219.嘘吐きは大っ嫌い!!
「はじめまして」
「・・・」
「おはよう」
「・・・」
「やっほー!」
「・・・」
「にゃんにゃん!」
「・・・」
・・・・・・・・・黒猫さん。めっちゃ無視するじゃん。返事どころか微動だにしないよ。置き物かな?
「嫌われてるんじゃないか?」
ディルとわたしの船室で、わたしと黒猫さんのやり取り・・・というか、もはやわたしの独り言を黙って聞いて見ていたディルが、面白がるように目を細めて言う。
「たぶん嫌われてるわけじゃないよ。最初にあった時にスリスリされたし、ディルにも同じ反応だったもん。それに、スズメなんて迂闊に頭を撫でようとして嚙みつかれてたじゃん」
ちなみに、スズメは今ヒバリのお説教を受けている。ディルがスズメの部屋の現状を報告したらしい。なんでも、「ソニアの教育に悪い」とか・・・。
「あ、そうだ。ソニア。海賊船で俺に電撃が当たった時なんだけど・・・」
ビクッと体が跳ねる。
そ、そういえば、まだ謝って無かった。
「ごめんなさい」
「ん? 何がだ?」
不思議そうに首を傾げるディル。
「いやだって・・・」
「あ~・・・気にしないでくれ。その代わりって訳でもないんだけどさ、もう一回俺に電撃を浴びせてくれないか?」
え・・・? あっ、そういえばあの時・・・
『俺も流石にダメかと思ったけど、痛みすらない。むしろ気持ちよかった』
ん?
『むしろ気持ちよかった』
・・・やばい。もしかしてわたし、ディルを変な方向に目覚めさせちゃった!? だ、大丈夫! まだ人に迷惑かけてないだけマシだし・・・それに、どんな性癖でもわたしはディルのこと好きだよ。・・・うん、でも、それに付き合うのはちょっと・・・。
「なんだよその憐れみの目は・・・なんか勘違いしてないか?」
「ううん。わたしはディルがどんなに変態でも、嫌いにはならないからね」
黒猫をそっと撫でながら優しく言ってあげる。ディルは一度きつく目を閉じて「ハァァ」と深いため息を吐いたあと、「あのな」と口を開く。
「真面目な話だけど、俺がソニアの電撃が平気かどうかで、今後の戦い方というか、ソニアの守り方が変わってくるんだ」
わたしの電撃が平気だとどういう風に守り方が変わるの? よくわかんないよ。
「ディルの言ってることは分かんないけど、そんな危ないことしないよ。リスクが大きすぎるもん」
「リスク?」
「うん。もし平気じゃなかったら死んじゃうかもしれないんだよ? 命を賭けてまで試すようなことじゃないよ」
黒猫の喉元をナデナデしながら言う。めっちゃ臭い。でもめっちゃ可愛い。
「わたしはそんなことよりも、この子が何でテレパシー出来たのかの方が気になるよ」
「そうか? 妖精なんだから動物の声くらい聞けても不思議じゃないだろ。ちなみにあの時はなんて言ってたんだ?」
なんてって・・・。
「にゃー・・・って言ってたよ」
「・・・へぇ! 猫って頭の中でもそうやって喋ってんのか!」
ディルの驚きポイントが微妙に分かんない。
「何か他に喋れないのー? もっかいテレパシーしてよ~」
「うりうり~!」と黒猫の顎下に頭を突っ込んでこねくり回す。
ん~~~! やっぱりすんごい臭い! 獣臭い!
黒猫のふにふにの顎下を堪能してたら、突然「ケホッ」と黒猫が咽た。
「うわわ! ごめんね! 撫ですぎちゃった!?」
「ケホッケホッ」と咳き込んで、何かを吐いた。
そういえば、猫って毛玉を吐くんだっけ? 人間だった頃、妹の友達がそんなような事を言ってた気がする。
「あれ? 毛玉じゃない・・・」
「なんだこれ? ちっちゃい・・・魔石か?」
黒猫が吐き出したのは、わたしの拳くらい、ディルの小指の先くらいの大きさの、雷の魔石だった。吐き出した黒猫はスッキリしたように「ゴロゴロ」と喉を鳴らしながらわたしの体にスリスリしてくる。可愛い。
「何で猫の中に魔石があったんだ? それも貴重な雷の魔石が」
ディルが魔石を手に取って布巾で綺麗に拭きながら首を傾げる。わたしも首を傾げる。
どこかで間違って食べちゃったのかな?
