようやく歌を歌ってほしい理由が少し分かった。でもね、1つ言いたい。


「わたしの歌を過信しすぎだよ」


 わたしなんて、カラオケで採点してもたま~に90点台に届く程度だよ。そんな世界中の人間を味方に出来るような力は、わたしの歌には絶対に無い。


「大丈夫。めっちゃ可愛いから」


わたしの手を握って自身に満ちた声色でそう言う。


 近い! 顔が近いよ! 至近距離で可愛いとか言わないで! あなたの方が可愛いから!


「それに、世界中に歌を届けることは、お姉ちゃんの記憶を取り戻す為にも、必要」

「え、そうなの?」

「緑の森の妖精が、今、お姉ちゃんの記憶の欠片を世界中で集めてくれてる。でも、全盛期の僕ならともかく、今の僕にはその妖精と連絡を取る方法が無い」


 緑の森の妖精・・・? それってガマくんのこと? 確か、ミドリちゃんの大切な物で、わたしの記憶が入ったRAMディスクを盗んでたってナナちゃんに聞いたけど・・・。


「今、その妖精がどこにいるのか分からない。その妖精からしても、記憶の欠片を集めても、肝心のお姉ちゃんがどこにいるか分からない。だから、歌で居場所を知らせる。今の僕でも、空中の気体を使って、世界中にお姉ちゃんの歌を運ぶくらいは出来るから」


 お、おお!・・・ここに来て、記憶を取り戻すのが間近に迫ってきた気がする!


「お姉ちゃんが記憶を取り戻せば、きっと、大妖精の力も完全に戻る。そうすれば、皆に会える。火の妖精、土の妖精、水の妖精、闇の妖精、緑の妖精・・・早く会いたいな。楽しみ」


空の妖精は、ニッコリと、それはもう幸せそうに笑った。こっちの音は聞こえて無いけど、オームとカササギが信じられないものを見たような驚き顔になっている。


「フフッ、わたしも早く記憶を取り戻したいな」


空の妖精の笑顔に釣られて、わたしも笑う。


 記憶を失くす前のわたしは、皆とどんな風に過ごしてたんだろう? きっと、楽しかったんだろうな。空の妖精のこの笑顔を見れば分かる。自然と、早く記憶を取り戻したいと思える。


「でもさ、今でも他の偉い妖精達に会おうと思えば、会えるんじゃない? ・・・あっ、なんか偉い妖精の力のバランスがどうのこうのでその場を離れられないんだっけ?」


 緑の森で暮らしてた頃、ミドリちゃんがそんなようなことを言ってたような気がする。


「うん。僕達、元大妖精の偉い妖精は、変に力を失ったせいで、各地に散らばらないと、世界のバランスが保てなくなったから。もし一か所に皆が集まったら、大変なことになっちゃう」

「大変なことって・・・?」

「僕達がいないところから、自然が消える」


 思ったよりも大変なことだったよ!


「って、言っても、闇の妖精だけは大妖精の力を失ってないんだけど」

「そうなの? ・・・そういえば、闇の妖精ってどこにいるの?」


 他の偉い妖精の居場所は今まで会ってきたから知ってるけど、闇の妖精だけはまったく見当がつかないんだよね。


「闇の妖精は、あそこにいるよ」


そう言って、空の妖精は明るい空に薄っすらと見える月を指差した。


「え、月? 月にいるの!?」


 すんごい遠くにいるじゃん!


「うん。そうでもしないと、闇の妖精の力が強すぎて、この星がとんでもないことになる」

「とんでもないことって・・・?」

「分かんない」


 分かんないんかい!


「闇の妖精は、昔からよく分からない力を使うから。でも、お姉ちゃんが記憶を取り戻して、大妖精の力も取り戻せば、逆に闇の妖精がこっちにこないと、お姉ちゃんの力が強すぎてとんでもないことになる」

「・・・なるほどねぇ。でも、他の偉い妖精は? わたしと闇の妖精が会えたところで、他の偉い妖精の力が戻るわけじゃないんでしょ?」

「うん。でも、お姉ちゃん・・・光の妖精と闇の妖精が揃えば、何でも出来るから。昔はそうだった。だから、たぶん他の偉い妖精達の力を取り戻すことも出来ると思う」


妖精に関する知識があんまり無いわたしは「そういうもんなんだ」と納得するしかない。


「まぁ、よく分からないけど、わたしが記憶を取り戻せば、全て丸く収まるってことだよね!」

「その為にも、歌を歌って・・・ね?」


空の妖精に可愛くおねだりされたわたしは、絶対に後悔することが分かっていながら、元気いっぱいに「おっけー!」と了承した。


 でも、その前に、ディルと仲直りしなきゃね。・・・ホント、どうしよう。

読んでくださりありがとうございます。

空の妖精は狙ってやってます。大好きなお姉ちゃんに可愛がってもらいたくて必死です。確信犯です。でも、それを含めても可愛いと思ってしまうソニア。

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