「・・・気になるな。何の魔法が発動するのか」
言いながら立ち上がるディル。
「わたしも行く!」
ディルに手の上に乗せてもらい、甲板に出る。黒猫「クァ~」と可愛らしい欠伸をして部屋の中で丸くなった。ついて来てはくれないらしい。
「ここら辺なら大丈夫だろ」
海に向かって魔石を握った拳を突き出すディル。わたしは少し離れたところに飛んでその様子を見守る。
「よしっ、いくぞ!」
「うん!」
・・・・・・・・・何も起きないよ?
「ディル? ちゃんと魔気を魔石に流してる?」
ディルの頭の上に降りて、逆さまに覗き込むようにしてディルの顔を見る。
(うぉい! 顔が近い!可愛い!)
え!?
ディルの声が、まるでテレパシーのように頭の中に響いた。ディルはさも平静を装ったみたいな顔で「ちゃんと流してるぞ」って言ってる。
もしかして・・・この魔石の魔法ってテレパシー? いや、電気を使ってるから正式には通信って言った方がいいんだろうけど・・・んあれ!? っていうかわたし、今ディルに可愛いって思われてたの!?
恥ずかしくて、バッと顔を隠してディルから距離をとる。
「どうしたソニア・・・耳が赤いぞ?」
(羽もパタパタしてるし、尖った耳もぴょこぴょこ動いてる・・・ってことは、激しく動揺してるのか? もしかして、ソニアも顔が近くて照れて・・・)
「うわあああああ!! ダメダメ! 聞いちゃダメだよ!!」
ディルの周りをグルグルと高速で回る。回ることに特に意味はない。
ディルの心の声が垂れ流しだよぉ! 恥ずかしいし、罪悪感も凄いし・・・でもちょっぴり聞いてみたい気もするし・・・でもでも・・・!!
「な、なんだよ! 何が聞いちゃダメなんだ!? ・・・よく分かんないけど、とりあえず落ち着けって!」
(雷の魔石の魔石の影響か? なんか妖精に悪影響を及ぼすようなものだったのか? まずいな・・・ソニアがこのまま意味不明な行動を取り続けたら・・・完全にアホな子だぞ。いや、普段もアホっぽいところはあるけど、でもそれもまた・・・)
「アホじゃないわい!!」
あっ・・・思わずディルの心の声に反応しちゃった。
「え? ・・・声に出てたか?」
(やっちゃった・・・)
ディルの顔にはそのまま「やっちゃった」と書いてある。わたしはフルフルと首を振る。
「その・・・言い難いんだけど・・・その魔石のせいで、ディルの心の声がわたしに聞こえてるの・・・たぶん、黒猫はその魔石を無意識に発動させて遠くのわたしに助けを求めたんじゃないかな・・・」
ディルは目を丸くして魔石を見たあと、確かめるようにわたしを見る。
(本当か?)
「本当だよ」
ディルは顔を真っ赤にして、魔石に魔気を流すのを止めてポケットにしまう。そして、ポリポリと頬を書きながら恥ずかしそうにわたしをチラリと見て口を開く。
「なぁ・・・何が聞こえてた?」
「えっと・・・わたしが可愛いとか、照れてるとか・・・ねぇ、この話はやめよ? お互いに恥ずかしいだけだよ」
「そ、そうだな! ・・・そ、それよりさ! この魔石のことスズメに報告しに行こうぜ! ほら! 黒猫がソニアにテレパシー出来たことにかなり興味を持ってただろ?」
「う、うん! 行こう!」
わたしとディルはスズメの部屋に向かう。ディルは右手と右足を同時に出して歩いていた。
・・・。
「・・・って感じで、この魔石を発動したらソニアにテレパシーが出来るんだ」
「そうなんですの」
スズメの部屋でディルが魔石のことを報告したけど、なんだかいまいち反応が悪い。ディルが心配そうにスズメの顔を覗き込む。
「どうしたスズメ? 元気ないな」
「・・・誰のせいで元気がないと思ってるんですか!ディル様がお母様に部屋が汚いと言ったせいで、わたくしは先程までしこたま怒られてたんですのよ!? 今もいつ終わるかもわからない片付けをやらされていますし・・・」
深いため息を吐きながらダラダラと床に置いてある物をテーブルの上に乗せていくスズメ。
「スズメ、可哀想・・・」
「ソニア様・・・!」
「いや、自業自得だろ」
別に散らかしてたわけでも、汚いわけでもないのに怒られるなんて可哀想だ。わたしは少しでもスズメが元気になるようにニコリと微笑みかけてあげた。大サービスだ。スズメは「ソニア様ァ」と感謝感激した。
「・・・それで、テレパシーを送れるのはソニア様だけなんですの?」
ある程度片付けが終わったスズメが、だらしなく床に寝そべりながら聞く。ディルは試しに魔石を握ってスズメを見た。
(スズメ、聞こえてるか?)
スズメは不思議そうに首を傾げるだけで、返事はしない。
「・・・・・・わたしには聞こえてるよ」
「じゃあ、ソニアにしか出来ないみたいだな」
「そうだね」
まぁ、だからと言って何か使い道があるわけでもないんだけどね。
「うーん・・・。ますます雷というものが分からなくなってきましたわ。攻撃にも使えて、遠くに情報を伝達することも出来て、身を守ることも出来て、明かりにもなって、ビームも放てる。いったいなんなんですの?」
スズメはそう言ってわたしを見る。
「・・・雷っていうか、電磁波かな? いや・・・電子? えーっと・・・」
頭の中では分かってるんだけど、上手く説明出来ないよ! 人間だった頃の後輩ならこういうの得意なんだけど・・・あいにく頭の悪いわたしには無理だ。
「うぐぐ・・・」っと頭を捻ってたら、ディルがポンッと手を打った。何か上手い説明の仕方を思いついたのかなと思ったら、違った。
「ソニアだけじゃなくてナナちゃんにもテレパシー出来るんじゃないか? だってソニアもナナちゃんも同じ色の妖精だし、姉妹みたいなもんなんだろ?」
「確か虹の妖精様で、ソニア様が生み出したんですのよね?」
「うん。同じ色の妖精だし、わたしもナナちゃんとはテレパシー出来るし、その魔石でも出来ても不思議じゃないね。試しにやってみたら?」
ディルは再び魔石を握って目を瞑る。
(・・・・・・そういえば俺、ナナちゃんと話したことないんだよな。っていうか、どうやってテレパシーを送る相手を選ぶんだ?)
まぁ、そうだよね。いきなりやれと言われてやれるわけないよね。
わたしはディルの頭の上に乗る。
「わたしがナナちゃんの位置情報をディルに送るから、ディルはそこに目掛けて強く電波を送って」
「・・・??」
「習うより慣れよ、だよね! わたしが補助をするからディルは気合で我武者羅にテレパシーを送って! それで何となく感覚を掴んで!」
「そんなこと出来るのか?」
「分かんないけど、出来る気がする!」
わたしはディルの頭の上で胸を張る。スズメが頭にクエスチョンマークを出しながら「凄いですね!」ととりあえずわたしを褒めて、ディルは「ソニアが言うなら・・・」と不安そうな顔でもう一度目を瞑る。
・・・大丈夫。わたしなら出来る。記憶はほとんど無いけど、元々は光の大妖精だったんだから!
何となく座禅を組んで、周囲の電波を探るのに集中する。
捉えた!! ディルから発信される細い電波!
グンッと電波の進む先を無理矢理曲げて、そのまま空と海を反射させながらナナちゃんのもとまで電波を届けさせる。
(っ!? な、なんだか誰かから何かを送られてるような気が・・・?)
わたしの頭の中にナナちゃんの声が響いた。ディルが「おぉ」と声を漏らす。ディルにも聞こえてるみたいだ。スズメだけが相変わらず頭の上にクエスチョンマークを出しっぱなしにしている。
(えっと・・・俺です。ディルです。魔石の魔法とソニアの補助でテレパシーを送ってます。初めまして・・・でいいのかな? 一度ブルーメで会ってると思うんですけど・・・)
テレパシーを送ることだけ考えて、何を話すかは考えてなかったみたいだ。その場にいるわけでも無いのに、ディルの頭がペコペコ動いてる。
分かるよ。わたしも電話中につい体が動いちゃうことあるもん。
(ディル君! ソニア先輩のお気に入りの子ですよね! ため口でいいですよ! 急にどうしたんですか?)
(いや、ナナちゃんにもテレパシーを送れるかどうか試したかっただけで・・・)
(はははっ。じゃあ成功ですね! ・・・せっかくなんで何かお話しましょうよ! あっ、そうだ! ディル君は今どこで何をしてるんですか?)
(俺達は今・・・)
話題が無ければ間に入ってあげようかなと思ったけど、その必要は無かったみたいだね。ナナちゃんはお話上手だ。コミュ力高いね!
ディルがナナちゃんとお話してる間、わたしはスズメに意図の無いジェスチャーを送ったりしてスズメで遊ぶ。スズメの頭の上にクエスチョンマークが増えていくのが面白い。
(・・・それで、マリちゃんったらお昼寝中のヨームの前髪を勝手に切っちゃって、今は絶賛喧嘩中なんですよ! マリちゃんは変に意地を張っちゃって謝りたいのに謝れない状態で、ヨームも不貞腐れて口を利かないしで・・・2人とも喧嘩初心者なんですかね? 全然仲直りする気配がないですよ)
(ハハッ、ヨームは相変わらず大人げないなぁ。他の皆は元気なのか?)
(元気ですよ! 村の人達は・・・)
(人達は?)
(ミドリさんがまだ元気が無い・・・というか、巨大樹の中に引き籠って出て来なくなっちゃったんですよ。詳しいことは分からないですけど、ミドリさんの大切な物を盗んだ莢蒾の妖精という方が他の偉い妖精達の大切な物も各地で盗んでいたらしくて、たぶんその対応に追われてるんじゃないですかね?)
その大切な物って、たぶん光の大妖精の記憶だよね。ガマくん・・・今どこにいるんだろう?
(あっ、長話になっちゃってすいません! マリちゃんが呼んでるので切りますね!)
ナナちゃんと話し終えたディルは、魔石を握ったまま「ふぅ~」と息を吐いて、頭の上から膝の上に降りたわたしを見る。
「妖精の方は大変そうだけど、とにかく村の皆が元気そうで良かったよ。村が炎上するのはこれが二回目だからな」
(確か一回目はソニアの雷が原因だったよな~)
え?
ディルの心の声が聞こえた。思わず目を見開いてディルを見上げる。ディルは自分がまだ魔石を握ったままなのに気が付いて、「あっ、やば・・・」と慌てて魔石に魔気を流すのを止めてテーブルの上に置いた。
「わたしのせいで村が・・・? どういうこと?」
「いや、ソニアのせいじゃ・・・」
「でも、わたしの雷が原因だって! ディルは今そう思ってた!」
膝の上から飛び立って、キッとディルを睨む。何故か目が潤んできたけど、気にする余裕なんて無い。
「だ、だから違うって・・・」
「違わないよ! 噓つかないで! わたし、嘘吐きは大っ嫌い!!」
気が付いたら、ディルから逃げてた。
読んでくださりありがとうございます。
ソニア「噓吐きは大っ嫌い!!」<(`^´)>
スズメ (゜o゜)???




